フェムテック(Femtech)という言葉が近年、知られるようになってきました。女性(female)と技術(technology)を組み合わせた造語です。女性の健康や体をめぐる課題を最新の技術で解決しよう、という動きです。どんなものがあるのでしょうか。留意すべき点はないのでしょうか。
(SDGsミライテラスのサイトはこちら)
生理痛に悩み 起業したフェルマータ中村さん

「海外の大学に通っていたころ、重い生理痛で悩んでいましたが、低用量ピルを飲んでから人生が180度変わりました」と打ち明けるのは、フェムテック商品を扱うフェルマータの中村寛子CCO(最高コミュニケーション責任者)です。社会人になって帰国したものの、日本では低用量ピルを処方してもらうために仕事を抜け出して病院を訪れる必要があり、不便を強いられました。「オンラインで低用量ピルを処方し、デリバリーするサービスができれば良いのに・・・」。

フェムテックの市場をつくり、新しい選択肢を
そう考えていたころ、友人の杉本亜美奈さんと出会い、2019年10月に一緒に会社をつくりました。当時、海外では多数のフェムテック企業がビジネスを展開していましたが、ほとんどが日本の消費者に届いていませんでした。「日本の社会にはフェムテックの『フェ』の字もありませんでした」と中村さん。言語の壁や規制の問題もあったでしょう。「タブーとされる傾向にあった生物学的な女性の健康課題に挑む市場を日本とアジアにつくり、新しい選択肢を提供しようと思いました」。

体と向き合い 悩みを口に出せる社会に
自信を与えてくれたのが、消費者でした。創業前の2019年9月に展示会「フェムテックフェス」を開くと、想定を上回る100人ほどが参加しました。大半は知り合いではない人たちでした。「来場者の熱量を感じ、新しい市場をつくることの自信につながりました」。フェルマータの扱う商品は多岐にわたります。生理中に履くだけで使える吸水ショーツや、出産後の骨盤底筋のゆるみを改善する製品、ブラジャー型の搾乳サポートデバイス機といった女性向けの製品だけでなく、男性向けには精子の濃度と運動率が計測できるキットもあります。世界では2025年までに約5兆円の市場規模に膨らむ、との予想もあります。


「フェムテックという市場ができたことで、月経や更年期などタブー視されてきたことへの見方が変わってきました」。ただ、今の需要は氷山の一角に過ぎない、と中村さんはみます。「例えば、生理は痛くて当たり前、という概念がまだ刷り込まれています。それぞれの人が自分の体と向き合い、悩みを口にできる社会になれば、と思います」。
気軽に相談、夜間対応も「産婦人科オンライン」
医師もフェムテックを活用する時代です。産婦人科医の重見大介さんは「産婦人科オンライン」を2018年から運営しています。妊娠や出産、月経、性感染症などに関する悩みを医師や助産師に相談できるサービスです。「遠隔医療健康相談」と位置づけられ、診療はしません。産婦人科医は約50人、助産師は約40人が登録し、24時間365日、専用フォームからメッセージでの相談を受けます。それとは別に、リアルタイムに医師・助産師と音声・動画通話やチャットができる相談窓口も設けています。

利用は1カ月に数千件 福利厚生に使う企業も
重見さんは「産婦人科を受診する前の段階で、悩みや不安を抱えている人が多いと思います。そうした人が直接、医療者とつながるオンラインの相談プラットホームをつくりたかった」と言います。利用は1カ月に数千件で、海外からの利用者もいます。三井住友海上火災保険、小田急電鉄、リクルートや富山県など100を超える企業・団体・自治体が福利厚生や住民サービスなどの一環として契約しています。

その一方で、重見さんは医師として、一部のフェムテック製品には懸念を感じています。「医学的な根拠もなく、《健康に良い》《妊娠しやすくなる》といった趣旨のことをうたっているサプリメントなどを目にします。医療・健康に直結する商品なのか、そうでないのかを切り分けて考える必要があるのではないでしょうか」。
フェムテックの課題 技術と社会の関係性は?
自治医科大学の渡部麻衣子講師(科学技術社会論、社会学博士)は、対話を通じて科学技術と社会の関係性を良くしたい、と考える研究者です。普段は医学生に倫理学を教え、フェムテックの法的、倫理的、社会的な課題も研究してきました。「フェムテックは《何が女性の身体なのか》《どういった身体を持つ人が使える技術なのか》ということを定義づけることがあります」と指摘します。

「でも、女性の身体は技術が使える以上に多様なものです。例えば膣のない人も女性で有り得る、ということをフェムテックは否定する可能性も持ち合わせています。そこにジレンマが生じると思います」。これは、性別に関する言葉を使った技術である以上、常についてまわる課題であり、フェムテックを提供する側は、この点を自覚して配慮する必要がある――。渡部さんはそう語ります。フェムテックを使う側、提供する側には何が必要とされるのか、考察を深めてみてはいかがでしょうか。