生涯スポーツで社会貢献 世の中に笑顔と健康を

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健康的な心と体で人生を楽しく――。特色あるマラソン大会を全国で展開しているNPO法人「スポーツエイド・ジャパン」は、そんなライフスタイルを提唱している。参加した誰もが喜び、そして笑顔になれる大会づくりは、生涯スポーツの普及や振興はもちろん、持続可能なまちづくりにも一役買っている。

国内最長の本州横断「川の道」514キロ 人気のジャーニーラン

太平洋から日本海まで本州を横断する日本一長いランニング大会「『川の道』フットレース」。最長514キロにも及ぶこの大会は参加希望者が後を絶たず、例年抽選になるほど人気だ。このほかにも青森県や福島県などで夜通し走り続けるような超長距離走「ジャーニーラン」(※①)を開き、山々を駆けめぐるトレイルランニング(トレラン)や仮装マラソン、小学生でも楽しめる渓谷ウォーキング、プレイベントでそば打ち体験など、趣向を凝らした大会を年間20以上も主催している。

 
マラソンやジョギングをする人は東京マラソンが始まった2007年前後から増え続けていたが、12年をピークに減少し始め、頭打ちの状態が続いている(※②)。しかし、より長い距離にチャレンジするランナーは増える傾向にあるという。ランニング大会を開催する団体は複数あるが、スポーツエイド・ジャパンの大会には大勢が詰めかけており、毎年のように新企画がスタート。運営をサポートするボランティアまで期限前に定員に達してしまうほど人気だ。魅力はどこにあるのか――。代表の舘山誠さんに話を聞いた。

 
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(2019年12月22日に開かれた「年の瀬マラソンin所沢」でランナーを見守る舘山誠さん)

スポーツで社会貢献、社会的弱者も楽しめる大会

「スポーツエイド」は、もともと飢餓で苦しむアフリカの人々を助けようと、英国でアスリートが集まって開いた大会。この理念に基づき、スポーツを通じて社会貢献し、社会的に弱い立場の人たちに楽しんでもらえるような活動をしたいという思いを込めました。日本各地で大会を開くから「ジャパン」で、いつかは世界を目指すという夢もあります。

 
法人設立は2003年5月。生涯スポーツを広め、健全な社会づくりを進めるというのが理念です。営利目的ではなく、組織的に社会貢献するため、NPO法人にしています。現在、常勤のスタッフは5人。そのほか、常連のボランティアが20人ほどいます。

 
もともと山登りが趣味で、日本百名山を制覇したり、欧州アルプス遠征などをしたりしていて、40歳で記念に5キロのマラソン大会に出たのです。その時は苦しくて二度と走りたくないと思ったのですが、達成感が忘れられず、半年後にはフルマラソン、1年後には100キロのウルトラマラソンを完走しました。そのころに100キロでは日本で一番古い山形県の「鶴岡100キロマラソン」に出場。そこで感銘を受けました。大会のコンセプトは、ランナーとスタッフがともに楽しめるというもの。コース途中に設けられたエイドステーションでは麺類やおかゆなどいろいろな食べ物が提供され、スタッフがランナーの名前を呼んで応援してくれる。初参加でも温かく受け入れてもらえたことが何よりうれしかった。

「楽しかった」「また来年も」 ランナーが喜ぶ大会づくり

あの感動を関東でもみんなに味わってもらいたいと思い立ち、翌年には地元・埼玉県の秩父市と毛呂山町の間を通る林道「奥武蔵グリーンライン」を走り抜ける「奥武蔵ウルトラマラソン(通称オクム)」を立ち上げました。2020年には27回を迎える、私たちの中では3大大会のひとつになっています。コースはアップダウンが連続する厳しいものですが、当時の参加者たちは口々に「楽しかった」「来年もやってほしい」と言ってくれた。

 
その後、この大会に向けた練習会という位置づけで、暑さや長時間走行に慣れるための8時間耐久大会、さらには甲府市から雁坂(かりさか)峠を越え、秩父市から川越市へ進む「秩父往還140キロ」を開いた。山道を夜通し歩き続ける「カモシカ山行(さんこう)」にちなんで、「カモシカマラソン」なんていう大会もやりました。

 
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(「ランナーが喜ぶ顔が何よりうれしい」と話す(右から)舘山さん、常勤スタッフの二井信さん、遠藤清孝さん、濱田達矢さん)

 
どんな大会も、基本は自分が走りたいコースです。幼いころは虚弱体質で、母の夢は遊んで汚れた服を洗うことでした。当時はその母から渡された地図帳を見て、空想で日本中、世界中を旅していました。不思議なものでそのころに覚えた地図が頭の中に入っていて、新たに大会をつくるのに役立っている。「川の道」もひらめきから道がつながりました。

 
街道の歴史にも魅力を感じます。2019年に始めた「日光千人同心街道四十里ジャーニーラン(160キロ)」は、江戸時代の武士が幕府の家臣として日光東照宮の火の番に行くために通った道をたどるルートにしています。考えれば新しいアイデアはどんどん膨らみ、距離も延びていく。20年は24の大会を開催予定ですが、まだまだ「新しい大会をつくりたい病」は治りそうにありません。

 
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(本州横断を目指すランナーたち=2019年4月、スポーツエイド・ジャパン提供)

すべてのランナーが満足できる大会目指す

今のように大会ができるようになるまでは失敗もあり、多くのことを学んできました。スポーツエイド・ジャパンの大会参加費はかなり安く設定されています。例えば、12月に埼玉・所沢で行う「年の瀬マラソン(42.195キロ)」は3200円(高校生以下2800円)です。しかし、安かろう悪かろうでは意味がない。「良品安価」という方針で、常にいかに経費を切り詰めるかという努力を惜しまない。法人として寄付や補助金には頼らず、基本的には参加費だけで大会運営費、事務所の家賃や職員の給料もまかなっています。

 
実は大会のエイドで提供する食べ物や飲み物は大した出費ではありません。遅いランナーこそ大切にしているので、買い足しに行ってむしろ豪華になっている時もある。大会の一番のネックは人件費ですが、警備員を配置しない代わりに、協力してくれるスタッフやボランティアがいる。みんなランナーなので体力のある人ばかりで助かっています。

 
自治体から大会開催の依頼も舞い込みます。財政が苦しい自治体でもお金をかけずにイベントを開くことができ、こちらは培ってきたノウハウが地域振興に役立つ。すでに山梨県や新潟県で実現しています。年間を通してみると、赤字の大会もありますが、その分、黒字の大会があるので特に問題ありません。

 
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(スタッフたちはもともと大会の参加者だったという)

 
「安い参加費で大丈夫ですか?」とよく心配されます。しかし、生涯スポーツを推進する立場として、経済的に苦しい人も、社会的に弱い立場の人も一緒に楽しんでもらいたい。だから増税に伴う以外の値上げは考えていません。幸いにもスタッフに恵まれ、多くのボランティアのみなさんにも支えられています。ランナーにストレスを与えず、喜んでもらえたらそれが一番。安くていいものを手に入れたら、誰もが幸せを感じるのと同じです。

 
ランニングやウォーキングは年を重ねてもできる。楽しい大会があれば、さらに生涯スポーツとして普及していくはず。健全な社会づくりのために、まずは多くのランナーに健康的で幸せでいてほしいと願っています。「無私利他(むしりた)」。人に喜んでもらうことが私たちの喜び。そんな運営を目指しています。

優しさに触れ感謝の気持ち 焼き鳥店「炭や」女将の飯塚さん

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(「スタッフやランナーたちの温かさは、まるで家族」と話す飯塚直美さん)

 
ランニング歴18年という焼き鳥店「炭や」女将(おかみ)の飯塚直美さんもスポーツエイド・ジャパンに魅せられた一人だ。これまでに「オクム」や「秩父往還」を走り、「川の道」は2015年からエントリーを続けている。「疲れ果て、眠たくて眠たくて極限状態になっても、必ず自分に必要な人が現れ、助けられてきた。ジャーニーランは一人ではできない。大会に守られているからこそ、ゴールを目指せる。完走できても、できなくても、感謝の気持ちで満たされる。そんな大会です」と飯塚さん。

 
スタッフとしてサポートに回ったり、応援として大会を盛り上げたりすることもある。「なるべくお金をかけず、ランナーのために力を合わせて一生懸命働いているスタッフの世界を知ると、走らせてもらっていることがよくわかる。スタッフだけでなく、一緒に走っているランナーも、通りすがりの街の人もみんな応援してくれる。人の優しさとふれ合えるからこそ大好きです」

「年の瀬マラソンin所沢(42.195キロ)」(埼玉県所沢市の所沢航空記念公園)

12回目を迎えた年末恒例の大会。毎年、思い思いの仮装を楽しむランナーで盛り上がり、エイドは温かいカレーやうどん、バームクーヘンやフルーツなど食べ過ぎてしまうほどの充実ぶりだ。

 
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(※①)
■旅を主体とした超長距離走で、走りを主体としたウルトラマラソンとは異なる。交通ルールを守り、地図を読みながら目的地を目指す仕組みで、コース上には誘導員や目印などはない。夜間走行は避けられず、着替えや飲食物などは携行するか途中で調達しなければならない。途中棄権をする時も含め、最後まですべて自分の意思で判断し、責任を持って行動することが求められる。2019年にスポーツエイド・ジャパンが開いた大会では「みちのく津軽ジャーニーラン(263キロ、146キロ)」(7月)、「うつくしま、ふくしま。ジャーニーラン(253キロ、123キロ、130キロ)」(9月)などがある。

 
(※②)
■笹川スポーツ財団の2018年の全国調査によると、ジョギング・ランニングを週1回以上した人は約550万人。30代が8.3%で最も高く、次いで20代が7.3%、50代が5.8%、40代4.5%だった。ランナーは東京マラソンが始まった前年の06年から12年まで増加を続けていたが、その後、減少に転じ、18年に再びわずかながら増加した。

 
■今後の大会案内や問い合わせは「スポーツエイドジャパン」(事務局・埼玉県毛呂山町)のホームページへ。

 
■焼き鳥店「炭や」(東京都千代田区一番町4-3、03-3221-7890)はランナーが集う店としても知られている。土日祝日は定休日。予約可能。

 
<WRITER・写真>小幡淳一

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