世界の都市のごみの量が増加しています。2016年には約20億トンでしたが、2050年には34億トンに増えるという試算も。先進国で使い捨ての商品が増えていることが一因と言われています。特に電子廃棄物(E-waste)が急増しています。第13回SDGsミライテラスは6月8日、「都市のごみは宝の山? ~循環型社会をめざして~ 」というテーマで開催されました。
(SDGsミライテラスのサイトはこちら)
電子廃棄物をアートに 美術家・長坂真護さん

ガーナの首都アクラ近郊にあるアグボグブロシーは、「世界最大級の電子廃棄物の墓場」と呼ばれています。美術家の長坂真護さんは、アグボグブロシーで不当に捨てられた電子廃棄物を使ったアートで注目を集めています。かつては世界15の国と地域で、路上の絵描きとして1枚3万円程度の作品を売って生活していた長坂さん。今では年間数百点の作品をつくり、1枚数十万円~2億円もの値がついています。作品の売り上げの多くは、ガーナのスラム街をなくす事業に投資されています。
「使命を感じた」「ひらめきからスタート」

絵描きとして活動する傍ら、かつては電子機器のバイヤーも手がけていたという長坂さん。当時、自分の仕事は誰にも迷惑をかけていないと自負していたと言います。ところが、「電子廃棄物の墓場」の存在を知り、2017年6月に初めてガーナを訪れ、考えが一変します。「人としての使命を感じました。キャンバスを買うお金もろくになかったので、絵の具のようにごみを使って絵を描けば描くほど、スラムのごみが減るんじゃないか、というひらめきからスタートしました」

現地の労働者は、電子廃棄物に火をつけて金属類を取り出すことで生計を立てています。ガスマスクを着けずに大量の有毒ガスを吸い込み、若くして命を落とす人は後を絶ちません。アグボグブロシーには、近くのマーケットで売れ残った野菜も捨てられており、それらは家畜の餌になっています。
ガーナから帰国する間際、現地の若者に「真護が着けてきたガスマスクを、次はみんなの分まで持ってきて欲しい」と言われました。長坂さんは、「(彼らの)まっすぐな瞳を見て、僕らがやるべきことはここにあると強く思いました」と振り返ります。

『The Lake of TruthⅡ(真実の湖Ⅱ)』という作品の中央には、子供たちの純朴な瞳が描かれています。元来、湖が広がる中州地帯であったアグボグブロシー。湖に映る人間の本当の愛と、豊かな先進国の幸せという乖離(かいり)したものが同時に描かれている作品だと長坂さんは述べます。原価1万円でつくったこの作品には、2200万円の値が付きました。
寄付に頼らず、持続可能な資本主義を実践
長坂さんは寄付に頼ることなく、スラムのごみを循環させるビジネスを展開しています。その中心には「文化(アート)」「環境(ごみ)」「経済(お金)」の三つを切り離さずに同時に実現する「サステナブルキャピタリズム」の考え方があります。2030年までに「100億円規模の事業投資」と「ガーナでの1万人の雇用」を実現すると発表し、「スラムをなくす」というスローガンのもと、挑戦を続けています。

「僕らは諦めない。微力だけれども無力じゃないという我々のチームの誇りを大切にして、これからもガーナの黒い星を輝かせるまで頑張ります」
長坂さんは「『地球を変えるなんて不可能だ』と思わず、文化・環境・経済を一つの軸で動かせるようなソリューションを起こし、みんなで手をつないでスラムをなくしていきましょう」と締めくくりました。
伊藤忠、電子廃棄物の補償サービス開始


アフリカは先進国に比べてリサイクルインフラが整っていません。携帯電話端末が世界中から運び込まれ、不当に廃棄されています。その数は年間約3億台。 伊藤忠商事はオランダの新興リサイクル企業Closing the Loop(クロージング・ザ・ループ、CTL)と協業し、国際認証を受けた「電子廃棄物の補償サービス」の取り扱いを始めました。パートナー(端末メーカーなど)の携帯電話端末を1台販売するごとに、アフリカで不正に廃棄されている端末1台を適正にリサイクルするというプログラムです。通信ビジネス部の辻󠄀󠄀貴允さんは、このサービスを導入した一人です。

消費者は社会貢献 パートナー企業は販売促進
サービス利用による消費者のメリットは、端末の購入を通じて、アフリカの現状を認知できる点、さらに環境へ貢献できるという点です。パートナーのメリットは、企業イメージや顧客満足度の向上などが挙げられます。このような「自社の商品の購入や利用をとおして、社会貢献活動につながることを顧客に訴求するマーケティング手法」をコーズマーケティングと呼びます。
「消費者は環境に貢献でき、パートナーは販売台数を増やせるというwin-winな取り組みです」と辻󠄀󠄀さんは語りました。

広がる循環システム 課題は? 東大・藤田教授
日本の循環型社会の取り組みと課題について解説をしたのは、東京大学大学院工学系研究科の藤田壮教授(環境システム学)。北九州市や川崎市のエコタウンの研究にも関わってきました。日本は、ごみの埋め立て地不足が社会問題となっていましたが、1995年以降、「循環型社会」の考え方が広がり始め、ごみの問題は劇的に改善しました。国が効率的な循環システムやリサイクル・分別のシステムを作ったことで、廃棄物の最終処分量は1990年から2020年にかけて約10分の1に減少したのです。

さらに、製造工場の近くにリサイクル工場を建て、設備投資を行うことで、リサイクルの省力化が可能になりました。工場でリサイクルされた資源が価格競争力を持ち、再生利用されることで循環が生まれます。
官民学の連携 循環社会を実現するカギに
現在日本には26カ所のエコタウンと200カ所を超えるリサイクル工場が整備され、循環型社会が実現されつつありますが、「まだやるべきことはある」と藤田さんは話します。今後は、リサイクル製品に付加価値をつける技術を展開していくべきだと藤田さんは提案しました。
日本だけでなく、海外においても「環境にやさしい都市」を作るためには、官・民・学の連携が必要であると藤田さんは考えます。例えば、官民が連携して投資の仕組みを作ることで、アジア・アフリカ諸国にリサイクルのための設備投資を行う方法があります。また、海外の大学と連携して共同研究を行うことで、循環型社会のさらなる発展が期待できます。藤田さんは「公共とマーケットエコノミーの組み合わせが、循環型社会を世界に広げるカギになる」と語りました。

登壇後、「循環型社会をめざすために消費者一人ひとりは何ができるのか」という質問に対し藤田さんは、「自分の行動が社会・次世代に対して貢献できるかどうか考えながら消費行動を起こすこと。循環型社会やSDGsに関する情報や知識を持つだけで満足せず、自分の行動やソリューションにつなげる必要があります」と答えました。
長坂さんの「微力だけれども無力じゃない」という言葉が印象的でした。電子廃棄物の問題は、先進国に住む私たちにとって、他人事(ひとごと)ではありません。目を背けることなく、循環のためのソリューションを見つけようとする姿勢を忘れてはならないと思いました。