世界や地域で困っている人を助け、持続可能な社会をつくりたい。そんな思いで社会貢献活動に取り組む人たちがいます。「自分にできることは何だろう」ということを考えながら、これから紹介する方々の取り組みをご覧ください。将来のあなたのためにも。
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衝撃受けたロヒンギャ難民キャンプ 女性が過半


「住んでいる場所が違うだけで、私たちと生活環境がこれほど違うとは・・・」。ファーストリテイリングサステナビリティ部(ビジネス・社会課題解決連動チームリーダー)の伊藤貴子さんは昨夏、バングラデシュの難民キャンプで衝撃を受けました。外資系企業を経て、カジュアル衣料「ユニクロ」「GU」を手がけるファーストリテイリングに2014年に入社した伊藤さん。難民キャンプを訪れたのは初めてでした。キャンプには、隣国ミャンマーの軍事政権から逃れた少数派のイスラム教徒ロヒンギャが100万人近く暮らします。女性が過半を占めます。


「ごみが散乱したキャンプを難民は裸足で歩き、服はぼろぼろでした。夜は性暴力の危険性もあると聞きました。でも、子どもは笑顔で走り回り、肩を組んで遊んでいました。子どもの可能性を広げるためにも、難民の生活環境を整える必要性があると感じました」
難民の自立支援を 縫製技術の訓練始まる

ファーストリテイリングは昨夏から、ロヒンギャ難民の自立に向けて縫製技術を教えています。今年度は女性250人に教え、累計で77万点の生理用ナプキン(布製)などをつくります。3年間で計1千人に教え、参加者には有償ボランティアとして報酬が支払われます。伊藤さんは訓練の様子を見学した際も驚いたといいます。「みなさん、学ぶことに飢えていました。私語は一切なく、極めて真摯(しんし)に作業に向き合っていました」
衣料5050万点寄贈 ユニクロで難民雇用
ファーストリテイリングはこの事業に1億1千万円を拠出し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を支援します。2000年以降、使い終えた衣料品を集め、80の国や地域の難民に累計5050万点を寄贈。世界中のユニクロ店舗などで計124人の難民も雇用しています。日本ではファーストリテイリング財団が日本在住の難民の小中学生への学習支援を続けています。(https://miraimedia.asahi.com/nanmin_01/)
柳井氏「全13万人の従業員で難民支援」

ファーストリテイリングはなぜ、こうした活動に取り組むのでしょうか。そこには柳井正・会長兼社長の思いが深く関わっています。柳井さんは「我々は世界中でビジネスをしている。でも、各地にはその日の暮らしに困っている難民が数多くいます。その人たちを助けないと、グローバルでビジネスをしている意味がありません」「難民は学習意欲も就労意欲もあります。けれども、その機会がないのです。だから13万人の従業員全員で支援していきます」と語っています。世の中が平和でないと、安定したビジネスを展開することも難しくなる、ということです。
東証「企業統治の指針」 サステナ後押し
こうした動きは東京証券取引所も後押ししています。東証は2015年6月から、株主との対話や経営の透明性確保を求めた企業統治の指針「コーポレート・ガバナンスコード」の適用を始めました。2021年6月版では、上場企業の取り組むべき原則にも言及し、「社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである」としています。これらは経営リスクを減少させるだけでなく、中長期的に企業価値を高めることにつながるからです。

次世代育成、環境保全、地域貢献が柱 伊藤忠
伊藤忠商事は社会貢献に際して、次世代育成、環境保全、地域貢献という点を基本方針に掲げ、サイトで活動を報告しています。サステナビリティ推進部部長代行の中村賢司さんは「気候変動への対応や女性活躍の推進、人権に配慮した調達など、SDGsへの貢献が問われる時代です」と述べています。

一例を紹介します。創業者伊藤忠兵衛の故郷、滋賀県との関わりでは2021年度から滋賀県立図書館(大津市)に外国語絵本を寄贈しています。滋賀県(約140万人)には約3万2千人の外国人が暮らしています。ざっと県民40人に1人が外国人です。ブラジル、ベトナム、中国の3カ国が6割を占め、製造業で働く人や、サービス業に従事する人が多いです。その一方、図書館には外国人の需要に応えていない悩みがありました。外国の絵本は国内で入手が難しく、多様な言語を集めるのが難しかったからです。

入手困難な外国語の絵本 在日外国人の子へ
そこで伊藤忠商事は、海外拠点を通じて古典作品や人気の絵本を集め、2021年度と2022年度に計1075冊を贈りました。2022年度はベトナム語、ポルトガル語、インドネシア語、アラビア語など29の言語の絵本です。「日本の子どもも外国の文字で書かれた絵本を手に取り、きれいな絵に見入っています」と担当者。館長の村田恵美さんは「外国の児童書は英独仏の言語を中心に若干しかありませんでした。でも、希望が多いのはポルトガル語やスペイン語、東南アジア系の絵本。その需要に応えてもらっています」。年明けから国会図書館のネットワークにつながり、最寄りの図書館で司書に頼めば、滋賀県立図書館から外国語の絵本を取り寄せられます。それ以外でも、琵琶湖の生物多様性の保全事業に県立琵琶湖博物館と取り組みます。
「国境なき医師団」 世界72カ国・地域で支援

次は、1971年にフランスで設立された非営利の医療・人道援助団体「国境なき医師団」を紹介します。独立性、中立性、公平性を活動の原則に掲げ、被災者や貧困に苦しむ人々を援助しています。世界72の国と地域で医療援助活動を展開し、約3700人の海外派遣スタッフが紛争地などに赴いています。そのうち、経理・予算管理・人事などを担う「アドミニストレーター」、物資調達・援助のインフラ整備や安全管理などを担う「ロジスティシャン」、援助プロジェクトの責任者として運営管理を担う「プロジェクト・コーディネーター」といった非医療職のスタッフが51%を占めます。
非医療職に生きがい 財務コーディネーター
「あなたが腕利きの医師だったとしましょう。アフリカの砂漠にある難民キャンプで治療することになったら、何が必要ですか?」
そう問いかけるのは、非医療職で活動してきた森川光世さんです。「問い」の答えは多岐にわたります。看護師や警護スタッフ、運転手をそろえる必要があります。医療機器や物資を集め、保管する場所も用意しなければなりません。電気や水、通信機器も欠かせません。お金のやりくりも考えなければなりません。「それらの実務を担うのが、非医療職のスタッフです」と森川さんは話します。

自身は2009年以降、スーダン、ナイジェリア、イエメン、エチオピア、シエラレオネで「財務コーディネーター」として働きました。予算を組み、お金が適切に使われていることを確かめ、会計処理をしてきました。患者がいる現場にも出向きました。「人間のエゴはなくならず、いつも醜い争いが起きています。その一方で、苦しい立場の人が互いを支え合う姿を見てきました。人間の持つ二面性を考えさせられる仕事だと思います」。
エチオピア 女児の姿に心を打たれる
10年ほど前、エチオピア南部、リベン地域の難民キャンプで働いた時のエピソードを語ってもらいました。ソマリアで爆撃を受け、両親やきょうだいを亡くし、祖母と2人でキャンプ生活を送っていた女児がいました。年の頃は4、5歳。顔半分は被弾した影響で焼けただれた跡が残っており、片目は失明していました。


「その子は出会った瞬間、『一緒に遊ぼう』と言うように私の手をとりました。明るく無邪気に外国人の私を受け入れたのです」
女児はまだ、自分の置かれた状況を理解できていなかったのかもしれません。それでも、屈託のない笑顔をみせた子に森川さんは心を打たれました。「彼女の温かい心と明るい声は、私たちが現場にいる意義を感じさせてくれました」。

森川さんはかつて、文教大学付属中高(東京・品川区)の英語教師でした。英語の教材を通じてHIVや途上国の内戦といった国際的な課題に関心を持ち、仏留学を経て国境なき医師団の日本事務局に入りました。日本で数年間の内勤を経て、海外派遣スタッフとして途上国の医療現場へ。その後、米国公認会計士の資格を取得し、今は大手監査法人で働いています。昨年は有給休暇を取得してロシア軍の侵攻が続くウクライナで5週間、医療援助活動を下支えしました。多くの人に活動を知ってもらいたい、とミライテラスに出演します。

森川さん「やりたいことがあるなら、挑戦を」
いま、教壇に立つことがあれば、進路に悩む生徒にはどんな言葉をかけますか? 森川さんに尋ねると、こんな言葉が返ってきました。
「やりたいと思うことがあるなら、やりましょう。物事を始めるのに遅いことはありません。そのことは、私が身をもって経験しています」
いかがでしょうか。国際社会と地域社会のために。あなたができることを考えてみませんか。