プラスチックは海に流れ込むと漂流して砕け、5㍉以下のマイクロプラスチックになります。無数のごみとなって波打ち際に漂着している地域も少なくありません。4月にオンライン企画「SDGsミライテラス」でお伝えしたように、長崎県対馬市もそうした自治体の一つです。大学の講義で対馬の実情を知った立教大学の学生らが11月、池袋キャンパスの学園祭で映像技術などを使った企画展を催し、計150人近い人が訪れました。立教大生が対馬の海をテーマにつくった動画もご覧下さい。
(SDGsミライテラスのサイトはこちら)
講義で知った汚染 微細なプラごみに言葉失う

「SDGsを身近に考え、多くの人と海洋ごみを知るところから始めようと考えました」。このように企画展の趣旨を語るのは、立教大現代心理学部映像身体学科3年の宝達凜(ほうだつ・りん)さんです。内陸部の埼玉県春日部市で生まれ育った宝達さんは今年、法学部・河村賢治教授(会社法)の講義「SDGs×AI×経済×法」を受講し、対馬の海岸に押し寄せるプラスチックごみの存在を知りました。美しい海岸を汚す微細なマイクロプラスチックに言葉を失ったといいます。


ミライテラス出演の市職員 大学で熱弁
教室で説明したのは、ミライテラスに出演した市職員の前田剛さんでした。釣りが趣味の前田さんは地元の海を愛する一方で、海洋ごみに心を痛めてきました。

対馬は日本で最も海洋ごみが漂着する地域と言われ、年に2万~3万立方㍍のごみが漂着します。地形が「海洋ごみの防波堤」になっているのも一因です。対馬海流と北西の季節風で、海洋ごみが漂着しやすい地域です。漁具、ポリタンク、ペットボトル、ブイ、流木、洗剤容器……。多くのプラスチックごみが海岸に流れ着き、景観も汚しています。前田さんは海岸で撮った写真を示し、利便性の裏にある「環境汚染」に目を向けて欲しい、と呼びかけました。

学生有志が企画 「環境問題を身近に感じて」
そこに、映像を使って表現することを学んでいる宝達さんらが反応しました。「環境問題を身近に感じ、自分のこととして捉えてもらいたい」。学生の有志8人が集まり、学園祭で「海と、あなたと、それから、、、」という企画展を開くことにしました。

前田さんは協力を引き受け、現地から海洋プラスチックごみを大学に送り、学生が写真とともに教室に展示しました。企画展ではプロジェクションマッピング(※使用された動画)を披露し、対馬に漂着したガラス片(シーグラス)を使ったキャンドル作りをワークショップとして行いました。参加した高校2年生の女子は「マイクロプラスチックのごみが環境に与える影響を真剣に考えたことがありませんでした。一人ひとりが考えなくては」と話していました。


企画展のきっかけとなった講義は池袋キャンパスで対面で行われ、他大学も含めて約300人が受講しました。SDGsについては、①現状を理解する②ゴールを達成するための取り組みを学ぶ③自分に何ができるのかを考え、行動する力を育む、という3点が目標に据えられました。担当した河村教授は「映像を専攻する学生が、自らの学びとSDGsを結びつけた事例だと受け止めています。ゲストスピーカーを毎回招き、私自身の学びの場でもありました」と振り返ります。

学園祭が終わり、秋の深まりとともに大学3年生は就職活動の準備にせわしなくなってきました。「映像や身体を使った表現力を磨きたい。社会で起きていることを多くの人に伝え、考えたい」と将来の目標を語る宝達さんは来年、海外留学を検討しています。見聞を広め、より豊かな表現方法を身につけるためです。今回の企画を省みて、「将来につながる挑戦になりました」と話します。
「来場して下さった方々から『映像や展示、ワークショップを通して環境問題や対馬に対する考えが変わった』『自分ごととして環境問題を捉えることができた』という感想を聞きました。環境問題を知ってもらう機会になったのではないかと思います」。
海洋ごみをクリスマスツリーのオーナメントに


一方、対馬市役所の前田さんも、海洋ごみの存在を知ってもらおうと精力的です。博多大丸(福岡市)では12日から対馬の海に漂着した海洋ごみをアップサイクルしてオーナメントにしたクリスマスツリーが点灯しています。前田さんは「それぞれが、それぞれの場所でできる行動を広げることがプラごみ問題の解決につながると信じています。取り組みの成果を『対馬モデル』としてまとめ、2025年の大阪・関西万博で発信したい」と話しています。