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漫画家・トミムラコタが発信する「LGBT」のリアル

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レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)などの性的マイノリティを示す言葉、「LGBT」。電通が2015年に実施した調査で、LGBTの当事者に該当すると答えた人の割合は、7.6%(約13人に1人)に上ります。
 

2030年に向けた国連の世界目標「SDGs」の中では、各国の宗教観や法の違いからLGBTに対して直接的な言及はされていないものの、「誰も置き去りにしない」という全体目標の中にLGBTの人々も含まれている、と元国連事務総長のパン・ギムン氏は語っています。
 

トミムラコタさん(@cota0572)は、そんなLGBTの“リアルな日常”を漫画を通して発信し、人気を集めている漫画家兼イラストレーターです。トミムラさんは2016年から父親や家族にまつわるエピソードを漫画にしてインターネット上で発信していましたが、翌年にはバイセクシャルであることをTwitterを通じてカミングアウト。ご自身の体験談に基づいて描かれた漫画『ぼくたちLGBT』はその後書籍化もされ、コミカルで明るい作風に注目が集まっています。
 

今回はそんなトミムラコタさんに、漫画を通じてLGBTの人々を描く理由や、LGBTとの向き合い方をお聞きしました。
 

「あの頃レズビアンの掲示板にいた人たちは、みんなどこに行ったんだろう?」

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(トミムラコタさん)
 

イラストレーター・デザイナーとして活動していたトミムラさんが漫画家としてのキャリアを歩み始めたのは、2年前にTwitterに載せた4コマ漫画がきっかけでした。
 


(2016年、トミムラさんが最初にTwitterに掲載した父親にまつわる漫画。そのキャッチーかつ衝撃的な内容は、数万単位の拡散を呼んだ)
 

「あるとき、Webメディアの編集者の方と仕事でお酒を飲む機会があって、『トミムラさんのお父さんの話、絶対面白いから漫画にしなよ』って薦めてもらったんです。絵を描くのはずっと好きで、中学生の頃は漫画家になりたいと思っていた時期もあったので、それならと思ってTwitterに父親のことを描いた漫画を掲載しました。そうしたら、またたく間に拡散されて。2週間後には書籍化の話をいただきました。
 

うちは父、母、私、兄の4人家族なんですが、小さい頃から自然と“面白い話は家族みんなで共有するもの”という雰囲気があったんですよね。だから、家族の話がこんなにも面白がってもらえるというのには驚きました」(トミムラさん)
 

父親にまつわるエピソード漫画をまとめた『実録!父さん伝説』の発売後、トミムラさんはTwitter上で“LGBT”をテーマにした漫画の発信を初めます。そのきっかけは、自らのジェンダー観について知ってほしいというよりも、ちょっとした好奇心だったと彼女は語ります。
 

「私は、中学生のときに自分がどうやらバイセクシャルだということに気づいたのですが、そのきっかけもインターネットだったんです。小学校高学年くらいの頃からネットサーフィンをするのが好きで、中学生になって初めて女の子を好きになったときも、ネットを通じて“バイセクシャル”という言葉を知ったんですね。
 

だから10代の頃はレズビアンの人たちが集まる掲示板をよく見ていたんですが、大人になってからふと『あのサイトにいた人たちはみんな、いま何してるんだろう?』と気になってしまって。当時の空気の懐かしさみたいなものをネットの人たちと共有したいな、と思ってレズビアン専門の掲示板についての漫画を描いたのが、LGBTについて漫画で言及した最初でした」
 

LGBTの“活動家”にはあえてならない

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(トミムラさんがこれまでに発表した2冊の書籍。『ぼくたちLGBT』は2018年6月に電子書籍で2巻が発売された。どちらも自らの体験談や周囲への取材に基づいた実録漫画として描かれている)
 

その後、ご自身の体験談や周囲のLGBTの人たちへの取材に基づいて描かれた漫画はWebでの連載を経て、『ぼくたちLGBT』として書籍化。トミムラさんはLGBTをテーマに漫画を描くにあたって、いくつかのことを心がけたと言います。
 

「最初はそんなに注意していなかったのですが、連載を重ねるにつれて『あくまでこれは私と私の友人たちの場合であって、すべてのLGBTの人がこうではないんだよ』という描き方を心がけるようになりました。もちろん他人のことを描かせていただく以上、性自認やジェンダー観を表す言葉に間違いがあっては失礼なのでそこも気をつけるのですが、私の漫画を読んだ性的マジョリティの方に『トランスジェンダーの人はみんなこう考えているんだな』と思ってほしくはないので、人それぞれ違うんだよという、断言を避けるような描き方にしています。
 

それから、必要以上に漫画を暗い内容にしないようにも気をつけています。LGBTのさまざまな人たちに会ってLGBTのことをより深く知っていくと、伝えたいことや啓蒙したいことも増えていくのですが、“活動家”には私はならないでいようと思っていて。LGBTの啓蒙活動をされている方は他にもいらっしゃるから、そこは思いきって他の方に任せて、私はあくまで“LGBTの誰かの日常”を描こうと途中から決めました。LGBTの教科書のような内容ではなく、ヘテロセクシャルの人と変わらない、LGBTの人の恋愛や失敗談を描いたエッセイと受け取ってもらえたら嬉しいなと思っています」(トミムラさん)
 

その言葉はもしかしたら、LGBTの誰かの心を傷つけるかもしれない

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(自著を読むトミムラさん。『ぼくたちLGBT』には新宿二丁目で出会った人からイベントつながりで出会った人まで、さまざまなLGBTの人たちの価値観が窺えるエピソードが描かれている)
 

LGBTの概念は日本でも急速に広まりつつありますが、中にはまだ「同性愛なんて気持ち悪い」「どうして“普通の恋愛”をしないの?」と捉える人もいます。
トミムラさんはご自身にまつわるエピソードを話してくれました。
 

「私には来年小学生になる娘がいるのですが、私自身は彼女にジェンダー観を固定するようなことは伝えていなくても、『ピンクは女の子の色なんだよ』とか『男の子って女の子としか結婚できないんだよ』と言い出すことがあるんです。たぶん、保育園やテレビ、周りの友達との会話の影響なのですが、そのたびに私は「そんなことないよ、女でも男でもピンクが好きでもいいんだよ」とか、「いまは男同士、女同士で結婚できる国もあるんだよ」と伝えるようにしています。
 

いちばん根深いのは、悪意のある差別ではなく良心に基づく差別だと思うんです。たとえば、決してジェンダー差別をしようと思っているわけではない友達のお母さんが、『息子がランドセルの色を赤がいいって言い出して、全力で止めた』と話したりする。それはもちろん悪気があるわけではなく、自分の子どもが小学校でいじめられるかもしれないと思って、慎重になっているだけなんですよね。でも、その言葉はもしかしたら、LGBTの人や自分の性自認に悩んでいる人の心を傷つけるかもしれない。だから、職場や学校でLGBTの人や性自認に悩む人を見ても陰口を叩いたりしないとか、そういうすごく身近な心がけが必要なんだと思います」
 

トミムラさんは、「差別するつもりじゃなかった」という言葉でLBGTの人たちを無責任に傷つけてもよいというフェーズから、いまの時代はもう抜け出しつつあると語ります。
 

「この1年間でも、勝間和代さんといった著名な方のカミングアウトがあったりと、LGBTをめぐる世間の意識は大きく変わってきていると感じます。いまはもう、性的マジョリティの人たちがLGBTに対してぼんやりと抱いているイメージを、最低限の知識に変えなければいけないタイミングにきている。もちろんLGBTについて解説された分厚い本を全員が読めと言っているのではなくて、最低限のLGBTにまつわる用語解説くらいであれば、吸収する意欲を持ってほしいなと思うんです」
 

「レズビアンの人」「ゲイの人」ではなく、その人個人を見て

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(トミムラさんはインターネット上でエッセイ漫画を載せる際、最近は自分の姿を“恐竜”のキャラクターにしている。「男や女の姿で漫画を描くと、『男だから』『女だから』とジェンダーを理由に偏見をぶつけてくる人がいるので」)
 

漫画の書籍化を経て、トミムラさんのもとには「もしかしたらクラスに男性になりたい子がいるかもしれないんですが、本人にそう聞いてもいいんでしょうか」「トランスジェンダーの人ってどんなことを考えているんでしょうか」といった質問が多く寄せられるようになったと言います。
 

「私もLGBTの人たちの取材を通して気づいたことはたくさんあります。LGBTの人の中には自分がバイセクシャルであることに一度も悩んだことがないという人もいれば、自分の恋愛や家族のことについて触れられるのが本当に嫌だという人もいる。『レズビアンの人』『ゲイの人』とくくらずに、その人個人を見ることが何よりも大事なんじゃないかな、と思います。
 

たとえばヘテロセクシャルの人にだって、親しくもないのに急に恋愛の話は振りませんよね。相手がどんな性自認の人であっても、まずはその人と仲良くなってから、性自認や家族、恋愛といったテーマについて触れてみてほしいと思います」(トミムラさん)
 

自分の性自認について悩んだ中学生の頃に「女が女を好きでもおかしくない」と思えたのは、同じような悩みを抱える人たちに出会えるインターネットがあったからだと、トミムラさんは最後に語ってくれました。
 

「中学生のときは『女は男を好きになるのが当たり前なのに、どうして私は違うんだろう』と悩んだこともあったのですが、それは結局、自分自身の中に偏見があったからなんですよね。私ももしかしたら、自分がこれまでに描いた漫画で誰かを傷つけてしまったことがあるかもしれない。
 

無意識の偏見は誰の中にもあるものなので、できるだけ多くの人がLGBTについての知識を少しずつでも得て、身近な人への接し方に思いやりを持てるようになることが、ジェンダー平等への第一歩なんじゃないかと思います」
 
 

<編集・WRITER>サムライト
 
 

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