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フェアトレードをもっと身近に。ピープルツリーが寓話「北風と太陽」の太陽になって伝えてきたこと

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みなさんは「フェアトレード」について、どれくらい知っているでしょうか?

 
フェアトレードとは、発展途上国の製品や原料を適正な価格で継続的に購入するなど、途上国の社会的・経済的に弱い立場にある人々の生活改善と経済的自立を目的とした一連の活動のことですが、一般社団法人日本フェアトレードフォーラムが実施した2015年のアンケート調査結果によると、フェアトレードという言葉を知っている人は5割、その意味まで理解している人はわずか3割しかいなかったなど、まだまだ日本での知名度は高くありません。

 
フェアトレードは、国連が定めた持続可能な開発目標、SDGs(エスディージーズ)にも広くつながっており、SDGsの項目の中でも、目標12(つくる責任・つかう責任)や目標1(貧困をなくそう)など、8つの目標(本文末尾にアイコン掲載)に関連しているとWFTO(世界フェアトレード機関:World Fair Trade Organization)が示しています。

 
そんな中でフェアトレード商品の専門ブランド、「People Tree(ピープルツリー)」は、フェアトレードのオリジナル商品を手がけるだけでなく、環境問題の啓発など情報発信にも努めてきました。

 
「言葉は知らなくても、日本には昔から“三方よし”という概念があるように、じつは知らないうちにSDGsに関連するアクションを起こしている人はたくさんいます。社会問題を解決するうえで、フェアトレードのお買いものは気軽に参加できる方法のひとつ」と、広報・啓発担当の鈴木啓美さんは言います。

 
フェアトレードを知らない人に伝え、アクションを促し、裾野を広げるためにピープルツリーが進めてきた活動は、SDGsを次のステージへ前進させるための重要なヒントになるかもしれません。

オーガニックショップの情報を、わら半紙で発信していた創設期

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(お話をしてくれたピープルツリーの鈴木啓美さん〈左〉と村田薫さん〈右〉)

 
ピープルツリーを運営するフェアトレードカンパニー株式会社の母体、NGO「グローバル・ヴィレッジ」が日本で立ち上がったのは1991年。創設者であるイギリス出身のサフィア・ミニーさんと、ご主人のジェームズさん(現在のフェアトレードカンパニー株式会社代表取締役社長)が親族の結婚式で訪れたアフリカのナミビアで、フェアトレードのアイテムを作る女性たちと出会ったことがきっかけでした。

 
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(サフィア・ミニー〈前列右から3人目〉と、インドのオーガニックコットン農家)

 
しかし、折しも日本はバブル景気の終わり頃。モノにあふれ、使い捨てすることにもさほど疑問を持たない風潮がありました。

 
仕事の関係で日本に住むことになったサフィアさんは、古いものを長く大事にするイギリスで育ち、発展途上国の貿易支援を行う団体でボランティアにも参加。その経験から、消費社会の中で虐げられている人々の存在を伝え、日本でもモノを大切にするサスティナブルな暮らしを提唱したいという考えから活動をスタートさせます。

 
「最初はナミビアで手に入れたフェアトレードのカゴや木彫りのアイテムを西麻布の小さなギャラリーで展示・販売しました。そこからしだいに、イギリスでサフィアが関わったフェアトレードの紅茶やコーヒー、アクセサリーなどを日本に紹介するようになったのです。」

 
そう語るのは、ピープルツリーの創立当初から携わる広報・啓発マネージャーの村田薫さんです。サフィアさんは当時、まだ始まったばかりの「アースデイ東京」(*)に出品するなど、小さなNGO団体として活動に地道に取り組んでいったそう。しかし、ほかと異なっていたのは、商品の販売以上に“情報の発信”に重きを置いていたことです。

 
「サフィアは当時めずらしかったオーガニックショップやリサイクルステーションを手書きでマップにしてわら半紙印刷したり、エコな暮らしのなかで実際に役に立った情報をまとめてギャラリーで発信したりしていました。」(村田さん)

 
*アースデイ東京=民族・国籍・信条・政党・宗派をこえて、だれもが自由にその人の方法で、地球環境を守る意思表示をする国際連帯行動のこと。1970年アメリカのG・ネルソン上院議員が、4月22日を”地球の日”であると宣言し、アースデイが誕生。日本でも4月22日前後の土日に全国各地でアースデイを祝したイベントや企画が開催されている。「アースデイ東京」は、毎年、渋谷の代々木公園にて開催されている。

 
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(ピープルツリーの自由が丘ショップの店内。アパレルのほか、雑貨や食品、アクセサリーなど店内全商品がフェアトレード商品)

 
現在のように、誰でも簡単にインターネットでつながることができなかった時代。1993年に初めて作ったカタログでは、商品よりもむしろ、環境や人権問題の啓発といった情報ページが充実していたそう。その後、カタログに付録をつけて書店で販売するなど、手に取ってもらいやすい工夫を施し、徐々に裾野を広げていきます。

 
「最初はリサイクルショップや自然食品店のオーナーさんなど、ある一定層の方に注目され、その後、少しずつイベント出展で知ってくれた人や情報感度の高いインフルエンサーなどにクチコミで広まっていきました。チョコレートをきっかけにして洋服に興味を持ったという人も多かったですね」(村田さん)

 
ピープルツリーの最大の強みは、チョコレートに代表される食品からファッションまで、アイテムの幅が広いこと。さらに、デザイン性の高いオリジナル商品によって、環境や人権問題に関心がなかった層にも受け入れられたことも特徴的です。

 
では、ピープルツリーはなぜ単にフェアトレード商品を輸入・販売するだけでなく、オリジナル商品を手がけることになったのでしょうか?

売れなければ意味がない。着たいと思うファッションで世界を変える

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(この日、鈴木さん〈左〉が着ていたトップスは、手紡ぎのシルク糸で織り込んだ生地に、タイル柄がハンドプリントされたフェアトレード商品のひとつ)

 
「次の仕事につながることが大切なので、フェアトレードだから買うというより、好きだから買う、“これいいな”と思ったものがじつはフェアトレードだった、という順番のほうがリピートにつながります。だからこそ、みんながステキだと思って日本の生活のなかで使い続けられるものを作ろうということになりました」(村田さん)

 
オリジナル商品のなかでも目を引くのが、カラフルでバリエーション豊富なファッションアイテム。オーラ・カイリー、ピーター・イェンセンら有名デザイナーや、 2010年にはイギリスの女優エマ・ワトソンとコラボレーションするなど、外部の著名人やデザイナーも積極的に起用しています。

 
「国際会議に出ることが多くなったサフィアが公式の場で着られるフェアトレードの洋服がなかった、というのもきっかけのひとつ。当時フェアトレードの洋服はエスニック系のものが多く、会議で着られるようなジャケットなどはありませんでした。体にフィットするワンピースやベーシックなカットソーなども手がけるようになり、オシャレに関心の高い層にも裾野が広がりました」(鈴木さん)

“現場ありき”のフェアトレードで商品を企画

ピープルツリーが扱っているコットン製の洋服の8割ほどがオーガニックコットン素材。これまでのオーガニックコットン素材の洋服というと、”無染色無漂白の布地の、生成りでナチュラル”な雰囲気のものがほとんどでしたが、ピープルツリーでは色鮮やかなハンドプリントを施し、“華やかでワクワクする”アイテムをパターン違いで揃えました。

 
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(ハンドスクリーンにてプリントを行う職人。ここでも機械は使われず、手作業にて柄がプリントされていく。ピープルツリーのInstagramより)

 
ハンドプリントの方法は、現地の職人がハンドスクリーンやブロックプリントのほか、筆で書いたり、竹をふたつに割って押したり、スポンジでポンポン叩いたり……。日本から送られてくるデザインを見て、現場がさまざまなアイデアを提案してくれるのだそう。そこから量産できるか、また工数をチェックし、最終的に決定。日本から一方的に指示するのではなく、現場にアイデアを委ねることで、スキルの向上と対等な関係性が生まれているのです。

 
このようにして作られる商品は、企画から店頭に並ぶまで、1年以上かかります。いくら生産者ありきとはいえ、流行を取り入れていない商品は売れないのではないかと心配になりますが、ベーシックな形にトレンドカラーやモチーフをポイントとして入れることで、ずっと着たいという気持ちとファッション性の両方を叶えているのだそう。

 
「ファッションに力を入れたもうひとつの理由は、洋服は作業工程が多いのでそのぶん多くの仕事を作り出せるということ。コットンを育てる人、糸にする人、織る人、縫製する人。さらにデザインを加えることで、刺繍したり、ブロックプリントしたりと関わる人が広がります。また、同じ布でトップスにチュニックにワンピースにと展開できるので、付加価値を増やせるのもメリットです」(鈴木さん)

 
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(バングラデシュにて戦争で男手を失った女性の暮らしをサポートするために設立された、「タナパラ・スワローズ」プロジェクトで働く女性たち。ピープルツリーのInstagramより)

 
たとえば、バングラデシュにある「タナパラ・スワローズ」という団体の場合、機織りと手刺繍を得意とした女性たちがどちらも所属しているため、機織りの生地に手刺繍をデザインした商品を企画し、依頼しています。そうでなければ、仕事を受けられる人に偏りが生じてしまうからです。

また、ピープルツリーの商品は消費者ニーズに合わせて作られているようですが、実際はまったく逆。生産者ありきのボトムアップ方式で、現地が持っている技術=資産を最大限に活かすためにはどうすればいいかを第一に考え、日本で商品企画(デザイン)とマーケティング、品質管理を行っているといいます。

 
ピープルツリーでは現在、16カ国110団体との取引を行っています。直営の工場を持つのではなく、現地の団体をサポートすることで、現場の意欲や自主性をできるだけ生かせるのです。ピープルツリーが加盟し、フェアトレード団体であると認証を受けているWFTOの10の指針のひとつである、「生産者のキャパシティ・ビルディングを支援する」ことを推進しています。

 
そして、ピープルツリーでは、賃金を話し合いで決定しています。

 
現在のグローバル経済であれば、もともと売値が決まっていて、そのなかであらかじめ設定した仕入れ値で引き受けてくれるところに発注するというのが通例。ときには無理強いをし、安く買いたたくということも発生しかねません。ここに、ピープルツリーと他の企業との大きな違いがあります。

 
こうしてピープルツリーは既存のフェアトレードやオーガニックコットンというイメージをいい意味で覆し、新たなファンを獲得していきました。

できる範囲で楽しく!“太陽”になって自主的なアクションを促す

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(手織りのコットンラップワンピース。襟元の刺繍も職人が手作業で丁寧に縫い上げているため、ひとつとして同じ柄はないという)

 
「いまは大学の授業でもフェアトレードについて学ぶ機会があるそうで、学生さんなどの若い世代に興味を持ってもらうことが増えました」と村田さん。しかし、そういった真面目な若者ほど「お金がないからフェアトレード商品を買えない……」と無力感に襲われることも多いと言います。

 
「まずは普段食べるものとしてではなく、“特別なときに買うチョコレート”からスタートすればムリがありません。自分の生活をいきなり全取っ替えするのではなく、できる範囲で楽しみながらやることが大事なのではないでしょうか」(鈴木さん)

 
『北風と太陽』というイソップ物語があります。手っ取り早く強引に人を動かそうとする「北風」か、相手に寄り添い、寛容的な態度で自主的な行動を促す「太陽」か——。新たなファンを作る、裾野を広げるためには、この寓話の“太陽”のような伝え方が必要なのではないかと鈴木さんは語ります。

 
「恐怖心や罪悪感からモノを選んでしまうと、あとで苦しくなって、買い物を続けにくくなってしまいます。逆にポカポカと照らし続ける太陽のように、相手を思いやり、楽しくステキな提案をしたほうが、自分自身の意思でアクションを起こしやすくなるはずです」(鈴木さん)

 
買い物は私たちにできる身近なアクションのひとつ。フェアトレード商品をきっかけに、その背景に隠された社会問題を知ると、意味があるモノにお金を使いたくなり、モノ選びが変わってくる。そうした変化を、ピープルツリーはフェアトレード商品を通して消費者に伝えようとしているのです。

フェアトレードとSDGs

「あくまで、環境問題や人権問題を“ビジネスの仕組みのなかで解決する”のがフェアトレードなんです」(鈴木さん)

 
先に触れたように、フェアトレードはSDGsの17の目標のうち、8つ(※下記参照)の目標達成に寄与しているとWFTOが示しています。しかし、17の目標は独立しているのではなく互いに関係しあっているので、それ以外にも関係してくる項目はたくさんあるといいます。

 
「たとえば、スタッフが現地を訪れたときは、必ずトイレや水周りの衛生環境をチェックします。これは目標6(安全な水とトイレを世界中に)に関わります。フェアトレードによって実現したい未来のためには何が必要か、SDGsがあるとより課題がわかりやすくなります」(鈴木さん)

 
SDGsも、言葉やカテゴライズばかりが先行してしまっては本末転倒。SDGsをあくまで指標として捉え、問題を考えるきっかけやアクションを起こすための動機づけにすると、本来の目的により近づけるのかもしれません。

 
<編集>サムライト

 
 
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