(SDGs認定エデュケーター講座は、10名程度の少人数制で行われている)
「我々の世界を変革する(Transforming Our World)」というアジェンダに記された言葉に象徴されるように、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標SDGsは、達成に向けて強い意志と決意が込められています。SDGsで定められた17の目標と、169のターゲット(具体目標)は、目指すものではなく、持続可能な社会を未来に残すためには達成しなければならない責務です。では、いかにこの理念を広げ、つないでいくか――。社会課題に関するさまざまなプロジェクトを手がけ、推進してきた一般社団法人Think the Earth(シンク・ジ・アース)と、朝日新聞社は2019年5月、「SDGs for School認定エデュケーター講座」を新設しました。
SDGsの認知向上が進む中、本質から離れて都合良く解釈したような取り組みも増えつつあります。そのため、持続可能な社会の実現を目指す志を持ち、ともにSDGsの本質を学ぶ姿勢を持つ人々に伝え手として幅広く活動して欲しいと考え、講座を開設することにしました。公的に認められた個人資格などではないものの、エデュケーター同士が豊富な資料や情報を共有し、学びの場で講師やファシリテーターとして活動できる仕組みです。
SDGs for School認定エデュケーター講座とは?
講座の目的は、SDGsの本質を理解し、「SDGsを伝え、行動につなぐ人」を育成すること。月1回程度のペースで基本的に2日間合計6時間におよぶプログラムで構成され、ワークショップなどを取り入れながら、知識の伝達と同時に“考える力”を養うことにポイントが置かれています。
【講座内容】
1日目:時流の読み解き、SDGsの歴史、SDGsの特徴、ワークショップの方法、講座の組み立て方など。
2日目:新聞記事等を題材にSDGsをツールとして使って社会・環境課題を読み解く方法など。
講座のねらいについて、『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』の編集ディレクターで、Think the Earthの理事を務める上田壮一さんは次のように説明してくれました。
「ここ数年、学校教育の傾向として、プロジェクトベースドラーニング(PBL)を採用する学校が増えてきています。教科書から学ぶだけでなく、学んだことをもとに何かを成し遂げるプロジェクトをみんなで推進していくことを体験しながら、“自ら考えて実行する力”を養っていこうとする取り組みです。SDGsに取り組むと、まさにこのPBLを実践・体感することになります。これは企業でも同じで、未来の社会で必要とされる会社になるために、SDGsを新しい時代のモノサシにすることで、自社の成り立ちや立ち位置を確認し、来たるべき変化の時代のリスクを認識し、新たなプロジェクトや事業を起ち上げていくチャンスにつながります。
もちろんSDGsを学んだだけでは、社会を変えることはできません。解決案を考え、実際の行動を考えることがSDGsを達成するためには求められます。そのため認定エデュケーター講座では、SDGsの知識を伝えるだけでなく、SDGsを使って世の中を俯瞰(ふかん)する視座を持ち、社会の問題をどうすれば解決できるのかを、自分たちで考えてもらう時間を多く設定しました」
この環境や社会問題を読み解く力を養うひとつの方法として実施されたのが、朝日新聞が手がける「SDGs・新聞記事ワークショップ」です。
(新聞を読むことから始まる「SDGs・新聞記事ワークショップ」)
「SDGs・新聞記事ワークショップ」のポイントは、SDGsの観点で記事を読み、思考を見える化すること。参加者は数名のグループに分かれ、それぞれ新聞記事を読み、共有する記事をひとつ選びます。この関心を持った記事がSDGsのどの目標に関連するかを考え、目標別の付箋(ふせん)に感想、意見、質問、課題解決のアイデアなど、思ったことや感じたことを“つぶやき”として書き添えていきます。
そのうえで、参加者は記事を囲み、付箋を貼りながらSDGsの視座から問題の本質はどこにあるのかについて意見を出し合うのです。このワークショップは、お互いの意見から記事を多角的、多面的に議論することで、新聞記事を通して社会・環境課題を読み解く力を養うトレーニングにもなっています。
(思い思いの意見が書き込まれた付箋。貼る位置や順番にもグループのこだわりが出てくる)
(意見を述べ合う受講者たち。思いもつかなかった発想や体験談などに驚くこともある)
これまでに開かれた新聞記事ワークショップでは、受講者から「同じ記事を読んでいるのに、感じたこと、受け止め方がそれぞれ異なり、物事を考えるうえで役に立った」「日ごろ、パソコンやスマホでニュースをチェックしているが、印刷された新聞記事の良さが改めてわかった」などの感想が寄せられています。
上田さんはこの講座を通じ、受講者たちに何を伝えたいのか。
「私たちはSDGsについて詳しく説明できるだけの人を育てたいわけではありません。参加者のできること、やりたいことを引き出し、最終的には自分なりに明確なメッセージを持って、それを発信して行動に移せる人を育てることが、認定エデュケーターに期待する役割です。
“何のためにやるのか”、そして“なぜそれをやりたいのか”。その理由は人それぞれです。SDGsを入り口に本気で社会課題解決に取り組んでもらうためには、この個々の意志が大切だと私たちは考えています。そこで講座では、認定エデュケーター自身がその思考や意志を明確に答えられるようになることを大切にしています」
無関心をどうしたら好奇心に変えることができるか
(SDGs for School認定エデュケーター講座を企画・運営する一般社団法人Think the Earthの上田壮一さん)
教育現場への普及活動に力を入れてきた上田さん。活動の柱となるプロジェクト「SDGs for School」を始めたのは、SDGsが目指す持続可能な社会を根付かせるため、次世代を担う子どもたちと一緒に環境や社会の問題について考え、発信し続けていくことが重要だと考えたからだといいます。
「2017年と18年に学習指導要領が改訂され、2020年度から実施されていきます。その中には、持続可能な社会の創り手を育むことが学校の役割であると明記されています。そのため、SDGsが教科書に掲載される教科も多くあります。つまり、これから学校の先生は、否応(いやおう)無しにSDGsを子どもたちに伝え、共に考えていくことが求められるわけです。熱心に勉強されている先生もたくさんいらっしゃいますが、学校で孤立しているという話もよく聞きます。このテーマにどのように取り組めば良いのか検討すら始まっていない学校もあります。一方、SDGsを学び、自分事として捉え、自ら行動する子たちが続々と現れています。
そこで、本気で持続可能な社会創生を目指そうと学びと行動を始めた先生と生徒を応援すること、学校現場で使えるわかりやすい教材を届けること、子どもたちと行動を起こせる指導者を育てること、有効な授業の方法を共有する仕組みをつくること。そんなことが大切だよね、と先生たちと話しあうなかで、SDGs for Schoolのプロジェクトはスタートしました。
SDGsに関しては大人も子どもも1年生です。大企業から中小企業まで、また自治体やNPOからもSDGsを基礎から学びたいという声が増えています。でも私たちだけで全ての想いに応えるには力不足です。であれば、ただ講義をして知識を伝えるだけでなく、SDGsを使って「世界を笑顔にすることができる子どもや大人」を増やせたらいいなと。そこで今回、SDGs for Schoolの活動の裾野を広げていくことも意識して、新しくSDGs認定エデュケーター講座を企画、開講することにしたのです」
上田さんは、将来的にこの認定エデュケーターのもう一段階上の “認定コミュニケーター”と呼ばれる人材も育てることを検討しています。コミュニケーターに求める役割は、さらに踏み込んで、地域コーディネーターとして課題を体感してもらうフィールド型の学びを企画・提供したり、生徒たちが具体的な課題解決プランをつくり、その実現に向けてプロジェクトを推進することをサポートしたりできること。最終的にSDGs達成に貢献するには、このプロデュース力(実行力)を発揮できる知識とスキルを持った人を増やしていく必要があり、エデュケーターはコミュニケーターになるための第一歩だと言います。
このように「立体的にSDGsを伝えられ、行動を起こせる人」を育てていく仕組みづくりが、2030年につながっていくのです。
「世界を変革しようとするココロに火を灯す人を、ひとりでも多く増やしていきたい」
上田さんはどんな2030年の世界を思い描いているのでしょうか。最後に聞いてみました。
「日本にいたら見えないことが世界にはたくさんあります。2030年に、それらが全て解決されているとは、現時点では想像ができません。気候変動による危機もあと10年で解決できる問題ではなく、もっと時間がかかります。でも希望は捨てないでいたい。SDGsの決議書のタイトルは“Transforming our world(我々の世界を変革する)”です。世界を作りかえるくらいの変革への意志を、全ての国が合意して決議したのです。このことを、どれだけの人が自覚できるかにかかっていると思っています。
僕が思い描く2030年は、世界が安心できる方向に確実に向かっていると、実感できる状態になっていることです。国を超えた連携ができていたり、新しいビジネスモデルや科学技術によるソーシャルイノベーションの芽が生まれていたり、これまで連携できていなかった関係者がつながって新しいプロジェクトが生まれていたり、環境や社会問題に対して世界が連帯する状況が10年後には今よりできていてほしい。私たちは教育というフィールドでそのための準備を進めていければと考えています。
SDGs for Schoolのプロジェクトを通して、子どもたちは、自分たちで何ができるかを考え、行動に移す能力がとても優れていることを確信しています。そうした子どもたちの、本気で世界を変革しようとするココロに火を灯(とも)し、その火を燃やし続けられる人を、ひとりでも多く増やしていきたい」
SDGs for School認定エデュケーター講座では、こんな想いを共に描いていける人をお待ちしています。
「SDGs for School 認定エデュケーター講座」開催のお知らせ
「SDGs for School 認定エデュケーター講座」(主催:一般社団法人Think the Earth、共催:朝日新聞社)は原則月1回開催される予定。「持続可能な社会に関心があり、SDGsの基礎知識を持っている」「学校や職場でSDGsの基礎について伝えたい」「SDGsの伝え方に関心がある」などの方々を対象にしています。 各回とも2日間の開催で、定員は10人。受講料は3万円(税抜き、軽食費を含む)。時間はいずれも午後7時から3時間程度。2日目の講座履修後、認定カードを授与するほか、今後の活動などですぐに役立つ資料などが配布されます。今後の日程や受講の申し込み、最新情報など詳細はSDGs for Schoolのホームページ(http://www.thinktheearth.net/sdgs/educator/)をご覧ください。