(自分にあった道具とは?持続可能な社会の実現への取り組みが進む)
体が不自由な人々が日常の生活で少しでも困らないように、知恵を絞って役立つ道具をつくる試みが2020年5月に東京都大田区で開催される。3Dプリンターなどのデジタル工作機械を活用し、その人が本当に欲しいものに挑むという。
困難を想像力で乗り越える 3日間で製作
このイベントは「2020 TOMメイカソンTOKYO」。もともとはイスラエルが本拠地の非営利団体「TOM(Tikkun Olam Makers)」が、障害者や高齢者が自分にあった道具を手に入れやすくなることを目指して活動を展開しており、趣旨に賛同したリハビリテーションの専門家らが実行委員会を立ち上げ、日本で初めてイベントを開催することになったという。
メイカソンは、「Make(つくる)」と「Marathon(マラソン)」をかけ合わせた造語。「障害のある方やその支援者(Need Knower)」を中心に6~8人程度でチームを組み、3日間かけ、ニーズを考え、アイデアを出し合い、デザインを決めて実際に製作する。
実行委員会の中心メンバーは一般社団法人「ICTリハビリテーション研究会」に所属している作業療法士などで、これまでに全国で6回にわたって「ものづくり」をテーマにした催しを開いてきた。その際、体が不自由な参加者から日常生活で直面する不便な出来事について多く寄せられ、困難を想像力で乗り越えていく活動を続けていくことにしたという。
(ものづくりをテーマにしたイベントには多くの参加者が詰めかけた)
「できる」を「道具」で 持続可能な社会の実現に向けて
メイカソンでつくり出された道具は、同じような困難を抱える世界中の人たちにも役立つようにと、情報を公開している。「できる」ことを増やす「道具」を通じ、持続可能な社会の実現を目指しているのだという。
困難を解決したアイデアの例
【筋肉が動きにくくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者で、指先に力が入らず、両手でも牛乳などのパックを開けることが難しくなった。飲みたいときに飲みたいものが飲めるように、片手で開けることができる道具があれば、外出先でも飲めるものが増える】
パックを固定する土台と、パックの三角すいの部分にしっかり入る形状の道具をつくり、デコの原理で指を突っ込んで押し開ようにした。紙粘土で形を作成し、3Dスキャナーでデータを取り込んだ。
(「はじめてでも簡単!3Dプリンタで自助具を作ろう」の著書もある林園子さん)
「SDGsをアップデートする取り組み」 慶應義塾大の田中教授
作業療法士で実行委員長の林園子さんは「私たちにとってこのイベントはゴールではなく、『みんなで作る、たのしい社会』への貴重な第一歩」と話す。また、この取り組みを支援する慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也教授は「3Dプリンターなどのデジタル工作機械が身近になり、ものづくりに違う切り口が生まれた。SDGsの目標12『つくる責任つかう責任』でも今回のイベントは大きな意義がある。これまではつくる側、つかう側、と分断されていたが、世界をひとつにして一緒に考えることが大切になってくる。さまざまな立場の人が絆を深めながらアイデアを出し合い、ものづくりをする『2020TOMメイカソンTOKYO』はSDGsのさらに一歩先をいくものと言える。SDGsとは2030年で達成したら終わりというものではなく、ずっと続いていく世界の目標。SDGsをアップデートしていく取り組みとして応援したい」と評価している。
この計画については、クラウドファンディングA-portで支援も呼びかけている。目標金額は200万円。協力者にはイベントの成果発表と表彰式への招待や、3Dプリンターで製作した自助具のプレゼントなどがある。締め切りは2020年2月20日。詳しくはA-portのサイトへ。