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エコツアーで守る世界自然遺産 「微笑みの国」タイの持続可能な地域づくり 

公開日
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標13:気候変動に具体的な対策を
目標15:陸の豊かさも守ろう

「微笑みの国」として知られるタイは自他共に認める親日国です。近年は貧困率が改善され、「中進国」と位置づけられています。その一方、持続的な経済成長や、環境と経済の両立が課題とされています。現地では、豊かな自然を活用した持続可能な地域づくりがどのように展開されているのでしょうか。上智大学・柴田晋吾教授の報告です。

世界遺産カオヤイ国立公園 盛んなエコツアー

首都バンコクの北東約200㌔にあるカオヤイ国立公園は、タイで最も歴史のある国立公園で、2005年7月に世界自然遺産に登録されました。総面積は2168平方㌔。多くは森林に覆われ、様々な動植物を観察することができます。

世界自然遺産に登録されているタイ・カオヤイ国立公園。週末には多くの人でにぎわう(2020年2月)

バンコクから車で2時間半程度で行けるので人気が高く、週末には数多くの車と訪問者でにぎわいます。一般的にタイの国立公園の入場料は外国人向けにプレミアム価格が設定されています。カオヤイではタイ人40バーツ(約138円)に対し、外国人は400バーツ(約1380円)となっています。

野生生物の宝庫であるカオヤイは、「野生生物ウォッチング」にとってはこの上ない環境で、エコツアー業が盛んです。野生生物ウォッチングとは、野生生物の観察、餌やり、写真撮影、野生生物を見るための公園の訪問、野生生物のために植生や自然地を保全することと定義されています(注1)。近年、世界的に最も参加者数の伸びが著しいレクリエーション利用の一つです。

カオヤイ国立公園の一角には、地面がくぼんだ場所があった。くぼみは、象が塩を摂取しているためにできたという

ガイドが先導 森の中へ分け入ってみると…

私は2020年2月、久しぶりにカオヤイ国立公園を訪れてエコツアーの一つに参加しました。参加者はオープンエアーのテンソーの荷台に座って公園内を移動し、ガイドに先導されて、森の中のトレイルを7〜8人のグループに分かれて歩きます。ガイドは訓練を受けた地元の人々です。常にフィールドスコープと三脚を携帯し、隠れている野鳥や昆虫を巧みに見つけては、素早く焦点を合わせて参加者に見せながら解説してくれます。

カオヤイ国立公園のエコツアー。ガイドに先導されて森の中を歩き、野生生物の解説を受ける

象に遭遇する機会も 野生生物の宝庫

ここでは野生の象に出合うことも珍しくありません。以前、園内の道路で野生の象に遭遇したことがありますが、今回は象には遭遇することはできませんでした。でも、顔の黒いホエザルの仲間、樹木に隠れている緑色の毒ヘビやサソリ、2種類のサイチョウなど数多くの野生生物を見ました。

カオヤイ国立公園の森の中で遭遇したサソリ
木の枝には猛毒のヘビも

水源域を守る地域住民の取り組みも

タイでは、生物多様性経済公社(BEDO)が仲介者となって、各地でPES(生態系サービスへの支払い)の取り組みが進められています(注2)。17年にできた国家経済社会開発計画で、PES(生態系サービスへの支払い)について、「天然資源を保全する地域コミュニティーが追加的な収入を生む、生物多様性に根ざした経済開発のもう一つの方法」と位置づけています。

北部のピン川上流域に目を向けましょう。チェンマイ地域水管理公社といくつかの水源域の村とが協定を結び、水管理公社はこれらの村に対してお金を払い、村人たちは、チェックダムと呼ばれる砂防堰堤(えんてい)を設置して水源域を管理しています。チェックダムは、丸太などで作設する小さなダムで、土壌侵食を防いで水を保持するなどの役割を果たします。

チェンマイ地域水管理公社とPES協定を結んでいる少数民族カレン族の村ファロー(Hua Lo)の景観(2016年8月)

また、同じくチェンマイ近くのMae・Sa生態系リザーブでは、国営水企業のAURAがアメリカ国際開発庁(USAID)などの支援を得て、水源域の村の森林保全活動に取り組んでいます。マングローブ林の減少と劣化が進んでいる南部のクラビ郡では、地元のエコツーリズム事業者のグループとリゾートホテルを巻き込んだ景観保全のためのPESが実施されています。

BEDOはこのほか、①地域の生物資源の使用、②環境・生物多様性にやさしい製造工程③売り上げの一部を生物多様性保全に使用――という3条件を満たす食品や薬品、化粧品、クラフト、布製品などの地域産品にバイオエコノミー・マークを付与する持続可能な地域ビジネスの認証の仕組みや、地域産品の地理的表示(Geographical Indication, GI)の普及・啓発も進めています。

緑豊かな「バンコクの肺」 多様性保全の動き

一方、バンコク中心部にあり、チャオプラヤ川の蛇行部に囲まれているバンカチャオ地区は、少数民族モン族の居住地があるなど独特の文化で知られています。緑地が多く、「バンコクの肺」と言われる地域ですが、近年は居住地域が全体の9割を占め、開発による緑地の減少と断片化が著しくなっています。このため、王室林野局などが中心となって、生物多様性保全と自然学習のための都市林業のデモンストレーションが行われています。

ハーバルボールづくりのデモンストレーション(バンカチャオ、2020年2月)

具体的には、地元住民が伝統的な食事を提供し、薬用植物によるハーバルボールマッサージや草木染、自然学習などを体験できるツアーが開催されています。ツアーの参加費は1日1千バーツ(約3450円)です。また、BEDOが中心となり、周辺の高層マンションに暮らす富裕層の景観に対する支払いも始まっています。

*公益財団法人森林文化協会の総合情報誌「グリーン・パワー2021年12月号」に掲載された記事「世界の森からSDGsへ」に基づき、一部を加筆しました。

==参考文献==

(注1) Cordell H.K. 2012. Outdoor Recreation Trends and Futures. A Technical Document

Supporting the Forest Service 2010 RPA Assessment.

(注2)柴田晋吾. 2019.環境にお金を払う仕組み-PES(生態系サービスへの支払い)が分かる本.大学教育出版

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writer:柴田晋吾

上智大学教授

東京大学農学部卒。農林水産省、文部科学省、国連食糧農業機関(FAO)などを経て現職。農学博士(東大)。パドヴァ大学客員教授、ケンブリッジ大学客員研究員などを歴任。自然の恵み(生態系サービス)を生かした持続可能な地域づくりを研究している。

主著に「エコ・フォレスティング」(日本林業調査会)、「環境にお金を払う仕組み-PES(生態系サービスへの支払い)が分かる本」(大学教育出版)

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