SDGsで渋谷の未来を考えるワークショップ 「越境人」を育む東芝デザインセンター未来への挑戦

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Idea Wall Map®の前でデザインとSDGsを語る東芝デザインセンター長・湯嶋彰さん

 
「85インチのタッチパネル型ディスプレイに、SDGsの達成すべき17の目標が映る。指でテーマに触れると、無数のキーワードが、花咲くように表示される。さらにキーワードをタップすると、ネット上の関連情報が自動収集」

 
データを基に快適な情報共有体験を提供するディスプレイ型アプリケーション「Idea Wall Map®」です。

 
SDGsにまつわる情報は莫大ですが、この魔法のツールを使うと、打ち合わせの相手とも考えがすぐに共有でき、新たな発見へのきっかけ作りにもつながります。思いついたアイデアは、画面内のデジタル付箋に書き込めます。タブレットなどがあれば、いつでも、どこでも付箋に記録したアイデアが引き出せます。「データをデザインする」そんな柔軟な発想で新規事業を生み出す集団が、東芝デザインセンター(東京都港区芝浦)です。

 
その東芝デザインセンターが取り組んでいるのが、社内と社外をつないで発想を膨らませる取り組みです。昨夏、朝日新聞社と共同で「2030年の渋谷をSDGsで考えるワークショップ」を開催しました。会場は、渋谷の朝日新聞社メディアラボ分室。2030年の渋谷で、どのようなサービスが使われているかを学生と東芝社員で2週間かけて考え、プロトタイプを作り、寸劇形式で発表しました。一般公募で集まった高校生や大学生、同社内の7部門の社員計35人が参加しました。

 
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世代や立場を越えて「2030年の渋谷」についての活発な議論が展開されました

渋谷の街を歩いてみると風景が変わって見えた!フィールドワークで斬新な切り口を発見

参加者は、渋谷の街をSDGsの視点と五感を使ってフィールドワークをしました。酷暑の中、参加者は、渋谷の臭いを嗅ぎ、波のように人が行き交う街の中をSDGsの視点をもって取材しました。「渋谷の街って、ペットボトルが捨てられていて汚い」。多くの学生が、ゴミを革新的に集めるアイデアを考え、最終的に発表されたアイデアはテクノロジーと融合した斬新な切り口でした。

 
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視点を変えて街を歩くと、見過ごしていた課題が浮かび上がってきました

 
「2030年の渋谷の街を歩く人々は、着ている服から水分を補給します」。飲料水は、自販機から衣服にチャージ。だから、道端には飲み終わった後のペットボトルがなくなる。そんな未来の姿を学生と社会人が一緒に、寸劇で披露。演技力やシナリオの面白さに会場は沸きました。

 
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「ペットボトルをなくすために、着てしまおう!」寸劇体験で伝えることの楽しさと難しさを体感する参加者

すべてに前向きなデザイナーを基点に、共創・協働できる人材を育て、SDGsに応える

かつて、デザインセンターの主な仕事は、同社の全製品をデザインする受け身の業務でした。そんな中、同社事業部門の湯嶋彰さんがセンター長に就任します。着任して早々、湯嶋さんは驚きました。「デザイナーは、新しい挑戦にノーと言わないんです。私は元技術者ですが、通常、社員は挑戦する前に出来ない理由を話します。でも、この部署は違いました。すべて前向き。新規事業に向いていると考え、組織改革しようと決めました」。常に東芝の未来を考えてきた湯嶋さんは、次世代の事業はSDGsのような地球規模の多様な課題に応えるものだと見据えていました。でも、課題が大きすぎます。自社のみで挑戦できるレベルではないことも理解していました。気概に満ちあふれ、共創・協働できる人材を育てる必要がありました。

 
湯嶋さんは、携帯電話事業をゼロから立ち上げてきました。そこで学んだのは、人のつながりとスピードだと言います。「携帯電話事業は、新機種をどんどん出す市場です。最新の技術をいかに早く投入するかの勝負でした。全世界を駆け回って魅力的なテクノロジーを見つけて持ち寄ります。ああだこうだ垣根を作って、検討している暇はありませんでした。とにかく走る。挑戦の連続でした」。面白いテクノロジーや世界の動向をつかみ、事業として成立するかを嗅ぎ分けていく。ユーザーの五感や気持ちに寄り添う製品を目指しました。多様なニーズに応えるには、人を中心としたデザイン力と技術、そして、垣根を越えたネットワーク力が必要だと湯嶋さんは、振り返ります。

 
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会場のあちこちで笑顔が広がる共創の場が生まれていました

 
ワークショップで、各寸劇を審査した湯嶋さんは「社内の会議室では絶対に見せない生き生きとした社員の顔がありました。アイデアが面白い。社内にいては、考えつかないね」と笑いながらコメントしました。2週間におよぶワークショップでは、学生と社員は、ずっと行動を共にした訳ではありませんでした。だから、SNSを使ってコミュニケーションをとりあいました。参加した社員からは「若い人の発想やツールの使い方には驚きました。学ばせてもらいました」と語りました。未来のサービスを考えるなら、今の世代を知らなくては始まりません。

「続かない世界を続く世界に変えなければ」想いを実現するためのアプローチはさまざま

さらにワークショップでは、各界で活躍する人たちが集まり、SDGsに沿ったサービス構築法を講義しました。

 
持続可能な社会の実現に向けて活動する一般社団法人「Think the Earth」の理事・上田壮一さんは、「現代人は、豊かな暮らしを手に入れた一方で、地球1.7個分の資源や能力を使っています。猛暑日の渋谷の路面の温度を計ってみたら、56度に達していました。続かない世界を続く世界に変えなくてはいけません」と訴えました。

 
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参加者にSDGsをきっかけに繋がり、行動することを説く上田さん

 
東芝デザインセンターの井戸健二さんは「現代は、あいまいな問題が多くあります。広い視点で、人が行動する理由を観察しましょう」と同社が実践しているデザイン思考を解説しました。私=竹原大祐(朝日新聞社・教育総合本部)は、メディアに携わる一員として新規事業を複数立ち上げたり、朝日新聞社メディアラボを構想したりした経験から考案した、社会課題解決型アイデア発想法「メディア思考」について話しました。渋谷の都市開発を手がけ、Googleを誘致した渋谷スクランブルスクエア社の貴島邦彦さんは、魅力的な街作りに重要なカルチャーについて独自の視点を披露しました。

 
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人の心つかむ価値の作り方には、方程式があると話す藪下さん

 
太鼓の達人をプロデュースしたバンダイナムコエンターテインメントの藪下達久さんは、人が魅力的だと感じる本質的な価値の作り方について、方程式を交えながら講義しました。

ワークショップ企画者は舞台裏で人と人をつなぐことに奔走

ワークショップを企画したのは、同センターの戦略デザイン推進担当主務・駒木亮伯さん。駒木さんはワークショップを振り返りながら「参加した社員は、多くの気づきを得たり、つながりができたりと喜んでいました。ですが、正直、企画した私は大変でした。みんなの意見がまとまらない。部門を結束させることって本当に難しいですね」と苦笑い。一方で、湯嶋さんは、そんな駒木さんを高く評価しました。人と人をつなぐことは、誰でもできることではないからです。

 
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ワークショップ参加者への賞の贈呈を見守る駒木さん

電気製品デザインとSDGsの課題解決の意外な共通点とは

ワークショップを開いたデザインセンターについて、同センターの戦略デザイン推進担当グループ長の清水秀人さんは、デザイナーの気質をこう分析します。「受託業務をやってきたからこそ、前向きな文化が生まれたと思います。私たちがデザインする段階は、残念ながらすでに製品の仕様が決まっていて制約ばかりです。でも、嘆いても仕方がないので、逆に制約の中で自身の持てるセンスや力を存分に発揮します。制約があればあるほど、課題があるほど燃えます。そんなデザイナーの挑戦気質が湯嶋には新鮮に映ったのかもしれませんね」。

 
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清水さん(写真中央)がいるとメンバーの話もはずみます

 

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新規事業もはじめは資金も知名度もなく、ユーザーもいません。だから、気持ちとアイデアで制限を乗り越えていきます。SDGsについても同様のことが言えます。一つ空の下、地球村の住人である私たちは、各国の思惑や文化、変えられないライフスタイル、既成概念という壁が立ちはだかります。それらを越えなければSDGsの課題は解決できないでしょう。東芝デザインセンターでは、災害時の医療情報を伝えるシステムを使いやすくするためにデザインしたことがあります。使いやすさを追求するために国を越えて、災害が多いフィリピンまで飛び、現地の医療従事者に実際に使ってもらって改良を重ねました。

 
今やデザイナーの半分は、職場にはいません。現場に立って人とつながり、知見を得ながら課題解決のためのデザインに取り組むようになりました。未来を創るシーズは、人と現場にある。昨年10月、浜松町の本社から飛び出してパートナー企業と共に自由に考え、共創・協働できる拠点「共創スタジオK416」を川崎駅近くに開設しました。直接、お客様の声を聞き、一緒により良いサービスを創るためです。

「面白いことに挑戦する風土」を培いデザイン視点で理想を目指したい

センター長の湯嶋さんは、「新しい東芝をデザインするとすれば、どんな社員も交わりながら、無意識にデザインできるようになるのがいいですね。デザイナーとは、絵描きではないし、営業も技術も誰でもなれるのだから」と、これからの人材のあり方を思い描いています。駒木さんは、「東芝は、もっとやれる、変われます。面白いことに挑戦する風土にしたいですね。辞めていく社員をみると心が折れそうになるし、つらい。でも、あきらめずに社内外をつなぎ、挑戦を続ければ何か生まれる。きっと、変わると思うんです」。

 
同社は、長年「人と、地球の、明日のために」というスローガンを掲げてきました。まさにSDGsの考えにふさわしいメッセージですが、このコンセプトを常に意識し続けることは難しいかもしれません。スローガンを意識しながら、世界に応えるサービスを実現していくためには、人と人とが出会い、部門も、企業も、国をも越えてデザイン視点で理想の姿を目指す「越境人」を増やすことが、カギとなるでしょう。

 
<WRITER>朝日新聞社 教育総合本部 竹原大祐

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