国連が定めたSDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)への関心の度合いなどを聞く、第7回SDGs認知度調査の結果が公開されました。SDGsへの関心は確実に高まっている一方で、まだまだ自分事になっていないという課題も見えてきました。日本のSDGs研究の第一人者、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の蟹江憲史教授に、新型コロナウイルス感染拡大が与える影響なども含め、分析してもらいました。
――SDGsという言葉を聞いたことが「ある」人が約5割という結果が出ました。認知度が上がった社会的な背景や要因、影響などをどのように分析されますか。
半数以上の人がSDGsを知るようになったということは大きな進歩だと思います。これからの「行動の10年」に向けた基盤が整ったといえるでしょう。
その背景には、経済界がこぞってSDGsを唱えていること、教育界もSDGsの活用を進めていること、マスコミもここにきて呼応し始めたことなど、SDGsが社会現象のようになってきていることが挙げられると思います。特に、コマーシャルを含めて地上波テレビの影響は依然として大きいという気がしています。コロナ禍はSDGsの進捗(しんちょく)を鈍化させていますが、同時に、改めて持続可能であることの重要性に気付かせたということもできると思います。 ただ、日本人特有の、はやりものに流されるような傾向もあるので、これが一過性のイベントとして、形だけの認知に終わらないようにしないといけないと思っています。
――調査結果のなかで、特徴的あるいは印象的だと感じられた点はどこでしょうか。
国や世界の動きに関心がある人が思ったよりも多いという印象です。最近私が受ける取材では、身近に出来るSDGsに焦点を当てるようなものが多かったので、そことのギャップを感じました。世界や国の動きに関心が高いというのは良い話だと思います。ただ一方で、実際にアクションを起こそうとする人の割合は少ないようなので、世界や国の動きも一人一人の行動で変えることができるということをもっと考えて、行動に移してもらうとよいと思います。

「コロナの影響、ダイレクトに出てきている」
――今回の調査は、世界的に新型コロナウイルス感染拡大の影響がある中で行われました。SDGs達成にも大きな影響を及ぼしていると考えられます。人々の認知度の高まりや、興味関心事項の変化などに、新型コロナウイルス感染拡大が影響していると感じられますか。
コロナの影響は今回の調査結果にダイレクトに出てきていると思います。目標3「すべての人に健康と福祉を」への関心の高さはその象徴ですが、目標6「安全な水とトイレを世界中に」への関心というのも、うがい手洗いをはじめとする衛生面への関心の表れだと思います。また、貧困や公平性への関心が高いというのもコロナ禍の影響だと思います。
世界は持続可能で「ない」状態が続いていますが、コロナの影響でそのことが浮き彫りにされ、またそのしわ寄せが非常に極端な形で出てきていて、多くの人の意識するところになっていることの表れだと思います。
マクロな関心が高いという点と併わせて考えると、こうしたことは個人のレベルではどうすることもできないので、人々の意識が政治や政策のあり方へと向かっているのではないでしょうか。政治への関心が非常に低かった日本にとっては、民主主義を実体のあるものにするチャンスではないかと思います。
――今後の課題は。
コロナ禍を通じて、SDGsの課題解決には政治が動くことが大事だという点に人々が気付き始めたとすれば、それはSDGsの目指す「変革」へ向けた大きな進歩だと思います。今後の課題となるのは、そのような意識を行動に移すことでしょう。気候変動対策や再生可能エネルギーへの対応、ジェンダー平等へ向けた対応など、国、自治体、企業といった組織の意思決定に影響を及ぼしていくようなムーブメントを色々なレベルで起こしていくことが必要だと思います。
「個人の発信、大きなうねりへとつながる」
――SDGsの認知度は上がった一方で、実際の取り組みへの意欲や関心はまだ低いようです。今後どのような施策や対応が必要でしょうか。
国や世界といったマクロなレベルの関心が高い一方で、そのことが個人の行動が結びついていないという点は、ある意味わかりやすくもありますが、今後改善すべき課題だと思います。
これらの調査結果を踏まえると、身近に出来ることを行動に移すというだけではなく、身近に動いていくことが大きなうねりを作り出すことができるんだ、と実感できるような経験が必要だという気がします。
今はSNSやインターネットの様々なツールを通じて個人が発信し、個人と個人が結びつき、それが大きなうねりへとつながっていくことも少なからずあるので、そうしたムーブメントでSDGsを達成していくことも十分可能だと思います。グレタさんを始めとした若者が元気なのはそのような意味で心強く思います。ステークホルダーにはそのような気概をもって臨んでもらいたいところです。

■SDGs認知度調査 概要
〇調査対象:クロス・マーケティング社のリサーチパネルに登録している全国15〜69歳の男女
※2015年の国勢調査の人口構成比に基づき、『エリア(9区分)×性(2区分)×年代(6区分)=108区分』ごとに標本を割り付けた。
〇調査方法:ウェブアンケート
〇調査日:2020年12月10、11日
〇回収数:5000
第1回~第6回の調査エリアは『東京都・神奈川県』のみ。標本割り付けが今回と異なる。回収数は毎回異なるが、3,000程度。
第1回2017年7月、第2回2018年2月、第3回2018年7月、第4回2019年2月、第5回2019年8月、第6回2020年2月実施。
SDGs認知度調査 第1回・第2回報告
SDGs認知度調査 第3回報告
SDGs認知度調査 第4回報告
SDGs認知度調査 第5回報告
SDGs認知度調査 第6回報告
SDGs認知度調査 第7回報告