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発泡スチロールで暮らしが変わる!?健康で快適な毎日を届けたい

2021.01.25
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
目標12:つくる責任 つかう責任

   龍野コルク工業の片岡孝次社長。敷地内のおいなり様の鳥居は発泡スチロール製

 「発泡スチロール」と聞いて思い浮かべるのは、電化製品の梱包(こんぽう)材や食品トレーなど、用途に合わせて作られた「脇役」だ。強い風に吹き飛ばされ、燃えると黒い煙が出てくるような自然環境への影響が心配なイメージもある。しかし、実は耐久性が高く、自由自在に形をつくれる優れもの。そんな素材の良さを知り尽くした専門メーカー「龍野コルク工業」(兵庫県たつの市)は、医療の現場やお年寄りたちの「困った」を解決する、健康的で快適なアイデア商品を次々と生みだしている。持続可能な社会の実現に向け、発泡スチロールは今や「主役」になっている。

ノーベル賞福井謙一博士が助言、日本初の専門メーカーに

 

 姫路駅からローカル線に揺られること30分。シラサギがたたずむせせらぎに耳を傾けながら進んでいくと龍野コルク工業があった。中国山地は、樹皮がコルクの原料となるアベマキ(コルククヌギ)が多く自生しており、1950年ごろ、付近にはサンダルの底や冷蔵庫の断熱材などに使うコルクを製造する工場が点在していたという。しかし、コルクは値段の変動が激しく、商売としてはなかなか安定しない。そのため、ものづくりをする分野に乗り出そうとしていたところ、のちの1981年に日本人初のノーベル化学賞を受賞した福井謙一さん(1918~98)から、ドイツで発明されたばかりの発泡スチロールの将来性について教えてもらったという。天候などに原料の確保が左右されない石油由来の発泡スチロールはコルクの代替品として利用でき、龍野コルク工業は国内で初めて安定的に生産することに成功した。
 魚でもリンゴでも、何かを運ぶ時には木箱が使われていた時代。それが、高度経済成長期にさしかかると工業物流の資材や電化製品の梱包材などはすべて発泡スチロールに移り変わっていった。発泡スチロールのトップメーカーとして、年間3500トン近く出荷していた時もあったという。

建築資材に使われる大型の発泡スチロール
マンションの床にコンクリートと一緒に埋め込まれる発泡スチロール

世の中の課題解決に発泡スチロール

 社長の片岡孝次さんは大学卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。システムエンジニアとしてエアコン制御用のプログラム開発に従事していた。幼いころから戦車や戦艦、お城などのプラモデルづくりに没頭するなど、とにかくつくりあげることが大好き。お小遣いはすべて趣味につぎ込むような少年時代だったという。そんな性格を見越していた経営者で父親の克己さんは、片岡さんをものづくりの現場へ自然に導いていった。
 龍野コルク工業に入社したのはバブル経済がほぼ崩壊した1995年。発泡スチロールの生産量は発注者側の意向に左右されるため、安定しない。そもそも梱包資材として商品が届けば、役割は終わりになる。そんなビジネスモデルに片岡さんは不安を抱いていた。さらにテレビはブラウン管から液晶タイプになり、大量に使われていた緩衝材が少なくてすむようになるなど、時代が変わっていった。

片岡さんは当時について、「付加価値を付けた新たな商品を開発しなければ、会社の未来はないと思った」と振り返る。
 そんな中で、片岡さんは医師や医療機器の専門家と交流したり、地元・兵庫県の産学連携の集まりに参加したりして、世の中に埋もれている課題を見つけていった。あらゆる分野で「困った」「こんなものがあれば」といった様々なニーズがあることを見聞きするとともに、無限の可能性を持つ発泡スチロールが役立つのではないかと考えはじめたという。
 頸椎(けいつい)の手術する患者を固定したいと医師に相談されれば、試行錯誤を重ねて独自に器具を開発。地元にある他業種の企業が取り組む課題を知れば、その原因を徹底的に調査。素材と技術、アイデアを融合させ、誰もが無理なく最善の対策ができる商品づくりに没頭するようになった。

大型の機械が並ぶ工場内

オリジナルな発想で次々とアイデア商品を開発

 龍野コルク工業が扱う主な発泡プラスチックの原料は、ポリスチレンとポリエチレンのふたつ。いずれも粒(ビーズ)状のものを約100度の蒸気をあてながら攪拌(かくはん)していくと樹脂が膨らんでいく仕組み。それを金型に入れて成形したり、切ったり削ったりして加工する。また、膨らんだ粒のまま素材として使用することもできる。

原料のビーズ
蒸気をあてながら攪拌すると、あっという間に樹脂が膨張

ポリスチレンは硬いプラスチックで力を加えるとポキッと折れるような性質で、ポリエチレンは柔らかくつぶれないのが特徴。これらの素材を組み合わせることによって、硬さや弾力性、強度などを自由に調整することができる。
 龍野コルク工業はこうした素材の特性をいかすため、仕入れた原料をあえて組み合わせて加工する。この「混ぜる」という発想そのものがオリジナルといい、発泡スチロールを手がけるメーカーで同様な取り組みをしている例はない。また、普通ならば使わないような形状や固さ、大きさのものもあえて素材として採用しているほか、例えば、棒状の発泡スチロールをわざと金太郎飴(あめ)のように切って使うなど、ユニークな手法も積極的に取り入れている。

素材の特性をいかし、あらゆる形状に加工できる発泡スチロール

ニーズを掘り起こし、課題を解決するという目的が最初にあるからこそ、そこに向かってあらゆる手段を尽くしてきた龍野コルク工業。試行錯誤を重ねながら製品として具現化し、成功事例が増えていった結果、自然と悩み相談が持ち込まれる機会も増え、新たな商品開発に結びついていったという。

ひとつずつ丁寧にビーズを封入する
複雑な形状でも熟練の技があるからこそ縫製できる
丁寧にパッケージしたら完成だ

無理なく気軽に運動できる「ゆらゆらボード」

 龍野コルク工業が開発した根強い人気のヒット商品に「ゆらゆらボード」がある。円盤のような形状で、重さはわずか約260グラム。手にした誰もが「何だこれ?」と思うに違いない。しかし、このゆらゆらボードには龍野コルク工業のアイデアと高い技術がぎっしりと詰まっている。

ゆらゆらボード

誕生のきっかけは、お年寄りがつまずき防止用の靴下を求めているという話を片岡さんが耳にしたこと。「なぜ?」。そんな疑問から対策を調べると、年齢を重ねて体の運動機能が低下する「ロコモティブシンドローム(運動器症候群・ロコモ)」というキーワードが浮上した。
 ロコモは骨や関節、筋肉などの衰えが原因だった。さっそく対策を求めてスポーツジムのトレーナーから有効な体の動かし方についてアドバイスを受けるなど動き出した。その結果、無理なく体を動かすには「ながら運動」が効果的だと気づき、バランスボードのような器具を作り上げることにしたという。
 ベーゴマのような円錐(えんすい)形や左右対称の形状を試作したものの、安定し過ぎて運動にならない。足踏みミシンのようなイメージで、不安定でグラグラし、貧乏ゆすりをしているような状況を再現するため、左右非対称のボードが完成した。イスに座ったまま、左右や前後にゆらゆら動かせるほか、立った状態でストレッチや青竹踏みのようにも使える。体が動いていると小脳が活性化されるという効果もある。
 このボードに使われているのは、ポリスチレンとポリエチレンのいいとこ取りをしたハイブリッドビーズ。硬くても割れないうえ、柔らかすぎることもない。絶妙の配合が実現できるのは素材を知り尽くした高い技術があるからこそだ。中は白い発泡スチロールの安物と感じる人がいたとしても、実際に使ってみると、この良さに気付くはず。多くの利用者が「無理なく家の中で運動ができる」と愛用している。

「快適と健康、人に優しい商品を」

 龍野コルク工業の製品は「こんなものがあったらいいな」が実際に形となっている。
足元の冷えに困っている人が多いことから誕生した「レグぽか・ミニ」は、足首のすきまから入る風を防ぎ、足首の保温ができる。スラックスの中に隠れるサイズで、つけているのを忘れるぐらいの片足45グラム。夏にエアコンによる冷えすぎ防止にも効果的で、一年を通して使える優れものだ。
 股関節や腰がつらく、あぐらをかいたり体育座りをしたりするのが難しい人に向けて開発された「座布レッチ」は、クッション性と復元性に優れた2種類のビーズを組み合わせて使用。長時間にわたって使用しても、安定したソフトな座り心地が実現されている。

左:レグぽか・ミニ   右: 座布レッチ

 龍野コルク工業では、製品開発の際には試作品をとにかく使い倒し、納得いくまで改良を重ねているという。販売後でも気に入らない部分があれば停止することもある。手にした人が悩みを解決し、笑顔になることイメージしているという。
 発泡スチロールは耐久性に優れ、大型の工作物にも使用可能だ。そのため、地震で倒壊する恐れがない鳥居や、熱伝導率が低くて快適に暮らせる住宅用断熱材なども生産している。マンションの建設資材や高速道路の路面の地中などにも発泡スチロールが使われているという。
 片岡さんは話す。「理念の根底には会社勤めで学んだ『物をつくる前に人をつくる』という松下幸之助さんの教えがあるかも知れません。快適と健康を考えるということに力を注ぎながら、地球環境に負荷を与えないような循環社会を目指していかないといけないと思っています。人に優しい商品を扱い続けていくというのが理想です」

豊かな自然に囲まれた工場

■龍野コルク工業の製品は朝日新聞SHOPで購入可能

writer:小幡淳一

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