9月21日、「SDGsミライテラス」の第6回「途上国から考える貧困」が開催されました。「SDGsミライテラス」は、ビジネスの世界でSDGsがいかに展開されているかを学ぶ企画です。今回は途上国の障害児療育やソーシャルビジネスを通じて、貧困問題を見つめました。
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7億人が貧困 南アジア、アフリカ南部に偏在
はじめに、世界の貧困状況を見てみましょう。一般的な指標では、1日1.9ドル(2022年10月のレートで約270円)以下の生活を送る人々が貧困層とされています。現在、世界の1割にあたる約7億3600万人が貧困に直面しています。また、貧困層は地域による偏りが大きく、約85%が南アジアとサハラ以南のアフリカに存在しています。

ケニア小児科医「障害は貧困の中で起きやすい」
WHOによれば、世界で障害を抱える方は10億人以上。その80%が途上国で暮らしています。ケニアで20年間、障害児の障害者の支援と療育に携わってきた小児科医の公文和子さんは「障害自体が貧困の中に起こりやすい」と説明します。出産時に適切な医療を施すことができなかったり、その後の継続的な治療が金銭的な理由でできなかったりするからです。
公文さんはケニアのナイロビ郊外にある「シロアムの園(その)」で活動しています。貧困の中の障害には、医療だけでなくさまざまな困難が絡み合います。例えば、特別な支援を必要とする教育のための費用がかかったり、差別や偏見により社会に受けいれられず、家庭が崩壊してしまったりもします。障害によって生じる障壁や経費が、さらなる貧困を招いてしまうのです。福祉を担う社会制度の不備も困窮を助長します。


療育施設のシロアムの園 目標は持続可能な笑顔
シロアムの園では、子供たちの「持続可能な笑顔」を目標に、コミュニティーへの教育や政府・政策への働きかけを含めた社会的な側面からの取り組みも行っています。「このようなことを通じて一人ひとりの命が幸せになっていくと思いますし、それによって誰一人残さない社会、持続可能な笑顔につながっていくと思います」と公文さんは言います。

緑豆でソーシャルビジネス グラミンユーグレナ
次は、バングラデシュにおける緑豆(りょくとう)の栽培事業について紹介します。佐竹右行さんはグラミンユーグレナ社の社長を務め、子供たちの栄養問題の解決や、農業事業の推進に力を入れています。佐竹さんが行うのは、緑豆を使った「ソーシャルビジネス」。これは決して慈善事業ではなく、通常のビジネスと同じスタイルをとりながら、その利益を社会的課題解決のためにさらに投資するという事業の形です。

バングラデシュではもともと貧困が問題視されていました。さらに2017年にミャンマーで迫害を受けたロヒンギャの人々が流れ込み、難民問題も大きくなりました。難民への支援や、貧困層の雇用創出が課題となっています。
緑豆の栽培事業はこれらの解決の力になっています。2020年には現地で合計8000名の農家が事業に携わるようになり、彼らの収入増加に貢献しました。また、この事業は社会問題を解決するだけでなく、日本にもメリットがあります。実は、緑豆は日本でほぼ作られず輸入に頼っており、生産は8割が中国、2割がミャンマーで行われています。緑豆の価格は近年上昇しており、値段が暴騰する可能性があるのです。バングラデシュで緑豆を栽培することで、日本への緑豆の安定供給につながります。

佐竹さんは途上国での支援の仕事について「ビジネスマインド」が重要だと語ります。「もうからなければ継続的に続けることが難しい。もし支援が止まってしまうと、その人を助けられなくなるという矛盾をいつも抱えていました」。互いに利益のある関係を築くことが持続可能な支援にもつながっています。
さて、再びアフリカに舞台を移し、シエラレオネで始まったパイナップル事業を見てみましょう。

西アフリカをパイナップル産地に 地域支援も
シエラレオネは西アフリカに位置し、人口は約800万人。伊藤忠商事・小林諒さんの携わる事業では700㌶(東京ドーム150個分)のパイナップル農園を展開しています。

雇用創出、医療整備、インフラ・・・社会貢献
この事業では「雇用機会の創出」「医療体制の整備」「生活インフラ整備、支援」の3点から地域社会への貢献を図っています。シエラレオネでは現在、全体の50%以上の人が貧困層です。現地で作業員を雇い、その社員が安心して作業ができるようクリニックを設置して医療環境を整えました。派遣された看護師は地域全体のサービスの向上にも貢献しています。井戸の設置、動線を確保するための道路整備など、経営課題と社会課題の解決、地域社会の成長を同時にめざしています。地域貢献を進める根本には「事業の成功は地域社会の発展とともにあるべき」という考えがあります。事業を行ううえで、地域社会との交流は欠かせません。目の前の社会課題が、事業の経営課題と直接つながるのです。
講演の最後に、参加者からの質問で、途上国支援に必要なスキルや、やりがいをたずねる声が寄せられました。「貧困問題の解決に高校生が協力できることはあるか」との質問に、公文さんは「SDGsは大きな社会問題だけではなく、日常の中にも色々なことがあると思います。友達やご家族など、身近で困っている人に何かができない人は、きっと遠い人たちに対しても何かすることは難しいと思います。今生きている環境でどう周りの人たちと向き合うかを追加して考えてほしいです」と語りました。途上国支援に携わる3人の姿は、貧困問題が遠く離れたことではなく、まさに私たち自身の問題であることを物語っています。