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キノコ好きイタリア人を魅了するボルゴターロ ポルチーニの聖地、ルール違反の採取者が課題(後編)

公開日
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標12:つくる責任 つかう責任
目標15:陸の豊かさも守ろう

ポルチーニキノコの名産地、イタリア北部エミリアロマーニャ州のボルゴターロ(Borgotaro)という村のリポート後編です。なぜ、村は産地としてブランド化することができたのでしょうか。課題はどこにあるのでしょうか。現地を研究フィールドとしている上智大学・柴田晋吾教授の報告です。

ポルチーニキノコは欧州には広く分布するキノコなのに、どうしてこの村のみブランド化によって多額のチケット収入を得る仕組みができたのでしょうか? キノコの採取者はどのような人たちなのでしょうか? これらの疑問を解決するために、2019年9月〜10月、採取者へのアンケートや関係者からの聞き取りを実施しました。

ボルゴタールの豊かな森で採れたポルチーニキノコ

アンケートした10月上旬は、9月の訪問時と比べて来訪者は8割から9割減と極端に少なかったですが、一定の傾向を把握できました。年齢層は40歳代以上で幅広く、ボルゴターロから車で2時間ほどの距離にあるミラノと周辺の町からの来訪者が圧倒的に多かったです。滞在日数は日帰りが過半を占めましたが、一泊で来る人も3割程度いました。

採取者の多くは家庭内消費 シーズン券購入者も

 年間訪問回数は「年に数回」という人が最も多かったですが、近場にセカンドハウスを所有し、シーズン券を購入してより頻繁に来る人もいました。また、訪問継続年数は5年~10年という人が最も多かったです。採取したキノコの用途は、ほとんどの人が家庭内で消費するか友人などにプレゼントするということで、「販売する」と答えた人は皆無でした。

採取者のほとんど「チケットは高額」

1日あたり20ユーロ(当時の為替相場で約2400円)というチケット代は、ほとんど全ての人が「高い」と答えました。適正価格を尋ねたところ、1日10ユーロ(約1200円)という意見が圧倒的に多かったです。これは、周辺町村のチケット代が通常10ユーロ(同)で設定されていることが念頭にあると思われます。ボルゴターロはブランド価値があるため、価格づけも高いのでしょう。

さらに、チケット制度について満足しているかどうかを尋ねたところ、大部分の人が「あまり満足していない」という回答でした。チケット代や収穫について不満足な回答が多かった背景として、たまたま調査日は収穫が非常に少ない状況だったことが影響したと考えます。9月の訪問時には、同じ場所で籠一杯に収穫している人を多く見かけたため、もしこの時期にアンケートをしていれば、より高い満足度が示されたでしょう。

キノコ狩りを楽しむ人にとって、ボルゴターロはポルチーニキノコの「聖地」だ

未払いの採取者も モラル順守が懸案

現状に問題がないわけではありません。最も大きな課題は、ルールを守らない採取者が多くいることです。モルターレ氏によれば、採取者の約50%がチケット代を支払わないそうです。私が現地調査した時もチケットを表示していない車が散見されました。なかには夜中に来て採る者もいるそうですが、費用の点からパトロールを増やすのは限界があります。

モルターレ氏は、キノコ生産量を増やすための森林の取り扱いも長年研究してきています。基本的には、マツ類を伐採し、根際を伐採して萌芽を育てる「萌芽(ぼうが)更新」とよばれる方法でナラ、クリ、ブナを育てますが、一般に密度の低い森の方が発生量は多いといいます。通常は1㌶当たり46〜49㌔グラムの収穫量ですが、間伐実施20〜30年後には同120㌔グラムに増えるといいます。また、現在のキノコの利用率(発生するキノコのうち人に採取される割合)は平均20〜50%程度であり、これを8割程度まで増やす余地があるとのことです(注1)。

2000年代にフィンランドで、当時1〜3%の野生キノコの利用率を30%まで増やす目標がたてられた(注2)ことを想起しますと、現状でも利用率は相当高いです。採取者による踏み荒らしや森への被害の懸念がないか尋ねたところ、「そのような問題はない」とビダーレ氏と口を揃えて否定しました。日本のマツタケ山では、シロと呼ばれるマツタケの生える場所、あるいはマツタケの菌の集まりを踏み荒らされることを所有者が気にしますが、このような問題が起こっていないのが不思議でした。

キノコの生育促進のために数年前に間伐を実施したエリア

アグロツーリズムの宿も 海外客受け入れ

ちなみに、スイスにおける研究報告によれば、踏まれることによる菌糸体への影響は確認されていませんが、キノコの発生数は減少します(注3)。ボルゴターロや近隣の町では、毎年9月から10月にかけてキノコ祭りやクリ祭りが開催されます。また、キノコ料理の実演を行うアグロツーリズムの宿もあり、アメリカなど海外からも観光客が訪れます。

ボルゴターロは酸性土壌なのでここではトリュフは産出されませんが、イタリアで有名なトリュフについても簡単に触れておきましょう。イタリアではトリュフの採取者が9万2千人ほどいて、そのうち800人ほどが職業としています。値段は地域や年によって大きな差がありますが、ポルチーニキノコの約100倍の値段です。2021年5月現在、より高価な白トリュフの小売り価格が地方で1㌔グラム当たり2500〜3000ユーロ(当時の為替相場で約32万5千円~約39万円)、ミラノなどの都市部で同4000〜6000ユーロ(約52万円~約78万円)です。(注1)。7億ユーロ(約910億円)といわれるトリュフ市場の3分の2が「ブラックマーケット」といわれていましたが、2019年の税制改革によってこの比率が大きく減少し、透明性の向上が図られつつあります(注1)。

*公益財団法人森林文化協会の総合情報誌「グリーン・パワー2021年8月号」に掲載された記事「世界の森からSDGsへ」に基づき、一部を加筆しました。

==参考文献==

(注1)Enrico Vidale.2019.2021. Personal Communication.

(注2)柴田晋吾.2006. エコ・フォレスティング. 237頁

(注3)Simon Egli et.al.2006. Mushroom picking does not impair future harvests – results of a long term study in Switzerland. Biological Conservation 129, 271-276.

==筆者の記事==

イタリアの味覚ポルチーニキノコ 「聖地」ボルゴターロは森の恵みでブランド化

200年ぶりオオカミ復活 イタリア・ベネチアの森

エコツアーで守る世界自然遺産 「微笑みの国」タイの持続可能な地域づくり

writer:柴田晋吾

上智大学教授

東京大学農学部卒。農林水産省、文部科学省、国連食糧農業機関(FAO)などを経て現職。農学博士(東大)。パドヴァ大学客員教授、ケンブリッジ大学客員研究員などを歴任。自然の恵み(生態系サービス)を生かした持続可能な地域づくりを研究している。

主著に「エコ・フォレスティング」(日本林業調査会)、「環境にお金を払う仕組み-PES(生態系サービスへの支払い)が分かる本」(大学教育出版)

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