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悪臭、不潔……災害時のトイレ問題を解決 避難生活でもより快適に

2021.03.01
小幡淳一
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標6:安全な水とトイレを世界中に
目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標13:気候変動に具体的な対策を

災害時でも衛生的に用が足せる「スケットイレ」

 地震や津波、水害や火山噴火など、人間が自然災害を未然に防ぐことはまず不可能だ。災害が起きれば電気や水道が止まり、日常は一変する。日ごろから、災害に関する知識を身につけ、避難時に気をつける点を学び、周囲の人たちと手を取り合える関係を築くことも必要になっている。食べ物や避難場所の確保、健康や二次災害の恐れ……と、心配は尽きないが、最も不安なのはトイレの問題といわれる。災害時でもストレスなく、清潔に過ごせるように、と開発された非常用トイレ袋「スケットイレ」の開発の裏側には、人々が安心して暮らせるSDGsの目標に通じるヒントがあった。

使い方は簡単、コロナウイルスなど感染症対策にも

 大きな災害が発生した時、多くの人が集まる避難所は時間の経過とともに雑菌が繁殖して悪臭が漂い、必ず不潔になる。家庭でも電気や水道がストップすれば、流せないまま我慢するしかない。幼い子どもやお年寄りがいる家庭はなおさら心配だ。そんな不安を解消してくれるのが「スケットイレ」。これまで、北海道南西沖地震や新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震などの大災害で使われ、自衛隊は気温が高い環境下でも活動しなければならなかったイラク派遣にも持参している。

 

使い方は簡単だ。まず、和式でも洋式でも、黄色の「便器セット袋」を広げる。その上に、水色の「排便収納袋」を開いて便器の縁にかぶせてセット。用を足した後、収納袋の中に「し尿処理剤」をまんべんなく振りかければよい。
 その際、使用したトイレットペーパーも一緒に入れて大丈夫。携帯用ウォシュレットも使用できるので、快適に用を足せる。終わったら、あとは収納袋を取り出し、中の空気を追い出してしっかりと絞るだけ。黄色の便器セット袋があるので、水が張った状態の便器でも問題なく使えるほか、例えば、穴を開けた段ボール箱などでも代用できる。

 空気が乾燥する季節は、ノロウイルスやインフルエンザが流行しやすく、今は新型コロナウイルスの心配もある。スケットイレは嘔吐(おうと)物の処理にも役立ち、感染拡大の防止にも役立つ。大雪で車両が立ち往生するようなケースでも、車内に備えていれば安心だ。

2人家族で5日使える大容量のセット

悪臭の原因となる菌の繁殖を抑制 焼却処分もできる

 し尿処理剤には、悪臭の原因となる一般細菌や大腸菌の繁殖を抑えるほか、アンモニアや硫化水素、メルカプタンなどの成分が発生しにくくなる効果もあり、使用後は3カ月間にわたって効果が持続する。さらに、液状化せずに固まった状態を保つため、内容物の流出の恐れはなく、二次災害を防ぐ仕組みになっている。

 また、袋も薬剤も、燃やしても有害物質が発生しない可燃物でできているため、焼却処分することが可能。例えば、避難所になった学校の校庭で燃やしても自然環境には一切問題はない。一般的な家庭ごみとしても処分できるという。

品質の安定性にも優れ、直射日光が当たらない室温で保管していれば、化学的には10年間は品質が維持できるようになっている。

使用後、悪臭防臭などの効果が3カ月継続する
室内で10年間保存しても劣化しない

「もっと早く来て欲しかった」 被災者から喜びの声

 死者・行方不明者230人を出した1993年7月の北海道南西沖地震。震源に近い奥尻島には発生から数分で津波が襲い、多くの命が奪われた。被害が集中した奥尻島の青苗地区の中学校には、着の身着のまま逃げた住民が身を寄せ合っていた。仮設トイレは多くの人が並び、瞬く間に汚れていった。暗い時間帯には内部の明かりで人影が映し出される。誰もが落ち着いて用が足せる状況ではなかったという。

 そんな避難生活が続く中、防災用品販売会社「船山」(新潟市)が発生から約1週間後に「スケットイレ」を持ち込み、校内のトイレにさっそくセット。これならば、悪臭や不潔を我慢する必要はなく、人の目を気にせずにゆっくり用が足せる。被災者たちは「もっと早く来て欲しかった」と喜んだという。

開発者した丸本柳太さん(現日曹商事常務取締役)は、殺菌剤の研究に携わった経験があり、水分を吸収する木粉と、固まる高分子ポリマーを組み合わせれば、簡易式のトイレができるのではないかと考えた。同僚の研究者たちは自ら試料の提供に協力し、何度も実験を重ねて配合などを決め、ようやく商品化が実現した。災害時はごみの収集が滞るため、焼却処理できる仕様にもこだわった。その後、改良を重ね、コンパクト化が進んで保存しやすくなり、品質保持の期間も延長していった。アイデアそのものはもちろん、品質向上の効果なども認められ、今では防衛省や東京消防庁など官公庁や企業500以上に納入実績があるという。

次々と生産されるし尿処理剤。何度も実験を重ね、量産化に成功
コンパクトなサイズに改良されたスケットイレ

「化学の力が世の中の役に立ち、やりがい感じた」

 「トイレは我慢しちゃだめ」。誰もが子どものころ、家族や先生から一度は言われたことがあるはずだ。そう。行きたいときに行けないのはつらいもの。しかし、大きな災害が起き、水や電気が止まったら? 悪臭がたちこめ、汚いトイレで用を足すのは……。

 丸本さんはスケットイレの開発に尽くした当時を振り返り、「人にとって、食べることも大事だが、トイレの問題も大事。化学の力が世の中の役に立ち、やりがいを感じた」と話す。

船山の秋山政信社長は「自然環境を害さないで焼却できるため、豊かな自然に恵まれたキャンプ場など災害の現場以外でも活用できる」と期待している。また、同社は今後、災害の発生時などで困難な状況に陥りやすい社会的弱者やアレルギーに悩む人などが安心できるような商品の開発にも取り組んでいく考えだという。

丸本柳太さん                       秋山政信社長

「非常用トイレ袋 スケットイレ」は朝日新聞SHOP

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