2030SDGsで変える
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大学教育から世界を変える。SDGsを柱にした金沢工業大学の教育方針とは?

更新日 2022.02.02
目標4:質の高い教育をみんなに
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

(金沢工業大学SDGs推進センター長 平本督太郎さん)
 
国連でSDGsが採択されたのを受け、日本政府は内閣総理大臣を本部長とするSDGs推進本部を設置。SDGsへの取り組みを推進するさまざまな施策を展開しています。2017年に創設された、SDGsの達成に向けて優れた取り組みを行う企業や団体を表彰する「ジャパンSDGsアワード」も、そのひとつです。
 
金沢工業大学は、第1回ジャパンSDGsアワードにおいてSDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞。おもに以下の3点が評価され、注目を集めました。
 
・SDGsに特化した通年カリキュラムを採用し、学部・学科を超えた全学体制により貢献
・SDGs達成に貢献する次世代リーダー育成し、具体的な成果を創出
・周辺の自治体と密接に連携し、地域社会が課題に取り組み、地方創生に貢献

 
最大の特徴は、大学全体でSDGsに取り組んでいることにあります。今回は、SDGsを柱に据えた独自の教育を中心となって推進する金沢工業大学SDGs推進センター長、平本督太郎さんに、どのようにSDGsを大学教育に取り入れているのか、お伺いしました。

“社会実装型”の研究で地域貢献を学ぶプロジェクトデザイン(PD)教育

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(PD教育の一環として実施されているオナーズプロジェクトは、「自ら考え行動する技術者」を目指した自己目標達成プログラム。写真は、地域の子どもたちの安全を守るために見守り機能や情報発信機能を加えた「賢いバス停」。実際に野々市市内に設置され実装されている)
 
――2年前の「ジャパンSDGsアワード」では、大学全体でSDGsに取組んでいることが高く評価され、SDGs副本部長(内閣官房長官)賞を受賞されました。SDGsを教育の柱に置くようになったのは、いつ頃からなのでしょうか。
 
平本督太郎(以下、平本) SDGs推進センターは、2016年頃から活動をはじめ、2017年に正式に創設されましたが、SDGsと打ち出していなかっただけで、現在の教育方針や取り組みそのものはもう20年くらい前から実施しています。伝統として受け継がれてきた教育がSDGsと親和性が高く、そのことが「ジャパンSDGsアワード」での評価にもつながったのだと思っています。
 
――SDGsが採択されたことをきっかけに、教育方針を変えたわけではないのですね。
 
平本 はい。2015年前後での変化といえば、ローカルからグローバルへと視野が変わったことが挙げられます。ベースにあるのは、地方創生を目指した地域社会の取り組み。その活動をSDGsという言葉に置き換えることで、地域だけでなく、地球規模の視野も加味して取り組むようになったことは、大きな変化と言えるでしょう。
 
――具体的にどのようにSDGsを教育の現場に取り入れているのでしょうか?
 
平本 私たちは、教科書から物事を学んでいく“知識伝達型”ではなく、実際にフィールドに出てさまざまな課題に取り組み、学んでいく“社会実装型”の研究を基本としています。私たちの教育の代表的な取り組みでもあるプロジェクトデザイン(PD)教育は、まさにこの社会実装型の研究を実践したもので、全学生必須のカリキュラムとして導入しています。
 
具体的には、毎年、金沢市役所や野々市市役所が実際に抱える課題を提示してもらい、5、6人くらいのグループに分かれて、その課題解決に取り組む授業を行っています。このカリキュラムの特徴は、解決案を考えるだけでなく、その提案が本当に効果があるのかを実証するフェーズもあること。有効性を検証して、最終的に各自治体に提案します。さらにその提案を自治体のほうで検討してもらい、実現性が高いと判断されたら、市議会にかけて予算を確保してもらい、政策として実行されることもあります。これを毎年行い、4年生のときはグループではなく、PD教育の集大成としてひとりで課題そのものの発見から解決策の実装まで行います
 
――学生たちが考えた地域課題の解決策が、本当に社会に実装されるのですね。
 
平本 はい。フィールドに出て、実際に社会課題と向き合い、解決案を考えて実装できるまで提案を落とし込む。実際に自分たちが考えた施策で地域社会に貢献することができるので、学生にとっては社会研修以上の実行力を身につけることができるだけでなく、とても貴重な体験でもあると言えるでしょう。
 
この社会実装型のカリキュラムは、国際的にも評価を得て、現在はベトナム、タイ、マレーシア、シンガポールの大学と国際連携を結んでカリキュラムの研修なども行っています。その中で互いに留学生を交換しながら、それぞれの国でPD教育に取り組む授業もあります。
 
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(東南アジアの国々と連携し、独自のPD教育のカリキュラムを輸出している。写真は、金沢工業大学の学生とベトナムの越日工業大学の学生がバディを組み、インターンシップ活動の一環として日本企業の課題解決を行っているときのもの)
 
――日本で行うPD教育と同じことを海外でも行うのでしょうか?
 
平本 はい。たとえば、金沢工業大学の学生がインドネシアの農村に2週間ほど滞在し、その地域の課題や問題を観察して日本でのカリキュラムと同じように実行可能な解決策を考えます。このとき、ひとつのルールとして学生に伝えているのが、解決策はオーバースペックのテクノロジーにならないようにすること。解決策はかならず現地のものを使って、現地の人々で解決できる施策であることを意識してもらいます。そうしなければ、その解決策は一過性のもので、持続可能なものにはならないからです。
 
――国内だけでなく、途上国の課題解決も学べるプログラムは、まさに持続可能な社会づくりにつながる、SDGsの取り組みそのものでもあるわけですね。
 
平本 そうですね。このカリキュラムが実現したのは、本当に金沢市の理解と協力があって実現できていると言えるので、市にはとても感謝しています。幸いなことに金沢は、自治体をはじめ、青年会議所や多くの企業がSDGsへの理解が深く、市全体で取り組んでいるという仕組みができあがっています。
 
興味深いのは、互いに密接に連携するのではなく、それぞれが主体的に取り組みながらゆるやかなネットワークでつながっていること。互いに干渉し合うことなく活動を続けることで、トータルでものすごい運動量になっているのが、今の金沢の状態です。その中のひとつに金沢工業大学があるというわけです。これが互いに干渉し合うことになると、その運動量や浸透度は落ちてしまう可能性があります。
 
よく、イノベーションを起こすときのキーワードに、「同時多角的」という言葉が使われます。同じタイミングでいろいろな活動が生まれていかないと、世の中を変えることはできないとする考え方です。つまり、一致団結というよりも、ひとつのテーマに向かって同時多角的にさまざまなコトが起きる。その個々の活動があえてゆるくつながる状態を保つことで、無理のない継続性が生まれ、結果的にSDGsが地域に深く根付く要因にもなっているのです。

SDGsの視座から世界をリードする人材を育てたい

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(SDGsをゲーム感覚で学べる「THE SDGs Action cardgame X(クロス)」。SDGs達成に取り組む金沢工業大学の学生プロジェクト「SDGs Global Youth Innovators」が企画・制作。SDGs推進センターは専門的な観点から開発に参画している)
 
――PD教育も含め、大学教育の柱にSDGsをすえることで、学生たちからするとどのような効果が得られるのでしょうか?
 
平本 社会実装型カリキュラムを実現したPD教育に象徴されるように、金沢工業大学の教育は、フィールドに出て社会課題を解決していく実践的な授業がメインになります。
 
このカリキュラムによって得られるのが、バックキャスト(backcast)思考と呼ばれる物事の考え方です。バックキャストとは、先に目指すべき未来を描いて、その未来を実現するために今やるべきことを考えて未来に向かっていくという思考です。これはまさに2030年に設定した17のゴールに向かっていくSDGsの思考そのものだと言えるでしょう。
 
しかし、日本の企業は、現在の自分たちの技術レベルや経験から到達できる未来を予測して一歩ずつ進んでいくフォアキャスト(forecast)思考が広く浸透しています。どちらが正しい・正しくないということではありません。しかし大きな変革を起こすには、このバックキャストの思考で物事が進められる場合がほとんどで、SDGsもバックキャストの思考がなければ達成されません。こうした社会を変える力を養い、社会をリードしていく社会人を育てていくことを、金沢工業大学は目指しています。
 
――そのためのPD教育であり、社会実装型カリキュラムになるわけですね。では2030年、金沢工業大学はどうなっているのでしょうか?
 
平本 そうですね。やりたいことはたくさんあるのですが(笑)。金沢工業大学SDGs推進センターとしては、今のカリキュラムや産学連携をもう少し進化させて、地域創生という機能をもっと強化していきたいと考えています。さらに大学がハブとなって社会人や小中高を巻き込んで教育を進められる教育プラットフォームのようなものが、2030年に金沢工業大学から提供できればと思っています。
 
個人的には、その教育プラットフォームから、経営者やスタートアップの方々と、小学生や中学生が一緒に地球を救うようなベンチャーを数多くつくっていきたい。2030年を迎えるときは、第一線のベンチャーの経営者と、小・中学生で立ち上げたベンチャーが100社くらいできていて、ニューヨークの国連の会議に参加している姿を見てみたいですね。
 
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(2018年10月に、金沢工業大学の白山麓キャンパスにて開催された第1回ジャパンSDGsサミット in KIT。第1回ジャパンSDGsアワードで表彰された団体が集まり、SDGsの最前線の取り組みを共有し、パートナーシップをより強化する目的で、金沢工業大学が主催・開催された。写真は、ジャパンSDGsサミット in KITのプログラムの小学生、中学生、高校生、そして金沢工業大学の大学生で開催したユースサミットでの1枚)
 
――SDGsはひとまず2030年をめどに進められていますが、持続可能な社会づくりは、その先の未来へと続きます。SDGs推進センターとしては、2030年のその後の未来についてもすでに考えているようなことはありますか?
 
平本 ポストSDGsという言葉があります。これはSDGsのあとの未来、つまり2030年から先をどうしていくのかを考える言葉として、最近少し話題になっているワードです。金沢工業大学SDGs推進センターでは、自治体とも連携してバックキャストの思考から2045年の未来を想定し、2030年をとらえるようにしています。つまり2045年で何をやるか、その上で2030年の時点で何ができていなければならないのかを話し合っています。
 
なぜ2045年なのかというと、この年はシンギュラリティ(技術的特異点)の年と言われているからです。科学技術の進歩により、人工知能(AI)の進歩が私たちの暮らしを豊かにする一方で、いずれはAIが人間の脳を超える時期が来る。それが2045年と言われています。もしも本当にこのシンギュラリティが起きてしまったら、人間がきちんとした倫理観を備えていないと、あの『ターミネイター』の世界が現実に起きてしまう可能性があるというわけです。
 
ポストSDGsの観点からいえば、2030年はこの2045年の大きな変革に備えるために、何ができているかが試金石として問われる年だと考えています。大学として考えなければいけないのは、この2045年に備えて知識や技術だけでなく、しっかりとした倫理観を持った人間を育てること。同時にSDGsの観点からいえば国際舞台にたったときに、きちんと意見を言える人間を育てることも必要だと考えています。
 
――2030年以降の持続可能な社会づくりを推進していくために、国内だけでなく、世界をリードできる人材を育てる。
 
平本 はい。SDGsが採択される際、実は議論の場はオープンに開かれていたんですね。世界中から学生も多く参加していたのですが、残念ながら日本の学生の参加者はほかの国に比べてとても少なかったと聞いています。現時点で日本は先進国であるにもかかわらず、SDGsの浸透度は低いという評価になっています。これはSDGsが作成される場に参加しなかったことが、少なからず影響しているのではないかと思っています。結果的に参加していないから自分ごと化の意識が薄くなり、SDGsが国内に浸透しづらい状況になっているのは、必然の結果なのではないかと。
 
だから2030年には、その状況を変えたい。ポストSDGsでは国際舞台に積極的に立ち、世界を変えるために何をすべきか、意志表明できる日本人を育てないですね。持続可能な社会づくりを、地域だけでなく、地球規模で考えられる。そのためには、金沢工業大学の教育のありかたも、もっと視座をあげていかないといけないと思っています。

SDGs教育を開発・展開を推進する「SDGsゲームショーfor Youth & Educators」開催

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(「SDGsゲームショーfor Youth & Educators」では、SDGs×教育をテーマとしたゲームが各種用意され、実際に体験するワークショップが開催された。写真は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科が開発した「The Inakages-イナゲファミリーのSDGs」を体験する参加者)
 
5月25日から2日間にわたり、金沢工業大学KIT虎ノ門キャンパスにて、金沢工業大学SDGs推進センターと慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の共催で「SDGsゲーミショーfor Youth & Educators」が開催されました。同イベントのキーワードは、「SDGs×ゲーミフィケーション×教育」。ゲーミフィケーションとは、さまざまなコンテンツにゲームの要素を取り入れてコミュニケーションをはかり、それぞれの“コト”への理解度や認知度の向上を目指す取り組みで、今回はSDGs教育の認知拡大を目的としたゲーミフィケーションが行われました。
 
1日目
THE SDGs Action cardgame X(クロス)体験会
パネルディスカッション「SDGs×ゲーミフィケーション×教育」
2日目
SDGsゲームワークショップ
 
会場には、金沢工業大学の学生プロジェクト「SDGs Global Youth Innovators」が企画・制作した「THE SDGs Action cardgame X(クロス)」をはじめ、さまざまなSDGsに関するゲームが紹介され、2日目はそれぞれのゲームを実際に体験しながら、SDGsについて学ぶワークショップが開催されました。
 
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(「THE SDGs Action cardgame X(クロス)」を体験するワークショップでは、「SDGs Global Youth Innovators」の学生メンバー、高畠晃大さんが担当した)
 
「THE SDGs Action cardgame X(クロス)」は、トレードオフを示したカードと、リソースが記されたカードの2種類のカードがあり、トレードオフカードにはSDGsの17の目標について、それぞれトレードオフ(一方を追求すると他方が犠牲になる)の問題が描かれています。一方、リソースカードにはAIやロボットなどテクノロジーや製品、サービスなどを使った問題解決案が書かれており、ふたつのカードを組み合わせて社会問題を解決していきます。つまり、組み合わせ次第でいろいろな解決案が考えられるため、環境や社会問題を理解しながら自由な発想でその解決案も考えていく思考力が養われていくように工夫されています。まさに金沢工業大学で実践されているPD教育をゲーム感覚で体験できる、ゲーミフィケーションになっているのです。
 
ゲーミフィケーションを通じてSDGsを広めることのメリットについて、ワークショップの講師を務めた高畠さんはこう説明してくれました。
 
「ゲームでは社会的地位や立場などは関係なく、大企業の経営者と子どもが同じ立場で参加することができます。しかも、若い人のほうが発想が柔軟でゲームに慣れていることもあって、ときに子どものほうがユニークなアイディアを考えたりすることが少なくありません。大人のほうが気づかさられる場面が多いのです。
 
今回のワークショップでは、SDGsについてより深く理解してもらうために最後に“振り返り”をするパートがあります。ただゲームをするだけでなく、ゲームの中で何を学んだのかを振り返ることで、より教育効果も高まると考えています。こうしたワークショップを今後、定期的に行っていきながら、SDGsを広げていければと思っています」
 
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(ゲーミフィケーションでは、小学生から社会人まで、さまざまな世代が一緒になって社会問題について考えていくことができるのが大きな特徴だ)
 
最後に高畠さんは、「SDGsの達成には、若者がキーワードになってくる」と言います。世界的には、若者を重視した取り組みが行われているのに、日本では若者のSDGsへの参加が少なく、このままでは取り残されるのではないかと危惧しています。
 
「グローバルな潮流に取り残されないためにも、日本でも若い世代がSDGsへの理解を深め、より多くの若者が目標達成に向けて取り組んでいく環境をつくっていきたい」(高畠さん)
 
高畠さんが所属する学生プロジェクト「SDGs Global Youth Innovators」では、「私たちは私たちの未来を救うために」という理念を掲げています。大学教育から世界を変えていく。この壮大な計画を、金沢工業大学は本気で考えているのです。
 
<WRITER・写真>サムライト

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