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世界2位の環境汚染産業 ファッション業界の地殻変動 繊維製品の回収も拡充へ 

更新日 2022.05.30
マーケティング戦略本部・橋田正城
目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに
目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
目標12:つくる責任 つかう責任

季節を意識し、新しい装いに身をまとった時、気分が高まります。昨今は手頃な値段の「ファストファッション」が流行し、私たち消費者の選択肢も増えています。その一方、アパレル業界が地球環境に与える負荷の大きさが課題とされています。大量に消費し、使い捨てるファッションのあり方を問い直す動きが目立ってきました。

(SDGsミライテラスのサイトでもご覧頂けます)

廃棄衣類が積み上げられたハイチの光景(ユナイテッドピープル提供。映画『ザ・トゥルー・コスト』より)

多くの製造工程が必要な衣料品、環境に負荷

「世界2位の環境汚染産業」。アパレル業界は、国連貿易開発会議(UNCTAD)にそう指摘されています。衣服をつくって売るには、素材や原料の生産、紡績、染色、裁断、縫製、輸送、販売といった幾つもの工程が必要で、廃棄も含めて環境にダメージを与えることが多々発生しているためです。

綿花をつくるには農薬、化学肥料、水が大量に必要ですし、合成繊維は石油からつくられます。紡績や染色には化学薬品が使われ、きちんと処理しないと水質や土壌の汚染につながります。原料や製品の輸送に際しては、温暖化につながる二酸化炭素(CO₂)が排出されます。

インドの農園で綿花に農薬を散布する労働者(ユナイテッドピープル提供。映画『ザ・トゥルー・コスト』より)

衣類生産に大量の水、多いCO₂排出量

日本総合研究所によると、国内で供給される衣類から出るCO₂は推計9500万㌧で、水は約83億立方㍍が消費されています。服を1着つくるのに、CO₂排出量は25.5㌔(500㎖のペットボトル約255本)、水は2368㍑(浴槽約11杯)が必要となる計算です。こうした現実をふまえ、フランスでは今年1月、売れ残りの新しい衣料品の廃棄を禁止する法律「衣服廃棄禁止令」が施行されました。違反した場合は最大15,000ユーロ(約204万円)の罰金が課せられます。

持続可能な取り組みを アパレルの施策相次ぐ

日本では、メーカー各社のサステナブルな施策が相次いでいます。オンワード樫山は2009年から自社製品の衣料品を引き取って再利用(リユース)、リサイクルしています。2021年度までに累計115万人の顧客から約605万点を回収しました。引き取った衣料品のうち、リサイクルしているのが8割、リユースが2割です。

リサイクル毛布を寄贈された海外の子供(オンワードホールディングス提供)

2015年からはグループ企業「インティメイツ」が不要となったブラジャーの回収を始めました。集めたブラジャーは固形燃料に加工され、代替燃料として使われます。「ブラジャーをポリ袋で捨てる際、外から見えるかもしれない、と気にする女性が多い。自社ブランドに限らず回収しているので、廃棄に悩む女性の課題を解決できれば」と広報担当者は話します。

廃棄パイナップルの葉に注目 繊維抽出で衣類に

4月、都内で開かれた日本最大のファッション展示会「第9回ファッションワールド東京」でも、サステナブルな取り組み事例が幾つも紹介されていました。沖縄県の「フードリボン」という会社は、パイナップル栽培の過程で捨てられる「葉っぱ」に注目しました。葉から繊維を抽出し、糸を紡いで生地をつくったシャツ、デニムを展示していました。宇田悦子社長は「価値がないとされていた葉を購入することで、農家の所得向上につなげたい」。マスクやバッグ、ポーチにもパイナップルの葉を使っているそうです。

パイナップルの葉に注目した宇田さん。後方のシャツとデニムはパイナップルの葉から抽出した糸を使って製造した(東京都江東区の東京ビッグサイト)

繊維製品を回収、循環型ビジネスを軌道に

アパレル業界の環境負荷を減らすには、「捨てないこと」「捨てられるものを減らすこと」も解法の一つです。


伊藤忠商事は環境ベンチャーの「ecommit(エコミット)」と協業し、今春から繊維製品の回収サービス「Wear to Fashion(ウェア・トゥ・ファッション)」を始めました。1858年創業の伊藤忠にとって繊維は祖業で、岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)も繊維部門の出身。1987年にアルマーニの独占輸入販売権を獲得するなど、商社のブランドビジネスを築いた経営者です。

新たなサービスは、日本国内で2019年から伊藤忠が環境対応型素材(レニュー)を販売していたものを、繊維製品の回収にまで取り組みの範囲を広げるものです。アパレルショップや大型商業モール、自治体などで回収した使用済み衣類、繊維廃棄物をエコミットが選別し、リユースやリサイクルに回します。

リユースはエコミット、リサイクルは伊藤忠の担務です。一次加工した後に中国のリサイクル工場に出し、「ケミカルリサイクルポリエステル」の糸を生産します。その糸から衣類や雑貨をつくって、世界市場で循環型の販路を展開する狙いです。回収品は吸音材や断熱材にアップサイクルされたり、固形燃料になったりすることもあります。初年度は600㌧の回収をめざし、2024年には6千㌧に増やす方針です。

エコミットの川野輝之CEO(最高経営責任者)は「衣料品は海外でつくられ、日本で消費され、その後は焼却や埋め立て処分される。ファッション産業に循環の仕組みがないことに課題を感じてきた」と言います。「どの店から、いつ、誰が、どんな廃棄衣料をどれくらい出したのかを追跡できるトレーサビリティシステムがある。それを使ってCO₂削減にどの程度寄与したのかを分かるようにしたい」。

資源循環型のサービスによって、環境への負荷がどの程度減るのか。そこを「見える化」することで期待されているのは、消費者の意識かもしれません。

writer:橋田正城

朝日新聞マーケティング戦略本部

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