2030SDGsで変える
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東京2020大会はレガシーとなれるか?SDGs達成を目指す【スポーツ×SDGs】3つのキーワード

更新日 2022.02.02
目標13:気候変動に具体的な対策を
目標16:平和と公正をすべての人に
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

「4月6日」はなんの日だか、ご存知ですか?
 
1896年のこの日、ギリシャのアテネにて近代オリンピックが初めて開催されました。この記念すべき日を、国際連合(国連)は「開発と平和のためのスポーツの国際デー」と定め、以来、4月6日は世界各地でオリンピック・パラリンピックをテーマとしたイベントが開催されるようになりました。今年4月5日には、国連広報センター(東京)が『スポーツで気候行動に取り組もう!』をテーマとしたトークイベントを東京都渋谷区の地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)で開催。その模様は、FaceBookを通してライブ配信されました。
 
来年2020年には、夏季オリンピック・パラリンピック競技大会が、東京で開催されます。世界中からトップアスリートが集結し、その活躍に注目が集まる一方で、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以降、「東京2020大会」と略)は、SDGs(持続可能な開発目標)の観点においても大きな節目となることが期待されています。大会のメインコンセプトのひとつとして、「持続可能性」が重要なテーマに位置づけられているからです。
 
トークイベントには各界を代表するみなさんが参加し、イベントの後にはインタビューにも応じてくれました。それぞれの立場から語ってくれたSDGs達成に向けた思いから、重要な3つのキーワードが浮かび上がりました。
 
①スポーツの力
②個の意志
③若い世代と行動力
 
東京2020大会は世界の将来に向けてレガシーとなりうるのか――。達成のカギを握るこれらのキーワードの意味はどのようなものなのでしょうか?
 

<登壇者>
■室伏広治(公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 スポーツ・ディレクター)
■高橋成美(公益財団法人 日本オリンピック委員会(JOC)アスリート委員会 委員)
■澤田陽樹(一般財団法人 グリーンスポーツアライアンス 代表理事)
■栃木県立佐野高校ラグビー部の部員のみなさん
■星野智子(地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)運営委員)
<ファシリテータ>
■根本かおる(国連広報センター所長)

キーワード① “スポーツの力”でSDGs達成を目指す

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(公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 スポーツ・ディレクター、室伏広治さん)
 

東京2020大会が取り組む「持続可能性」のコンセプトとは?

「きれいな環境でなければスポーツはできません」
 
トークイベントは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会スポーツディレクターを務める、室伏広治さんのこの言葉から始まりました。スポーツだからこそできるSDGs達成を目指すひとつめのキーワードは、“スポーツの力”です。
 
ここ数年、世界中で自然災害の発生率が増加傾向にあり、その原因の多くは、気候変動による環境の変化にあると言われています。国連は2015年に世界共通の取り組むべき社会課題や環境問題としてSDGsの17の目標を策定しました。このうち、13番目の目標は「気候変動に具体的な対策を」と定めています。
 
気候変動に関しては、2015年のCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定が「産業革命以降の気温上昇を2度未満、できれば1.5度未満に抑えること」を目標にしました。しかし、世界全体で温室効果ガス削減などへの取り組みは広がっているものの、実現は厳しいと言われています。
 
そこで国連は、対策を推進させるべく、2018年12月にポーランドのカトヴィツェで開催されたCOP24(国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議)で、スポーツ界とともに気候変動対策に取り組む『Sports for Climate Action Framework(スポーツを通じた気候行動枠組み)』を発足させました。「世界のスポーツ・コミュニティは、気候変動に取り組むために具体的なアクションを行うこと」「気候変動についての世界の市民の意識を高めて行動を促すため、包括的なアプローチとしてスポーツを活用していくこと」の2点をかかげ、スポーツ界は国連と協同してこれまで以上にSDGsの達成に向けて取り組むことになりました。
 
『Sports for Climate Action Framework』には、国際オリンピック委員会(IOC)をはじめ、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(TOCOG)も署名しました。気候変動対策は、2020年東京五輪のメインコンセプトのひとつに位置づけられているのです。
 
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(組織委員会から発表された、東京2020大会の持続可能性のコンセプト図。それぞれ具体的なアクションも盛り込まれている。出典:「東京オリンピック・パラリンピック競技大会」公式HPより)
 
イベントにおいて、東京2020大会における気候変動対策について、室伏広治さんから次のような発表がありました。
 
「きれいな環境でなければスポーツはできません。この課題に対して、東京オリンピック・パラリンピック大会委員会は、持続可能性を大会の重要な取り組みに位置づけ、“Be better, together/より良い未来へ、ともに進もう。”というコンセプトを掲げました。そして2018年12月には、国連が策定した『Sports for Climate Action Framework』の基本合意書にも署名し、プロジェクトに参加することになっています。
 
スポーツには、未来を変える力があります。
そしてスポーツには、人を動かす力があります。
 
今後は、国連の協力も得ながら、東京2020大会が持続可能な社会の実現に向けた一歩となるように、各取り組みを進めてまいります」
 

“チーム・アスリート”で取り組むSDGs

環境問題について考え、取り組むことは、結果的にスポーツの環境改善にもつながります。そして国連がSDGsを推進していくうえでスポーツ界に期待するのは、まさに室伏さんが語った“未来を変える力”と“人を動かす力”です。
 
フィギュアスケーターとして2014年ソチ冬季五輪に出場し、現在は日本オリンピック委員会(JOC)のアスリート委員会委員を務める高橋成美さんも、「アスリートという大きなチームとなって、気候変動対策に貢献していきたい」と言います。
 
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(公益財団法人 日本オリンピック委員会(JOC)アスリート委員会委員、高橋成美さん)
 
「フィギュアスケートは、個人競技なのでチームで取り組むということは難しいかもしれません。しかし、競技人口は少なく、どのアスリートもお互いに幼い頃から知っています。だからみんなとても仲がいいのが、フィギュアスケート界の特徴でもあると思っています。
 
このスケート仲間の深い絆とフィギュアスケーターが持つ、インフルエンス力(影響力・拡散力)を生かして、気候変動対策に取り組んでいければと考えています。
 
それともうひとつ、私は、JOCのアスリート委員会の委員も担当しており、さまざまな競技のオリンピアンとの交流があります。アスリートは、スポーツという共通のフィールドでつながり、競技の垣根を越えて深い仲間意識で結ばれています。そうしたアスリート、オリンピアンという大きなチームを組んで気候変動対策に取り組んでいければ、何かを大きく変えることができると信じています。そのために私自身もアクションを起こして、チームのために貢献したいです」
 
ひとりのアスリートが行動を起こせば、それに共鳴する多くのアスリートがともに行動するようになり、活動は一気に大きなうねりとなって拡大していきます。
 
スポーツ界が一丸となり、スポーツの力を大きな推進力に変えて、2030年までの達成を目指すSDGsの目標達成に貢献することが、このイベントからあらためて発信されたのです。

キーワード② “個の意志”でSDGs達成を目指す

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一般財団法人 グリーンスポーツアライアンス 代表理事、澤田陽樹さん)
 

自らの意志でアクションを起こすのがスポーツ選手の強さ

ふたつめのキーワードは、スポーツ選手が持つ“個の意志”です。グリーンスポーツアライアンスの澤田陽樹さわだ はるきさんは、国連とスポーツ界がタッグを組んでSDGsに取り組むことのメリットを次のように説明してくれました。
 
「2015年に国連でSDGsの17の目標が策定され、同年開催されたCOP21にて具体的な目標が盛り込まれたパリ協定が締結されました。しかし、国と国、政府と政府間で共有はできていても、そのメッセージが十分に市民レベルにまで届いているのかというと、私は届いていないと感じています。だから今ひとつ、推進力が生まれないという背景があります。
 
そこにスポーツが大きな力になるはずだと考えています。なぜならばトップアスリートも部活動レベルの選手も、スポーツ選手には共通する“強い意志”があるからです。スポーツには人と人をつなぎ、人を動かす力がある。これは世界共通で、だからこそ『Sports for Climate Action Framework』が発足したことは大きな意義があると言えるでしょう。
 
同時にSDGsを実際に推進していくには、最終的には個の意志が大事だと私は思っています。青臭い言い方でいえば、そこに魂が込められているかどうか。国連が言っているからやる、先生に言われたからやるのではなく、個々がやりたい、何かを成し遂げたいという意志、発露があってはじめて強い推進力やアクションが生まれて行きます。その素地を、多くのスポーツ選手は身につけています。
 
だからスポーツ選手が自らの意志でアクションを起こし、本気でSDGsを推進していけば、間違いなく、SDGsは大きく動いていくはずだと思っています」
 

SDGsを達成する心得“Think Globally , Act Locally”

室伏さんも、イベントの中で、「SDGsを達成するにあたりもっとも大切なことは、一人ひとりの意識を変えることだ」と述べました。
 
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「東京2020大会は、とても幸運なことに5つの新しい競技が開催されます。そのうちのひとつにサーフィンがあります。彼らは自然を相手にするスポーツでもあることから、選手も団体も環境問題に積極的に取り組んでいます。たとえば、善家尚史ぜんけ なおふみさんというサーフィンの選手は、海に入って帰る前に、かならずゴミを拾っていくという活動を行っています。これは、本当に素晴らしい活動です。同時に誰にでもできる、身近なアクションです。
 
SDGsを本当に達成するには、グローバルな活動ももちろん重要ですが、こうした彼のような一人ひとりのアクションが状況を変えていくことにつながります。またオリンピック・パラリンピックは人の意識や価値観を変えることができるチャンスです。そのためにも、善家さんのような一人ひとりの意識や、アクションが、2020年東京五輪を成功に導くには必要だと思っています」
 
“Think Globally , Act Locally”。室伏さんはSDGsを達成する心得として、個々が持つべき意志と行動を、このような言葉で表現しました。地球規模で物事を考え、足元から行動する。その両方の思考とアクションが、SDGsを達成する原動力となるのです。

③“若い世代”と“行動力”でSDGs達成を目指す

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(栃木県立佐野高校ラグビー部男子チームキャプテン、渡耒遊夢さん)
 

「日本を支えていくのは、僕ら若い世代」

今回のイベントでは、室伏さんや高橋さんのふたりのオリンピアンのほかに、スポーツ選手として栃木県立佐野高校ラグビー部のメンバーが登壇しました。
 
佐野高校は、文部科学省が社会課題や環境問題の教育に積極的に取り組み、グローバルな人材の育成に力を入れる学校を認定する、SGH(スーパーグローバルハイスクール)指定校のひとつです。この佐野高校ラグビー部男子チームのキャプテン、渡耒遊夢わたらい ゆうむさんは、ポーランドで行われたCOP24に参加。渡耒さんは、そのCOP24に参加したことで学んだことを発表しました。
 
スポーツだからこそできるSDGsの取り組みの3つめのキーワードは、“若い世代”と“行動力”です。
 
「私たちの学校はSGHに指定されていることから、生徒は世界の社会課題や環境問題について日頃から考えています。環境問題を解決していきたいという思いは強く、もっと環境問題について知りたいと願って、今回、COP24に参加させてもらいました。
 
思いはあっても普段の生活をしているだけでは、なかなか世界の人とつながることはできません。しかし、自分たちから行動を起こせば意外と簡単に世界の人とつながれて、一緒に環境問題や社会課題を解決していこうとする、さまざまな仲間と出会うことができました。
 
高校生が国際会議の場に立つことはなかなかできないことです。その貴重な経験を生かし、私たちが先頭にたって、自分たちと同じ若い世代をひっぱっていけるように、これから活動していけたらと思っています」
 
そしてイベントの最後に渡耒さんは、同じ若い世代に向けて次のようなメッセージを送りました。
 
「これからの日本を支えていくのは、僕ら若い世代。若い世代の人たちが、一緒に行動できれば、大きな力を発揮できるはずです。できないということはないので、みなさん一緒に活動していきましょう」。
 

「行動をしない大人が子どもたちの未来を奪っている」。その言葉に込められた思いとは?

そして、もうひとり、今回のイベントで注目を集めたのが、佐野高校ラグビー部女子チームのキャプテン、大川菜月おおかわ なつきさんの発表です。
 
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(栃木県立佐野高校ラグビー部女子チームキャプテン、大川菜月さん)
 
「2018年夏、当時15歳のスウェーデンの少女、グレタ・トゥンベリさんが国会前で2週間の座り込みを続け、温暖化についてもっと危機感を持つべきだということを主張しました。その行動はヨーロッパ中の子どもたちに伝播し、各地で同じように子どもたちが学校を休んで、政府に気候変動対策を求める抗議活動が行われたそうです。
 
その彼女がCOP24で語ったスピーチはとても印象に残り、胸に刺さりました。
 
行動をしない大人が、子どもたちの未来を奪っている……。私はこの彼女の言葉を聞き、行動しなければ何も始まらないと思いました。そしてたとえ小さくても地道な行動を起こすべきだと思い、ラグビー部のみんなと今、自分たちができることを考え、取り組むべき具体的なアクション案として『部員が1カ月に使用するペットボトルの数を集計』『部員のサイズアウトして使っていないウェアを集計』『ラグビー大会などで気候変動の影響を軽減するためのボランティア活動の機会を探す』などを行うことを決めました」
 
グレタ・トゥンベリさんが起こしたアクションは、若い人たちの行動力は大きな影響力を持っていることを証明するものです。一歩を踏み出すこと。アクションを起こすこと。これは、室伏さんが発表した“Think Globally , Act Locally”のコンセプトにも通じます。若い世代の意志と行動力は、世界を変える力を持っているのです。

東京2020は未来のベンチマークとなる大会に

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(国連広報センター所長 根本かおるさん)
 
最後に、今回のイベントのファシリテータを務めた、国連広報センター所長の根本かおるさんがイベントを締めくくりました。
 
「気候変動に対する対策。これは全世界にとって喫緊の課題です。来年、東京で行われるオリンピック・パラリンピック大会は、SDGsを大会の基本コンセプトに位置づけ、具体的な運営計画やプランがデザインされた、はじめての大会になります。そういった意味でも、関心度の高いイベントになるでしょう。東京2020大会の開催まであと1年。その成果を大会以降もレガシーとして残していけるように、さまざまなスポーツ団体と協力しながらSDGsに取り組んでいければと思っています」
 
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(イベントの模様は、FaceBookを通じてライブ中継された)
 
大きな影響力を持つ一方で、その規模から安全な自然環境と莫大な運用費が必要なオリンピック・パランピック大会にとって、持続可能性は大きな課題です。その意味でも、東京2020大会はこれからの国際大会のベンチマークになるような大会にしたいと、根本さんは言います。
 
東京2020大会は、アスリートたちの活躍のほかに、どのような成果が生まれるのでしょうか。SDGsという観点からも、楽しみなオリンピック・パラリンピック大会になりそうです。
 
 
<編集・WRITER>サムライト <撮影>鈴木智哉

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