(エシカルフェスタの垂れ幕は、残布とオーガニックコットンを使用してエシカル協会スタッフで手作りしたもの)
5月12日は世界フェアトレードデーでした。そしてこの日、私たちエシカル協会は「エシカルフェスタ2018」を東京で開催し、大盛況のうちに終えることができました。
フェスタは、今回で3回目。誰もがワクワク、楽しみながらエシカルについて学べる機会を提供し、暮らしの中に取り入れられるヒントを持ち帰ってもらうことを目的として始まりました。今年は縁あって広尾にある聖心女子大学のキャンパスの一部をお借りして、約1,200名の来場者を迎えることができました。
(出展者と来場者の積極的なコミュニケーションもフェスタの魅力。Liv:raのブースにて)
来場者の年齢層は子どもからお年寄りまで多岐にわたり、特に目立って多かったのが高校生と大学生でした。また、今年は聖心女子大学グローバル共生研究所が共催として入ってくださったこともあり、50人以上の学生ボランティアの協力を得ることができました。そのおかげで、約20の出展、約10のワークショップ、6つのトークショー、そして映画上映と盛りだくさんの内容で、今までにない大きな規模のフェスタとなりました。
出展者は実にバラエティー豊かで、エシカル消費の幅の広さを物語っていました。
例えば、
・ピープルツリーをはじめ、アフリカ・ザンビアでとれたオーガニックバナナの茎の繊維を使用したエシカルな紙で作られた商品を販売する「バナナペーパー」
・アフリカの伝統の手織りや生地を使用しながらバッグや小物を販売している「CLOUDY」
・スリランカの元内戦地域に住む女性たちが作り出すアクセサリーなどを販売する「Gnadaa Japan」
・英国生まれのエシカルなビューティーブランドである「THE BODY SHOP」
・主要原材料をフェアトレードで調達しているソープなどを販売する「Dr.Bronner’s」
・フェアトレードセレクトショップの「エシカルペイフォワード」
(エシカルアイテムを数多く揃えるセレクトショップ、エシカルペイフォワードのブース)
・児童労働のないベトナムの有機カカオを使用し、金沢で生産されたチョコレートを販売する「love lotus」
(パタゴニアプロビジョンズのフルーツバーの試食を楽しむ来場者)
これらフェアトレードのブランドが数多く見られました。また、「パタゴニア」はアウトドアのアパレルメーカーとして、ウィメンズのフェアトレードアイテムを紹介したほか、さらに新たに展開を始めた食品、パタゴニアプロビジョンズの試食販売も行いました。日本の伝統技術を活かした手芸用品を販売する「Cohana」や、日本に伝わる伝統の草木染めで染め上げたオーガニックコットンやシルクのランジェリーを販売する「Liv:ra」など、日本の魅力を伝えるエシカルなブランドも出展しました。
エシカルフェスタで特徴的なのは、学生たちも他の企業と同じように出展できる、ということです。今年は、静岡県立駿河総合高等学校の生徒たちが授業で研究したフェアトレードとエシカル消費をテーマに、捨てるはずのお菓子の包みで作った書類ファイルを販売。また慶応義塾大学の学生団体S.A.L.がエシカルジュエリーブランド「EARTHRISE」とコラボして作った「Ethical Jewelrly LULU」がアクセサリーを販売するなど、学生たちがおおいに会場を盛り上げてくれました。
遠い世界の難民問題を知る機会にも
モノを売る、買うだけがフェスタではありません。出展ブースでは、持続可能な原材料調達や環境・社会的配慮につながる国際認証ラベルを広めるための団体、「日本サステナブル・ラベル協会」が様々な分野のラベルを紹介。気候変動問題に取り組む国際環境NGO 「350.org Japan」は、来場者に「地球にやさしい銀行選び」を呼びかけ、「レッツ、ダイベスト!キャンペーン」の署名集めも行いました。国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」は、途上国に潜む人権侵害や児童労働の問題について「ビジネスと人権」をテーマに伝えていました。
(上映会は2回とも満席で、多くの来場者から感動の声があがった)
また今回、特に反響が大きかったのは「ソニータ」というドキュメンタリー映画の上映でした。イランに亡命したアフガン難民の16歳の少女ソニータが、ラッパーになりたいという夢に向かって生きていく様子が描かれた映画です。
しきたりにより「値段」をつけられ、花嫁として親に売られるはずだった少女ソニータが、親が求める結婚の一方で、かなえたい夢に向かって自分らしく生きるため、様々な苦悩に立ち向かい運命を切り開いていくというストーリー。この映画を選択した背景には、聖心女子大学のキャンパス内にBE*hiveという施設があり、中東の難民をテーマに展示を行なっていたため、映画を見て難民問題に少しでも興味を持ってもらい、BE*hiveでさらに難民について学び、理解を深めてもらえたらという思いがあったからです。このように、遠い世界で起きていることを「知ろう」とすることは、まさにエシカルな行為であると言えます。
(第1回目のフェスタから毎年参加をしてくださっているアーティストAKIさん)
そして、出展エリアを華やかにしてくれたのは、アーティストのAKIさんのライブペインティングと即興似顔絵スケッチです。お客様の顔を動物に例えて似顔絵を描く即興スケッチは大人気で、笑顔があふれるブースとなりました。
環境に配慮した傘、蜂蜜とアロマを組み合わせた化粧水も
(造形室で行われたmelissaの化粧水作りは、ひっきりなしに参加者の姿が)
今年のフェスタはワークショップのプログラムも充実していました。環境に配慮した傘の組み立てを体験できる株式会社「サエラ」のワークショップでは、親子で取り組む姿が多く見られました。フェアトレードのブランド「Tammy’s Treats」は、タイ北部の少数民族の女性たちの手仕事による布ビーズを使ったオリジナルのネックレス作りのワークショップを開催。2人の女性ユニット「melissa」は、蜂蜜とアロマを組み合わせた化粧水作りを開き、男女ともに終日多くの来場者が参加なさっていました。
(ピープルツリーは、生産者の写真を紹介する展示とブローチ作りのワークショップを行った)
玉川聖学院の生徒たちは、フェアトレードの麻ひもを使って、ミサンガ作りのワークショップを行い、作るだけではなく、その間にフェアトレードの仕組みについても学べるプログラムを展開してくれました。
(子どもから大人まで楽しそうにトレーニングを繰り広げるわらわらのエシカル・ペイフォワード・トレーニング!)
さらにユニークだったのは、株式会社「わらわら」というフィットネスクラブのスタッフが、エシカル・ペイフォワード・トレーニングというプログラムを編み出してくれたことです。これは、エシカルの大切なキーワードである「おもいやり」をテーマに、家族や友人の体の悩みを思い出してもらい、改善方法を教わり、教わったことを大切な人に伝え恩返しをする、というトレーニング方法。一見すると、エシカルとは関係のないようなトレーニングでさえ、アイディア次第でエシカルと関連づけることができ、周りの人に伝えることができる、ということをこのワークショップを通じて知ることができました。エシカルとは実は日常のいたるところに見いだすことができるのです。
「一人ひとりの行動が未来を変える」と岡村消費者庁長官
(消費者ホットライン「188“いやや!”」をぜひ活用してほしいと呼びかける岡村消費者庁長官=写真左)
フェスタでは、終日かけて6本のトークショーを行い、すべての回でホールを埋め尽くすほどの聴衆が集まりました。オープニングの後、消費者庁長官の岡村和美さんから、消費者庁として今まで取り組んできたエシカル消費の推進事業とその成果、今後の展望などについてお話をいただきました。
岡村長官のお話の中から、長官自ら暮らしの中にエシカル消費を積極的に取り入れておられ、ひとりの消費者として消費者市民社会の構築に参画なさっていることが分かり、多くの聴衆の心をつかんでいました。岡村長官は何度も「私たち一人ひとりの行動が未来を変えていくことができる」と訴えておられました。
(「パタゴニア」日本支社長の辻井隆行さん=写真左=と、一般社団法人「Think the Earth」理事の上田壮一さん。それぞれのマイクと舞台中央を飾っている美しいバラは、広尾商店街にあるフェアトレードの花屋、AFRIKA ROSEから)
「パタゴニア」日本支社長の辻井隆行さんと一般社団法人「Think the Earth」理事の上田壮一さんの対談では、そもそもエシカル消費を実現するためには、健康な地球がないと始まらないということで、地球環境の今を知り、本当の持続可能の意味を考える時間となりました。この5月に刊行したばかりの「未来を変える目標 SDGs アイディアブック」という本を全国の学校に届けている上田さんは、日々の活動を通じて「学びは本来楽しいものであり、試験のために学ぶのではなく、未来を作るために学ぶ」ことを大切になさっているそうです。
辻井さんは、「地球は今、大量出血中なのに、誰も手当てせずに放置したままの状態である」と世界的に有名な環境活動家ビル・マッキベン氏の言葉を引用しながら、未来がなければ、エシカルな消費すらも存在しない、ということを繰り返し発言なさいました。消費のあり方を見直す、ということが大切である、ということも強調されていました。
楽しい、から始まる若者のエシカル
学校内に菜園を作り、五感を駆使して食育を推進するアリス・ウォータースさんの取り組みを日本で始められた、「エディブル・スクールヤード・ジャパン」代表の堀口博子さんと、ファッションジャーナリストの生駒芳子さんお二人のトークも聴衆を引きつけていました。お二人には、今の時代に必要とされている手仕事にまつわる話を食とファッションそれぞれの世界から語っていただきました。多くの若い女性から羨望(せんぼう)のまなざしを受けていたお二人からは、人生はすべて学びの繰り返しであり、一番大切なことは「あきらめないこと」と教えていただきました。
「日本環境設計」株式会社取締役会長の岩元美智彦さんからは、新しく開発された衣類と金属のリサイクルの技術についてのご紹介がありました。この技術を使うと、一滴も石油(地下資源)を使わず、永遠に地上資源のみで循環できる社会が実現できる、とのこと。聴衆は驚きを隠せない様子でした。洋服も金属(携帯電話など)も、古くて使わなくなったものをこの技術を用いてリサイクルすれば、誰もが循環型社会を作る一員になれる、ということです。
今回、フェスタではトークプログラムにも若者の力を借り、10年、20年後の社会を作る高校生と大学生にも登壇してもらいました。聖心女子大学のスリランカスタディツアーに参加した4人と、神奈川県立横浜国際高等学校の生徒2人から、若者が考えるエシカルな未来について語ってもらいました。
印象的だったのは、どの学生たちも皆口をそろえて、フェアトレードやエシカルの活動は心底楽しい、と発言したこと。またそうした活動に取り組むことで世界にとっていいことが、実は自分にとってもよかったことが分かった、と話してくれたことです。こうした変容を若い人たちが遂げるには、ある程度の時間を要すことは間違いありませんが、10代のうちに学校教育の中でフェアトレードやエシカルについて触れる機会が与えられる、ということは非常に重要であり、今後こうした若者たちがさらに増えていくことを考えると、未来に希望を持てました。
若者たちが求めている未来は決して物質的な豊かさではなく、どんな人も他を思いやる心や分かち合う気持ちを持てる社会である、ということも分かりました。これから就職活動を迎える大学生たちの多くは、働くのであればエシカルな企業を選択したいという率直な意見も出してくれました。
「イズム」ではないエシカルの多様さ、ユニークさ
(フェスタ最後のトークに耳を傾ける聴衆。ひとりひとりの心に変容をもたらす時間となった)
最後のトークは、教育者の立場として、明治学院大学の教授で文化人類学者、環境運動家でもある辻信一さんと、聖心女子大学教授の永田佳之さん、そして浄土真宗本願寺派光明寺の僧侶である松本紹圭さん。
松本さんは「イズム化した宗教はよくない」、「どんな人も死亡率100%。必ず死ぬのだから、レールに乗った人生を送るのはあまりにもったいない」と発言。エシカルもイズムになってしまっては危険であることを知らされました。また、辻さんは「新しいしあわせの定義を生み出しつつある世代(若者)とつながりたい」、「人生は手放す修行であり、シェアすることを学ばなくてはいけない」と語ってくださいました。長年ESD教育(持続可能な開発のための教育)を実践されてきた永田さんは「しあわせとはなにか、豊かさとはなにか。これからも答えのない問いを持ち続けていきたい」、「エシカルアプローチは、物語性を取り戻すこと」と話してくださいました。これだけ幅広い分野から、最前線でご活躍の方々にお越しいただいたことで、まさにフェスタの会場は「学校」となり、ただ単に楽しむだけではなく、誰もが深く学べる場となりました。
(買い物を通じて「影響をしっかりと考える」。次に繋がる未来がここにある。)
フェスタを通じて分かったことは、とてもシンプルなことでした。エシカルは、実に多様でユニークであるということ。ワクワクして面白いということ。暮らしのいたるところに存在しているということ。仲間とともに取り組むことで広まるということ。エシカルという言葉にとらわれ過ぎては、本当の意味のエシカルな世界を実現できない、ということ。そして若者は未来の希望であり、光であり、私たち大人はこうした若者たちがエシカルのタネをじっくり、ゆっくり育てていけるような環境を作り、そっと後押しをしなくてはいけない、ということを改めて感じました。フェスタが終わっても、エシカルの学びは続いていきます。