横浜市磯子区の住宅街の一角にある地域交流スペース「Yワイ広場」。運営する市内の住宅リフォーム会社「solar crew」は、地域で増え続け課題となっている古い空き家や空き事務所を、新たな地域交流スペースやコワーキングスペースに改修する事業を行っています。
YOKOHAMA未来デザイン部員の関東学院高校2年の新井瑞季さんと中坪美友さんが、「Yワイ広場」を訪れ、同社の取り組みを河原勇輝社長(39)に取材しました。

興味を持ったきっかけ
2030年には空き家率が30%を超え、3軒に1軒は空き家になると試算されている。人口減少だけでなく、固定資産税が更地の場合より建物があった方が住宅用地の特例で安くなるなどの理由から空き家が増えているといわれている。その空き家の生産的かつ有効的な再利用方法について知りたいと思った。また、同社のホームページの「新型コロナウイルスの影響もあり町内会や子供会などの集まりが減っており、地域の中で他世代が集まる『つながる拠点』を創っている」という言葉が大変印象深く、その思いを聞いてみたいと思った。(中坪美友さん)
「日本は人口減少が進み空き家が増える」と予想される中で、単に空き家をリノベーションして再利用するのではなく、生産的で有効な利用方法はないか考えた。(新井瑞季さん)
京急・杉田駅から徒歩5分ほどの住宅街にある「Yワイ広場」は2018年9月にオープンしました。1階はキッチンも備える交流スペース、2階は企業や団体などが入居するコワーキングスペースになっています。
河原社長は、地域のゴミ拾いや餅つきなどに参加する中で、地域の課題として空き家問題に気づいた。河原社長は解決方法の一つとして「空き家を地域全体の相互交流の場として利用してもらう」ことを考えた。
2階に入居する会社に定期的に1階のオープンスペースでイベントを開催してもらい、地域の人とのつながりを通して会社を知ってもらう。そうすることで、コミュニティーの一部として事業を継続することができ、地域産業の活性化につながると確信したという。河原社長は「地域課題を一緒に解決していくことがこれから中小企業に求められることだ。ここが僕の『原点』」と話した。(文責:新井)
新型コロナウイルス感染拡大前、「Yワイ広場」には、毎日のように異なる世代の人が集まり、交流によって様々な効果が生まれていた。近所に住む認知症の高齢女性は、広場に通い始めてから病状が安定していた。しかし、新型コロナウイルスの影響で広場が閉鎖されると、人とのコミュニケーションが減り、病状が安定しなくなったという。河原社長は「人とのつながりは健康にも大きく関わってくる。交流拠点には、多世代の人々がお互いに安心して、楽しく過ごせる環境があるという利点がある」と話した。(文責:中坪)
「Yワイ広場」は、地域交流に加え、防災拠点の役割も担うのも特徴です。なかでも、「フェーズフリー」という言葉に2人は着目。「フェーズフリー」とは、災害時と平常時、どちらの局面でも役に立つものをつくるという考え方です。

同社がリノベーションする空き家は、地域の「避難所」の一面も持つ。「Yワイ広場」には、災害時に安心安全に過ごせるように、シェルターを設け、屋根にはソーラーパネルを設置。16世帯が過ごせる3日分の食料や水、電気を備えている。(文責:中坪)
河原さんは支援に入った2016年の熊本地震で、損壊した自宅に「危険」を表す赤札を貼られた80代の夫婦に出会った。2人は「避難所は遠く、人が多い、家も心配」と家の前のコンクリート上で寝泊まりしていた。そのことがきっかけで、空き家問題解決に取り組んでいた河原さんは「社会課題である空き家」を「社会課題である防災拠点」にすることを考えた。
しかし、「防災拠点を作ったところで認知してもらえない」という課題に直面した。そこで、平常時は地域の人の集いの場としてにぎわうことで、実は建物の「付加価値」を高めた防災拠点でもあるということを知ってもらおうと考えたという。(文責:新井)
同社では、使用されなくなった民家やペンションなどをリノベーションした地域交流拠点づくりを神奈川県内と東京都で10カ所展開しています。今後も拠点を増やしていく予定です。
取材後記
自分ではいいと思うことも、知ってもらわなければ、周りの評価・意見が全ていいものになるとは限らないということに気が付いた。知ってもらうための仕組みを作ることが大事であり、空き家を「交流の場」として利用することはよい仕組みだと思った。これから「地域の人たちと関わりその良さを知ってもらうこと」、「一緒に地域の課題に取り組むこと」が会社として成長・長く存続していくために必要な要素だと感じた。(新井)
この空き家プロジェクトは大変素晴らしいものだと思った。空き家と言えば、リフォームしてカフェや宿泊施設にするといったことしか思い浮かばなかった。しかし、取材を通して、オーナーの思い出があり、捨て去ることに躊躇する空き家を潰さずに、地域の人たちの手でDIY(Do It Yourself)を施すなどして、元の住宅をうまく残した形で、リノベーションをし、多世代の人々が集まるコミュニケーションの場あるいは避難所とするという画期的な利用方法もあるということを知った。このような多世代が日中に集まる場がありお互いを見守り合う文化はとても良いなと感じた。
河原社長の「自分がどう街にフィットするか」という言葉が印象に残った。誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分ができることから始めそれを多くの人に広めることができれば様々な難題も解決するのではないかと痛感した。(中坪)
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