持続可能な社会に向け、伊藤忠商事と朝日新聞社が共催している「SDGsミライテラス」。11月17日に開かれた第8回では「フードロス」が取り上げられました。この問題を解決するために行われている取り組みとは。SDGsの視点から食料のあり方を見つめ直しました。
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世界で年13億㌧、日本で年522万㌧の食品廃棄
「食べられるのに捨てられている食品」が依然として無くなりません。日本の食品廃棄量は推計で年間522万㌧。国民1人あたり毎日お茶わん1杯分(小盛り)にもなります。世界で約8億人の人々が栄養不足に陥り、23億人もの人々が食料不安に直面しているという中で、「食」への向き合い方が問われていると言えます。

日本女子大学の小林富雄教授は、生産から消費までの過程でさまざまな食品ロス問題が生じることを紹介しました。まず、農業部門では「規格外農産物問題」が課題となります。規格外のため出荷できない農産物は、野菜だけでも200万㌧に上ると推計されますが、一方で消費者は購入の際に規格外かどうか気にしていないというデータもあります。
規格外農産物に目を向けよう 海外は規制も

フランスのブラックマーケットでは、農家が「私たちは犯罪者です」とアピールするポスターを掲示しました。規格外農産物問題の深刻さを社会に訴えることで、国の法律が変わり、さらにはEU全体の法律も変えることに成功しました。 流通部門では、賞味期限までの残り期間に応じて返品、廃棄される「3分の1ルール」が存在します。返品文化の強い日本では、多くの食品ロスが発生してしまうのです。イギリスでは国が流通のシステムに介入するということを行っています。大きなスーパーに限り、発注したものを直前でキャンセルすると法律によって罰せられます。
さらに、外食部門では食べ残しが大きな問題となっています。日本の食品ロスが減少したのは、コロナ禍による経済活動の制限が要因と言われますが、果たしてこれは望ましい解決方法なのでしょうか。また、かつては給食などの食べ残しを抑制するために「完食指導」が多く見られましたが、これも正しい解決方法なのでしょうか。
ロス削減へアップサイクル加速 オイシックス

オイシックス・ラ・大地では、小売業として「売る」という場面はもちろん、「つくる」生産側、「食べる」消費側のフードロス削減にも取り組んでいます。いちばんの注目は「アップサイクル」という取り組みです。生産現場で活用されない部分の価値を上げて提供するもので、ブロッコリーやパイナップルの芯をチップスへ生まれ変わらせるなどしています。 さらに枠組みを広げ、中学生と商品を開発する取り組みを始めました。青稜中学校(東京都品川区)では、廃棄されることが多いシイタケの「じく」を使ったハンバーグ、昆布の根元を練り込んだそうめん、大根の葉を使った蒸しパンを考え、商品化しました。執行役員の東海林(とうかいりん)園子さんは「生徒の家庭の食卓にも変化が見られた」と、取り組みの意義を感じています。
食をデータ分析 DX活用して商品開発 伊藤忠

伊藤忠商事では1年前、食品開発をデータで支援する事業「FOODATA(フーデータ)」を立ち上げました。苦みや甘みなどの味覚をデータ化し、商品情報や市場、購買の動きと掛け合わせて分析することで、消費者のニーズに即した商品の開発を行えます。消費者の好みと新商品のミスマッチを防ぎ、間接的にフードロスの削減へとつながるのです。食料カンパニーの塚田健人さんは「食の近未来のあり方を考えながら、食にどう関わっていくのか想像してみると楽しいのではないか」と話していました。

最後に、小林教授から「フードロスが出るくらい飽食である現状に、まずは『ありがたい』と思うところから出発してもいい」というお話がありました。個々のちょっとした意識や取り組みであっても、それが合わさることで世の中を変える力になります。私たちの生活に欠かせない「食」の問題だからこそ、今この瞬間からできることがあるはずです。