ひとりひとりの暮らしから、快適なサスティナブルな社会をつくる――。そんなヒントがたくさん詰まったショップが東京都渋谷区神宮前にグランドオープンした。関連の商品が1000点以上並ぶほか、ワークショップや勉強会などを毎月開催し、普及活動にも力を入れる。サスティナブルな暮らしを「知る・学ぶ・考える・語る場」にしていきたいという。
「今日の買い物が、未来を変える」
渋谷駅と表参道駅、明治神宮前駅のほぼ中間に位置し、住宅やオフィスビルが並ぶ閑静な街並み。窓に大きく書かれた「今日の買い物が、未来を変える」というメッセージが目を引く。サスティナブルな暮らしを実現するためのショップ「エコンフォートハウス」だ。
(正面の窓に書かれているショップの理念)
店内に入ると目に飛び込んでくるのが、140年の歴史を誇るスウェーデンの会社のブランケット。「エコウール」と言われる環境に配慮した羊毛を使用しており、優しい肌触りが特徴だ。化学物質を含んでいない牧草をえさにしているほか、毛皮にも殺虫剤をほとんど使っていない。
そのほか、木の端材から取り出したセルロース(繊維素)100%で作ったキッチン用のスポンジや、自然由来の酵素で作られているため、キッチンなどで使った後も下水道の中をきれいにする洗剤など、生活用品が幅広くそろう。
これらの商品は、環境認証だけにとらわれず、サスティナブルライフが実現できるかどうかという独自の視点で選び抜かれたもの。環境先進国のスウェーデンやドイツ、ベルギー、フィンランドなどの輸入品が多くを占める。
こだわりの商品の数々の背景をより知ってもらうため、コンシェルジュが常駐している。商品の使い方はもちろん、簡単にできるサスティナブルライフも紹介する。例えば、気持ちよく快適に掃除をする方法、キッチンをもっと環境負荷が少ない状態にする方法などをアドバイス。また、天然繊維がなぜサスティナブルなのか、などさまざまな疑問にも答えてくれる。
30年目の節目、浸透に向け決意
ショップは、サスティナブル商品の輸入・販売などを手掛ける「イーオクト」の直営。社長の髙橋百合子さんは専業主婦を経て、1990年に同社の前身となる、廃棄物を圧縮する産業機械の輸入代理店を設立。その後は、サスティナブル社会を目指した事業を続けてきたきたという。2000年、01年には、新宿で行われた「サスティナブルデザイン展」の企画やコーディネーションを手掛け、併設されたサスティナブルデザインショップの運営を行った。このショップの人気が高かったことから、「ひとりひとりの暮らしから、快適なサスティナブル社会がつくれるのでは」と考えたのだという。
(サスティナブルライフを実現するための品々が数多く並ぶ)
ショップの場所は、以前、取扱商品を紹介するショールームとしてのみ使っていた。しかし、一般の客から「見てみたい」「買いたい」という要望が多く寄せられ、2012年から平日の時間限定で販売をスタート。営業時間を少しずつ増やしていった。一方で、髙橋さんは「日本は環境への取り組みがヨーロッパなどに取り残されている。ガラパゴスだ」と、サスティナビリティーが日本に浸透していないことを感じていた。
今年は、髙橋さんが環境事業を始めてからちょうど30年。国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の目標年次の2030年まであと残り10年でもある。「自分たちが覚悟を決めてサスティナブル社会の実現へ向けてやっていかないといけない」と決意し、2020年1月31日のグランドオープンに踏み切ったという。
イベント開催 未来を考える場に
ショップでは、サスティナビリティーを浸透させるため、ワークショップや勉強会などのイベントを月2回以上開催していく。「1人ではできなくても、みんなで手を携えれば社会にポジティブな影響を及ぼすことが出来る」。輸入の際の検品で売り物にならなくなったブランケットなどの端切れを活用した物づくりや、化学物質を原料とした洗剤を使わない方法、SDGsの勉強会などを行う。思いをともにする企業や個人をつなぎ、未来を考える場にしようと計画している。
(洗剤なども自然由来の製品にこだわる)
髙橋さんは「エコは我慢じゃなくて、快適な暮らしにつながる。商品の意味や、その裏側にあるストーリーを分かっていただいて、家に帰って『今日からサスティナブルライフに向けて変われるぞ』と実感できるような場にしたい」と話す。
「まず、自分の暮らし見直して」
(左/イーオクト社長の髙橋百合子さん。右/美容家の吉川千明さん)
オープンに合わせ、オーガニックスペシャリストで、サスティナブルライフの水先案内人として活躍する美容家の吉川千明さんを招き、髙橋さんとトークセッションがあった。タイトルは「今日の買い物が、未来を変える」。髙橋さんは、日本の国内総生産(GDP)の約6割を家計消費が占めていることから「私たち生活者がサスティナビリティーに向かっているのか、逆行するのかを選択することで、世界は変わる。今、必要なのは、偉そうな意見じゃなくて、行動だけです」と訴えた。そのためには、サスティナブルな商品が多くの店頭に並ぶ必要があり、「販売元として一生懸命やっていかないといけない」と話し、自身の決意を新たにしていた。
また、吉川さんは「SDGsではジェンダーの平等をうたっているが、女性に世界を変えて欲しいと思っているんです。日々の暮らしを変えることで、女性が社会を変革できる自信を持てるようになると思う」と語った。
参加者からの質問コーナーでは「日本はヨーロッパに比べてまだサスティナビリティー精神が浸透していませんが、効果的なアプローチはありますか」と尋ねられると、髙橋さんは「地球温暖化などに自分は関わっていると思っていない人に、実は関わっているんだということを、この場を通して分かってもらいたい。『自分の暮らしをまず見直してみませんか』と発信しつづけたい」と話した。
<WRITER・写真>大津正一
◇エコンフォートハウス◇
住所:東京都渋谷区神宮前5-38-15
電話:03・6805・1282
営業時間:平日・午後1~5時、土曜・午前11時~午後6時(日曜・祝日休)