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結婚指輪をジェンダーフリーに。人気指輪ブランドを手がける「プリモ・ジャパン」の決心

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2015年、東京都渋谷区で、同性カップルが結婚に相当する関係を結ぶことができる「パートナーシップ証明書」の発行が可能となったことは、皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。

 
その後、東京都世田谷区などで同様の受領書の交付が可能となったものの、日本ではそういった取り組みはいまだ一部に限られているのが現状です。
LGBTを始めとするセクシャル・マイノリティの人々は、性的マジョリティに相当する“男女”のカップルではないという理由だけで、人生の節目である結婚という場において、大きな困難を背負わされ続けてきたかもしれません。

 
そんな中で、結婚指輪や婚約指輪の販売を行うジュエリーブランド「アイプリモ」「ラザール ダイヤモンドブティック」を手がける「プリモ・ジャパン」が、今年6月に「結婚指輪の商品表記を順次ジェンダーフリーにする」という発表を行い、いま注目を集めています。

 
2030年に向けた国連の世界目標「SDGs」の中では、各国の宗教観や法の違いからLGBTに対して直接的な言及はされていないものの、「誰も置き去りにしない」という全体目標の中にLGBTの人々も含まれている、と元国連事務総長のパン・ギムン氏が語っています。性的マジョリティとマイノリティの人々がそれぞれの価値観を共有し、互いを否定せずに共存することは、世界にとって非常に重要な課題になりつつあるのです。

 
今回は、“結婚指輪は男女のカップルのためだけのもの”というこれまでの価値観を見直し、ブライダルジュエリー業界の中で新しい一歩を踏み出そうとしているプリモ・ジャパンに、ジェンダーフリーの取り組みにまつわるお話を聞きました。

 

「ブライダルジュエリー業界も、時代に合わせて変化しなくてはならない」と社長が言った

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(アイプリモ銀座本店で副店長として勤務する湯浅聖子さん。本店の取りまとめを行いつつ、月に10~15組ほどのカップルの接客を行っている)

 
プリモ・ジャパンが結婚指輪のジェンダーフリー表記への変更を決めたきっかけは、店頭で販売活動に携わるスタッフから出たある意見だった、とアイプリモ銀座本店副店長の湯浅聖子さんは言います。

 
「私もメンバーとして参加している、当社のCSR(社会貢献)活動のPRIMO RING PROJECTに、販売スタッフから『LGBTのお客様がおふたりでご来店されたとき、どのようにご案内をすればよいか分からなかった』という意見が寄せられたのが、今回の取り組みに至ったきっかけのひとつです。

 
性別を規定するようなリングの表記を変更してはどうか、というのは数年前からプロジェクトメンバーの間で出ていた意見ではあったのですが、これまではタイミングを逃してしまっていました。そこで、今年2月に行われたプロジェクトのミーティングの中で、改めてジェンダーフリー表記についての提案をしました」(湯浅さん)

 
2月に湯浅さんから出た提案を受け、ジェンダーフリー表記についての議題が経営会議に挙がったのは翌月の3月のことでした。取り組み決定までの動きは、非常にスピーディーだったと言います。

 
「お客様に日々接している社員から挙がった生の意見ということもあり、経営陣の受け止め方も真摯でした。『ジェンダーフリーへの動きがこんなに遅かったのはブライダルジュエリー業界くらいではないか』というのは、その提案を受けた弊社の社長の澤野の言葉です。

 
『同じブライダルビジネスの中でも、たとえば結婚式場であれば、同性カップルが式を挙げられるような場を提供している企業も少しずつ増えている。多様性が求められる時代に合わせて変化しないブライダルジュエリー業界は、まるで化石のようだ』という発言からは、今回の取り組みに対する澤野の本気度が窺えました」

 
プリモ・ジャパンで広報IRを担当する山代有紀さんは、そう語ります。

 

「他の店舗での接客で不快な思いをした」というLGBT当事者からの声

 
ジェンダーフリー表記への変更という提案は、経営会議を経てすぐに採用となりました。実際にどのくらいの販売スタッフがLGBTの顧客の接客をしたことがあるのかを知るため、湯浅さんは国内の87店舗に向け、アンケートメールを送ったと言います。

 
「想像していたよりも、LGBTのお客様の接客をしたことがあるというスタッフは非常に多かったです。実際にアイプリモ長崎店のスタッフから来たアンケートの回答には、『いろいろなお店を回られたあとにアイプリモに来店したLGBTのお客様がいた。他のブランドの店舗では店員からの過剰な反応があったり、女性のお名前を2人分お伝えした際に聞きなおされることが多く、不快な思いをした、とおっしゃっていた』というものがありました。幸いそのお客様は当社にてご成約いただいたとのことですが、それでもそのスタッフは接客時、指輪のM/L(メンズ・レディース)表記が気になった、とも答えています」

 
現場のスタッフからの声も受け、プリモ・ジャパンが運営する2大ブランド「アイプリモ」と「ラザールダイヤモンド ブティック」で、ジェンダーフリー表記に向けての動きが始まりました。

 
まず、「アイプリモ」「ラザールダイヤモンド ブティック」のウェブサイトの商品説明から「M/L」という表記が消え、シンプルな「右/左」といった表記への変更が行われました。

 
「当社の販売スタッフはパーソナルサポートを大切にしており、すでに、ひとりひとりのお客様に寄り添った対応はできていると思っています。ですので、店舗まで来ていただくことができればお客様の不安を取り除くことはできると思うのですが、ウェブサイトや口コミといったその前の“入り口”の部分で躓(つまづ)く方がいらっしゃらないよう、整備をしたというのが最初の取り組みです」(山代さん)

 
また、これまではカップルで来店し、成約した顧客に対しそれぞれ「女性」「男性」という表記のある伝票に個人情報を書いてもらっていましたが、電子伝票への切り替えを行ったことを契機に、性別区分をなくしました。伝票の中には顧客自身が選択する性別欄はあるものの必須項目ではなく、「男性」「女性」以外の選択肢を設けるなど、性別を規定せずに買い物をすることも可能となっています。

 
「最近ではLGBTのお客様に限らず、男性でも『俺もダイヤ入れようかな』とレディース表記のあるダイヤ入りの指輪を選ぶ方がいらっしゃいますし、女性でメンズ表記のある指輪を選ぶ方もいらっしゃいます。商品から性別を規定する表記がなくなると、LGBTのお客様の接客はもちろん、男女のカップルのお客様の接客も、これまで以上に臨機応変なスタイルでご対応ができるんじゃないかなと思っています」(湯浅さん)

 
商品の表記が変わると、当然、販売方法も少しずつ変わってきます。現在はカップルで来店した顧客に対し「ご新郎様」「ご新婦様」と呼びかけるスタッフが多いものの、「今後はお客様それぞれの目を見ながら、『お客様』と呼びかけるのが一番分かりやすく、丁寧かなと考えています」と湯浅さんは言います。商品のパンフレットや店頭に並ぶ商品の値札の表記は、2019年秋の変更完了を目標にし、順次動いているところだそう。

 
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(メンズ・レディースを意味する、商品名横の「M/LD」という表記は、今後変更を検討している)

 
「商品説明の文言についても、2019年にかけて一部変更することを検討しています。アイプリモの商品は、指輪のひとつひとつに星座や神話にまつわるストーリーが込められているのですが、その中には“女神”といったモチーフや“女性の美しさを司る神様”といった文言が登場することもあります。そういった表記が本当に適切なものであるかどうかは、時間をかけて検証する必要があると思っています。150ほどあるデザインすべての魅力をそのままお伝えできて、なおかつできるだけ多くのお客様が不快に感じられないような表記を、現在吟味しているところです」(山代さん)

 

結婚指輪を買ったカップルの“その後”も支えたい

指輪のジェンダーフリー表記への変更というニュースが今年6月に話題になると、プリモ・ジャパンには想像以上に多くの反響が寄せられたと言います。

 
「LGBTの方がよく見られる口コミサイトの中に、『アイプリモがジェンダーフリーの取り組みを始めた』とプラスの口コミが載っていたというのをお聞きしたりして、嬉しいなと思っています。ただ、思いのほか反響が大きかったこともあって、実際にお客様が来店されたら期待はずれだったということがないように、これまで以上にスタッフへの知識の共有を徹底しなくてはと思っているところです」(湯浅さん)

 
現在、PRIMO RING PROJECTでは、LGBTに関する資料や社員からの意見を集約し、LGBTフレンドリーな接客にまつわるマニュアルを作っているところだそう。その中にはプリモ・ジャパンのブライダルジュエリー販売に関する情報だけでなく、同性カップルでも結婚式を挙げることのできる式場はどこかといった情報も入れたいと思っている、と湯浅さんは言います。

 
「ブライダルリングのお店は、結婚を考えるカップルの方々が一緒にいることを選んだときに一番最初にいらっしゃる場所──いわば、リレーのトップランナーです。トップランナーだからこそ、結婚式場や結婚生活といった、“その後”のことを私たちにお聞きになるお客様も多いです。そういったお客様の期待を裏切らないように、社内の共有知を増やしていきたいです」(湯浅さん)

 

生きづらさを感じている人にも、せめて指輪選びは最高の思い出に

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(アイプリモ銀座本店の外観。最近ではLGBTの顧客に限らず、性差を感じさせないシンプルなデザインの指輪を選ぶ人も増えており、時代の変化を感じると湯浅さんは言う)

 
「法制度上、ご入籍ができないカップルは、その分“結婚指輪をふたりで持つこと”ということを特別に感じていらっしゃると思った」というのは、実際にLGBTのカップルの接客をしたことのあるアイプリモの国内店舗のスタッフから送られてきた、アンケートの回答の中の言葉です。山代さんは、このスタッフからの回答に大きく心を動かされたと話します。

 
「入籍や結婚式というプロセスになんらかの『生きづらさ』のようなものを感じられるお客様がいらっしゃるのなら、せめてリング選びは最高の思い出のひとつにしていただきたいと考えています」(山代さん)

 
LGBTに限らず、ジェンダーのあり方やカップル・夫婦の形は今後、より一層多様化していくことが予想されます。
「LGBTのお客様に対する対応も、いい意味で“すごく特別なこと”だとは思っていません。それぞれのお客様に寄り添った対応に、LGBTにまつわる知識を自分の中でプラスするだけだと捉えています」という湯浅さんの言葉は、さまざまなジェンダーや考え方を持つ人々が息苦しい思いをせずに暮らすことができる、新しい時代の価値観へのアップデートを感じさせるものでした。

 
<編集・WRITER>サムライト
 

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