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徹底してSDGsに向き合う企業と自治体 狙いを探ろう ビジネスも変容

更新日 2023.03.27
橋田正城
目標6:安全な水とトイレを世界中に
目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標15:陸の豊かさも守ろう

SDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択されたのは2015年9月でした。地球温暖化を抑えるために、日本政府は2050年までにカーボンニュートラル達成をめざしています。環境にとどまらず、働く人の権利や幸せを意識し、誰ひとり取り残さない社会をめざすように企業や行政は変わってきました。

(SDGsミライテラスのサイトはこちら

挑戦者の気概 サントリーに根付く社風

「失敗を恐れてやらないこと」を悪とする。「なさざること」を罪と問う社風。

どの企業ことか、ご存じでしょうか?「やってみなはれ」で知られる鳥井信治郎が創業したサントリーです。信治郎が大阪でぶどう酒の製造販売を始めたのは、1899(明治32)年のことでした。ウイスキー事業は1923年(大正12)年から手がけ、日本人にあった洋酒を自らつくりました。挑戦する心を持ち続けた信治郎は「利益三分主義」も掲げました。利益をビジネスへ再投資するだけでなく、「お客様・お取引先へのサービス」や「社会への貢献」にも役立てよう、という発想です。この考えが今も会社に根付いています。

サントリー天然水の森・奥大山。30年契約を結び、森林整備に取り組む(いずれも同社提供)

「ザ・プレミアム・モルツ」などのビールを例に考えましょう。サントリーは良質な天然水の採れる土地でしかビールをつくりません。おいしいビールには、その土地の気候や風土に育まれた天然水が欠かせないと考えるからです。でも、水は無尽蔵ではありません。世界で人口が増え、1人あたりの水使用量も増えています。地下水のくみ上げ過ぎによる水不足も深刻化しています。

「水と生きる」を約束 「天然水の森」も全国に

ミライテラスに出演したサントリーHDの北村暢康さん

「当社の扱う酒類や清涼飲料水は、水がなくては成立しません。水を自然の恵みとして頂く一方で、それらが持続的なものであるように努めなければなりません。サントリーグループが、〈水と生きる〉という言葉を社会への約束事として掲げているのも、そうした考えが根底にあります」。そう語るのは、サントリーホールディングスの北村暢康サステナビリティ推進部長(55)です。

会社の基幹事業として、水を育む森に向き合い、工場では水を大切に使う。次世代には水の大切さを伝えていく――。サントリーは「水のサステナビリティ」に取り組み、2003年からは「天然水の森」という活動を始めました。全国22カ所(約1万2千㌶)の森で植生の回復や再生をはかり、50~100年単位で「森のビジョン」をつくっています。豊かな土壌をつくり、動植物の生態系を守ることが、水資源の涵養(かん・よう)につながると考えているからです。現在は国内工場でくみ上げる地下水量の2倍以上の水を天然水の森で涵養しています。北村さんは「健全な生態系の保全をめざさないと、水資源の持続可能性は達成できないことが20年の活動を通じて分かってきました」と話します。

サントリー水科学研究所の水文調査。水源を守り、育てる活動の一環と位置づけている

近江商人の創業精神を反映 伊藤忠のSDGs

次は、2021~2023年度の中期経営計画でSDGsへの貢献などを基本方針に掲げた伊藤忠商事を紹介します。なぜ、SDGsを経営の前面に打ち出したのでしょう。小林文彦副社長(65)に聞くと、「SDGsは〈三方よし〉という当社の企業理念とイコールだからです」という答えが返ってきました。「三方よし」は、創業者の初代伊藤忠兵衛(1842~1903)の精神性を示すものです。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」をめざし、商売を通じて持続可能な社会を志向する考えです。

脱炭素、環境重視の繊維ビジネス 働き方改革も

回収した繊維製品を使った環境対応型素材RENU(伊藤忠商事提供)

ビジネスに目を向けましょう。日本政府は2050年のカーボンニュートラルをめざしていますが、伊藤忠商事は2040年までに二酸化炭素(CO₂)の削減貢献が温室効果ガスの排出量を上回る計画をつくりました。総合商社で初めて、自社が関わる全ての化石燃料ビジネス(権益も含む)の温室効果ガス排出量を開示したほか、燃料に使われる一般炭事業から撤退。水素やアンモニアといった次世代の燃料を開発しています。ミライテラスでも、繊維製品を回収して環境対応型素材のRENU(レニュー)として販売していることや、コーヒーの品質保証を担保する世界的な枠組みに参画していることを報告しました。

早朝に出勤する伊藤忠商事の社員。午前8時までは軽食が無料で配られる

「働き方改革」もSDGsにつながります。会議を減らし、夜型から朝型勤務に切り替え、社員の労働生産性を高めました。健康経営も欠かせません。がんと仕事の両立支援を掲げ、「国立がん研究センター専門医による即時治療」「がん特化型健診を義務化」「がん先進医療費を負担」……といった施策を講じています。一人ひとりの社員を大切にする経営が評価され、学情の2022年就職総合ランキングでは5年連続の首位になりました。「5年連続首位」は2001年以降初めてで、同業他社を引き離しています。

変容する商社ビジネス SDGsとの関係考えよう

商社の代表的なビジネスに、モノの売り買いで差益を得る「トレードビジネス」があります。小林さんも「私が入った1980年の頃、商社は情報や地域、時間の差を活用して利益をあげるトレーディングカンパニーでした」と語ります。

伊藤忠商事副社長の小林文彦さん

ただ、時代の流れで業務は変容を迫られてきました。「インターネットなどが発達し、情報や地域、時間の格差をもって利益を得ることが難しい時代になりました。当社が企業向けのビジネス(B to B)から、消費者向け(B to C)のビジネスに軸足を移したことをはじめ、いろんな形でビジネスの姿を変えざるをえなかったのです」。トレードビジネスは総体的に成り立たなくなってきましたが、経済安全保障上の観点から、地政学的状況を踏まえたトレードは求められるようになってきました。小林さんは、「世の中にあふれる情報を整理し、正しく、先見性のある情報を集め、新たな事業を育成していく。いまの商社には、その機能が求められています」と語ります。商社ビジネスは新たな時代に入ったといえそうです。


倒れても立ち上がれ 野武士集団、敗者復活の人事」はこちら

長野県最小面積の自治体 小布施町に脚光

行政に目を転じましょう。長野県で面積が最も小さい自治体をご存じでしょうか。県北東部、約1万1千人が暮らす小布施町(おぶせまち)です。その地域が、持続可能性を重視した環境・防災の街づくりで自治体関係者の注目を集めています。なぜでしょう。

「半径2㌔の小さな町で、再エネという観点では特筆すべき資源はありません。ほかの〈環境先進都市〉との最大の違いは、地理的条件がごく平凡なところでしょうか」

横浜市や福島県双葉町の街づくりにも関わる林志洋さん=2022年1月26日、長野県小布施町

そう語るのは、町の総合政策推進専門官、林志洋(はやし・しょう)さん(32)です。町の環境政策(グランドデザイン)の制定に携わった1人で、2020年6月に町に移住したイノベーション政策の専門家です。起業家でもあり、世界経済フォーラム(通称ダボス会議)のGlobal Shapersに選出されたこともあります。

「オープンガーデン」の発想で、通り抜け自由の文化が根付く小布施町=2023年1月26日

「極論すれば、脱炭素をめざしてやるべきことは、どの地域も一緒です。どこまで徹底してやるかが問われています。コンパクトな小布施は地域コミュニティーが健在で、物事を全町民がやり抜く〈機動力〉があります」。地方の小規模自治体で脱炭素が実現すれば、地域のモデルケースになります。それゆえ小布施町が注目を集めているのです。

堆肥化の実証実験も始め、ごみを出さない町をめざしている=2022年1月26日

温室効果ガスを出さず、ごみも出さない町へ

町は昨年、温室効果ガスを出さない▽ごみを出さない▽災害に備える▽観光客も持続可能性を体感できる、という環境政策の方向性を打ち出しました。林さんらは温室効果ガスが町のどこから、どの程度出されているのかを調べ、施策と目標を考えました。ごみの燃焼による排出量が一定量あることが分かると、家庭ごみを徹底的に調べ、「ごみ発生を抑えつつ、それでも出てしまうものは資源として最大限循環する」という方針を出しました。

林さんには、環境政策をつくる際に意識したことがありました。「みんなで取り組む」「景観も大切にする」「データで可視化する」「健全な財政に貢献する」という点です。地域の持続可能性を担保し、次世代につなげる発想が欠かせない、といえそうです。

writer:橋田正城

朝日新聞マーケティング戦略本部

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