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イタリアの味覚、ポルチーニの「聖地」ボルゴターロ 森の恵みでブランド化に成功(前編)

更新日 2022.03.16
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標12:つくる責任 つかう責任
目標15:陸の豊かさも守ろう

イタリアを代表する食材の一つが、豊かな香りのポルチーニキノコです。古くから名産地として知られる北部エミリアロマーニャ州のボルゴターロ(Borgotaro)ではキノコ狩りで得た収入を森林整備に活用し、資源保護にも熱心に取り組んでいます。上智大学・柴田晋吾教授が2回に分けて報告します。

キノコ狩り楽しむイタリア人 多くは自家用採取

イタリアでは、北欧のような 森への自由アクセスの慣行はなく、私有地に立ち入るには所有者の許可が必要です。キノコ狩りをするにはチケットを買わなければなりません。キノコ狩りは人気の高い余暇活動で、遭難者も年間150人程度出ています。菌類専門家のビダーレが実施したアンケートでは、キノコ狩りをする人は全人口の11%にあたる690万人に上りますが、販売する人は5.5%に過ぎません。ほとんどがレクリエーションを兼ねた自家用採取です(注1)。なお、この数字にはトリュフは含まれていません。

豊かな森が育てたポルチーニキノコ 

生ハムやパルメザンチーズで有名なパルマの町から南に100㌔メートルほどのところに、人口4千人ほどのボルゴターロという村があります。この村は森林生態系サービスによる斬新なビジネスモデルを追求しています。街の中心に教会があり、日本の里山林に似たクリやナラの小径木からなる森に囲まれています。

ボルゴターロの街並みと周辺の景観

この森は欧州で最も人気のあるキノコの一つであるポルチーニキノコ(Boletus)がよく採れます。この地域産のものは、欧州委員会の地理的表示保護:PGI(注2)を野生産品で唯一獲得してブランディングに成功しています。キノコ狩りチケットの収入を森林整備に還流する画期的な仕組みも構築しています。

ボルゴターロでは、地元のキノコ・コンソーティアムのモルターレ氏の発案で、1963年からイタリアで初めてキノコ採取についての支払制度が始まりました。コミュニティー林を対象としています。最初は、採取者がその都度所有者に採取許可を申請して対価を支払う仕組みでした。その後、1970〜80年代にレクリエーション目的でキノコ採取を行う人々が増え、1994年から現行のチケット制度がイタリアで初めて導入されました。そして、マーケティング戦略が功を奏して、1996年にはコミュニティーの所有する1万3千㌶について、PGIの認定を受けました。

キノコの生育促進のために間伐を実施した採取エリア

キノコ狩りの収入 木材販売額を上回る

ポルチーニキノコには赤や茶など異なる種類がありますが、いずれも同様に利用されています。採取時期は5月〜11月で、9月〜11月の初雪までが特に収穫が多いです。著名なボルゴターロのキノコの需要は極めて高く、シーズン中の土日は高速道路の出口が渋滞するほどキノコ採りの人々でにぎわいます。キノコ狩りチケットの売り上げは年によって変わりますが、チケット収入のみで年間数億円を超える年もあるそうです。ちなみに、2019年の10月時点でのチケットの販売数は5万枚でした。村内の販売店では毎日、採取者からキノコを買い取っており、訪問時は1㌔グラムあたり35ユーロ(当時の為替レートで約4200円)で販売していました。買い取り額は15〜20ユーロ(約1800円~2400円)でした。

ボルゴターロの店に並ぶポルチーニキノコ

コミュニティー林の木材(薪炭材)の収入は1㌶あたり52ユーロ(約6200円)です。それに対し、採取チケット収入は1㌶あたり267ユーロ(約3万2千円)と5倍以上です(注3)。また、キノコの小売り段階での販売額は年間60万〜120万ユーロ(約7200万~約1億4400万円)、薪炭などのエネルギー利用の木材は130万ユーロ(約1億5600万円)であり、キノコ採取チケットと野生キノコ産品の販売額が木材販売額を上回っているのです。

資源保護も重視 チケット制で罰金も

ボルゴターロでは、資源保護の観点からキノコが採取できるのは火、木、土、日の週4日ときめられています。コミュニティーの人は無料、それ以外の村内の人は1日10ユーロ(約1200円)、村外の人は1日20ユーロ(約2400円)です。シーズン券は250ユーロ(約3万円)となっています。採取できるのは一人に1日3㌔グラムまで。木製の籠で採取し、採取跡をきれいに埋めておく、というルールがあります。また、2㌢メートル以下の幼菌は採取禁止です。

チケットは2枚に切り離し、1枚は駐車する車に表示し、もう1枚は持ち歩くこととされています。ボランティアが巡回し、違反した場合、罰金の250ユーロ(約3万円)が課されます。また、村内のホテルに2泊以上すると、ハッピーチケットと呼ばれる採取チケットが無料で発行されます。チケットは、インターネットでも購入できます。村にはキノコのガイドが8人おり、150ユーロ(約1万8千円)を支払えば現地に案内してくれます(後編に続く)。

*公益財団法人森林文化協会の総合情報誌「グリーン・パワー2021年7月号」に掲載された記事「世界の森からSDGsへ」に基づき、一部を加筆しました。

==参考文献==

(注1)Vidale E. and Mortali. A. 2019. Personal Communication.

(注2)PGI: Protected Geographical Indication/IGP: Indicazione Geografica Protetta

(注3)Vidale E. & Mortali. A. 2018. The recreational wild mushroom collection in the Taro Valley: challenges and proposals. SINCERE meeting Leuven

==筆者の記事==
200年ぶりオオカミ復活 イタリア・ベネチアの森
エコツアーで守る世界自然遺産 「微笑みの国」タイの持続可能な地域づくり 

writer:柴田晋吾

上智大学教授

東京大学農学部卒。農林水産省、文部科学省、国連食糧農業機関(FAO)などを経て現職。農学博士(東大)。パドヴァ大学客員教授、ケンブリッジ大学客員研究員などを歴任。自然の恵み(生態系サービス)を生かした持続可能な地域づくりを研究している。

主著に「エコ・フォレスティング」(日本林業調査会)、「環境にお金を払う仕組み-PES(生態系サービスへの支払い)が分かる本」(大学教育出版)

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