2030 SDGsで変える

MDGs(ミレニアム開発目標)は成功したか? タイの達成度から見る“平均”の課題

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藤谷健

朝日新聞社コンテンツ戦略ディレクター

MDGsは2001年に国連で採択された8つの目標

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals; SDGs)の前にも、国際社会が共通の目標に向かって課題解決を目指す取り組みがあったことをご存じだろうか。地球上から様々な形の貧困をなくすことを目指し、2001年に国連総会で採択されたミレニアム開発目標(Millennium Development Goals; MDGs)だ。

 
極度の貧困と飢餓の撲滅、初等教育の達成、乳幼児死亡率の削減、HIV/エイズ、マラリアなど感染症の防止、ジェンダー平等の推進など8つの分野で、1990年を基準年とした具体的な数値目標を掲げ、2015年末に達成することを約束するものだった。

取り組みの結果は?新たに見えてきた問題点

結果はどうだったのだろう。当時の潘基文・国連事務総長は、MDGsを総括する15年7月の国連報告書で「MDGsは歴史上最も成功した貧困撲滅運動」と成果を強調した。実際、途上国で極度の貧困に暮らす人口の割合は47%から14%に減ったし、初等教育就学率も2000年の83%から91%に改善された。

 
一方で改善が見られたものの目標水準に及ばなかった、5歳未満児や妊産婦の死亡率削減やジェンダー平等などでの分野もあった。次の15年にこれらの取り組みをさらに加速化させるとともに、解決すべき新たな目標を合わせて掲げたのがSDGsになる。

 
MDGsの実施期間中、課題として指摘されたことがいくつかある。その一つが、地球から貧困をなくすという課題設定から、達成を求められたのは開発途上国であり、先進国が必ずしも「自分事」として捉えていなかったのではないか、という疑問、あるいは途上国から寄せられた不信だ。

 
グローバル化が進むなか、例えば、貿易や金融、環境、移民、災害、エネルギー、テクノロジーといった分野が、途上国の人々の暮らしにも大きな、それも時には負の影響を与えているにもかかわらず、仕組みやルール作りは先進国が主導し、途上国の考えや意見が反映しにくい現状が続いている。

 
こうした状況を変えない限り、さらなる進展は望めないという声が途上国には根強かった。SDGsは、MDGsを継いだ国際社会の約束だが、先進国、途上国の分け隔てなく目標達成を求めたのは、こうした背景が一因となった。

記者が見たもの…「いち早くMDGsを達成したタイ。その陰に別の姿があった」

MDGsをめぐり、途上国の現場で取材するなか、不思議な思いにとらわれることがあった。例えば… 4年ほど駐在していたタイで、国境近くに住む山岳少数民族や隣国ミャンマーから逃れてきた難民の教育事情を何度か取材する機会があった。

 
子供も含め、家族が働かないと生活が成り立たない経済状況、教育に対する親の理解不足、教員の質量不足など、様々な理由から、多くの子供たちが学校に通えなかったり、途中で辞めざるを得なかったりする現状を目の当たりにした。

 
だがタイはMDGs達成という面から見ると、きわめて優等生だった。初等教育就学率も目標をいち早くクリアしていた。ただ目の前には異なる光景が広がっている。なぜなのだろう、と常に感じていた。

藤谷1 津波の被災地につくられた仮設の学校で学ぶ子どもたち=インドネシア・アチェ、藤谷健撮影

 
取材を進めると、実はきわめて単純な理由からだった。タイ国籍を持たない人は、タイに住んでいてもタイの統計には含まれないということなのだ。

 
ただ複雑なのは、国境を越えて逃れてきた難民はともかく、少数民族は先祖代々、現在はタイとなっている土地に住んできたものの、まだ少なからずの人が無国籍状態にある。歴史的な事情や手続きの煩雑さ、少数民族への偏見など様々な要因が絡んでいるため、タイ人になりたくてもなれないという状況が長く続いていた。

 
それゆえ公立の学校に通っていても(あるいは通っていなくても)、MDGs的にはカウントされないのだ。言い換えれば、数字、つまり平均像からは見えてこない「現実」が横たわっている。

“平均”で見えなくなる現実−−−「質の高い教育をみんなに」

「平均」にまつわるおもしろいエピソードを最近、聞いた。世界銀行ナンバー2のブルガリア人CEO、クリスタリナ・ゲオルギエヴァさんと話をしていた時のことだ。彼女の大学の統計学の教授は常々こうした話をしたそうだ。

 
「頭をオーブンに入れて、足を冷凍庫に入れる。平均温度は人にとって気持ち良いぐらいだが、その人は死んでしまう」。

 
そう、時に、一人ひとりにとって、“平均”はほとんど意味をもたないことがある。平均が、そこで起きていることを覆い隠してしまうのだ。

 
タイの例でも分かるように、国単位だけでなく、経済力、民族、能力、紛争下など、多数派の人とは違うからという理由で、機会を得られていない人たちにも注目したい。

図4
目標4:すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
Ensure inclusive and quality education for all and promote lifelong learning

 
・開発途上国の初等教育就学率は91%に達したが、まだ5,700万人の子どもが学校に通えていない。
・その半数以上は、サハラ砂漠以南アフリカで暮らす。
・小学校就学年齢で学校に通っていない子どものおよそ50%は、紛争地域に住んでいるものと見られる。最貧層世帯の子どもが学校に通っていない確率は、最富裕層の子どもの4倍に上る。
・世界は初等教育で男女の平等を達成したが、すべての教育レベルでこの目標を達成できている国はほとんどない。1990年から2015年にかけ、15歳から24歳の若者の識字率は世界全体で、83%から91%へと改善した。
(国連広報センターのプレスリリース<2015年9月17日>より抜粋)

 
 
「SDGs」について、詳しくはこちら:SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり
 
 

  • writer藤谷健

    朝日新聞社コンテンツ戦略ディレクター

    1987年、国際基督教大学(ICU)卒業後、朝日新聞社入社。在学中、フィリピンの大学に留学。宇都宮、札幌を経て、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)で開発学修士。ローマ、ジャカルタ、バンコクに駐在するなど、主に国際報道畑を歩む。途上国の開発問題や日本の国際協力、アジアやアフリカがテーマ。英語のほか、インドネシア語やタイ語を話す。

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