コラム&リポート

「灼熱の国カタールで、人々に等しく水を供給したい」クボタが挑む大きな目標

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世界中が熱狂したFIFAワールドカップ。次回2022年におこなわれるカタール大会は、従来の6〜7月ではなく11〜12月に開催されるのをご存知ですか? これは開催国のカタールが砂漠気候で、夏ともなると気温が50度近くに上るため。選手の負担を考慮し、史上初の冬季開催となりました。

 
そんな灼熱の国カタールで絶対不可欠なのが、安定供給できる「水」。とくに首都ドーハで増えつづける水需要に対して、政府は「上水道メガリザーバープロジェクト」を立ち上げました。これは、非常時に備え、市民の暮らしをまかなう水を7日分蓄えるというもの。ここで現地の信頼を勝ち取り、圧倒的な活躍をみせているのが日本企業の「クボタ」です。

 
「安全な水とトイレをみんなに」は、国連が2015年に定めた世界目標「SDGs」の6番目の目標としても掲げられています。世界にはいまだ、安全な水にアクセスできない人々が約7億人もいるとされているのです。

 
世界の競合との差別化、まったく異なる文化圏でのコミュニケーションなどを、クボタはいかにして乗り越えたのか−—。そして、日本にとっても他人事ではないという水問題とは? このプロジェクトに携わった株式会社クボタ パイプシステム事業部の難波徹さん、松本賢さんにお話を伺いました。

ワールドカップで急成長するドーハにひそむ、“みえない水問題”

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(株式会社クボタ パイプシステム事業部の難波徹さん)

 
上水道メガリザーバープロジェクトとは、東京ドーム約8杯分(1000万立米または立方メートル)の水を貯水するための24個の巨大貯水池と、それらをつなぎ貯水もできる約480kmの送水管路、そして水を送るポンプ場を新設するという国家戦略プロジェクトです。

 
そのなかでクボタは、送水管と連絡管に使用される「ダクタイル鉄管(※1)」を全体の2/3にあたる約300km分と、同じく全体の2/3にあたるポンプ34台を受注。水道管路システムのなかでも大動脈ともいうべき重要なパーツのほとんどを担っています。

 
ワールドカップに向けて続々とインフラ整備が進み、世界に類をみない人口増加と経済成長をとげているカタールの首都ドーハですが、じつは災害やトラブルが発生したときに市民に供給できる水が2日間分しか貯水できないという、“みえない水問題”を抱えていました。これはSDGsの6番目「安全な水とトイレを世界中に」と11番目「住み続けられるまちづくりを」にもかかわります。

 
なにせカタールの降水量は年間74mmで、世界180カ国中177番目という少なさ(※2)。湖も川もないため、海から海水を引っ張ってきて淡水化し、水資源を確保しなければなりません。しかし、2日という期間では、有事のときに他国からの支援などが間に合わない可能性が高いのです。では、このプロジェクトに取り組む企業として、なぜクボタが選ばれたのでしょうか?

貴重な水を漏水させずに届ける!高い品質と耐久性で実績評価

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(株式会社クボタ コーポレートサイトより)

 
「カタールのような中東では海水を淡水化して造水していますが、それにはとてもコストがかかるのです。なので、貴重な水を一滴でも漏水させずに市民に届けることが一番の課題。クボタは1893年に日本ではじめて水道管の開発に成功し、1970年代には中東にも進出。半世紀近くの使用実績があり、すでに品質の良さと耐久性は“クボタブランド”として知れわたっていました。たまたま別の工事で30年間使われていたクボタのダクタイル鉄管を掘り起こしたところ、まったく傷んでおらず、また埋め直していいかといわれたほど。そのような実績と信頼性が高く評価されたのだと思います」(松本さん)

 
実際、今回のプロジェクトでは50年以上の耐久性を備えた“世界最高品質の製品を使いたい”というトップの意向があり、厳しい予備審査があったそう。そこで競合にあたるフランスのサンゴバン社とアメリカのUSパイプ社を差しおいて、クボタは一番に審査に合格。さらに、ライバルとは決定的に違う強みがありました。

 
「なによりの強みは、世界でもっとも長い1本9mのダクタイル鉄管をつくれる技術力です。通常のダクタイル鉄管は6mなので、その1.5倍の長さとなると管が曲がってしまったり、楕円形に扁平してしまったり、寸法どおり均一につくるのが難しいのです。しかし、125年以上蓄積されてきた経験とノウハウがあるので、クボタなら安定供給が可能です。1本が長いとそれだけパイプの継ぎ手が少なくなり、施工の手間や費用が抑えられ、漏水のリスクも減らせます。ですから、中東のような長い距離が必要な地域では非常に喜ばれているのです」(難波さん)

現地での信頼を勝ち取ったのは、“郷に入っては郷に従え”の精神

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(アブダビで使用されているダクタイル鉄管)

 
約3万3千本という膨大な量のダクタイル鉄管は、おもに千葉県船橋市にある京葉工場でつくられ、2014年8月から1年半という短期間のうちにすべて納品されたというから驚きです。

 
じつはこれほどまでに大規模で短納期の案件は、クボタにとっても初めて。「社内では否定的な意見もあった」といいます。しかし、当時中東営業のグループ長だった松本さんは、クボタのパイプを必要としてくれている現地の声を十分すぎるほど理解していたため、その思いを熱心にアピール。最終的にはチャレンジしてみようと一致団結し、1本の不良品も出すことなく遂行できたのです。
「一番困難だったのは、内なる壁を乗り越えることだったかもしれません」と松本さん。

 
そして、ただ納品するだけでなく、地中に設置して正しく接合するところまでをトータルでサポートしたことも、クボタが選ばれた理由のひとつです。文化もコミュニケーションも日本とは異なるカタールでのプロジェクトを支えたのは、“郷に入っては郷に従え”の精神でした。

 
「現地スタッフのほとんどは多国籍な外国人労働者で、みんなが片言の英語と身振り手振りでコミュニケーションをとるような状態でした。そのときに大事なのが、こちらがパイプのプロだからといって上から目線で接するのではなく、いっしょになって汗をかくこと。1970年代にクボタが最初に中東に進出したときも、現地で暮らしてイスラムの文化を知るところからスタートしたと聞いています。ラマダンといわれる断食中は昼間ではなく夜間に工事をするなど、日本式ではなく現地の習慣に合わせることで信頼を得てきました」(松本さん)

 
さらに、何か問題が起きたときのアフターフォローも徹底し、現地スタッフからの信頼を強固なものにしました。「製品というハード面だけでなく、ソフト面での対応までするところはほかにないと思います。まさに日本の“おもてなし”の精神です」(難波さん)

中国との価格競争に直面したときにどうするか

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(株式会社クボタ パイプシステム事業部の松本賢さん)

 
“高品質な製品を安定供給できる技術”“現地で最高のパフォーマンスを生み出すためのバックアップ体制”と、この世界では抜きんでているようにも見えるクボタですが、いま、新たな課題に直面しているといいます。

 
「インドと中国の会社がより低価格な製品を出してきています。品質では絶対に負けないものの、価格競争の部分で難しい局面も増えてきました」(松本さん)

 
このような価格競争の波はあらゆる業界に押し寄せています。未来に向けてどのように対抗していくべきなのか、頭を抱えている企業も多いかもしれません。では、クボタはどのような選択をしたのでしょうか?

 
「他社に価格を合わせていくのは簡単ですが、長年磨いてきた技術やノウハウはそう簡単にマネできるものではありません。とくに日本のように地震が頻発する国は珍しいですが、その日本で100年使えるほど丈夫な製品を開発してきました。値段は何倍かするかもしれませんが、それだけの価値があるということをしっかり伝えていかなくてはと思っています。30年でダメになるものを何度か入れ替えるのか、多少コストがかかっても100年ノーメンテナンスでいくのか。いまは長期的なライフサイクルコスト(Life cycle cost=LCC)を考えていくことが重要だといわれています。いいものを長く使うことのよさを、世界中で伝えていくことが命題です」(松本さん)

 
実際に中東だけでなく、地震や地すべりなどのリスクがひそむアメリカのロサンゼルスやサンフランシスコにも耐震管を輸出しています。クボタは今後も、本当に価値のある製品で長期にわたって役に立つ“グローバルメジャーブランド”として、さらなる世界進出を目指しているそうです。

日本の水問題の解決と、SDGs達成のために大切なこと

 
SDGsの目標達成のためには、あらゆる手段の選択が可能です。しかしながら、単に数値的目標を満たすだけでは真の目的からずれてしまいかねません。未来の子どもたちのために目先の利益や便利さに惑わされず、本質を見極める長期的な視点をもつことがいま、問われているのではないでしょうか。

 
じつは日本でも、そんな視点が求められる“水問題”が起こりつつあるのです。

 
「今年の6月に起きた大阪北部地震で、老朽化した水道管が破損。高槻市の8.6万世帯が断水しました。このように、耐震性が確保されていない水道管の割合は全国で6割にも及びます(※3)。しかしながら、人口減などで水道料金収入は減少。新しいものに更新するための予算不足に陥るなど、問題は山積しているのです。おそらく水道料金は今後、値上げせざるを得ない場面が多くなるでしょう。安全な水のためになにができるのか、一人ひとりが考えるべきときが来ています」(難波さん)

 
カタールのメガリザーバープロジェクトは、2019年に稼働予定。2022年のワールドカップでは、カタールに訪れた世界中の人々も、知らぬ間にその水を享受することになります。

 
常に一歩先の未来を想い、現地の人々と同じ目線で課題解決に挑むクボタの姿勢は、これからのSDGs達成に向けて重要なヒントになるかもしれません。

 
図6

 
図11

 
※1:ダクタイル鉄管とは、組織内の黒鉛を片状から球状に改良した鋳鉄でつくられた、強度と延性に優れた鉄管。

 
※2:出典:FAO(Food and Agriculture Organization)
http://www.fao.org/home/en/

 
※3:出典:厚生労働省 医薬・生活衛生局水道課データより
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000188578.pdf

 
<編集>サムライト <WRITER>佐々木彩子

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