国連が掲げるSDGsの17目標から見た理想的な家づくりについて考える吉田登志幸さんのコラム。3回目の今回は、目標の中でもとても重要で、そして実現が難しい「つくる責任つかう責任」をひもときます。家づくりにとって「つかう責任」とは?
SDGs達成のポイントは目標⑫
目標⑫「つくる責任つかう責任」は、17ある目標の中でも非常に重要だと思っています。なぜならば、SDGsの達成に向けてマイナスの原因となる芽を最初に摘んでいるからです。
世の中には様々な商品、サービス、情報などがあふれかえっています。それは多様性や進化という面では非常に素晴らしいことだと思います。しかし、すべての取り組みがSDGsの目標をクリアしているといえるでしょうか。残念ながらそうではありません。むしろそんな立派な商品を探す方が至難の業(わざ)です。
しかし、企業や個人、この地球に生きとし生ける者すべてがこのSDGsの思考にならなければ、到底、目標を果たすことはできません。

SDGsを掲げて大丈夫?心配も
特に新築住宅で言えば“つくる人”は、再生可能エネルギーを導入し、年間の1次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指した住宅「ZEH(ゼッチ)=Net Zero Energy House ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略=」(出典|経済産業省資源エネルギー庁)でなければいけません。“つかう人”はZEH住宅を選択せねばなりません。
どうしてなのかは初回のコラムで説明した通りです。なので、あらゆるものづくりはこのつくる責任をSDGsにすべて照らし合わせ、ひとつでも目標に抵触してしまうことがあれば、世に出さないくらいの責任が必要だと思います。
今はSDGsがブームのようになり、一部の企業は前面にうたっているところもあります。ところが、私からすると「え!? それなのにこんな商品をつくってるんですか??」ってなってしまうことが本当に多いのです。
こんな性能の家をつくって、SDGsを掲げてしまって大丈夫ですか?と。
共感度ワースト1位「つくる責任」の難しさ
この辺りのミスマッチは株式会社電通広報局の「ウェブ電通報」 を見れば一目瞭然です。
SDGsの共感度ベスト5は1位が③「すべて人に健康と福祉を」で、続いて②「飢餓をゼロに」、⑥「安全な水とトイレを世界中に」、①「貧困をなくそう」、⑦「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」となっています。これは誰しもが重要と感じる目標で、もっと言えば利害がぶつからないため、共感度も必然的に高くなっているのでしょう。
ところがワースト5には⑫の「つくる責任 つかう責任」が堂々の1位なのです。要は、「つくる責任」について企業側の自信が無い表れではないでしょうか。まさに、痛いトコつかれてるな……みたいな。
あくまでも想像ですが、共感度に推せない大人の事情とやらが働いているんだろなと思います。まさにこれが総論賛成各論反対のキワミなのです。
SDGsのバッジを誇らしげに胸につけている背広のオジさんたちの中には、どうしても「つくる責任」については反対というか、自信を持てないでいるのだろうと想像してしまいます。
消費者に求められる賢い選択「Cool Choice」
そこで重要になってくるのはつかう側、まさに消費者の厳しい目、賢い選択「Cool Choice」なのです。
世の中には、これからもどんどん「非SDGs商品」「グリーンウォッシュ商品」が出てくるはずです。そこで厳しいチェックをして、「NGならば買わない!選択しない!」を徹底すれば、売れないので企業側も引っ込まざるを得なくなります。
「環境4R」をご存じでしょうか?「Reuse」「Reduce」「Recycle」まではわかりますが、実はもう一つの「R」は「Refuse」です。実は拒絶することが何よりも大切で、NGに対してしっかり「Refuse」さえすれば原因の芽を摘めるのです。それができるのは“つかう人”しかいません。
ですから、私はつくる責任よりもつかう責任の「Cool Choice」がSDGs目標達成のカギを握っていると強く思っています。


目標⑬「気候変動に具体的な対策を」はもう何度も触れていますが、欧州では昨今、「気候変動」ではなく「気候危機」と呼ばれています。私もまさにその通りだと思います。
スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥンベリさんが言うように、今、対策を取らずして未来の子どもたちに「なぜわかっていたのに、何もしてこなかったんだ?」と聞かれ、何も答えられないことはあってはなりません。
将来、人類が地球に住めているのかも本当にわからないくらい深刻な問題です。繰り返し、あえて言えば、全国の至るところに無人の家が点在する「空き家大国ニッポン」で、わざわざつくる新築の住宅はエネルギーを限りなく垂れ流さず、再生可能なエネルギーの最短距離発電が可能になる「ZEH」しかないのです。
木か鉄か? つかう責任で選択
目標⑮「陸の豊かさも守ろう」を家づくりの視点から見れば、国産の木材をつかった木造住宅をつくり、山に利益を戻し、間伐や林地残材の整備が持続可能でしっかりできるような仕組みになってないといけません。
住宅にわざわざ鉄をつくってそれを使う必要はまるでありません。日本に森林資源が全くなく、どうしても鉄でしか家がつくれないのなら仕方ありませんが、ご存じの通り、日本は世界第2位の森林率です。目の前に木があるのにそれを使わず、貴重なエネルギーを使って膨大な二酸化炭素(CO₂)を出して鉄をつくり、わざわざ住宅に使う必要はありません。
だからと言って、目の前の木を使わず、はるか遠い場所からCO₂を出して長い距離を運ぶのは本末転倒です。木を乾燥させる際に熱利用をしなかったり、重油をバンバン使ったりする製材所ももちろんダメです。
つくる側は自社の木材のつくられ方をしっかり厳選しないといけません。トレーサビリティー(生産履歴の管理)も把握し、極力、環境負荷の少ない材料を使っていると消費者に証明をしないといけません。
確かに鉄は強いです。しかし、今は木造住宅でも問題ありません。震度7強の地震が複数回来ても、倒壊はもちろん、その後も住める構造にすることは可能です。もはや地震に弱いとは限らないのです。
言うまでもありませんが、森林管理はCO₂吸収にズバリ直結します。山が生きる木造住宅を選択するか、CO₂を膨大に出し、山が生きない鉄の家を選択するかは“つかう責任”に委ねられるのでしょうか。

山が生きれば、海も生きる! 目標⑭「海の豊かさを守ろう」は健全な山から流れこむ微生物が海の豊かさにも大きく、大きく寄与することでしょう。
今回はここらでオシマイにして、4回目のコラムでは残り全部をご説明します。どんな仕上げになるのか。お楽しみに。
※吉田登志幸さんが、ナビゲーターを務めるYoutubeチャンネル「素晴らしき地場ビルダーランド」 でもSDGsと住まいとの大切な関係について動画が紹介されていますのでご興味ある方は合わせてご覧ください。
◎文/吉田 登志幸(よしだ としゆき)

有限会社オストコーポレーション北関東代表取締役
1970年、大阪生まれ。2001年の会社設立時から環境問題に取り組んでいたが、東日本大震災と福島第一原発事故が大きなきっかけとなり、日本のエネルギー問題解決に少しでも寄与しようと決意。省エネ・創エネに携わる団体などを通じて啓発活動や具体的実践を行っている。SDGsにも大いに共感し、講演ではSDGsの解説と人々が取るべき具体的な行動指針を広く伝えている。
NPO法人「ソーラーシティー・ジャパン」代表理事、一般社団法人「日本エネルギーパス協会」理事、同「Forward to 1985 energy life」理事、自立循環型住宅研究会関東支部代表世話人。
◎イラスト/川島 雅恵(かわしま まさえ)

Atelier(アトリエ)「BON BON」デザイナー
武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、現在はイラストや写真、編集を中心にデザイン業務に携わっている。