コラム&リポート

売り手市場の中、ブラック企業世代が抱えるジレンマ/まっとうな働き方、職場を求めて(寄稿:常見陽平)

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常見陽平

千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長

その仕事はまっとうなのか?

 
「それは、仕事と言えるのか?」
昨年、聞いた言葉の中で最も印象に残っているものはこれです。昨年春、同世代の論者たちと参議院議員会館で院内集会を開いた際の、フリーライター赤木智弘さんの言葉です。
赤木さんは、2007年に『論座』(朝日新聞社、休刊)で『「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。』という論考で、ロスジェネ世代の非正規雇用者の働く現実を問題提起し、話題となった方です。

 
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(2017年3月28日 参議院議員会館で行われた院内集会。左が常見さん、左から3人目が赤木さん 提供:常見陽平さん)

 
院内集会を開催した頃、この論考からちょうど10年が経った時期でした。彼はこの10年間で何が変わったのか、すべてが変わっていないと主張しました。ただ、明確なのは10歳、年齢を重ねてしまったということです。

 
この場での彼の主張はいちいち胸に響く言葉だったのですが、中でも印象的だったのが、冒頭の一言です。求人倍率が回復しており、仕事自体はたくさんあります。しかし、彼は生活ができない、家庭を持つことができないほどの給料の仕事を「仕事」と呼んでいいのかと。

 
昨年、参議院国民生活・経済に関する調査会に参考人として呼ばれた際も、参加していた野党議員からは次のような意見が出ました。「雇用の流動化が叫ばれ、成長産業に人材が動くことが期待されていますが、その成長産業なるものも、スキルの関係で誰でもが働くことはできないものもあれば、介護などは仕事が大変で人が集まりにくく、離職率が高いのです」

 
豊臣秀吉と家来のやりとりで、「我が軍にありふれている(余っている)のは人、足りないのも人」というものがあります。要するに、人数さえいればよいというわけではなく、優秀かどうかが問われるという話です。しかし、これは求人にも言えるのではないでしょうか。

 

売り手市場の中、ブラック企業世代のジレンマ

これから、2019年卒業予定の大学生の就職活動が本格化してきます。昨年11月くらいから、教え子からの就活関連の相談が増えました。「エントリーシートを見て欲しい」「業界・企業選びで悩んでいる」などです。

 
経団連の「指針」では、現状の就職活動は採用広報活動が大学3年生の3月から、選考が大学4年生の6月からとなっています。しかし、実際はそれよりも前に企業の採用活動は進んでいます。リクルートキャリアの「就職プロセス調査」によると、2018年卒予定者は前年、選考活動解禁前の5月1日時点で35.1%の学生が内定を持っていました。前出の指針では、まだ選考が行われていないはずの時期において、これだけの学生が内定を獲得していました。「形骸化」とまでは言い切れませんが、フライング気味になっているのは確かです。

 
このフライングの背景には、新卒採用をめぐる環境の売り手市場化があります。リクルートワークス研究所が毎年、発表している「大卒求人倍率調査」では、2015年卒が1.61倍となり前年の1.28倍から0.33ポイント回復しました。その後、1.73倍(2016年卒)、1.74倍(2017年卒)、1.78倍(2018年卒)と回復を続けました。この大卒の求人倍率は2011年卒から4年連続で1.2倍台だったので、回復しているといえます。

 
直近も人手不足であるだけでなく、中長期で若者が減っていきます。もはや、売り手市場ではなく、採用氷河期だとも言えるでしょう。

 
なんとか人材を獲得すべく、企業はインターンシップなどによる早期接触に力を入れています。前述した通りに、青田買いに走る企業も登場するわけです。

 
もっとも、「売り手市場で学生は選び放題」だと言えるでしょうか。違います。前出のリクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」においても、企業規模、業種による求人倍率の差は明らかです。

 
そもそも、その企業は、仕事はまともなのかという観点もあります。別に売り手市場になったからと言って、行きたい企業に行けるわけではないのです。ブラック企業、ブラックバイト世代であるがゆえに、その企業、仕事はまともなのかという不安も胸にかかえています。なお、就活はエントリーシート、面接など多段階の透明なプロセスで進んでいくわけで、そこでの疲弊もあります。何で落とされたのかすら分からないのです。

 

「最初の1社」をどうするか?

常見さん記事につく合同説明会写真

 
(2017年3月に行われた合同説明会の会場には多くの学生らが集まった。2017年3月1日、千葉市の幕張メッセ、金居達朗撮影 出典:朝日新聞)

 
ところで、新卒採用で行くべき会社をどう選べばいいのでしょう? その軸のようなものがあまりに変わっておらず、愕然(がくぜん)としたことがありました。大手かベンチャーか、業界をどこにするか、などです。先日、参加したイベントで、この「最初に行くべき企業」という問題の根深さについて考えてしまいました。

 
学生団体が企画したキャリア関連のセミナーに登壇しました。母校一橋大学での企画でした。リクルートワークス研究所長の大久保幸夫さんの他、ソフトバンク、サイバーエージェント、ワークスアプリケーションズ、リクルートライフスタイルが参加していました。

 
もともとの趣旨は、学生向けのこれからの働き方や、新卒一括採用にとらわれない採用手法、さらには最初の1社がいかにも日本の大手企業ではなくてもいいのではないかということを問題提起するものでした。

 
しかし、なかなか奇妙です。というのも、登壇した企業はたしかに既卒者を新卒と同じに扱う、大学1年生時から事実上の内定を出す、多様なインターンシッププログラムを用意する、採用する職種や選考手法を多様化する、エントリーシートをAIに読ませるなど、ユニークな採用活動を行っていました。ただ、それは新卒一括採用を見直したものではなく、あくまでその要件緩和、手法の拡大だとも言えます。

 
さらに、大手企業以外への就職をと提案したところで、登壇した企業はたしかに戦前から存在する企業はゼロだったものの、創業してから20年以上の企業だらけですし、企業規模は大手そのものです。企画した学生の趣旨からすると「ベンチャー企業が集結」というものだったのですが、そもそもベンチャー企業とは何かということを考えてしまいました。もちろん、ベンチャー企業は旧来の企業がしないようなチャレンジを、リスクをとって行う企業だとしたならば、これらの企業はベンチャーではあります。

 
冬休み前ということもあり、また遅い時間の開催だったこと、告知が不十分だったということもあり、これだけの企業が集まりつつも、兼松講堂という同大学で一番大きい講堂は空席が目立ちました。登壇者の一人は「東大や京大でセミナーをやれば人はくる。ただ、毎年、一橋大学の学生とはご縁が少ない。この人数は大学の特性と在校生の数を考えるとマックス値くらいでは?」とやや自虐的に語っていましたが。

 
このイベントを通じて、考えてしまいました。私が学生時代だった20年前とあまり変わらないのではないか、と。当時も大手かベンチャーかという議論に花を咲かせていました。大手とベンチャーの違いも分からないのに、です。
この大手かベンチャーか、さらにはどの業界、職種なのか? この選び方だけでいいのでしょうか?

 

女子のキャリアのジレンマ

図5

 
もうひとつだけ議論させてください。それは女性のキャリアです。女性の働き方は、国連で2015年9月に採択された持続可能な開発目標(SDGs)、「目標5 ジェンダー平等を実現しよう」にも関係しています。女子学生が最初の1社をどこにするか。これも大きな悩みなのです。

 
(SDGsとは何かはこちらの記事で!:SDGsとは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり)

 
女性活躍推進法の施行などもあり、大企業を中心に女性の採用を強化する動きがあります。以前、女性は結婚・出産でやめてしまうというような不安を抱く企業もありましたが、時代は変わりつつあります。また、女性を営業に配属しなかった企業が配属するようになるというような変化もみられます。

 
学生にインタビューしていると、これまでその大学からは女性を総合職で採用しなかった企業が、採用をするようになっていると感じるとのことでした。

 
もっとも、女性の採用を強化している企業においても、まだ模索中といった状況です。結局のところ、長く続けることを考えると、女子学生は一般職や転勤などのない特定総合職を選ぶのが一番という話になってしまうのです。このジレンマと今後、どう向き合っていくかが問われます。

 

「働き心地」「働き方」で選ぶという新しい軸の提案

 
ここで提案したいのが、大手かベンチャーか、どの業界や職種に行くべきか、女性が活躍している企業なのか、などを超えた企業選びです。それは、「働き心地」「働き方」で選ぶという提案です。その企業の働き方はまっとうなのか、どんな働き方ができるのか。その軸で企業を選択するということを私は提案したいのです。

 
もちろん、この部分は企業も模索中です。しかし、求職者がこのことを問いかけ、「働き方」を共通言語として面接などで語り合うことによって、ミスマッチのない企業選択が進みますし、企業も変化するのではないかと考えています。

 
採用氷河期は日本の労働をまともにするチャンスでもあります。これにより、労働環境をよくしないと、何より働き方を開示し、多様な選択肢を提示しなければ採用できないということへの理解が経営者や人事部に広がっていくのではないかと私はみています。

 
先日、取材したUIターンに特化した人材紹介会社では、何を大事にして転職するのかのヒアリングに大きく時間を割いていました。なお、最近ではこのような人材ビジネス会社からクライアント企業に「労働条件をよくしなければ採れませんよ」「給料も上げましょうよ」と促す動きも出ています。都市部よりも最低賃金が低い地方企業でも新卒の基本給が30万円を超える企業が現れはじめました。この方が採用できるし、定着するからです。

 
これまでの枠を超え、働き方を共通言語にした就職・転職がまともな企業・仕事を増やしていくのではないかと私はみています。これまでの軸を変えてみませんか。
 
 
「SDGs」について、詳しくはこちら:SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり
 
 

  • writer常見陽平

    千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長

    千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長

    北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。
    リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。


    『「働き方改革」の不都合な真実』(共著 イースト・プレス)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。 公式サイト…http://www.yo-hey.com

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