軽くて丈夫。加工しやすくて腐りにくい素材といえば、プラスチックを思い浮かべる人が多いでしょう。石油由来の化学製品で1950年代から流通し、世界で年約3億7千万㌧が生産されています。その一方、海に流入すると長期間漂流し、様々な環境問題を引き起こします。しかし、それに対処しようと、「海洋ごみ」を資源として再び製品化するビジネスが始まっています。
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マイクロプラスチック 生態系や景観にダメージ
漁具、ポリタンク、ペットボトル、ブイ、流木、洗剤容器……。長崎県対馬市には年2万~3万立方㍍のごみが漂着します。発泡スチロールを含むプラスチック類が約3分の2を占めます。

海岸には粉々に砕けた5㍉未満の「マイクロプラスチック」が目立ち、発泡スチロールは粉雪のようです。マイクロプラスチックは、海鳥や魚がエサと勘違いして食べるので生態系に悪影響を及ぼすほか、プラスチックが絡まるケースもあります。海辺の景観にもダメージを与えます。


対馬は「海洋ごみの防波堤」 海岸線も影響
対馬市は、日本で最も海洋ごみが漂着する地域とされています。地形が「海洋ごみの防波堤」になっているからでしょう。日本海の入り口に位置し、形状は南北に長く、入り組んだ海岸線の延長は915㌔です。対馬海流と北西の季節風で、海洋ごみが漂着しやすい状況になっています。

市環境政策課課長補佐の安藤智教さんは「20年くらい前から、海洋ごみが目立ってきました。(ごみを)拾っては押し寄せ、拾っては押し寄せ、の繰り返しです」。回収や処分などにかかるお金は年に約2億8千万円。負担割合は国が9割、市が1割ですが、「金額は重たいです」。他方で、海洋ごみはSDGsに直結するテーマだけに、学校では海洋ごみを扱った環境教育が盛んに行われています。

海岸でポリタンク回収、メーカーと再資源化
その地域で、伊藤忠商事は2019年から海岸に漂着したプラスチックごみの再資源化に取り組んでいます。ディストリビューター(卸売業者)として世界2位、年329万㌧のプラスチックを扱っている総合商社です。この年に出資した米環境ベンチャー「テラサイクル」と、対馬発の「再製品化ビジネス」に乗り出しています。

まず、現地でポリタンクを回収し、不純物を取り除いて選別し、破砕します。リサイクル企業の新興産業(福岡市)などに運び、細かく砕いて洗浄し、ペレット状にします。その後、成形メーカーに持ち込んで、買い物かごや花びん、食品回収ボックスなどに製品化しています。「世界初、海洋ごみ由来のポリ袋」という製品もあります。グループ企業のファミリーマートは、海洋プラごみを原料にした買い物かごを導入しています。ペレットの一部を抜き出して第三者機関に依頼し、有害化学物質が入っていないことを確かめています。
「トレードに限界」社会課題解決のビジネス
このビジネスを手がける伊藤忠化学品部門の環境ビジネス統轄、小林拓矢さんはもともと、ナイロンの原料に関する貿易を扱ってきました。プラスチックの一種で、世界中から素材を仕入れ、世界中に売ってきました。「売り」と「買い」の差益でもうけを出すトレード業務にはまったものの、限界も感じてきました。「仕入れ先に『安く売って下さい』と頼み、納入先に『高く買って下さい』と頭を下げる。その繰り返しで良いのか、と思いました。消費者目線で社会課題の解決につながるビジネスをつくりたいと考えました」

小林さんには「環境問題の解決にはビジネスが欠かせない」という持論があります。「慈善事業で環境問題に取り組んでも長続きしないと思います。ビジネスの中に環境問題を取り込み、課題解決に近づけたい」。対馬発の環境ビジネスに取り組もう、と考えたそうです。
昨今は、他の企業でも海洋プラごみを使ったビジネスが目に付くようになっています。YKKは2020年から、スリランカで収集した海洋プラごみを主材料にした樹脂製のファスナーを開発し、販売しています。強度や耐久性、機能性は従来の製品と同じ程度です。日清食品は昨年11月から、海洋プラごみを活用したパレットを製品の輸送や保管に使う「荷役台」として国内企業で始めて導入しました。

海洋ごみは陸上に由来 将来は魚を上回る数量に
プラスチックごみは世界で推計年800万㌧が海に流入しています。50年のプラスチック生産量は約11億㌧になり、海洋プラごみの量が、魚の量(7億5千万㌧)を上回る、との見立てもあります。海洋ごみの7~8割は陸上に由来し、多くは河川を通じて流れ込みます。豊かな海洋環境を守ることは、私たちの日頃の暮らしのありようを考えることと直結していると言えそうです。