“落語”で考える 海の温暖化とマイクロプラスチックごみ問題【未来メディアカフェ Vol.21】

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2019年3月1日、朝日新聞社メディアラボ渋谷分室にて、トークセッション「未来メディアカフェvol.21」を開催しました。今回のテーマは、“海の豊かさ”。海の温暖化やマイクロプラスチック(海洋などの環境中に拡散した微小なプラスチック粒子)ごみ汚染といった問題は、聞いたことはあるけれどあまり身近に感じられない、というのが正直なところではないでしょうか。

 
そんな社会課題を、なんと今回は2名の噺家さんが“落語”で表現してくれました。登壇したのは、落語家の三遊亭わん丈さん、立川こしらさんと、一般社団法人日本気象環境機関代表理事の井手迫義和さん。海の豊かさをテーマにした落語とレクチャートークでにぎわせた、当日の模様をレポートします!

 

“笑い”を入り口にSDGsを知ろう!

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(レクチャートークの進行を務めた井手迫義和さん)

 
この日のイベントには、SDGsの推進に関わっている方はもちろん、学校の先生や三遊亭わん丈さん、立川こしらさんのファンも多く集まりました。

 
「『SDGs』という言葉自体がちょっと難しいので、今日はあまり難しい話はしないつもりです。今日の落語がおもしろいなと感じたら、それを入り口にご自分でもSDGsについて勉強していただけたら嬉しいな、と思います」と井手迫さん。

 
井手迫さんによる紹介のあと、早速、三遊亭わん丈さんによる“マイクロプラスチック”をテーマにした落語が始まりました。

三遊亭わん丈さんの落語「拝啓、浦島太郎さん」

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(三遊亭わん丈さん)

 
「三遊亭わん丈と申します。寄席じゃない落語会というのは、僕らからしたら完全に“アウェイ”なんですね。でも、お客さんが誰も自分のことを知らないそういう環境って、意外と落語はやりやすいんですよ。もちろん、寄席のような“ホーム”もすごくやりやすい。一番やりにくいのは、今日みたいに“お客さんに何人か知ってる人がいる”という半端な環境です」

 
高座に上がるなり、そんな話でどっと笑いを起こすわん丈さん。淀みのないハキハキとした喋りで披露したのは、マイクロプラスチックごみによる海の汚染をテーマにした落語「拝啓 浦島太郎さん」です。

 
海辺を散歩していた男が、亀をいじめていた子どもたちを見つけて叱る……というお話の始まりは、あの有名な昔話「浦島太郎」のよう。しかしこの落語では、子どもたちが亀をいじめるのに使っていた“道具”にスポットが当てられます。

 
「おまえたち、亀をいじめていた道具をそのまま海に置き去りにして逃げようとしていただろう。それはこの海のごみになってしまうんだぞ。いちばん左のおまえが使っていたその道具はなんだ?」
「これはエアガンです」
「じゃあ、その隣のおまえが使っていたのはなんだ?」
「コーラのペットボトル」
「その隣のおまえは?」
「クリアファイルを丸めたものです」
「その3つの共通点がわかるかい? それは全部プラスチック製品なんだ」

 
子どもたちが亀をいじめるのに使っていたプラスチック製品のせいで、いま、海の環境は大変なことになっていると男は語ります。男は以前、亀を助けて龍宮城に連れて行かれたことがある……と夢のある話をしますが、竜宮城の環境は、人間が出したごみのせいで大変なことになっていた、と言うのです。

 
プラスチックの輪っかが体にはまったまま大人になってしまったイルカ、少なくなってしまった魚、乙姫様と話すときにマイクロプラスチックのせいでイガイガする口の中……。男の話す竜宮城でのエピソードはどれもユーモラスでありながら、しだいに、それがただ笑って済ませられる状況ではないことがわかってきます。

 
最後、「プラスチックというのはできるだけ使わないほうがいいんだ」という男の話に反省した子どもたちが帰ろうとすると、散々いじめられていた亀はすっかり弱ってしまっていました。

 
「どうしよう、水に入れてやらないと。どうやって水を持ってこよう?」と子どもたちに問われた男は、当然のようにこう答えます。「当たり前だろう、そこにあるプラスチックのバケツだ」──。

 
皮肉の効いたこのオチに、会場からは唸るような拍手が響きました。

レクチャートーク:マイクロプラスチック

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わん丈さんの落語のあとは、「拝啓 浦島太郎さん」のテーマである“マイクロプラスチック”に関するレクチャートークが、井手迫さんとわん丈さんによっておこなわれました。

 
井手迫さんは、ご自身が住んでいるという鎌倉・稲村ヶ崎の海を例に挙げました。

 
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「この海、写真を見ていただくととても綺麗だと思うのですが、ちょっと足元に視線を移すと、こんなふうに至るところにごみが落ちているんです。海のごみのうち、8~9割がプラスチックごみだとされています。このごみの半分以上は、海で捨てられたものではなく、街なかに捨てられた普通の生活ごみです。それがなぜ海にあるかというと、側溝に捨てられたりしたものが、雨の影響などで海まで流れてきてしまうからなんですね。

 
プラスチックは、波に揉まれて小さくなることはあっても、最終的には分解されず海のなかに残り続けてしまう物質なんです。2050年には、海のなかにいる魚の総重量とプラスチックごみの総重量を比べたら、なんとごみの総重量のほうが大きくなってしまう、という試算もあります」(井手迫さん)

 
小さくなった海のプラスチックごみ(=マイクロプラスチック)の表面には毒性の強い物質が付着しており、それを飲み込んだ魚を人間が食べてしまっている可能性もある、と井手迫さんは解説します。

 
「じゃあ、マイクロプラスチックごみを減らすにはどうすればいいと思いますか?」……わん丈さんが会場に問いかけると、「ストローをできるだけ使わない」、「ペットボトルではなく水筒を使う」といった答えが来場者の方から挙がりました。

 
「どちらもそのとおりです。大事なのは3点あって、まず、シングルユース(一度しか使わない)のプラスチック製品はなるべく使用しないこと。そして、きちんと決められた場所にごみを捨てること。それから、プラスチック製品をできる限り再利用すること。この3つを守って、マイクロプラスチックごみをできる限り減らしていくことを心がけましょう」(井手迫さん)

立川こしらさんの落語「浦島の海」

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続いて登場したのは、立川こしらさん。わん丈さんと同じく浦島太郎をモチーフにした落語「浦島の海」で、“海の温暖化問題”について語ります。

 
「浦島の海」は、なかなか眠らない子どもにある男が昔話を聞かせるというストーリー。「昔々あるところに……」から始まるおなじみの昔話を聞かせようとしても、好奇心旺盛な子どもがいちいち細かい質問をするせいで、なかなか話が先に進みません。

 
「昔々あるところに、浦島太郎という男がいました」
「浦島太郎って、名字はないの?」
「名字? あー……、それなら、浦島が名字で太郎が名前だろう」
「浦 島太郎じゃないの?」
「どっちでもいい」

 
そんな子どもの理不尽な質問攻めにうんざりし始める男。ヤケになって一気に話をし終えると、子どもからこんな質問が飛び出します。

 
「さっき浦島太郎は海のなかで歳をとったって言ったけど、そんなのおかしいよ。海のなかで信じられないくらいの年月を過ごしたってことは、だいたい500年くらいかなあ。そんなのおかしいよ。だって、500年も経ったら海は温暖化するんじゃないの?

 
地球っていうのは二酸化炭素を出してて、それを吸い込んでるのは海の水なんだ。海の水が二酸化炭素を吸い込むと、海水の温度がどんどん上がってっちゃうんだよ。500年経った頃にはサンゴも竜宮城もボロボロなんじゃない?」

 
賢い子どもの言葉に、いっそうヤケになってまた「浦島太郎」の話を最初からし直す男。“ツッコミ”を入れられないよう改変した話は、誰が聞いてもめちゃくちゃなものでした。

 
子どもに「それじゃ意味がわからないから、もとのまんまでもう1回やっておくれよ」とお願いをされるところで、この落語は幕を閉じます。

レクチャートーク:海の温暖化

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大きな拍手とともに高座を下りたこしらさん。落語に続いて、井手迫さん、わん丈さんとともに「海の温暖化」についてのレクチャートークを繰り広げます。

 
「海水の温度は、1901年から統計を取り始めて、平均して2~3度高くなっています。もしもこのままのスピードで海の温暖化が進んでいけば、秋が旬の魚、サンマが“冬の魚”になってしまうかもしれない、という予想もあるんです。なぜと言うと、海水温が高くなると、その分サンマが南下してくることのできる季節が遅れるから。サンマの問題だけでなく、2050年頃には日本近海でとれなくなってしまうかもしれない、という予想がされている魚介類はたくさんあるんです」(井手迫さん)

 
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寿司ネタとしても人気のイカやコハダ、マグロ、赤貝、エビ、イクラ……といった魚介類がその筆頭として挙げられると、会場のみなさんも神妙な顔で頷いていました。

 
「それから、このまま温暖化が進むと、北極域の夏の間の海氷面積もかなり少なくなってしまうだろうという予想がされています。北極の氷の面積が少なくなるということは、そこに住むホッキョクグマにとって大ピンチなんです」(井手迫さん)

 
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ここで会場のスライドには、1頭のホッキョクグマを主人公にした6コマ漫画が映し出されました。

 
「今日は学校の先生もたくさんいらっしゃっているということで、ぜひ先生方にこの漫画に声をつけてもらえればと思います」と井手迫さんが会場に呼びかけると、6人の先生たちが壇上に上り、漫画の展開を考え始めました。

 
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漫画のストーリーは、ホッキョクグマが歩く氷の面積がどんどん小さくなっていき、最終的には氷から落ちてしまう……、というもの。

 
6コマ目を担当した先生が「クマったなあ(困ったなあ)」と綺麗な“オチ”。会場は大きな拍手に包まれました。

 
「すごく綺麗にオチがついてすばらしかったですね(笑)。この漫画のように温暖化が進んでいくと、氷が溶けて氷と氷の間が離れていってしまい、体力のない子どものホッキョクグマなどは特に、岸までたどり着くことができずに死んでしまうんです。

 
実はこの北極の温暖化は、私たちの生活にも関係があります。北極が温まって南のほうの場所との温度差が少なくなってくると、吹く風の流れが不規則になるんですね。実際に今年も、イギリスやフランスでは観測史上、冬の気温がもっとも高くなってしまいました。逆に、アメリカは非常に寒い冬になりました。いつもより暑い空気と冷たい空気がぶつかるところで嵐が起き、荒れた天気が増えてしまうんです。かつてないほどの勢力の台風が、日本にまでやってくる可能性も出てきます」(井手迫さん)

 
このように、乱獲や海水の汚染、そして温暖化など、海が抱える問題は数多くあります。これ以上、魚を減らさず綺麗な海を守り続けるためには、一体どうすればいいのでしょうか。

 
「まず、乱獲に対してできることは、“絶滅危惧種は食べない・買わない”というのを私たちが決めることです。土用の丑の日に絶滅危惧種であるうなぎを食べる習慣なども、世界的には非難の目で見られている、ということも忘れてはいけないと思います。

 
それから、海水の汚染に対してできることは、できる限り化学肥料を使っていない製品や食品を選んで消費すること。プラスチックごみの問題に対してできることは、さきほどもお話ししたように、シングル・ユース・プラスチックはできる限り使わないようにするということです。温暖化に対しては、できることは全部やる、というくらいの意識でいないと対策が追いつかないくらいです」(井手迫さん)

 
レクチャートークのまとめとして、井手迫さんはこのようにお話を結びました。

 
「なにかモノを買うときに、“捨てたあとはどうなるだろう?” “このモノって、人にも地球にも優しいんだろうか?”という2点を考えてみるようにすることが大事です。私たちの日々の消費活動が、未来の海の状況を変えていくんです」

落語×SDGsで楽しく海の問題を学ぶ

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(カフェの最後には、参加者のみなさんと三遊亭わん丈さん、立川こしらさんとで記念撮影も)

 
落語とレクチャートークの終了後は、わん丈さん、こしらさん、井手迫さんと参加者の方々との交流会もおこなわれました。

 
仕事でSDGsの推進に取り組んでいるという参加者の女性は、
「海の豊かさというテーマはあまり身近なものではないので、このテーマをどうやったら大人・子どもに伝えられるんだろうとずっと考えていたんです。普段、落語は『笑点』くらいでしか見ない私ですが、笑いという切り口からSDGsを説明していただくと、スーッと入ってきてとてもわかりやすいんだな、というのが発見でした」
と感想を話してくれました。

 
まだまだ“とっつきにくいこと”というイメージの強いSDGs。今回のイベントのように、時には笑いを交えながらその目標を学んでいくことで、学びがより楽しく、定着するものになっていくはずです。

 
<編集・WRITER>サムライト <撮影>鈴木智哉

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