2030SDGsで変える
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ごみを資源に リサイクル日本一、鹿児島大崎町 秋田の新興企業、廃菌床をカブトムシのエサに

更新日 2022.10.22
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標12:つくる責任 つかう責任

毎日の暮らしで向き合うのが「ごみ」です。いつ、どこで、どのようにごみを出すかだけでなく、どのように処理するのかも問われます。SDGs(持続可能な開発目標)を考え、どうすればごみの排出量が減り、再利用できるのかという視点も大切でしょう。国内外の最新の取り組みをお伝えします。

(SDGsミライテラスのサイトはこちら

「リサイクル率日本一」14回 鹿児島・大崎町

鹿児島県大隅半島に大崎町(おおさきちょう)という自治体があります。中日を引退した福留孝介さん、広島の松山竜平選手、元阪神・元西武で投手として活躍した榎田大樹さん、西武の赤田将吾コーチを輩出した地域です。町内に高校がないこともあり、4人は町外の高校に進みました。野球談義はさておき、大崎町は風光明媚(ふうこうめいび)な日南海岸国定公園に含まれ、志布志湾に面しています。人口は1万2千人余り。「リサイクル率日本一」を14回達成し、焼却炉に頼らない低コストな廃棄物処理システムで知られていると聞き、現地を訪ねました。

大崎町がリサイクルシステムを始める契機になった埋め立て処分場=鹿児島県志布志市

埋め立て処分場 「延命化」を決断

行ったのは、埋め立て処分場「曽於(そお)南部厚生事務組合清掃センター」です。山間部の急傾斜地を使った施設で、家庭から出た布団や毛布、クッション、紙おむつなどが山積みされていました。広域で廃棄物を処理しており、埋め立て処分場の所在地は隣の志布志市で、大崎町も共同利用しています。

埋め立て処分場。毛布やクッション、紙おむつなどが目立つ=鹿児島県志布志市

「ここは町がリサイクルを考えるきっかけになった場所です」。町環境対策係長の竹原静史さん(46)の話しに耳を傾けました。「かつては資源ごみ、生ごみを同じ黒いポリ袋にいれ、全てここで埋め立て処分していました」。町には焼却施設がありません。しかし、1990年代までにごみが増え、処分場が数年で満杯になる恐れがでてきました。

プラスチックごみを分別する様子=鹿児島県大崎町
圧縮された空き缶。リサイクルにまわし、資源として活用される(大崎町提供)

焼却炉をつくれば用地取得や建設、維持にお金がかかります。埋め立て処分場を新設しても悪臭を敬遠する住民は反対するでしょう。そこで、処分場の「延命化」を決めました。約450回の説明会を開催。1998年に3分別(缶、ビン、ペットボトル)から始めました。委託業者である「そおリサイクルセンター」が収集やリサイクルを担い、町はシステム整備や分別品目の決定、ごみ出し日時と収集ルート選定などを担務としました。

ごみを分別する大崎町の住民(同町提供)

生ごみ・草木ごみを堆肥に インドネシアでも

今は27品目で分別回収しています。町内の家庭ごみは計6割が生ごみと草木です。そこに注目し、双方を混ぜて発酵させ、全量を堆肥(たいひ)にして農地に戻すことを2002年に始めました。「生ごみは分別すると資源です。目的はリサイクルすることではなく、埋め立て処分場の延命化です」と竹原さん。堆肥の一部は菜の花畑で使われ、菜種油を採取します。食用廃油はごみ収集車の燃料にも使われます。こうした循環システムはインドネシア各地で実証し、展開が予定されています。

草木ごみを砕き、生ごみなどと混ぜて発酵させる工場=鹿児島県大崎町

1人あたりのごみ処理費 全国平均の6割

大崎町は草木ごみが多く、ごみ排出量に大きな経年変化はみられません。しかし、リサイクル率は83%超で、1人あたりのごみ処理経費(年間約9400円)は全国平均(約1万6400円)の約3分の2になりました。年間約9千万円の節約になり、その分、福祉や教育にお金が使われています。処分場はあと40年程度持ちこたえそうです。その一方で、解決の難しい課題もあります。高齢化率が40%を超えて高齢者が増加。基幹産業である農業で外国人の技能実習生に頼る事例が増えてきました。こうした人々は、身体的な問題や生活習慣の違いなどから「ごみ出し困難者」となることがあり、これまでのボランティア活動だけではごみ処理の対応が難しくなっています。

昆虫の力でごみを資源に 秋田のTOMUSHI

TOMUSHIの石田健佑さん。手にしているのはヘラクレスオオカブトの成虫

次は、昆虫の力でごみを資源化し、食糧不足の解消をめざす秋田発の企業を紹介しましょう。 「2030年には人口が100億人を超え、たんぱく質の供給が足りなくなります」。そう語るのはベンチャー企業、TOMUSHI(トムシ)=秋田県大館市=の石田健佑さん(25)です。会社ではCOO(最高執行責任者)という立場です。キノコやシイタケの収穫後にでる廃菌床(はいきんしょう)の処理に悩んでいる農家が多いことを知った石田さん。廃菌床は産業廃棄物として扱われ、農家にとっては処理費がかさみます。山林に不法投棄されることも間々あります。

積み上げられた廃菌床。発酵させ、ヘラクレスオオカブトの幼虫のエサにする

廃菌床を発酵 ヘラクレスオオカブト幼虫のエサ

石田さんらは、廃菌床を発酵させて世界最大のカブトムシ「ヘラクレスオオカブト」などの幼虫のエサとすることを思いつきました。畜産の糞尿(ふんにょう)や食品廃棄物も同じように活用し、協力農家は全国6件に増えました。

発酵した廃菌床。さらさらの「黒土」という表現がぴったりだ

幼虫は昆虫食やプロテインなどに使い、成虫はカブトムシの愛好家に販売します。ヘラクレスオオカブトだけで年間6万匹を生産し、企業価値はざっと10億円と見込まれます。JAグループと提携したほか、鉄道会社や大手コンビニからも協業の話が持ち込まれています。

世界の都市ごみ 2050年までに70%増

ここで、グローバルな状況に目を向けましょう。世界銀行によると、全世界で出される都市ごみは年間20.1億㌧(推定)で、緊急の対策が施されないと2050年までに34億㌧に達する見込みです。都市化が進み、人口と使い捨て商品が増えているためです。

2050年までにサハラ砂漠以南・アフリカ地域での廃棄物の発生量は現在の3倍超に増えるとの見通しも発表されました。世銀のローラ・タック副総裁は「気候変動と廃棄物の管理ミスが健康と環境に悪影響を及ぼしています。悪影響を受けるのは、しばしば最も貧しい人々です。資源は埋め立て処分せず、再利用する必要があります」としています。

ドバイの巨大ごみ山 衝撃受けた伊藤忠駐在員

途上国で暮らし、都市ごみの現実に向き合っている人が伊藤忠商事にもいます。機械カンパニーの田中雄さん(39)は2018年から、アラブ首長国連邦のドバイ首長国に駐在しています。ドバイ国際空港のほど近くにはドバイ政府の管理している「ごみ山」があり、田中さんは何度も現地を訪れました。基本的に分別せずに捨てられたごみを積み上げた山です。無数の鳥がごみをついばむ光景が広がっていました。

ドバイ国際空港近くの「ごみ山」。田中さんは悪臭に衝撃を受けたという(本人提供、以下同)

「大きな山で圧倒されました。プラスチック、紙、生ごみ……。ごみは踏み固められていますが、山に登ると鼻が曲がりそうな悪臭でした。このままではいけない、という思いが強くなりました」

官民連携 世界最大級のごみ処理発電施設

かつて、ドバイには「ごみ山」が郊外にありました。しかし、オイルマネーで潤って都市開発が進み、宅地化の波が押し寄せました。その結果、今は住宅地から遠くない地域に「ごみ山」が点在しています。

建設現場の田中さん。ドバイに着任して4年になる

途上国のごみ問題 課題山積 まずは一歩から

田中さんはここで、世界最大級のごみ処理発電施設の建設に携わっています。官民連携事業で、総事業費は1200億円程度。完成すればごみの処理能力は1日5666㌧に達し、発電容量は約20万㌔ワット。化石燃料に頼らない電力を13万5千世帯に供給できます。ドバイに暮らす人(約333万人)から出るごみの45%を処理することになります。ドバイで初めてとなるごみ処理発電施設で、2024年に稼働する予定です。

建設中のごみ処理発電施設。2024年に稼働する予定

「焼却施設ができると、ごみがいまの5分の1に減容され、埋め立て地の延命化がはかれます」。ただ、これでドバイのごみ問題が解決するわけではない、と田中さんは言います。「現実を改善する一歩目の事業だと思っています。ドバイの残り55%のごみをどう処理するのでしょうか。分別の意識が低い現実もあります。改善の余地は相当あります」。リサイクルなど、別の分野でも貢献できることはあるはずだ――。田中さんは、そんな思いを強くしています。

    ◇

次回ミライテラスは11/17「フードロスの先へ」

賞味期限切れの商品が割安な値段で店先に並ぶスーパー=東京都大田区

「SDGsミライテラス」は今後も月に1度、ゲストを招きSDGsの展開について多角的に考察します。次回は11月17日(木)18時から、テーマは「フードロスの先へ」です。ロシアのウクライナ侵攻によって顕在化した食料の抱える課題。食べられずに捨てられる食品がなくならない一方で、世界では栄養不足や飢餓に直面している人が多数います。私たちは食とどう向き合うべきでしょうか。

見逃し視聴でSDGsをじっくり学ぼう

フードロスを考える授業で話すオイシックス・ラ・大地の東海林園子執行役員(同社提供)
日本女子大の小林富雄教授(本人提供)

フードロス研究の第一人者、日本女子大の小林富雄教授が出演します。オイシックス・ラ・大地からは東海林(とうかいりん)園子執行役員が登壇し、食品廃棄率0.2%を達成している理由と今後の課題を話します。伊藤忠商事はデータシステムを使って食品開発につなげる新たな取り組みを紹介します。参加無料です。ミライテラスの特設サイトからの申し込みが必要です。お申し込み頂いた方は1週間、見逃し視聴できます。

writer:橋田正城

朝日新聞マーケティング戦略本部

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