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6月20日は「世界難民の日」 自分たちの街の課題として考えてみたい【対談】笹川平和財団・岡本富美子さん×シャンティ国際ボランティア会・菊池礼乃さん

更新日 2020.10.22
目標4:質の高い教育をみんなに
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標16:平和と公正をすべての人に

(『おおきなかぶ』福音館書店)
 
6月20日は「世界難民の日」です。難民保護への関心を高めようと、2000年の国連総会で定められました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、紛争や迫害などで難民になった人は全世界で2540万人超、その半数以上が18歳未満です(2017年末時点)。
 
難民問題は決して遠い国の話ではありません。日本にも積極的に難民支援に関わる人たちがいます。第三国定住など難民の受け入れに関する調査・提言を行う笹川平和財団の岡本富美子さんと、東南アジアの難民キャンプなどで図書館の運営を支援しているシャンティ国際ボランティア会の菊池礼乃さんは、「日本にいながらも出来ることはたくさんある」と話します。身近な問題として、難民支援について考えてみませんか?
 

対談したおふたり
 
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岡本富美子(おかもと・ふみこ)
公益財団法人 笹川平和財団
アジアの人口動態事業グループ グループ長/主任研究員
1974年生まれ。20年ほど前にタイ・バンコクのスラムにあるシャンティ国際ボランティア会の図書館を訪れ、子どもたちの笑顔に触れたことで国際協力に関心を持つ。2000年に笹川平和財団に入り、東南アジアでのNGO活動支援などに携わる。17年7月よりアジアの人口動態事業グループで少子高齢化や国際人口移動、移住労働者の権利保護などの調査と提言を行っている。
 
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菊池礼乃(きくち・あやの)
公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会
事業サポート課 課長補佐
1982年生まれ。2009年、ミャンマーと国境を接するタイの町・メソト(メーソット)にある人権団体でインターンシップに参加し、移民問題に関心を持つ。その後、留学を経て、11年3月からシャンティ国際ボランティア会入職。同年4月よりメソトに派遣され、現地でコミュニティー図書館の運営などに携わる。昨年10月に帰国し、現在は事業サポート課で在外事務所と連携を取りながら、資金調達などの運営支援を行っている。

注目される第三国定住

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(笹川平和財団の岡本富美子さん〈右〉)
 
――シリア難民やミャンマーのロヒンギャ難民など、メディアでも難民問題はしばしば取り上げられています。難民を取り巻く現状と、それに対して日本からどのような支援が行われているか、まずお話しいただけますか?
 
岡本:難民とは戦争や迫害、飢餓、災害などよって住み慣れた土地を離れ、国境を越えて移動を余儀なくされた人たちのことを言います。2011年以降、特にシリア内戦の影響もあり、世界的に難民の数は増え続けています。そうした難民問題の解決策として、次の三つがあげられます。
 
(1)母国への自主帰還
(2)第一次庇護(ひご)国に定住
(3)第三国定住

 
母国の状況が改善すれば、戻ることができます。2017年は66万7000人が自主帰還を果たしていますが、難民全体では3%にも満たない数です。母国帰還がかなうまでは第一次庇護国、つまり難民が最初に逃れた国や地域で生活を再建することが望ましいとされますが、その国も途上国であるケースが多く、負担が大きい。そこで注目されるのが第三国定住です。
 
――あまり耳慣れない言葉ですが、第三国定住とはどのようなものでしょうか?
 
岡本:受け入れに同意した第三国に難民を移動させることで、難民はその国で長期的に定住する権利を得ることが出来ます。現在、アメリカ、オーストラリア、カナダ、北欧諸国など35カ国が第三国定住の受け入れに同意しています。日本も2008年、アジアで初めて受け入れに合意しました。パイロットケースとして2010年からタイの難民キャンプに滞在するミャンマー難民を年間30人の枠で受け入れ、これまでに100人以上の難民が日本で暮らしています。とはいえ、最大の受け入れ国であるアメリカは年間3万5000人を受け入れているので、日本とは比べものになりません。そうした第三国定住の取り組みを民間の側からサポートすべく、私たち笹川平和財団は調査研究や提言などを行っています。

難民キャンプに図書館を開く意味

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(子どもたちと遊ぶ菊池さん=2011年11月、タイ・メラの難民キャンプ、川畑嘉文氏撮影)
 
――タイに滞在するミャンマー(ビルマ)難民への支援は、シャンティ国際ボランティア会の主な活動の一つですね。
 
菊池:私は昨年10月までの7年間、タイにある難民キャンプで図書館の運営を中心とした支援活動をしてきました。現在、ミャンマーと国境を接するタイ北部には9つの難民キャンプがあって、2018年末現在で9万7000人が暮らしています。そのおよそ80%がミャンマー政府から迫害を受けてきたカレン族という少数民族です。公式に難民キャンプが出来てから35年が経ちますが、世界の目はより緊急性の高いシリア難民やロヒンギャ難民などに注がれ、支援が届きにくくなっています。
 
「難民支援なのに、どうして図書館なの?」と聞かれることがありますが、故郷を離れ、隔離されたキャンプで暮らす子どもたちは、自分たちの言葉や文化を学ぶ機会が限られています。そうした環境で大人になった難民は「自分が何者なのか」が分からず、文化的アイデンティティーや心のよりどころを失ったまま生きることになります。だからこそ、子どもの頃から母国語で書かれた本、自分たちの文化について書かれた本を読むことは非常に大切なのです。子どもたちは本を通じて文化を知り、外の世界を体験します。
 
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(シャンティ国際ボランティア会が運営する図書館。読み聞かせ会に多くの子どもたちが集まった 2015年タイ・ヌポ難民キャンプ、川畑嘉文氏撮影。『おおきなかぶ』福音館書店)
 
岡本:第三国定住で来日する難民にとっても、アイデンティティーを再構築することは大変重要です。難民は、家や仕事、母国とのつながりなどの全てを失い、新しい環境で人生を切り開いていかなくてはなりません。ある難民の子どもは、慣れない環境で内にこもりがちでしたが、ある時、「自分がどうして難民になったのか」を両親に聞き、学校の全校集会で発表する機会がありました。そこで初めて自分のバックグラウンドを受け入れ、先生やクラスメートからの理解も得ることができた。それ以来、その子は日本での生活に前向きに取り組むようになったそうです。母語・母文化のアイデンティティーに加えて、難民としての背景や、日本で生きていくことすべてを、自分自身、そして周囲の人が受け入れることで、一人の人間として尊厳を持って生きる力を取り戻していきます。
 
――文化的アイデンティティーの確立のため、シャンティ国際ボランティア会が行ってきた支援活動には具体的にどのようなものがありますか?
 
菊池:タイの難民キャンプで活動を始めた2000年当時、多くの難民の母語であるカレン語で書かれた本はほとんどありませんでした。特に子どもたちが読む絵本ですね。そこで、カレン族の間に口承で伝わってきた民話を聞き取り、絵本にして出版してきました。また、現地に21館の図書館をつくり、そこには日本の絵本やタイの絵本にカレン語やビルマ語の翻訳シールを貼って並べています。子どもたちの好奇心は尽きなくて、本当にボロボロになるまで読むんです。スタッフが読み聞かせもしていて、「おおきなかぶ」(福音館書店)を読んでいると、途中からみんなでかぶを引き抜くジェスチャーが始まります。私には2歳になる息子がいますが、「おおきなかぶ」が大好きですし、うちの子も、難民の子も、その笑顔は全く変わりません。難民と言うと遠い存在に思えてしまいますが、実際はどこにでもいる普通の子ども、お父さん、お母さんたちです。
 
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(難民キャンプの子どもたちがボロボロになるまで読んだ「大きなカブ」の絵本、伊ケ崎忍撮影。『おおきなかぶ』福音館書店)

難民問題は地域問題でもある

岡本:これまで様々な場所でセミナーや勉強会を行ってきましたが、難民に対して「こわい」とか「暗い」というネガティブなイメージを持っている人が多くいました。国際的な文脈で語られることの多い難民問題ですが、日本に移住してきた難民が実際に暮らしていくのは地域です。難民ではなく1人の隣人として捉え、地域社会に溶け込めるように生活、日本語学習、子どもの教育、就労などの支援を地域全体で行っていくのが理想ですが、現実にはまだまだ課題も多いですね。
 
――日本に来た難民に対して、受け入れ国としてどのような支援を行っているのですか?
 
岡本:政府は「出国前」「到着・入国初期」「地域定住」と3段階に分けて日本語学習支援や生活ガイダンス、職業相談などの支援を行っています。地域定住に移行してからは進学や就職など、ライフステージの変化によっても必要なサポートが変わってきます。日本人は真面目なので、失敗してはいけないと難民支援を難しく考えてしまいますが、例えば日本語教室だったり、工場などで外国人材を雇用してきたノウハウだったり、既にある社会資源で活用できるものも多くあります。それらをどのようにコーディネートして、難民の自立的な定住につなげていけるかが鍵となります。
 
菊池:現地で活動してきた経験からすると、長く難民キャンプで暮らしてきた人たちが急に日本社会のルールの中で生活することは非常に難しいと思います。毎日決まった時間に仕事に行って、一定時間働いて帰ってくるという経験がない人も多いので、まず日本での生活の仕方を覚えることから始めなくてはいけませんよね。
 
岡本:ルールや文化の違いに戸惑うケースは多いです。日本では1970年代終わりからインドシナ難民、いわゆる「ボートピープル」と呼ばれる人たちをおよそ1万1000人受け入れてきました。受け入れ当初は、ごみ捨てのトラブルも多く、よく宴会をして騒いでいたとか。彼らの国では普通のことなのですが、日本ではお花見の時ぐらいですね。お互いの文化を尊重した上でルールを伝えることが大切です。日本に定住したインドシナ難民は既に3世代に及んでいます。彼らがどんな問題に直面し、どうやって乗り越えてきたか。そうした経験から学ぶものは多くあります。当時の子どもが大人になり、研究者や保育士、通訳などとして活躍する人や、母国での起業を夢見る若者もいて、勇気をもらいます。難民は「逃れてきた人」ではなく、「ポテンシャルを持った人」なんです。
 
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(シャンティ国際ボランティア会の菊池礼乃さん〈左〉)
 
――お二人は今、日本から難民の支援に関わっていますが、活動していく上で大切にしていることは何でしょうか?
 
菊池:現地で活動していた時は難民と言っても、すぐ隣に暮らす身近な存在でした。昨年帰国してみると、日本ではまだまだ難民についての情報が足りず、遠い存在のように思われています。岡本さんをはじめ、日本でも難民支援に尽力している方が多くいる中で、難民問題は決して遠い国の出来事ではないと感じてもらえるよう、しっかり現地の情報を発信していくことが大切だと考えています。
 
岡本:十分に制度が整っていない中でも難民をサポートしている企業、学校の先生など、前向きに取り組んでくださっている人たちがたくさんいます。今年5月、政府の検討会は来年度から第三国定住の受け入れ人数と対象を拡大する方針を打ち出しました。年間30人の受け入れ人数を60人に増やし、5年後を目処に100人以上に拡大しようと提案しています。しかし、難民支援は政府だけで出来るものではありません。政府と民間、そして地域社会に暮らす一人ひとりが手を取り合って進めていくことが重要です。私たち笹川平和財団では、地域社会における難民受け入れの可能性とその手法をまとめた「難民の地域定住支援ガイドブック」を制作しました。インターネットでも公開しています。ぜひ一度、自分の身近な問題として考えてみて欲しいです。
 
<WRITER>永井美帆 <写真>伊ケ崎忍

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