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【対談】スポーツの力で社会変革のムーブメントを。社会的に持続可能なスポーツイベントとは【未来メディアカフェVol.22に向けて】

更新日 2022.02.02
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標11:住み続けられるまちづくりを

一般社団法人「Sport For Smile」代表理事・梶川三枝さん<左>、朝日新聞スポーツ部・前田大輔記者<右>
 
今年(2019年)9月にはラグビー・ワールドカップが、そして2020年にはオリンピック・パラリンピックが日本で相次いで開催されます。世界中から集まるトップアスリートの競演に日本中が熱狂し、大きな感動や勇気を人々にもたらすことになるでしょう。
 
そして今、こうした世界最高峰のスポーツイベントをはじめ、世界中のさまざまなスポーツシーンでは、環境保全や人権保護などの社会的課題とスポーツを関連づける、“サスティナビリティ”がキーワードになってきています。華やかな表舞台の一方で、例えばオリンピックの場合、巨大ビジネスとなって運営費が肥大化し続けてきたことで、様々な社会的影響をもたらし、これらの社会的負荷から、開催地に立候補する国が限られてきています。また、マイナースポーツでは経営難でチームが存続できなくなった、という事例も絶えません。スポーツビジネスにおけるマネージメントと、それを取り巻く社会環境は今や、密接不可分な関係になってきているのです。
 
こうした世界的な情勢にあって、社会的に持続可能なスポーツイベントの姿とはどういったものなのでしょうか。
 
「サステナブル・ブランド国際会議2019東京」(2019年3月6日、7日開催/主催 株式会社 博展、Sustainable Life Media,Inc)でもこれをテーマにディスカションに臨んだ、朝日新聞・スポーツ部の前田大輔記者と、「スポーツで社会を変える」日本初のプラットフォームを掲げる一般社団法人「Sport For Smile」代表理事の梶川三枝さんに、国内外の現状と、これから向かうべき方向性について語り合ってもらいました。(対談収録は2019年2月15日)
 

日本と欧米には、SDGsへの理解度とコミットメント力の差がある

前田大輔記者(以下、前田):東京2020オリンピック・パラリンピックの招致が決まり、取材を進めていく中で「SDGs」という言葉を知りました。取材を通して感じるのは、SDGsはメガスポーツイベントも含めて世界のトレンドの中心になっているということ。その流れの中で2020年の大会があるということを勉強させてもらっています。
 
梶川さんは、現在のスポーツ界におけるSDGsの流れをどのように感じていますか?
 
201902_sdgs_sportsevent01
 
梶川三枝さん(以下、梶川):私は「スポーツのチカラをよりよい社会づくりに役立てる」ことをミッションに掲げ、Sport For Smileという活動を運営しています。当初は、スポーツをしようと思ってもできないような方々にスポーツをする機会を提供して、彼らの人生を豊かにするという取り組みから始まりましたが、ここ数年は、IOC(国際オリンピック委員会)やFIFA(国際サッカー連盟)が、SDGsやサステナビリティへのコミットメントが発表されるなど、世界的にスポーツ界が「サステナビリティ」というテーマにフォーカスし、シフトしてきていることは強く感じています。
 
前田:それはIOCやFIFAが自発的に発信していることなのか、それとも社会全体の流れの中でスポーツ業界も変わってきたのでしょうか。
 
梶川:両方の流れがあったと思います。もともと国連本部内にUNOSDP(国連開発と平和のためのスポーツ局)という部署がありました。具体的には、スポーツを通して発展途上国、紛争国の支援活動やMDGs(国連ミレニアム開発目標)の推進を行っていこうという取り組みでしたが、2015年のSDGsの採択を受けてなくなったんですね。
 
ただ、活動そのものがなくなったというわけではなく、より直接的な連携をしていきましょうということで、例えば昨年(2018年)12月に開催されたCOP24(国連気候変動会議)でも共同声明「Sports for Climate Action Framework(スポーツを通じた気候変動枠組み)」が発表されるなど、IOCと国連の連携はSDGsをきっかけにより強固に、深くなってきたと言えるでしょう。
 
前田:そうした流れの中でアメリカでは、チームがいろいろな団体を立ち上げて、SDGsに関連するカンファレンスやサミットを開催し、お互いの活動を報告しあって情報を共有したり、スタジアムの設計やサービスなどもサステナブルな運営が議論されたりするなど、スポーツの世界でもSDGsに積極的に取り組む動きがみられます。
 
しかし、日本のスポーツ界はSDGsにまったく取り組んでいないというわけではないのですが、欧米のようにあまり具体的な形となって見えてきません。何が違うのでしょうか。
 
梶川:日本とグローバルなスポーツ界の動きを比較して感じるのは、SDGsへの貢献意識とコミットメントの差ですね。企業や団体がサステナブルな運営の方針を打ち出せば、関係者やファンもアクションを起こす。スポーツを取り巻く環境全体でサスティナブルな社会づくりを目指そうとします。スポーツには、そうした人を動かす力がある。言い換えれば、それこそスポーツがやるべきことでもあると私は考えています。
 
前田:実際にトップアスリートが発信するメッセージは、時に社会を動かす力があります。チームが理念や方針を打ち出し、アンバサダーのような存在としてアスリートが発信する。そうしたチームと個が連動していくことが大切だということですね。
 
梶川:はい。環境や規模の違いはあると思いますが、たとえばNBAや大リーグなどアメリカのプロスポーツ選手は自ら財団をつくったり、NHLの選手は環境問題に関心が高い選手が多い。アメリカのスポーツ選手の中には、アスリートとしての活動と、社会活動のどちらも同じくらいの比重で取り組んでいる人も多いです。
 
ただそれは、年俸や社会的なステイタスの違いという背景もあるかと思います。プロ選手の本業は、コート上やフィールドで成績、結果を出すことですから、まずはそれが重要ですが、その知名度を活かして、社会的責任を果たす活動に取り組む選手が増えてくるとよいと思っています。そして、選手の本業をサポートすることを大前提としつつ、そのスポーツの力を社会に貢献できるようなプラットフォームやシステムをつくることを、チームの役割として見直していくべきなのではないかと考えています。
 
前田:今、日本でそうした取り組みを積極的に行っている団体あるいはプロチームはあるのでしょうか。
 
梶川:実際に私がお手伝いをしているBリーグ(バスケットボールのプロリーグ)や、Jリーグ(サッカーのプロリーグ)は、地域密着型の活動を推進し、社会的活動に積極的に取り組んでいます。とくにBリーグは、「B LEAGUE Hope」というSDGsを掲げたイニシアチブを展開しています。最近は、ほかのスポーツチームなどからもトップの方から問い合わせをいただくことが増えてきました。
 
前田:経営者がなぜ直接、問い合わせてくるのでしょうか。
 
梶川:SDGsのグローバルな広がりは数年前からありましたが、企業がSDGsに取り組むことで経営的なメリットがあることが、スポーツの世界でも理解されるようになったのだと思います。ニュースに取り上げられ、スポーツに関心のない方もチームのファンになってくれるなど、SDGsへの取り組みや社会的責任活動はマーケティングとしても機能するメリットがある。そうした評価が、トップからSDGsや社会的責任活動に取り組んでいこうとする動きにつながっているのでしょう。
 
前田:具体的には、どのような活動が行われているのでしょうか。
 
梶川:たとえば、Bリーグでは長期療養を必要とする子どもたちの支援をしています。当初はいくつかのチームに限定されていましたが、最近ではチーム数も増えてきているようです。現場もこうした動きがプロチームの活動の一部として重要なんだということを体感でき、学びを得て、スポーツと社会が密接に関連していく基盤ができあがっていくのだと思います。この体験の積み重ねが重要だと、私は考えています。

コミュニティに密着した“ソーシャルインクルージョン”を見据えた環境づくりを目指す

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前田:オリンピック・パラリンピックでは、世界中から人が集まることから、いろいろな設備を大規模に開発しなければいけません。しかし、これまでのオリンピックを振り返ると、イベントが終わった後に使用されない施設が残ってしまうなど、持続可能な社会づくりという点で大きな課題を抱えてきました。IOCとしても莫大な運営費の高騰と環境への負荷は危惧している問題です。その結果、オリンピック開催地に立候補する国が年々、減ってしまうなど、オリンピック、ひいてはスポーツ業界にとって、サステナビリティはとても重要なテーマになってきているという流れがある。
 
そういう意味でも、いろいろなことを考えていかなければいけない中で迎える来年、東京2020オリンピック・パラリンピックは、アスリートの活躍だけでなく、SDGsの観点からも注目されます。あと1年あまり、今、日本ができること、あるいはすべきことはありますか?
 
梶川:海外のスポーツ業界の多くは、事業運営の側面においてサステナビリティは考慮することが当たり前という認識にすでになっています。そこに日本はまだ追いつけていないというのが正直な印象なので、まずはそこを変えていく必要があるでしょう。2020年で終わるのではなく、2020年の後のことも考えた、サステナビリティに配慮した設備やシステム、仕組み、環境づくりに取り組んでいければ、長期的にはメリットが大きいのではないか、と思います。
 
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前田:アメリカでは、ベースボールでも、バスケットボールでも、地域で必要なものがスタジアムにあり、だから地元のファンが自然とスタジアムに集まるという場所が多い。スタジアムがハブとなって地域住民の要求や課題解決に取り組み、それが地域の経済活性化にもつながっています。そのモデルは、社会的に持続可能なスポーツの在り方のヒントなのかなと思っています。
 
梶川:そうですね。アメリカは特にコミュニティの意識が強いですね。地域社会にとってもお手本であるべきプロスポーツチームという社会の構図が確立されているので、間違ったことは絶対にできない。コミュニティが求めていることをやる、という意識が選手自身もすごく強いですね。
 
最新のスタジアムはITを駆使したシステムやテクノロジーも素晴らしいけれど、食料廃棄物の循環などもすごくケアされています。コミュニティが求めていることに応えることの重要性を、チーム全体が理解しているのです。自分たちがやりたいことではなく、コミュニティから求められていることをやる、それがチームのブランディングにもつながります。そうしたマーケティング的な思考が、欧米のスポーツシーンではかなりしっかりと根付いています。
 
前田:貧困地域にあるバスケットボールチームは、食料をホームレスに分けるというような活動をすることでチームが社会のコミュニティの中の一員であるということをチーム内で共有しているというケースもありますね。また地域のゴミ拾いなどボランティア活動に選手も一緒に参加したり、参加することでポイントをためるとチケットが手に入るインセンティブがついているなど、チームにとって地域活動に参加することが利益になることを、選手たち自身もよく知っているのでしょう。
 
梶川:自分たちのファンはだれなのか、コミュニティで困っていることはなんなのか、そうしたことへの探求心が強く、把握する力も必然的に身についているのだと思います。重要なのは、彼らは頼まれたことをやっているのではなくて、自分たちで考えて何が必要とされているのかをきちんと理解していること。そのため、なぜ自分たちがこの取り組みをしているのかをクリアに説明できます。だからチームのブランディングになるという相乗効果が得られるのでしょう。
 
前田:スタジアムをつくるにしても、チームの応援をするにしても、きちんとマーケットの声やコミュニティの声を聞くことが、チームの運営では大事だということ。そうしたコミュニティを基盤にしたチーム経営が、持続可能なチームづくりにつながっていくことは、多くの事例からも証明されています。
 
梶川:そうですね。そこで事業をしていることへの恩返しという意識が、チーム全体にしっかりと行き渡っているのだと思います。日本ではSDGsというと、国連や国がやっていることで、自分には関係ないと思う人が多いのですが、プロチームが活動している場所は地球の一部。だからその地球の一部である地域の課題に対して責任を持つことは、不可欠な考え方になります。その上でチームが地域に根ざし、持続可能なチーム経営を構築するには、それぞれのチームあるいは個人ができることや、持っているアセットをもっとも効率的に活かせてインパクトが出せることは何なのかを考えることが必要だと思っています。
 
そうしてスポーツチームが、コミュニテイに貢献していくビジョンをメッセージとして掲げてコミットすることで、地域のまちづくりに寄与していくことが理想です。経済的な課題も重要ですが、スポーツだからこそできる社会的責任活動にも、積極的に取り組んでいってもらうことがより効果的なSDGsへの貢献につながっていくのだと思います。
 
前田:住民の高齢化や、災害などで避難生活を余儀なくされているなど、地域にはそれぞれが抱えている課題があります。そうした地域の課題を包括して地域を活性化していくアクションや仕組みづくりを考えていかなければいけませんね。最近では、企業でも女性活躍推進が進んでいたり、地域社会でも共生社会ということで、障がいのある方々への支援活動なども活発に実施されています。
 
梶川:先日、ある海外の有名プロチームの財団の方から連絡をもらってお会いしましたが、彼らは今、前田さんがおっしゃった“ソーシャルインクルージョン”(社会的包容力)ということにフォーカスした活動にコミットしていると言っていました。日本でもこれから“ダイバーシティ”と“ソーシャルインクルージョン”は、スポーツにおける重要なキーワードになってくると思っています。
 
前田:2020東京オリンピック・パラリンピックでは、まさにそのふたつのキーワードは大きなテーマになってくるでしょう。
 
現状、日本国内ではSDGsという言葉の浸透度はまだ2割を切る数字で、SDGsの目標を達成するにはまだまだ厳しい状況です。この状況を大きく変えるという意味でも、2020東京オリ・パラの開催意義は大きい。世界中が注目するオリンピック・パラリンピックという国際イベントをきっかけに、SDGsへの取り組みが日本のスポーツ界においてスタンダードになっていっていくことを願っています。
 
梶川:そうですね。スポーツの力で大きな社会変革のムーブメントを創出していきたいですね。スポーツには、それだけの可能性があると信じています。
 
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梶川 三枝(かじかわ みえ)
スポーツのチカラをよりよい社会づくりに役立てることをミッションに掲げ、2010年7月、株式会社 Cheer Blossomを設立。Sport For Smile の企画運営事業とともに、スポーツの社会的責任に関するコンサルティング・サービスを提供。IOCやFIFAも設立に関わったSport and Sustainability Internationalに日本から唯一の創立団体として加盟、日本でのスポーツとサステナビリティに関する情報発信にも取り組んでいる。
https://www.sport4smile.com/about
 
前田 大輔(まえだ だいすけ)
2004年、朝日新聞社入社。09年からスポーツ部で大相撲やサッカーの取材を担当。12年9月から社会部に異動し、13年の東京オリンピック・パラリンピック招致決定後に東京都庁を担当。14年10月からスポーツ部で五輪報道を担当し、16年リオデジャネイロ五輪を取材。現在は2020東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会を担当。夏季五輪としては史上初めてとなる「SDGs五輪」への取り組みを取材している。

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