コラム&リポート

国連ハイレベル政治フォーラムで感じたこと、今後の民間ベースの動向にも注目

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蟹江 憲史

慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科教授

7月にニューヨークの国連本部で行われたハイレベル政治フォーラム(HLPF)に行ってきました。HLPF とは、今年7月9日から18日までニューヨークの国連本部で開かれた、1000人以上の各国政府、企業、市民社会のリーダーたちの集いで、世界各地の「持続可能な開発目標(SDGs)」の進捗状況の確認や課題を議論する場です。私は、日本政府主催の関連イベントで講演を行いましたが、国連周辺には、これまで一緒に研究をしてきたり、話をしてきた仲間がたくさんいます。彼/彼女らと話をして、SDGsに関して世界でどのような事が起こっているのか、トレンドは何か、ということを把握してくるのも、訪問の大きな目的の一つでした。

ベスト・プラクティスで牽引し、他のベスト・プラクティスから学ぶ

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(HLPF関連イベントでの基調スピーチ)

 
まず感じたことは、僕らの取り組みは、世界の中でも「いい線をいっている」ということでした。慶應SFCで進めているxSDG・ラボでの、研究や実業界との連携で「ベスト・プラクティス」を作っていこう、というアプローチの正しさ。自治体「SDGs未来都市」選定によって、先進的な事例を作り出そうという動き。そして日本が国として、SDGsアクションプラン2018の中で「ベスト・プラクティス」を作っていこう、というアプローチ。こうした動きの正しさと先進性を感じ取りました。

 
SDGsは法的なアプローチとは異なり、普遍性を考えることよりも具体的にアクションを取ることを重視します。良いことや良い取り組みを重ね、発信することで、「ああ、こうすれば良いんだ」とか「こんな人と一緒にやってみようか」と言うものをどんどん広げていくのが大事だということです。その際に、同じ目標を対象としているものはそうした事例をあつめていけば学習機会も増えますし、わかりやすいです。そして何より、優良事例をスケールアップすることにもつながっていきます。

 
今回のニューヨークでも、同じような発想をし、ベスト・プラクティスで牽引しよう、そして他のベスト・プラクティスから学ぼう、という仲間が多くいることを実感しました。

 
以前から一緒に研究や発信をしてきた仲間に、IISDというカナダのNGOでEarth Negotiations Bulletinという国際レポーティング・サービスを始めたKimoさんとPamさんという夫婦がいます。92年の地球サミット以来、国連と連携して様々な国際交渉の動向を発信することで国際交渉をウォッチしてきた彼らも、同じように「ベスト・プラクティス」の増大や、相互学習の重要性を感じていました。

 
Kimoさんは、政府間のHLPFと、民間の相互学習の場をいっそのこと分けてしまい、後者については、例えば国連第2の都市ジュネーブなどで、2週間程度をかけて実施するのが良いのではないか、といった意見を持っていました。それほど、民間による経験の共有が大事だ、というのです。

 
私も同感ですが、そうしたものはジュネーブ、というように場所を決めるよりも、むしろ、国連加盟国が持ち回りでやる方が良いのではないかと思います。こうしたものを日本で実施すれば、日本国内に大きなインパクトを及ぼすでしょうし、政府としても力が入るでしょう。東京2020や大阪万博といった機会と結びつけて、日本全体のムーブメントとして育てても良いように思います。

SDGsを全体として一つのものと見ることが重要だ

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(HLPF関連イベント登壇者による記念写真。都市におけるSDGsの取り組みについての報告書を手に)

 
このことに関連して、今回は、ビジネスや自治体によるSDGsへの関心が高まってきているようにも感じました。ビジネスや自治体のフォーラムが同時並行的に行われ、それぞれ議論を進めていました。例えば自治体のフォーラムでは、国が自主的に活動レビュー(Voluntary National Review, VNR)を行っていることになぞらえて、自治体も自主的レビューをやるとよいのではないか(Voluntary Local Review, VLR)という考えも共有されていました。

 
また、会議場の廊下では、持続可能なファションの展示が行われていたり、本セッションの中でも、持続可能なファッションについてのプレゼンテーションが、有名な女優さん(Michelle Yeoh Choo-Kheng)によって行われていたりもしました。有名人も巻き込みながら、色々な動きが出てきているのを感じてきました。ファッション業界での大量廃棄や素材をめぐる課題や、プラスチック廃棄物の問題は、身近な問題でもあるだけに、大きな焦点になりつつあるように思います。

 
SDGsを「全体」として見ることの重要性を強調することが多くなっている、という気もしました。英語でいうと、indivisible wholeとしてアクションを見る、ということです。この点は私自身も最近、強調している点でもあります。

 
確かにSDGsは、出来ることから入り、少しづつ活動していくことが重要です。しかし、それで終わってしまっては何も変わりません。例えば、雇用を創出する、ということはビジネスであれば大抵やっていることですし、教育産業であれば目標4に何かしら貢献するでしょう。同様に、製薬会社は薬を作るので目標3の健康に貢献、出版社は本のテーマに応じて、貧困対策の本を出版すれば目標1に貢献、エネルギーの本を出版すれば目標7に貢献、などということになります。

 
もちろんそれは、ある意味正しいことです。でも、それはあくまで「取り掛かり」であって、本当の取り組みは、そこから17目標の全体に対して貢献する方向へ向かうことです。教育産業で教育を扱うのであれば、次のステップとして男女平等や多様性を重視した教育を取り入れたり、女性教員を増やしたり、あるいは活動の際のエネルギー源を再生可能エネルギーに変えていったり、と、SDGs全体からみてチェックをし、少しずつ取り組みを広げていくことが重要になります。もちろんすべてのターゲットを達成することは難しいものですが、一つのアクションで少しでも多くの目標を達成する、という形で「SDGsを全体として一つのものと見ることが重要だ」という論調が多く目につきました。

SDGsの活動として認められるものを淘汰して、本物を見極めていく

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(HLPFの国別政策の自主的レビューの様子。各国代表がプレゼンテーションに注目する)

 
これはだんだんと、SDGsの活動として認められるものの淘汰が始まっているということを反映しているように思います。「猫も杓子もSDGs」という状態から、本物を見極め始める動き、と言っても良いかもしれません。

 
何かを生み出すことが企業活動につながっていると考えれば、大抵の活動は何らかの形でSDGsに関係します。しかし、それだけでは、多くの「別の」問題が生まれて来てしまったのが現実です。例えば、ストローを使うことで飲み物を飲みやすくし、子供や高齢者の健康に貢献できますが、他方でその生産に石油を使うことで気候変動を促進していたり、あるいは捨て方が悪いと海洋ゴミの原因となって海の生態系を壊したりします。一つのモノやコトを生み出すだけでなく、その生み出したものが多様なSDGs目標の観点からみてもポジティブな効果を生み出すようにチェックし、行動に変えていく。そのためには、SDGsの17目標全体を一つのものと捉えて少しずつ改善していくことが大事なのです。そうして初めて、現実が変わっていくのだと思います。

 
今回の会議を通じては、データと指標が今後重要になってくる、という見方が、多くの「ウォッチャー」によって共有されていたようにも思います。これは、上記した「本物を見極める動き」とも関連しているように思いますが、行動の進捗を測り、評価することがアクションを始めた「次」に来ると、多くの人が考えているのだと思います。

統計指標だけでなく、ビッグデータや地図情報なども活用され、SDGsの進捗が計測される

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(国連本部入り口では日本政府主催のレセプションが開かれ、ポケモンがSDGsと大阪万博招致のため、日本代表として活躍していました)

 
国連レベルでの進捗評価に使うためのグローバル指標が昨年(2017年)提示されました。そして、これは今後指標や統計の整備により進化していくものと考えられています。

 
しかしそれ以上に、グローバル指標は抽象的で、自治体やビジネスの行動がSDGsの目標に対してポジティブな動きをしているかどうかが十分測れないという弱みもあります。そこで、政府系にとどまらず、色々な人や組織が指標を開発していっているように思います。

 
今年の10月にはUN World Data Forumが開催されます。イギリスでは、SDGsの進捗を民間ベースのパートナーシップで計測する動きが出てきているようです。計測には、統計指標だけでなく、ビッグデータや地図情報なども活用されるでしょう。今の時代にあった計測方法が模索され、また、そうした情報をベースに、投資などの動きも、持続可能性や、環境・社会・ガバナンスのしっかりしたところへと向けるESG投資への対応に動き始めているように思います。

 
2019年は、いよいよSDGsが国連総会のもとでレビューされます。首脳級でのレビューは新たな動きを導き出すことでしょう。そのような国際的な動きを待って、それに対応して動くのではなく、むしろそれをにらみながら、積極的に日本からスタンダードを出していく。そうしたポジティブな動きが、これから求められていくのではないかと思います。

  • writer蟹江 憲史

    慶應義塾大学大学院
    政策・メディア研究科教授

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