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静岡市が「SDGs未来都市」として、先陣を切っていく熱意。『SDGsウィーク』の成功と課題

更新日 2022.02.02
目標11:住み続けられるまちづくりを

静岡市は現在、全国の各自治体や企業がSDGsに注目するなかで、強い推進力で活動をおこなっています。田辺信宏市長が2018年2月、「SDGsを施策に取り入れる」と市議会で演説したことを皮切りに、静岡市はSDGsに関するさまざまな活動に力を入れてきました。
 
SDGs研究の第一人者である蟹江憲史教授(慶應義塾大学大学院教授)は静岡市の取り組みについて、「1年弱でここまで形にしたのはすごい」と語ります。2018年5月には国連ニューヨーク本部で開催された『2018 国連ニューヨーク本部SDGs推進会議』に田辺市長が出席してスピーチしたほか、同年6月には内閣府の定める『SDGs未来都市』(※)に選定。そして、2019年1月3〜12日には約1年の活動の集大成ともいえる『SDGsウィーク』を開催するなど、静岡市全体で一気呵成にSDGs普及活動を展開してきています。
 
こうした静岡市のこれまでの積極的な取り組みと、これから挑むべき課題について、蟹江教授と、現場で指揮を執る、静岡市役所企画局の稲葉博隆さんにお話を伺いました。
 
(冒頭の写真について。静岡市企画局の稲葉博隆さん<写真左>と慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授)

SDGsを取り入れることで、「世界に輝く静岡」を実現していく

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──まず、静岡市はどのような経緯でSDGsを施策に取り入れることになったのでしょうか。
 
稲葉博隆(以下、稲葉):もともと静岡市は、2015年から、「世界に輝く静岡」の実現を目標とした総合計画を立てていました。2018年2月の市議会で、その計画のなかで優先的に取り組むべき5つの施策群としてあげていた“5大構想”を加速するツールとしてのSDGsを5大構想に組み込んでいくことを、市長が明言したのです。これにより、「世界に輝く静岡」に向けてどういった取り組みをすればいいのかが具体化しました。
 
静岡市の地方公共団体としての大切な任務は、70万人の市民のために、持続可能なまちづくりを行うこと。それは、SDGsの目指す世界と同じです。世界の目標と市の目標を重ねて考えることで、世界標準のまちづくりをしていこうと。
 
蟹江憲史(以下、蟹江):当時、静岡市が掲げていた“5大構想”は「歴史文化の拠点づくり」、「海洋文化の拠点づくり」、「『健康長寿のまち』の推進」……といったものでしたが、実体がともなわず宙に浮いていました。長期的な目標はあるけれど具体的にはどうしていこうかというときに、SDGsというぴったりとはまるツールを見つけたのは、目のつけどころが鋭かったですね。
 
稲葉:もちろん、静岡市役所という地方公共団体としてまず最初にやるべきことは、市民生活の質の向上のために総合計画をより磨き上げることです。そこに世界標準であるSDGsの169のターゲットを反映し、リスクチェック項目としても活用する、という考え方です。それまでは健康長寿・海洋文化など縦割りのみだった施策にSDGsで横串を刺したことによって、経済・社会・環境の三側面の調和のとれた施策にしていきます。
 
また、SDGsは、市役所だけでなく一般企業や団体、学校、ひいては市民一人ひとりが取り組む必要のある普遍的な目標です。よりよい市民生活のために何ができるのだろう、と問いかけるときに、SDGsはわかりやすい羅針盤となります。この活動にしっかり取り組み、行政と民間の垣根を越えて展開していくことが静岡市としての市民に対する責務であり、日本、ひいては世界に対する貢献でもあると思っています。

TGC(東京ガールズコレクション)ともコラボレーションした『SDGsウィーク』の成功

──2019年1月3日から12日までの10日間、静岡市が一体となって『SDGsウィーク』が開催されました。これは、どのようなイベントだったのですか?
 
稲葉:静岡市内の各地で、あらゆる主体によるさまざまな催しが開かれました。最終日の12日にはクライマックスとして、「ツインメッセ静岡」で大がかりなイベントを実施しました。
 
南館では、各種ブースやステージでのダンス、公開ラジオ、シンポジウム、演劇など、会場全体でSDGsが体感できるようなプログラムが開催されました。そして北館では、若い女性に絶大な人気を誇るファッションイベント、東京ガールズコレクションとコラボレーションをした日本で初めてのSDGsを推進するためのTGCである『SDGs推進 TGCしずおか2019 by TOKYO GIRLS COLLECTION』で盛り上がりました。
 
TGCとのコラボレーションの一番の目的は、多くの方にSDGsを知ってもらうことです。
 
市のステージとして13分間、“SDGs”の文字をバックに、ランウェイを歩くモデルさんにステンレス製の簪(かんざし)をつけていただいたんです。この簪を製作したのは市内清水区の板金屋さんで、女性社長の下、女性社員のアイデアで新しい商品を生み出している会社です。地元の職人が手がけたイヤリングも登場し、最後には2007年のミスユニバースであり、本市の観光親善大使である森理世さんがこれらのアイテムについて説明してくださいました。また、来場者が写真撮影するパネルにも“SDGs”というキーワードが入っており、写真がSNSで拡散されることによって話題にもなりました。まずは、ワードを知ってもらうことからです。
 
蟹江:TGCに興味を持って会場に足を運んでくれた来場者が、「静岡のものを使うこともSDGsの一部なんだ」と気づいて、認識を深めてくれていたらいいですよね。
 
最近では女性向け雑誌『FRaU』が2019年1月号で1冊丸ごとSDGs特集をしたり、ファッションアイテムにフェイクファーを用いたりと、ファッション業界でもサステナブルを意識した動きが多く見られます。ハイブランドが率先して取り組むことで、ファッション業界の中ではSDGsが“おしゃれ”になりはじめているのです。世界の流れをみると、素材をどうするか、使った服をどうするかなどといった課題への取り組みが進んでいます。TGCにもまだまだ発展の余地があるように思います。
 
──SDGsウィークを実施してみて、いかがでしたか。
 
稲葉:この10日間で、これまでの約1年の努力が花開いたという印象でした。市内の企業をはじめ、大学生や高校生など若い方々も参加してくれて、それを見た人たちが「静岡市全体でSDGsに取り組んでいるんだな」と感じてくださったようです。
 
北館で開かれた華やかなTGCに来ていただいたお客さまからも、「(シンポジウムなどが開催された)南館、よかったよ」という感想を言ってもらえました。これは本当に嬉しかったですね。最終的には北館のTGCに7,200人が来てくださり、様々な催しで盛り上げた南館には、市内で開催される1日のイベントとしては異例の10,493人の方が訪れてくださいました。
 
蟹江:これを実現できたのはすごいことですよ。もちろん課題や改善点もありますが、なにより静岡市の勢いを感じます。
 
稲葉:ほかにも、期間を通してさまざまなイベントがありました。中学生によるサミット、さかなクンによる海洋ゴミ講座、ダイバーシティに関する基調講演など……。
 
なかでも、静岡市SDGs中学生サミットはもっともSDGs的なイベントでしたね。事前に市内全43の中学校各校でSDGsに関する理解を深め、当日は各校の代表が意見を発表し合ったあと、実際の市議会本会議場で、市議会議員役として当局に質問をしてくれました。またJICA東京SDGs吹奏楽団と市内の中高吹奏楽部の合同コンサートも、すごく盛り上がりました。
 
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実は、これら各種イベントには市役所内の各局が担当し、協力してくれているんです。中学生サミットは教育局と議会事務局、海洋ゴミ講座は環境局、ダイバーシティは市民局、ほか広報面での総務局など、「なにかひとつ企画をお願いします」と各局に声をかけて実現しました。市民への普及活動に加えて、市役所内の協力体制を確立できたことが、大きな成果でした。
 

──SDGsウィークには、“静岡でできるじぶんごと”というキーワードが掲げられていました。このキーワードには、どのような思いが込められているのでしょうか。

 
稲葉:SDGsを知ってはいても、それをすんなり“自分ごと”にできる人もいれば、自分には関係のないことだと捉えている人もいます。ですから、SDGsは自分の生活に関係のある“自分ごと”なんだと感じてもらえたら、という思いを込めました。SDGsを知って、理解して、行動するために、それぞれの理解度にあわせて実践していただければいいなと、さまざまな企画を用意したんです。
 
実際、SDGsウィーク実施後に、一歩踏み出してくれる人が増えました。市役所内も議会も変わりましたね。SDGsウィークはおそらく来年も実施しますので、そのときは、TGC当日以外は各局が自立して企画運営してもらえたらいいですね。少なくとも今後3年は普及のために継続していくことで、静岡市の冬のフェスティバルにしたいと思っています。

『SDGsウィーク』まで、1年間の地道な活動を支えた“熱意”

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──SDGsウィークは大成功でしたが、そもそもこの1年、“SDGs”という呼称すらあまり知られていない中、どのように啓発活動をおこなってきたのでしょう?
 
稲葉:静岡市では市職員に対して、「SDGsとはなにか」ということを理解してもらうことから始めました。蟹江先生など専門家を招いて勉強会を開いたり、隔週発行の職員向け情報誌などを発行したりとSDGs普及に取り組んできたんです。その中で特に気をつけていたのは、「身近なものに引き寄せて話をすること」です。
 
たとえば、自治会役員に女性が少ないという問題や廃品回収、清掃活動などをSDGsの視点で説明し、すでに活動に取り組んでいる方々に「活動を繋げ、広げて、よりよいものにしたらどうですか」とお話しました。17のゴールや169のターゲットについては、無理には話しませんでした。
 
また、国際連合に足を運んだ際にSDGsのピンバッジを50個購入し、市役所内の各局を回って「ひとついかがですか?」と手渡してきました。その際、バッジを受け取るということはSDGsに協力してくれるという意思だということをしっかり確認し、一人ひとりに協力を求めたのです。時には1時間以上ふたりきりで対話し、率直な意見を聞くこともありました。そんな地道な活動の結果、少しずつ市役所内に協力者が増えたのだと思います。
 
蟹江:これらの積み重ねの先にSDGsウィークがあったのですね。ここまでいろんなことを集めて実施したSDGsのイベントは見たことがありません。静岡市のSDGs推進にとって、間違いなくひとつの大きなステップでした。
 
これが実現できたのは、稲葉さんがはっきりとやるべきことを見据え、「まずは普及させることだ」と決めてイベントに臨んだからだと思います。地道な積み重ねは誰にでもできることだからこそ、そこにはなにより熱意が必要なんです。
 
──なぜそんなに熱意があるのでしょう。SDGsに対するモチベーションは、どこから来ているのでしょうか。
 
稲葉:一番のあと押しは、市長の力ですね。やはりトップが「これがいい」と牽引しないと、反発は大きくなります。当然、これまでにも反発はありましたが、しっかりと対話することで納得していただくことができました。
 
たとえば、私がSDGsについて説明したときに「要するに縦割りを解消するということか?」と言う方がいらっしゃいました。こちらが「おっしゃるとおりです。縦割りの組織にSDGsという横串を刺すと、それぞれ自分の局のことだけやっていればいい、というわけにはいかなくなります。経済、社会、環境の3つの側面は繋がっているので、環境局が経済についても考え、社会課題も解決したりと、ほかの局のことも意識しながら仕事をしていくことになる。それがSDGsなんです」と話すと、「なるほど、だったらやる意味があるな」と言っていただけました。
 
蟹江:横串を刺すことを面倒に感じる人は多いでしょうが、説明したら腑に落ちてもらえたのは、素晴らしいことですね。すでにあるものに手を加えていくと軋轢も生まれますが、SDGsをこれまで以上に現場に浸透させていきたいですね。

これからの課題と可能性——SDGsを知ってもらうとともに、理解してもらう

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──静岡市にとって、これからの課題はどのようなところにあるのでしょうか。
 
稲葉:いま一番の課題は、これから中小企業にどうSDGsにかかわってもらうか、です。大企業にはSDGsが浸透していますが。
 
ひとつの対策として、SDGsがビジネスチャンスでもあるということを意識してもらうために成功事例を示そうと考えています。市としてアワード(表彰制度)を設置し、きちんとSDGsに取り組んでいる企業に光を当てるとともに、それ以外の方々にも「ではあなたなら、なにができますか?」と自分ごとに置き換えてもらえるようなしくみを作ることを計画しています。
 
蟹江:その場合は、採点基準などをしっかり静岡市内で議論して実現するのが大事だと思います。それは、静岡市がどんなことを「SDGs的」だと考えるかのメッセージにもなります。国のSDGsアワードの状況を見ても、課題は山積みです。表彰式出席者はほとんど男性ばかりである一方、表彰盾を運んでくるのは女性だという状況など、世界と比べるとまだまだ胸を張れないのが日本のSDGsの現状です。2030年までまだ時間はあるので、これらの課題を一つひとつ解決していく必要があると思います。
 
──市としては、アワードのほかにどのような活動を計画していますか?
 
稲葉:企業や学校での講演や訪問などに個別に対応し、手の届くところへSDGsの認知・浸透をさせていく予定です。
 
蟹江:まずSDGsについて知ってもらうこと。そして、理解を深めてもらうこと。そのふたつを同時にやることが重要ですよね。でも……もしかすると、認知からの理解というステップを踏む必要は、必ずしもないのかもしれません。
 
いろんな人がいますから、どちらも平行して動いた方がいい。さまざまな動きが生まれれば、人は自然と繋がって、好循環していくものです。稲葉さんが繋いだ先に、稲葉さんも把握していない繋がりがたくさんできていけば、さらなる発展の可能性があると思います。

全国の自治体にとってのロールモデルに

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──静岡市の取り組みは、他の自治体にとっても学べることは多くありそうですね。
 
蟹江:そうですね。静岡市は、SDGsという世界基準の目標を、市の施策に反映させています。この考えをとろうとしている自治体・企業は多くありますが、ここまで実際の活動に結びつけられているところはなかなかありません。
 
稲葉:たしかに、静岡市とは反対に、独自の施策がどうSDGsに結びついているかを発信している自治体は多くありますね。それは素晴らしいことだと思いますが、「SDGsと結びつけることで、なにか状況が変わったのか?」と周囲から批判されることもありえます。静岡市のアウトサイドインは誰にでも真似できることですから、私たちが先陣を切って実績を出していくことで、自治体にSDGsを取り入れるロールモデルになれればと思っています。
 
蟹江:それが実現できれば、とても意義があることです。過去の多くの取り組みは、グローバルな価値がローカルな政策に結びついていなかった。でもSDGsによって、ローカルにグローバルな目標を取り込むことができる。それが結果的に、『世界に輝く静岡』になるんだと思います。正解がないからこそ、いろいろ試みて、アウトプットして、他の自治体の先を行く事例となってほしいです。
 
稲葉:SDGsへの取り組みには正解がなく、自由度がある。職員自身も走りながら考えていますが、自分たちの解釈で、組織的な合意を得て進めていけるのはとても取り組みやすいです。2030年までは長いので、そのようにして着実に進んでいきたいと思います。
 
(※……自治体によるSDGsの達成に向けた優れた取り組みを提案する29都市の総称。2018年6月に内閣府によって選定された)
 
<WRITER>河野桃子 <編集>サムライト

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