2030 SDGsで変える

エシカルのタネの育て方とは?まずは自分を知ることから始まる

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writer

末吉里花

一般社団法人
エシカル協会
代表理事

フェアトレードとの出会い

 
1回目の連載で、多少エシカルについてお分かりいただけたかもしれませんが、腑(ふ)に落ちるのはそう簡単なことではないと思います。私自身、いまだにエシカルとは何かと考え続けているわけですが、ある過去の経験がなければ、活動すらしていなかったはずです。

 
むしろそれまでの私は、自分が何をやりたいのかも分からず、すべての関心が自分に向いている人間でした。そんな私がエシカルの道に進むきっかけになったのが、TBS系「世界ふしぎ発見!」でミステリーハンターとして世界中の秘境を旅するという貴重な機会を与えてもらったことです。現地に生きる人々と過ごす時間を通して、実に多くのことを学びました。

 
その中でも人生のターニングポイントとなったのが、2004年アフリカ最高峰のキリマンジャロ(標高約6000m)登頂です。キリマンジャロの頂上には氷河が横たわっているのですが、地球の温暖化により2010年ごろには完全に解けてしまうだろうという予測が、ある科学者によって発表されました。

 
キリマンシ?ャロ
(キリマンジャロにて  写真提供:一般社団法人エシカル協会)

 
一体どのくらい解けているのか確かめにいく、という取材だったのですが、登り始める前に麓(ふもと) に暮らす小学校を訪ねたところ、小さな子どもたちが植林活動をしていました。彼らにとって氷河の雪解け水の一部は生活用水なので、氷河が解けて無くなってしまうということは、死活問題だったのです。頂上にたどり着いたとき目にしたのは、1割程度しか残っていない氷河でした。

 
都会に暮らす私たちが及ぼしている温暖化の影響を目の当たりにして、私はショックを受けました。限られた少数の人たちの利益や権力のために、立場の弱い人や美しい自然が犠牲になっている、この実情を多くの人に伝えたいという使命感が湧きました。帰国後出会ったのが、フェアトレードでした。

 

エシカルを考えるきっかけは、人それぞれ

 
日本で最大のフェアトレードブランド、ピープルツリーとのご縁で、フェアトレードの生産現場を目の当たりにする機会にも恵まれました。

 
フェアトレードとは、途上国の原料や製品を適正な価格で購入することによって、途上国の生産者の生活改善や自立を支援する貿易の仕組みのことです。経済、社会、環境と三つの基準の柱を持っています。フェアトレードの生産者を訪ねて一番印象的だったのは、作り手である女性たちの言葉です。「こういった地域では、男性ひとりを教育すると、彼ひとりの人生が変わる。女性ひとりを教育すると、地域全体が変わるのです」。

 
タナパラスワローズ商品チェック
(バングラデシュのタナパラスワローズという生産者団体の方たちと 写真提供:ピープルツリー)

 
つまり、フェアトレードは女性が教育を受ける機会を作り、雇用を生み出し、女性のエンパワーメントにも大きく貢献をしているのです。(SDGs目標4と目標5)

 
また、作り手の女性たち全員が口を揃えてこう言っていました。「女性に収入があると、そのお金を子どもの教育費に充てることができるからとても嬉しい」。子どもたちが教育を受ければ、将来仕事に就ける可能性も高くなり、貧困から抜け出すことに繋がります。(目標1と目標4)

 
NepalKTS
(ネパールのニットの生産者団体KTSの方々と  写真提供:ピープルツリー)

 
タナパラスワローズ小学校
(バングラデシュの小学生の子どもたちと 写真提供:ピープルツリー)

 
私は幸いなことに、こうした作り手の方たちと実際にお会いすることができたおかげで、1枚のフェアトレードの洋服を作るのに、どのくらい時間と手間がかかり、愛情が込められているのかを知ることができました。それを知れば当然、大切に長く着続けたい、という気持ちになります。今持っているものを大事にずっと愛用し続ける、これはエシカルを実践する上でとても重要なポイントになるでしょう。

 
それぞれ、エシカルを考えるきっかけは違って当然です。私はたまたまフェアトレードとの出会いから始まりました。今、そのきっかけ作り、つまりエシカルのタネまきを学校教育の中で施したい、という思いで、小学校、中学校、高校、大学の授業の中で、エシカルとは何かを伝えています。

 
小学生は特に敏感で、サッカーボールの生産に潜む児童労働の現実を教えると、子どもたちの顔色がサッと変わります。サッカーボールは約7割がパキスタンで作られていますが、約1万5千人の小さな子どもたちが針と糸を使った作業をしているといわれています(NPO法人ACEサイトから)。

 
このような事実を伝えることで、日本の子どもたちは身近な問題に疑問を持ち、そして現実を知ることによって、一歩を踏み出してくれるのだと思います。「目の前にあるものを通して、それを作ってくれる人たちを想像し、遠くの人や環境に配慮する社会になっていくこと。これがエシカルである」と子どもたちに伝えた後、小学5年生の女の子が私のところにやってきて、こう言いました。「どうしてこんなに大切な言葉を、誰も今まで教えてくれなかったの?」。 エシカルとは、実はとてもシンプルで、まっさらな子どもの心だからこそ、一番よく理解できるのかもしれません。

 

まずは毎日着ている洋服から考えてみよう

 
エシカルを実感、実践するためには、一番身近である洋服から考え始めることをオススメします。SDGsの採択に関わった国連経済社会局事務次長補のトーマス・ガスさんも、滋賀県の中学校を訪ねた際に、「自分たちの着ている服を誰が作っているか想像してみよう」「その人たちがどういう生活をしているか考えてみよう」という熱い語り口で子どもたちに問いかけていました。

 
おそらく多くの方は毎日何かしらコットン地のものを身につけているのではないでしょうか。人権、環境問題を引き起こしているグローバルイシューの中でも、早急に取り組むべき課題はコットンの生産のあり方です。

 
途上国には約3500万〜5000万人のコットン小規模生産者がおり、世界のコットン生産量の約80%が途上国で生産されています。インドやウズベキスタンでは深刻な児童労働も行われています。また、世界中の農耕面積のわずか3%足らずのコットン農場で、殺虫剤の約16%、農薬の約10%が使われています(NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン資料から)。しかも途上国のコットン農家の人たちは農薬を扱う教育を受けていないため、マスクもせず上半身裸の状態で作業をします。その結果、毎年農薬により健康被害で2万人が亡くなり、300万人が慢性の健康被害に苦しんでいるという報告があるのです(WHO世界保健機関)。日常的に多くのコットン製品を消費、使用している私たち消費者にとって、コットン生産の現実は決して遠い世界の問題ではない、ということがお分かりいただけるでしょう。

 

「知る」から始める心の“開発”

 
自分が住む地域、あるいは日本で、世界でどんなことが起きているのか、まずは「知る」ということが大切です。問題というのは、私たちが認識して初めて問題として捉えられます。私たちが問題として捉えないと、解決に導くこともできません。どんな人も問題を知れば、自分は加担したくない、と思うはずです。

 
2017年11月に東京の築地本願寺にて「次世代リーダーズサミット 仏教×SDGs」が開催され、登壇いたしました。仏教界においても、SDGsにまつわる取り組みが始まっており、持続可能な社会を実現するための精神的支柱として、仏教の果たしうる役割はとても大きいと感じました。

 
ハ?ネル全体風景
(東京・築地本願寺で開かれた「次世代リーダーズサミット 仏教×SDGs」)

 
蟹江先生・末吉先生3
(左は、SDGs研究者の慶應義塾大学大学院・蟹江憲史教授)

 
浄土真宗の僧侶にある面白いことを教えていただきました。「開発」という言葉は、本来仏教用語で、「かいほつ」と言うそうです。現在使われている「開発」は外に向けて開きおこすことですが、「かいほつ」とは内側を耕す、つまり心を育てる、という意味だそうです。「持続可能な開発目標」を達成するためにも、まずは自分の心を耕し、己を知ることから始れば、地域や社会、世界との関わり方を見いだせるかもしれません。

 
自分は世界の一部であり、あらゆる命や自然とのつながりの中で生きていることを実感できないと、無関心を招いてしまいます。自分を知ることで、初めて相手を思いやることができるのだと思います。それがまさに、エシカルな生き方の大きな一歩を踏み出すことになるのではないでしょうか。

 
 
「SDGs」について、詳しくはこちら:SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり
 
 

  • writer末吉里花

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    代表理事

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