(1日目のパネルディスカッション「地方創生と社会的インパクト投資-地域金融の役割」の様子。モデレーターは一般社団法人全国コミュニティ財団協会会長 深尾 昌峰氏、登壇者は内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 地方創生総括官 唐澤剛氏、京都信用金庫専務理事 榊田隆之氏。)
「地方創生」「ジェンダー平等」…いま、直面しつつある社会課題
2018年2月19日(月)と20日(火)の2日間にわたり、東京・虎ノ門の笹川平和財団ビルで開催された「社会的インパクト投資フォーラム 2018」(公益財団法人笹川平和財団など共催、メディアパートナー:朝日新聞社)。
1日目、2日目を通して議題に上がった大きなテーマが「地方創生」でした。
1日目に行われたパネルディスカッション、「地方創生と社会的インパクト投資-地域金融の役割」では、地方創生にむけた金融機関の役割をめぐり、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の唐澤剛氏らが登壇。唐澤氏は、地方創生における課題として、「仕事づくり」「人の流れを変えること」「子育て・結婚支援」「まちづくり」の4つを挙げました。
なかでも、人の流れをどうするかが広域的な課題です。東京・神奈川・埼玉の東京圏には毎年12万人が転入していますが、実は大阪や名古屋、札幌といった政令指定都市からの流入が大きいのです。2020年には転出入を均衡させる、ということが地方創生の総合戦略の目標となっています。
こうした取り組みを進めるために、「産官学」に「金労言士」(金=金融機関、労=労働界、言=メディア、士=税理士、弁護士、会計士など)を加え、さまざまなセクターからの参加を促進している、と唐澤氏。その上で、金融機関の役割は特に重要だ、と指摘しました。
コミュニティビルディング、人づくり、相談役。金融機関に求められるのは、縁の下の力持ち
(京都信用金庫専務理事を務める傍ら、一般社団法人京都経済同友会 理事・交流部長、NPOグローカル人材開発センターの代表理事、まちづくり協議会の理事長も務める榊田隆之氏)
地方創生に関わる金融機関は、地方創生戦略が出た初年度の平成27年度には37%だったのが、平成29年度には83%にまで上がっています。地域の魅力を引き出す仕事を縁の下で支える金融機関の協力なくして、地方創生は成し得ないとも言えます。
今回、そのひとつの事例として紹介されたのが京都信用金庫です。 京都信用金庫専務理事を務める榊田隆之氏は、地域コミュニティにおける金融機関の役割は「人づくり」にあると指摘。京都信用金庫では「ステークホルダーは地域」と位置づけ、地方創生というテーマに取り組んでおり、これからの時代は「みんなで寄ってたかって課題を解決していく」ことが必要だ、と語りました。
「金融を供給するだけでなく、いろいろな場所で“おせっかいを焼く”ことが、いまの時代には必要なんじゃないかなと思っています。そして、地域には必ず先駆者がいるので、そういった方をたくさんの人に引き会わせることで、みなさんの成長を応援する。
他のジャンルの人と出会うことで感化され、自分自身の事業に置き換えて考えていく、そういう風に考えることができる人づくりに取り組んでいます。人が集う場をつくることが、ひいては地域の社会課題をみんなで考え、地方創生を現実のものにする大きなエコシステムを作っていくことになるのではないかなと思っています」
また、信用金庫とクラウドファンディングは親和性が高い、と榊田氏。
(開催にかかる膨大な資金が問題となっていた京都の祇園祭。京都信用金庫がクラウドファンディングにかかわり、祗園祭のための資金調達を行った。)
「京都信用金庫がかかわったクラウドファンディングを利用された祇園祭の理事長さんは、全国からインターネットを通じて何千通もの応援メッセージが届いたのが何よりも励みになった、と非常に喜ばれていました。1社が1億円のお金を出すのはでなくて、1億人の方が1円ずつを出す。こういったところに『インパクト』という言葉の意義があるのではないでしょうか」
さまざまな人が関わる場をつくり、解決すべき課題を一緒に見出していった先にこそ、地方創生があると榊田氏は語ります。「現代はリスクをとりにくい時代ですから、先行きを少しでも見通し、きちんとビジョンを持って考える力が大事になってきます。そこであえてリスクをとり、イノベーションを起こしていく人を応援していくことは、金融機関の役割でもあります」
企業が投資家を選ぶ余地がないこと自体が、社会課題である
(2日目のパネルディスカッション「日本の社会課題解決に挑む革新的ビジネス:地方創生」。モデレーターに一般社団法人MAKOTO代表理事 竹井智宏氏、登壇者には鎌倉投信株式会社取締役 資産運用部長 新井和宏氏、仙台市役所経済局産業政策部 地域産業支援課 起業支援担当主任 白川 裕也氏、飛騨信用組合常勤理事 総務部長 古里圭史氏を迎えた。)
2日目には、地方創生の鍵を握る革新的なビジネスに携わる登壇者によるパネルディスカッションも行われました。
仙台市役所経済局の白川裕也氏は、仙台市の学生の8割が県外に転出しているというデータを紹介。やはりここでも地方の最大の課題である“人口の流出”に話題が及びました。
これに対し、鎌倉投信株式会社取締役の新井和宏氏は、人口の流出を止めるためには、各地域で大学や企業、自治体が一体となり、学生がその地域に留まりたくなるような仕組みをつくることが不可欠だ、と語りました。
「社会のためにお金を使いたい、社会的な企業に長期投資をしたいと考えている投資家は想像以上に多い」と新井氏。「企業がそういった投資家を選択する余地がないこと自体が、大きな社会課題だと思います」と訴えました。
ジェンダーの多様性を理解することは、リスクを特定すること
社会的インパクト投資には、ジェンダー平等の視点を持って事象を見つめる“ジェンダーレンズ”も大きく関わってきます。
SDGsのなかでも目標のひとつになっている、ジェンダー平等の実現。女性の社会的および経済的地位を向上させることは、男女がともに生きやすい社会の構築につながり、持続可能な経済成長にも欠かせないという考え方です。
2日目に行われたパネルディスカッション「ジェンダーレンズと社会的インパクト投資」では、モデレーターに笹川平和財団 ジェンダー・イノベーション部の小木曽麻里氏、登壇者にCatalyst at Large創設者のスーザン・ビーゲル氏、Investing in Womenのジェームズ・ソーカムネス氏、KL Felicitas Foundation共同創設者のリサ・クライスナー氏を迎え、ジェンダー視点と社会的インパクト投資の関係について、幅広く議論が行われました。
ジェンダーレンズ投資の第一人者であるビーゲル氏は、「ジェンダーの多様性を理解することは、投資家にとってリスクを特定することになります」と語ります。
家族財団・KL Felicitas Foundationを運営するクライスナー氏は、有能な女性たちが活躍できていないことを目の当たりにしたことで、ジェンダーレンズにもとづく投資が重要であると考えるようになったと言います。また、女性にしか思いつかないようなマーケットも存在する、と主張しました。
女性起業家への投資促進に携わるソーカムネス氏は、「女性のアントレプレナー(起業家)は、男性よりもインパクトを求めている傾向がある」と述べ、いまは世界的に、女性に投資しようという大きな流れが生まれつつあるとも語りました。
社会的インパクト投資は、資本主義そのものを変えること
(2日間を締めくくるパネルディスカッション。モデレーターは朝日新聞社の北郷美由紀、登壇者はロナルド・コーエン卿、公益財団法人笹川平和財団 ジェンダーイノベーション事業グループ長の小木曽麻里氏、一般財団法人社会的投資推進財団 常務理事 工藤七子氏。)
2日間にわたるフォーラムの最後には、Global Social Impact Investment Steering Group(GSG) 会長のロナルド・コーエン卿を囲んで、社会的インパクト投資のこれからを語るパネルディスカションが行われました。
「政府は、わずか1円を使うのであっても、それが生産的なお金であってほしいと考えるものです。リターン、リスク、インパクトの3つを最適化することが重要です」とコーエン卿。合わせて、社会的インパクト投資の日本国内での実例を増やしていくことが大切だ、と改めて訴えました。
日本での社会的インパクト投資の市場規模は、2014年に約170億円だったものが、2016年には約337億円、2017年には約718億円にまで増え、年間で約2.1倍の成長を見せています。また、2019年から始まる休眠預金の活用により、この動きはさらに加速すると予想されています。
今回のフォーラムのなかで繰り返し語られたのは、「社会的インパクト投資とは、資本主義のあり方そのものを変えること」というメッセージです。
社会的な事業に取り組む企業を、金融機関や財団が投資家との間を仲立ちしながら、ビジネスとして成り立たせながら応援していく。そうした流れが構築されるなかで、地方創生やジェンダー平等など、日本と世界が抱える共通の社会課題を解決する糸口が見えてくることでしょう。
「SDGs」について、詳しくはこちら:SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり
<編集>サムライト <WRITER>松尾沙織・サムライト