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これからの働き方を考える(寄稿:常見陽平)

更新日 2020.10.22
目標8:働きがいも 経済成長も

まずは、過労死・過労自死ゼロ社会を

 
集中連載、最終回の今回は「これからの働き方」について考えることにします。このキーワードであなたが想起することと言えば、副業(複業)・兼業によるパラレルキャリアの話や、ICT(情報通信技術)を駆使し自由な時間に好きな場所で働くスタイル、あるいは組織から離れて自由に働くなど、いかにも「意識高い系」が論じそうな話かもしれませんね。
 
しかし、私たちはまず労働についての基本的な条件を求めなくてはなりません。それは、過労死・過労自死ゼロ社会です。さらに言うならば、職場で人が倒れない、傷つかない社会をまずは目指さなくてはなりません。
 
「1億総活躍」や「働き方改革」といった議論について、私が首をかしげてしまったのは、当初、ワーク・ライフ・バランスの充実、そのための長時間労働の是正や、柔軟な働き方が検討されていたのにもかかわらず、そのライフなるものが生きるか死ぬかの議論にすり替えられてしまったことです。しかも、その長時間労働の規制なるものがかえって過労死ラインを超える労働を容認しないかと懸念してしまいました。
 
この議論のすり替えは看過することができない問題です。もっとも、たしかにまずは仕事で、職場で死なない、倒れない、傷つかない社会を目指すべきでしょう。私たちのこれまでの働き方は危険だったことを直視するべきです。
 

働き方改革法案で過労死・過労自死ゼロは達成できるのか

20180215常見さん3本目につく働き方改革実現会議の写真
(働き方改革実現会議であいさつする安倍晋三首相<左>=2017年3月17日、首相官邸、岩下毅撮影 出典:朝日新聞)
 
今国会は「働き方改革国会」と呼ばれています。労働時間規制の強化と緩和が同時に提案されます。長時間労働の規制、同一労働同一賃金、労働時間と給与を切り離す高度プロフェッショナル制度、裁量労働制の拡大など、規制緩和と規制強化の要素が一括で提案されます。
 
安倍首相の施政方針演説では、これらの取り組みで働き方が大きく変わるとされています。しかし、皆さんにはイメージがわきますでしょうか。
 
たしかに、長時間労働への規制をかけること、正規と非正規の格差を是正すること、さらには柔軟な働き方を広げることは美しい話のように聞こえるかもしれません。しかし、仕事の絶対量や任せ方、突発的な仕事への対応などが長時間労働の原因であるにもかかわらず、この根本的な問題には踏み込んでいません。かえってサービス残業を誘発する可能性があります。
 
「非正規という言葉を一掃する」と首相は言いましたが、その言葉が無くなっても働き方が残るというのならまた話は別です。うがった見方をするならば、むしろ正規という働き方がなくなるかのようにも聞こえます。
 
「柔軟な労働制度」というものも、本当に柔軟になるのかという点に疑問が残ります。「裁量労働制」と言いつつも、自分の裁量で働けないものになっていないか、単なる労働者の定額プランになっていないかなど、運用面での課題は明々白々です。
 
そもそも「1億総活躍」を提唱しつつも、労働への参加者が増えるイメージがわきません。長時間労働の是正も、裁量労働制の拡大も、労働への参加者を増やすという意図や、家事・育児・介護に参加する人や時間を増やすという意図があるはずですが、不十分だと言えます。
 
野党は「残業代ゼロ法案」と批判しています。ただ、十数年前のホワイトカラー・エグゼンプションと同じ論法を使っても、いくら健康面の対策が不十分だと言っても労使で合意した内容だと押し切られてしまいます。
 
もっと大きな視点でそもそも「1億総活躍」や「働き方改革」といったコンセプトを打ち出した際に、さらには施政方針演説の際に打ち出した世界観を、この法案だけでは達成できない点を指摘するべきでしょう。つまり、これからの労働社会に関する本質論が必要なのです。
 
揚げ足をとるように聞こえるかもしれませんが、安倍首相は施政方針演説において、過労死・過労自死については一言もコメントしませんでした。これも気になるポイントです。
 
新しい労働法制は、数の論理ではこのまま成立してしまいます。ただ、これらは運用面において、マイナスのシナリオがありえるものだらけです。過労死、過労自死、さらには職場で倒れる者、傷つく者がいない社会をつくることにつながるのかどうか、注目すべきポイントです。「これからの働き方」を考える上で、するべきことはまずは基本の確認なのです。
 
働きがいのある人間らしい仕事を指す、「ディーセント・ワーク」という考え方があります。ディーセント・ワークの推進は、国連で2015年9月に採択された持続可能な開発目標(SDGs)の中でも掲げられています(「目標8 働きがいも経済成長も」)。
 
 
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(SDGsとは何かはこちらの記事で!…SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり)
 

「自由」かつ「柔軟」な働き方がもたらす「不自由」と「硬直」

さて、「これからの働き方」を考える上でよく取り上げられる「自由な働き方」「柔軟な働き方」について、考えてみましょう。結論から言うならば、これらは本当に「自由」で「柔軟」なのかという点を常に疑う必要があります。これらが逆に「不自由」で「硬直」した働き方をもたらす可能性があるからです。
 
「自由」かつ「柔軟」な働き方は、家事・育児・介護との両立などを行いやすいとされています。少子化に歯止めをかけるものであり、介護離職を避けるためにも有効だとされています。しかし、前述したように、そもそもの仕事の絶対量が多いのが問題なので、かえって不自由で、硬直した働き方をもたらします。
 
もちろん、今回の法改正にしろ、企業の働き方改革にしろ、そもそもの行うべき仕事、やるべき仕事を見直す動きになれば良いと思うのですが、単に現場に丸投げではまるで意味がありません。
 
最近、私の方に労組だけでなく経済団体からも講演依頼が多いのは、このような働き方改革に疑問を持っているからです。かえって労働強化にならないか、上からの改革であり現場丸投げではないかという不満からです。
 
もっとも、このような上からの改革がまかり通ってしまったのは、労使が議論をサボってきたからではないかと私はみています。いつの間にか、政権が主導権を握ってしまったわけです。
 

ほどほどに働く社会をどうつくるか

では、どうすれば良いのでしょうか。やや青臭い表現ではありますが、これからの働き方について、草の根レベルでアイデアを可能な限り多く出すことが大事ではないでしょうか。
 
 
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(2017年12月29日 朝日新聞朝刊より)
 
個人的に希望のまなざしで見ているのが、人手不足です。もはや時代は採用氷河期です。このような局面は労働環境の改善に経営側が取り組まなくては、人材は採れません。人材を獲得し、定着させるためには労働環境を良くしなくてはならないのです。ゆえに、労働者の声が通りやすい状況だといえます。だから、この局面ではどんどん声をあげるべきなのです。
 
AI、さらに言うと広義の機械、人間以外のものとの共存を模索するべきです。AIが仕事を奪う論がばっこしています。たしかに、AIの発達はすさまじいものがありますが、人間は産業革命の頃から機械と競争、共創してきました。人間がやるべき仕事とは何かを考える時期だといえます。むしろ、これまで人間は果てしなく重労働をしてきたのだと認識するべきでしょう。
 
 
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(2017年12月29日 朝日新聞朝刊より)
 
 
ここで必要なのは、そもそもの良い仕事とは何かの再定義です。過剰品質を避けること、仕事の価値を再定義することが必要でしょう。
 
ほどほどに働く社会にするために、トライアル・アンド・エラーをするべきです。あらゆる施策には副作用がありますし、その評価は短期・中期・長期で変化します。実験をやめず、失敗も包み隠さず、これからの働き方を模索しましょう。
 
「SDGs」について、詳しくはこちら:SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり

writer:常見陽平

千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長

千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長 北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。 リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。 『「働き方改革」の不都合な真実』(共著 イースト・プレス)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。 公式サイト…http://www.yo-hey.com

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