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8/11「山の日」によせて。学生と野口健さんが、山とキチンと向き合う方法を一緒に考える【未来メディアカフェVol.9】(2/2)

更新日 2020.10.22
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標15:陸の豊かさも守ろう

「朝日新聞 未来メディア塾 未来メディアカフェ vol.9」が7月3日、長野県松本市のキッセイ文化ホールで開催された。初めての地方での開催となった今回のタイトルは「『山の日』を語ろう!」。
 
前編では、ゲストでアルピニストとしても著名な登山家・野口健さんとコーディネーターの朝日新聞の近藤幸夫記者による最近の山事情についての話を聞いた。後半となる当記事では、学生たちが意見を交わすワークショップがスタート。
8つのグループに分かれ、安全登山や環境保全など、ランダムに与えられた山に関する4つの課題について議論。そこで出たアイデアを、長野県に対して提言するという比較的、実践型のワークショップである。
 
山を愛する彼ら、彼女らが考えた、長野県への提言とは一体、どのようなものになったのか・・・!

ターゲットに近い学生だからこそ“出せる”、アイデアが飛び交う

まず、この日出された課題が以下の4つ。
①若者が山に来たくなるような仕掛け、優遇措置として望ましいものは何か?
②安全登山のための啓発活動として、自分たちにできることは何か?
③未組織登山者が増えている今、登山技術を学ぶ場をどう作るか?
④北アルプスなど山岳地帯の貴重な自然を守るには何が有効か?
 
グループのリーダーを務めるのは、信州大学の学生たち。近藤記者があらかじめ準備していた新聞記事などの参考資料を全員で確認した後、各自が黄色い付箋に自分の意見を書き出し、テーブル上の模造紙に貼り付けながら、議論するというスタイルだった。
ゲストの野口さんや近藤記者が自らの経験を話したり、アドバイスをしたりする場面も見受けられていた。
 
ここで、各グループの議論の様子を少しのぞいてみよう。
 
若者が山に来たくなる仕掛けについて話し合っていたグループでは、
「若い人はお金がない。だから、テント場や公共交通機関を利用する時、学生割引などの仕組みがあるといい!」
「有名人と一緒に山に登るイベントをやれば若者は集まるんじゃないかな?」
など、若者だからこそ感じる山への課題など、率直で素直な意見が飛び交っていた。
 
一方、組織に属していない登山者に登山技術を学んでもらう方法を考えていたグループでは、
「山岳会やワンダーフォーゲル部が一般の人と一緒に山に登りながら登山技術を教えるのはどう?」
「山に登る前に一緒に体力づくりをするなど、交流を深めることもできるはず」
など、自分たちの部活動を活用するアイデアが多い印象だった。
 
飛び交う無数のアイデアをブラッシュアップし、自分たちの意見としてまとめていくべきか、頭を悩ませるリーダーたちの様子も印象的。45分間のワークショップの時間はあっという間に過ぎていった。

登るだけでなく、考える「山の日」に!

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いよいよ発表の時間。各グループのリーダーが自分たちのアイデアを順にプレゼンしていく。
 
安全登山のための啓発活動において自分たちができることは何かを話し合ったグループは、 「登山計画書を長野県警に直接送ることができるスマートフォンのアプリを作ります。そこに山についての豆知識や遭難情報などのコラムも閲覧できるようにして、自分たちの山行記録を掲載したら、参考にしてもらえるようにできるのでは?」というアイデアを発表。
それについて近藤記者が、
「登山計画書が直接現地の警察に送られる情報システムとしては、既に日本山岳協会が作った『コンパス』が存在します。学生の自分たちができることとしては、自分たちの山行を情報提供するためのアプリに絞った方がよい。その方が安全登山のためにつながるのでは」とアドバイス。
野口さんも
「安全登山のためには、入山届けを出すことは必須。その上で山に入るときは万一の際のエスケープルートまで考えた方がいい。そのあたりの情報提供も合わせてできるアプリを是非作ってほしい」とアドバイスを述べた。
 
次のグループの発表ではユニークな意見が飛び出す。 組織に属さずに登山をする人たちが登山技術を学ぶ場について考えたグループが考えたのが、「ステップアップ百名山」というアイデアだ。
「長野県でも山のグレーディングをしているが、もっと具体的にこの山を登ってからあの山に登ろう、というのがすぐにわかるように、『日本百名山』の登山ルートを難易度別に表示する『ステップアップ百名山』というアイデアはどうでしょう?」とプレゼンすると、
野口さんも近藤記者も脱帽。
「面白い! 百名山をそういう風に考えたことはなかった。団体に属さず“山の先輩”を持たない登山者にはいい基準になる!」
「こういう発想はこれまでになかったですね!県のホームページを活用すればすぐにでも可能だと思います!」と絶賛した。

「エベレストを富士山のように汚す気か?」そのひと言からはじまった、清掃活動。

各グループのプレゼンが終了した後、近藤記者が参加者にこう呼びかけた。
「短い時間だが、今日は普段あまり交流することのない高校生と大学生が一緒になって議論を深められたのはとてもよかったのではないでしょうか。今後もそれぞれの部活内はもちろん、テント場で出会った人たちなどと、こんな風に山のことを語り合ってほしいですね!」
 
最後にゲストの野口さんからは、こんな言葉が贈られた。
「『山の日』ができたからといって、ただ皆さん山へいらっしゃい! だけでは意味がない。それよりも、今日ここで話し合ったように、みんなで山について考えることにこそ、『山の日』の意味があると思う。山を巡る課題はその時々で変わってくる。毎年、『山の日』がくるたびにみんなで考え続けていって欲しいですね」と締めくくった。
 
イベント終了後、会場の学生の声もひろってみた。
「私の生まれは愛知県で、信州の山に登りたくて信州大学へ入学しました。今日はこれまで交流のなかった高校生の山岳部の子たちと話ができて楽しかったです」(信州大学山岳会3年・蒲澤翔さん)
「私自身は部活に所属しながら登山をしているので、団体に属さずに山に登る人のことまで考えたことがなかったです。でも、山の安全はそういう人たちも含めてみんなで考えていかなければならないという、新しい視点に気づかされました」(同大学ワンダーフォーゲル部3年・古嶋天さん)
 
これから世界水準の山岳高原観光地づくりに向けて様々な取り組みをしていくという長野県。「未来メディアカフェ」から生まれたアイデアが実際に反映され、山をちゃんと愛せる人が一人でも増えることを心から願っている。

speaker:野口 健

登山家

1973年、米国・ボストン生まれ。幼少期をニューヨーク、サウジアラビアで過ごし、4歳で日本へ。小学4年の時にエジプトへ渡り、その後中学・高校は英国立教学院で学ぶ。亜細亜大学入学前後から、ヨーロッパ大陸最高峰モンブラン、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロなどの登頂に挑戦。99年にエベレストの登頂に成功し、世界7大陸最高峰世界最年少登頂記録を樹立する。2000年から「富士山が変われば日本が変わる」をスローガンに富士山清掃活動を開始。ネパール・サマ村の子どもたちのために学校を作るプロジェクト「マナスル募金」活動や、2015年4月ヒマラヤ遠征中にネパール大震災に遭遇、すぐに支援活動を行った。また、2016年4月の熊本地震では、テント村の設置などの支援活動を行い、災害時におけるテントの有用性などを訴えている。

coordinator:近藤 幸夫

朝日新聞山岳専門記者/松本支局長

1959年、岐阜県生まれ。信州大学農学部卒業。信大山岳会出身。86年、朝日新聞入社。初任地の富山支局で北アルプスを中心に山岳取材をスタートする。88年から運動部(現スポーツ部)に配属され、南極や北極、ヒマラヤで海外取材を多数経験。2012年から日本登山医学会の認定山岳医講習会の講師を務める。

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