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社会課題解決のための投資で見えてくる未来「社会的インパクト投資フォーラム2018」レポート(1)

更新日 2022.02.03

最近、「ESG投資」とともに聞くようになった「社会的インパクト投資」という言葉。

日本は少子高齢化をはじめとした多くの社会課題を抱えていますが、そういった諸課題の解決のためには、ビジネスのあり方を持続可能にするシステムづくりが急務とされています。このシステムづくりに大きく関わってくるのが「社会的インパクト投資」です。

社会的インパクト投資は、「経済的リターン」と「社会的リターン」の双方を追求する投資手法。2007年、ロックフェラー財団主催の会合で提唱されたことを皮切りに、2008年のリーマンショックを経てから、世界中に広まっていきました。世界では、現在1,114億ドル(約11兆円)を超える市場規模へと成長し、多くの投資家がさまざまな形で社会課題解決につながる社会的インパクト投資に乗り出し始めています。

こういった世界的な流れを受けて、さまざまなセクターの社会的インパクト投資の関係者から展望や可能性を広く学び、議論する場として、2018年2月19日(月)と20日(火)の2日間にわたり、「社会的インパクト投資フォーラム 2018」(公益財団法人笹川平和財団など共催、メディアパートナー:朝日新聞社)が東京・虎ノ門の笹川平和財団ビルで開催されました。1日目、2日目の講演やパネルディスカッションの様子を2回に分けてレポートします。

SDGsの実現のためにも、社会的インパクト投資は不可欠

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(公益財団法人笹川平和財団理事長 大野修一氏)

フォーラムは、公益財団法人笹川平和財団理事長 大野修一氏による主催者挨拶で幕を開けました。

「近年では、社会的インパクト投資という考え方が欧米の投資家を中心に広がっており、これは今後の社会を動かす大きな時流になっています。私たち財団は、パートナーと協力し、日本やアジアの発展に向けて、社会的インパクト投資の推進に貢献していきたいと思っています」

2015年に国連で採択された持続可能な社会を実現するための国際目標「SDGs(持続可能な開発目標)」の実現には、毎年約2.5兆ドル(約270兆円)もの資金が必要だとの指摘もあります。大野氏は、さらなる社会的インパクト投資の必要性を参加者に訴えました。

多様な自己実現のために、「民のファイナンス」の仕組みづくりを

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Global Social Impact Investment Steering Group(GSG)国内諮問委員会委員長 小宮山宏氏)

Global Social Impact Investment Steering Group(GSG)国内諮問委員会委員長 小宮山宏氏は、これからの日本社会ではGDPではなく、多様な人々の自己実現を目指すことが重要になる、と語りました。

「多様な自己実現は、国だけではファイナンスできません。だからこそ『民のファイナンス』が不可欠です。正しい知識を正しく動員すれば、いまあるほとんどの問題は解決できます。
人々が実現したい未来に向けて、寄付をすることも大切です。私は寄付を受けるほうは施しではないと思っています。長生きする人が増えるなか、多様性と包摂性のある社会を実現するために人々の賢さが問われています」

社会的インパクト投資を活用した事例は、日本国内でもすでに始まっています。自治体としては国内で初めて、社会的インパクト投資の一形態であるソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)を導入した神戸市では、日本の医療費の5%が人工透析に使われている現状から、糖尿病性腎症などの重症化予防事業を立ち上げました。また八王子市でも、大腸がん受診率向上事業に対しSIBを組成しています。

日本は世界の国々より一足早く少子高齢化に直面している。日本での課題を解決していくことは、世界にモデルを示すことにもなる、と訴えました。

「社会的インパクト投資」を牽引するのは、ミレニアル世代の若者たち

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基調講演では社会的インパクト投資の現状についてGlobal Social Impact Investment Steering Group(GSG) 会長のロナルド・コーエン卿が語りました。

コーエン卿は、社会的インパクト投資の動きは、“社会貢献につながるものを買う”  “倫理的に問題のある企業や、自分の信条に合わない企業では働かない”といった考え方をする「ミレニアル世代」が牽引するだろう、と述べました。

「『社会的な課題解決を金融的なリターンにどうつなげるか?』という問いに対する答えが、まさに社会的インパクト投資なのだ、と考えています。投資家はこれまで『リスク』と『リターン』を気にしていましたが、近年ではそこに、『社会的インパクト』が加わりました。そうした投資は通常の投資と遜色ない実績をあげてきており、ついにマインドシフトが起きているのです」

今日、世界には108のSIBがあり、24か国で14の課題解決に取り組んでいます。さらに約100もの計画が進んでいるそうです。これまで社会的・倫理的なことはなかなか数字では計測できないと言われてきましたが、テック革命も相まって、さまざまな影響や成果を数値化できるようになってきた、こういったことも社会的インパクト投資の流れをあと押ししている、とコーエン卿は語ります。

「ESG投資は現在すでに20兆ドル(約2100兆円)以上あると言われていますが、 ESG投資の中でも社会的インパクトを評価しているものが10年後には20兆ドルになるでしょう。SIBは2030年までには1兆ドルの市場になり、インパクト・ベンチャー・キャピタル、インパクト・プライベート・エクイティ、インパクト不動産投資、インパクト・インフラ投資は1兆ドル(約100兆円)以上の市場になるでしょう。これら諸々を全てを合わせると、2030年には人々の生活を向上させるために、30兆ドルの資金を巻き込むことができるでしょう」

コーエン卿はその上で、日本の社会的インパクト投資の可能性とともに、世界を引っ張るだけの力を日本は持っているはずだ、と熱く語りかけました。

休眠預金活用の鍵は?イギリスの先行事例に学ぶべきこと

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基調講演につづいて、コーエン卿と朝日新聞社常務取締役 西村陽一との対談が行われました。「社会的インパクト投資は、社会的な問題解決になぜ有効なのか?」という西村の質問に対し、コーエン卿は次のように答えました。

「OECD加盟国の政府は、年間10兆ドル(約1.068兆円)のお金を教育に投資しているにもかかわらず、多くの問題は解決されていないまま。ここ数年で学んだのは、いわゆる『慈善モデル』は破綻しているということです。私たちは、数字にこだわります。10〜20年後には、政府予算の20%はアウトカム(成果)ベースで支払われることになると予測しています。社会や環境にかかわる課題は、新たな事業と投資の機会でもあるのです。起業家たちが関与すれば、イノベーションの創出も期待されます」
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コーエン卿が住むイギリスでは、いち早く休眠預金(※)の活用事業がスタートしています。過去には、約15億ドル(約1,600億円)のもの預金が解放され、日本においても、2019年の秋からいよいよ、休眠預金の運用が始まります。

※休眠預金…長い間引き出しや預け入れなどの取引がされていない、眠っている預金のこと(休眠口座HPより

こういった制度の整備とともに、「インパクトボンドマネジャー」をつくることも成功の鍵だ、とコーエン卿は説きます。

「人材を育てながら、成果にもとづく投資手法を広げていくことです。イギリスでは40機関以上が、ビッグソサエティキャピタルから資金提供を受けながら社会的インパクト投資のマネジメントをしています」

イギリスは、世界で初めてビックソサエティキャピタルを設立し、管理と払い戻しのスキームが構築されました。こういった仕組みづくりやパートナーシップも、成功の鍵と言えそうです。

コーエン卿は、「ひとたび社会的インパクト投資が始まれば、強力なエコシステムが生まれ、制度が生まれます。そして、成果にもとづく投資手法にお金が入ることで、さらにイノベーションを拡大することができるでしょう」との予測を示しました。

(2) につづく 社会課題解決のための投資で見えてくる未来「社会的インパクト投資フォーラム2018」レポート(2)

「SDGs」について、詳しくはこちら:SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり

<編集>サムライト <WRITER>松尾沙織・サムライト

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