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音楽のサステイナブルに 箏奏者LEOさん出演のミライテラス、東大新聞の学生記者が取材

更新日 2023.11.10
東京大学新聞・佐藤万由子
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標12:つくる責任 つかう責任
目標15:陸の豊かさも守ろう

私たちがふだん何げなく耳にしている音楽。いい音を奏でるにはいい楽器が必要ですが、その原材料が減少し続けていることを知っていますか? 生物多様性の損失という大きなテーマを、音楽を切り口に捉えるべく、10月19日、第15回SDGsミライテラス「音楽をサステイナブルに~生物多様性に向き合う~」が開催されました。

MC根本美緒さんにクラリネットの原木、グラナディラを説明するヤマハの仲井一志さん(右)

クラリネットの原木グラナディラ 危機に直面 

大手楽器メーカーのヤマハで働く、仲井一志さん。大学進学をきっかけに森林科学を学び、ヤマハの入社試験でも「楽器生産ではなく、木材に関わりたい」と話したという異色の社員です。仲井さんが保護に関わっているのは、グラナディラと呼ばれる木です。多くはサハラ砂漠南部~東アフリカに分布しており、甘い香りが特徴で、木管楽器のクラリネットやオーボエに使われています。スタジオ内ではグラナディラの香りを嗅いだ根本美緒さんが、バニラのような香りに驚く一幕も。

タンザニアで森林管理 住民と協働 ヤマハ

違法伐採や森林火災の影響でグラナディラの数は減少傾向にあり、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは準絶滅危惧種に指定されています。楽器制作に使用できるのは高品質部位という理由から、100本の樹木から取れる木材はなんとたったの1本分。むやみに伐採し続けては森林がなくなってしまいます。森林保全の必要性を再認識したことから、仲井さん率いるチームは主産地であるタンザニアで森林管理に乗り出しました。現地住民とコミュニケーションを取りながら、苗木を育てる技術を伝えるなど、持続可能な森林管理を心掛けます。取れた木材を余らせることのないよう、グラナディラの心材(しんざい)の黒い部分を使った鍵盤のピアノを制作するなど工夫を重ねているそうです。

植物由来セルロースナノファイバーに注目 琴爪にも 伊藤忠

原材料が絶滅の危機にあるのは、グラナディラだけではありません。箏の演奏に欠かせない箏爪(ことづめ)。そのほとんどは象牙によって作られています。今なお、象牙を目的とする乱獲によって象の生息数は減少しており、取引も厳しく規制されています。箏爪を象牙に代わる、持続可能な材料で制作できないか。その代替物質としてセルロースナノファイバー(CNF)に目を付けたのが、伊藤忠商事です。CNFは植物成分のセルロースを非常に細かくし繊維状にしたもので、とろみのある性質を生かして様々な用途に使われています。

植物由来セルロースナノファイバーの箏爪(中指)と象牙の従来品(親指、人さし指)

製品開発の段階では多くの課題があったと伊藤忠商事の長谷川明広さんは話します。新素材で楽器を作るという行為は歴史的にみて正しいのだろうか、という葛藤もあったそうです。そんな中、機会があって訪れたパリ音楽博物館で楽器と素材の歴史を追ううちに「土地や年代に合った素材で楽器が制作されている」ことに気づいたと言います。持続可能なCNFを用いる自分たちの取り組みも「時代に合った」ビジネスとして意義があると確信できたそうです。開発段階では三島屋楽器店と利昌工業と連携し、2019年から始まったプロジェクトは4年を経て形になりました。長谷川明広さんは箏爪を皮切りに、CNFを用いた製品開発に力を入れたいと熱を込めて語ります。

ミライテラスに出演した伊藤忠商事の長谷川明広さん

箏爪に注目、象牙の代替品に LEOさんが演奏

オリジナル曲も演奏したLEOさん。人気はうなぎ登りで、昨年はNHK紅白歌合戦でも演奏した

様々な困難を乗り越え作られたCNFの箏爪はどのような音色を奏でるのでしょうか。箏奏者のLEOさんによる、CNFの箏爪と象牙の箏爪での弾き比べが行われました。演奏時の感覚として、象牙の方がしなりやすいため、それをCNFの箏爪でも再現出来たらより使いやすいと考える、というプロの感想に、長谷川明広さんも「とても参考になります!」と笑顔があふれました。

琴爪の弾き比べを判定するため、目隠しをする出演者

また、LEOさん作曲の「DEEP BLUE」もCNFの箏爪を用いて披露されました。深海をイメージして作られた曲で、繊細で深みのある音にスタジオ中が聴き入りました。深海をイメージして作られた曲で、繊細で深みのある音にスタジオ中が聴き入りました。

食料と消費 生物多様性に影響 立命大長谷川氏

Nature誌掲載の生物多様性に関する国際研究を報告した立命館大・長谷川准教授。視聴者から多くの反響が寄せられた

番組後半では、生物多様性の回復について、立命館大学理工学部准教授・長谷川知子先生から説明が行われました。過去数十年にわたり生物多様性は失われ続けており、人間の活動が変化しない限り今後回復することはないとされています。回復のカギとして、長谷川知子先生は牧草地などの食に関わる土地の利用に注目しました。現在、農地は地球上の全陸地の4割を占めており、今後食料需要の増加も予想されることから、食料生産と消費のあり方は生物多様性に大きな影響を与えると考えられます。長谷川知子先生の研究チームはシミュレーションを行い、持続可能な生産と消費を実現すれば、生物多様性の損失が抑えられ、2050年以降に回復に向かう可能性があることを実証しました。

では「持続可能な生産と消費」とはどのようなものでしょうか。大きく分けて三つあります。一つは、肉類消費の削減や食料廃棄物の削減などによる、持続可能な消費を目指すことです。二つめは、作物収量の増加などにより、持続可能な生産を目指すことです。気候条件は十分であるにもかかわらず、栄養素や水が不十分なために最大収量に達していない地域も世界には多く存在しています。農地を拡大せずに、作物収量を増加させることで無理な開発も防ぐことができます。三つめは、自然保護区をさらに指定するほか、耕作放棄地を自然に復元するなど、土地の保護を十分に行うことです。これらの条件が一つでもそろわなければ、生物多様性の回復は見込めないと長谷川知子先生は話します。

登壇後、私は「今回の研究にはどのような新規性があるのですか」と尋ねました。長谷川知子先生は「食料生産・消費と生物多様性の関係に注目したこと自体に新規性があったと思います。また、研究を行う際に世界にある10の研究チームが共同でシミュレーションを行ったことも非常に珍しい点です」と答えました。

「生物多様性を守る」というと私たちとは縁遠い話のように感じられますが、こうした国際研究の結果やグラナディラ、CNFの取り組みに代表されるように、身近な食卓や音楽の場にも、環境保全は深く関わっているのだと学びました。今の私たちの選択によって地球のミライが決まる、ということを意識して、自然環境にとって少しでもプラスになる行動を心掛けたいと思います。

writer:佐藤万由子

東京大学新聞

東京大学2年生。「生きづらさ」と公教育の関係に関心があり、学校推薦型選抜で教育学部に入学した。現在は「障害者のリアルに迫る東大ゼミ」で運営を務めており、福祉や貧困・虐待問題についても考えを深める。将来は子どもを取り巻く社会の現状を伝え、その打開を図るべく報道の道に進みたい。

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