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「この問題は、本当に問題です」──この広告に答えが書かれていない理由

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「問題です。サラさんは、起きている時間の半分で家の手伝いを、残りの時間の2/3で妹の世話をします。6時間寝たとき、勉強は何時間できますか? 学校へは、歩いて往復3時間かかるものとします。」

 
この“問題”はACジャパンの広告として、テレビや雑誌、電車の中などで2018年7月から展開されているものです。ACジャパンの支援先である国際NGO団体「セーブ・ザ・チルドレン」が取り組む、世界の子どもたちの教育問題について、広告を目にした人に関心を高めてもらうように作られています。

 
問題の下には、次のような文章も書かれています。

 
「この問題は、本当に問題です。世界では、子どもの6人に1人が学校に通えていません。」

 
そう、まさにこれは、時間の足し引きといった算数だけで解決できる問題(Question)ではなく、世界中の人が目を向けなければならない深刻な問題(Problem)なのです。では、どうしたらこの問題を解決できるのでしょうか?

 
「教育とは希望であり、平和の基礎をつくるもの」と語るのは、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでアドボカシーマネージャーを務める堀江由美子さん。SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」の達成に向けて重要な役割を果たしている同団体に、問題の背景やいま私たちができること、そして、SDGsによってこの問題にどのような変革がもたらされるかについてお話を伺いました。

サラさんが勉強できる時間は、“ゼロ”

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(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでアドボカシーマネージャーを務める堀江由美子さん)

 
先述した問題の気になる答えは、“ゼロ”。サラさんの1日は、たとえ学校に行けたとしても、勉強できずに終わってしまいます。ということは実質、学校には通えないということ。

 
「それなら、家の手伝いをする時間を減らせばいいのでは?」「学校の近くに引っ越すことはできないの?」と考える人もいるかもしれませんが、世界には、そうしたくてもできない過酷な状況に置かれた子どもたちがたくさんいるのです。

 
セーブ・ザ・チルドレンのデータによると、6歳~17歳の子どもの6人に1人が学校に通えていません。また、ユネスコが2016年に発表した最新のデータ(※1)によると世界では6歳〜17歳の子どもの5人に1人に当たる、2億6300万人が学校に通えていません。驚くべきことに、これは先進国の子どもの総人口、2億4500万人よりも多い数字。情報化社会が進み、国際社会が一丸となってこの問題に取り組んでいるにも関わらず、2012年から数値はほぼ横ばいで、減ってはいないのです。

 
このような状況が生まれてしまうのには、さまざまな要因があると堀江さんは言います。

 
「子どもが学校に通うことができないおもな原因としては、貧困、紛争、資格を持つ教員や設備の不足などが挙げられます。しかし、この中のひとつを改善すれば子どもたちがすぐに教育を受けられるようになるかといえば、そうではありません。社会の慣習や差別的な制度など、さまざまな障壁が重なり合っているので、構造的な改革に取り組まないことにはなかなか解決できないのです」(堀江さん)

 
たとえば、子どもたちに教育を受けさせようと学校を建設し、教員を育成したとしても、家が貧しくて児童労働を強いられている子どもが多ければ、そこから解決していかないといけません。

 
世界では、児童労働に従事せざるを得ない5~17歳の子どもたちが1億5200万人(※2)もいます。家が貧しく、幼いうちから働きに出るせいで学校に通えず、教育を受けられないために経済的な基盤を築きにくい状況に陥り、さらに貧困化が進む……。そんな、“貧困の悪循環”が生まれているのです。

 
貧困地域に住む人々のなかには、たとえば不衛生な場所で生活し、病院にも行けないため、親が病気で一日中家事をしたり兄弟の面倒を見たりしなければいけない子どもや、「女の子だから」という理由で学ぶ必要がないと見なされ、児童婚を強いられて、体が未熟なうちに妊娠・出産を経験する子どももいます。

 
「『女の子だから』の課題というのは深刻で、世界で1500万人の6歳~11歳の少女が生涯に一度も学校に通えないと見られています。これは男の子と比べると1.5倍(※3)。広告に登場した“サラさん”のように、少女の場合、家の手伝いに時間を割かれるケースも、教育の阻害要因のひとつになっています。ILO(世界労働機関)のレポートによると、週に21時間以上家事に時間を取られると、子どもの通学や勉強に悪影響が出てしまうというデータもあります」(堀江さん)。

 
そして、意外なところでは、トイレがないことで、少女が学校に通いづらくなるという問題も発生しているのです。そのため、学校にトイレを整備することも活動のひとつだそう。

 
堀江さんが包括的なアプローチの必要性を唱えるのは、このような負のループを断ち切るため。17の目標それぞれが密接に関連するSDGsが、問題の解決に大きな役割を果たすのではないかと期待を寄せています。

 
「SDGsの目標4(質の高い教育をみんなに)を解決しようと思ったら、目標1(貧困をなくそう)も目標3(すべての人に健康と福祉を)も、目標5(ジェンダー平等を実現しよう)も……本当にたくさんの課題に立ち向かわなければならないのです。包括的なアプローチで横断的に取り組んでいくことが大切です」(堀江さん)

紛争下においては、学校が攻撃の対象となることも

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(攻撃によって破壊されたイエメン・タイズの学校。軍事兵舎としても利用されていたことから攻撃の標的とされ、子どもたちは教育の場を奪われた / Shutterstock.com)

 
さらに近年、大きな課題となっているのが、長引く紛争や頻発する自然災害下においての子どもの教育。紛争中の国に対しては、政府や企業も資金の拠出がしづらく、援助が届きにくいという現実があります。セーブ・ザ・チルドレンの調査によると、世界では、約4人に1人の子どもがこのような状況下で、脆弱な立場に置かれていることが分かっています。

 
「当然、紛争下にあっても子どもには教育を受ける権利がありますし、子どもたち自身も教育を受けたいと強く望んでいます。紛争の現実から離れ、学校に通って勉強するという“日常”を得られるのはとても大切なこと。安心して友だちと遊べ、子どもとしての時間が過ごせる場所としても、学校が果たす役割は重要なものです」(堀江さん)

 
しかし現実には、紛争下において、学校が攻撃の対象となってしまうという悲劇さえ繰り返し起きていると言います。

 
「学校は、建物が頑丈で街の中心地に位置することが多いため、紛争下にある国においては、避難所として使われたり、軍の拠点として軍事利用されることもあります。実際に、軍の訓練が行われているすぐ横で子どもたちが授業を受けるという状況も起きていて、攻撃を受けるリスクが高まってしまうのです。内戦が7年にも及んでいるシリアでは、ユニセフが2018年に発表したレポートによると、1/3の学校が爆撃などの被害を受け、授業に使うことができなくなってしまっていると言います。2017年、セーブ・ザ・チルドレンが支援していた学校でも、子どもたちが避難をはじめた矢先に爆撃され、3名もの尊い命が失われる事件がありました」(堀江さん)

 
そこで、せめて学校は攻撃や軍事利用の対象にしないという最低限のルールを含めた国際的なガイドラインをつくろうと、ノルウェーとアルゼンチンがイニシアチブを取り、2015年に「学校保護宣言(※4)」が誕生しました。2018年11月時点で82か国が支持していますが、残念ながら日本はまだ支持に至っていません。

 
「G7(先進7カ国)の中で支持していないのは、アメリカと日本だけ。法的拘束力が伴わないとはいえ、『開校中の学校や大学を軍事利益のためにいかなる形でも使用してはならない』という宣言の内容は国際人道法(※5)より一歩進んだ内容になっているため、日本は『有事の際には学校を使用することがありえる』という理由から、慎重に検討しているという状況が長らく続いています。支持に向けて日本政府に対して働きかけをするなど、アドボカシー(政策提言)もセーブ・ザ・チルドレンの重要な役割だと認識しています」(堀江さん)

“貧困の悪循環”を断ち切るために

セーブ・ザ・チルドレンでは、緊急下の子どもたちが安心・安全に過ごすための「こどもひろば」や、学びの機会を提供する場としての「学習支援センター」も運営しています。

 
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(紛争で避難生活を送っていたイエメンのサラさん・12歳。2年間学校に通えていなかったが、こどもひろばに参加することで新しい友だちができ、絵を描いたり学んだりするのが楽しくなったと語る。大きくなったら警官になって家族を守りたいそう)

 
また、低所得国においては、学習環境を改善し、しっかり子どもを教えることができるように研修などを主催して教員を技術的に支援したり、少女や難民や障害を持つ子どもが学べるようサポートをしたり、学校での体罰や暴力をなくすためのさまざまな啓発活動をしています。

 
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(インド・ニューデリーで家族10人と暮らしていたシャグフタさん・9歳。小学校に通わずサンダル作りの仕事をしていたが、12組のサンダルを作って得られる収入はわずか2円。セーブ・ザ・チルドレンの支援を受けたことで学校に通えるようになり、「大きくなったらダンサーになりたい!」と夢を語るようになった)

 
「SDGsという世界共通の言語ができたことによって、異なる分野で活動してきた人たちが、さまざまな課題についていっしょに語れるようになりました。私たちも近年、これまであまり接点がなかった分野の専門家や団体など、多岐に渡るセクターの人たちとつながるようになり、連携して取り組むことの可能性を感じています」(堀江さん)

 
しかし、SDGsが広がりを見せてきたいまだからこそ、見えてきた課題もあるといいます。

 
「SDGsの原則でもある“誰ひとり取り残さない”というのは、貧しい子どもや紛争下の子どものように脆弱な立場にいる人に優先的に目を向けるということ。これをいかに実行に移せるか、ということがポイントになります。また、SDGsでは“変革を起こす”ともうたっているので、自分たちの取り組みがどこの目標に当てはまるかマッピングして終わりではなく、そこから一歩踏み出して“何が足りないのか”と認識することが大事。そのギャップを埋めるための取り組みを考えなければ、大きな変化は生まれないのではないでしょうか」(堀江さん)

“問題”を知り、伝えていくことが、課題解決への第一歩

では、「すべての人に質の高い教育を」という社会課題に対し、私たち個人ができるアクションはあるのでしょうか。

 
「まずは、実際にいま起きている問題について知ることが大事です。私たちが“問題”の広告にあえて正解を記載しなかったのも、答えを自分で考えることで私たちが取り組む課題に関心を持っていただきたかったからです。その次のアクションとしては、周りの人にその情報を拡散したり、私たちのような団体に寄付をしていただいたり、活動に参加したりと、解決の一歩になることはたくさんあると思います」(堀江さん)

 
世界約120カ国で子どもへの支援をおこなっているセーブ・ザ・チルドレンでは、月々1500円からの継続的な支援のほか、1回のみの寄付も呼びかけています。また、Yahoo!ネット募金やTポイント、デルタ航空のマイルでの寄付にも対応しているほか、書き損じのハガキや切手を送るといった支援のかたちもあります。資金の95.3%は事業費に当てられており(残り4.7%が管理費)、寄付金がどこの国へどのようなかたちで使われているかは、年次報告書で確認することができます。寄付というと余裕がある人だけの特権と考えがちですが、身近なところからも参加できるのです。

 
そしてもうひとつ、私たちにできる大切なことが、教育の中で「相互理解と寛容」を広めていくことだと堀江さんは言います。

 
「教育というのは、普遍的な人権や平等、多様性の受容といった価値観を醸成するためにも非常に重要です。未来をつくる子どもたちにこうした価値観を広めていくことが人権尊重や紛争の予防につながり、平和の基礎をつくるのです」(堀江さん)

 
学校に通えることが当たり前の日本では、なかなか想像ができない世界の子どもたちの現実。しかし、“問題”に目をとめて、知ること、伝えていくことから未来は少しずつ変わるのかもしれません。

 
 
※1:『UNESCO Fact Sheet No.48』より
※2:ILO『児童労働の世界推計:推計結果と趨勢、2012~2016年』より
※3:UNESCO and UNICEF『Fixing the Broken Promise of Education for All: Findings from the Global Initiative on Out-of-School Children』より
※4:主に次のようなことが述べられている。
1.軍事利用の目的で、開校中の学校を使用することの禁止
2.民間人が退去後の学校の使用は最終手段の場合のみとすること
3.武装紛争下における学校の意図的破壊の禁止
4.敵が軍事目的で使用している学校への攻撃をする際、事前警告をするなど代替手段の検討義務
5.戦闘部隊による学校警備の原則禁止
6.「武装紛争下で学校や大学を軍事目的使用から守るためのガイドライン」の実施
※5:国際人道法とは、戦争の手段や方法を規制する原則や規則、それに文民、病人や負傷した戦闘員、戦争捕虜のような人々の人道的保護を扱ったもの。(国際連合広報センターホームページより引用)ここで学校への攻撃は禁じられているものの、学校の軍事利用を禁じる規定はない。

 
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<WRITER>佐々木彩子 <編集>サムライト

 
協力:ACジャパン

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