コラム&リポート

日々の営みにこそ、学びがある。自由学園の「すごさ」とは

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writer

末吉里花

一般社団法人
エシカル協会
代表理事

(冒頭写真=私のお隣は、自由学園の高橋和也学園長)
 

私の本棚に一冊のお気に入りのレシピ本がある。
「自由学園 最高の『お食事』~95年間の伝統のレシピ~」(新潮社)。
 

東京都東久留米市にある自由学園は、1921年にジャーナリスト羽仁もと子、吉一夫婦が創立した学校で、約100年の歴史がある。私が親しくさせてもらっている4人家族全員が自由学園出身で、彼らの暮らし方がとてもエシカル(倫理的な)であることを知っており、昔から自由学園の「すごさ」を話に聞いていたので、かねてその「すごさ」の正体を自分の目で確かめてみたかった。念願がかない、ついに先日、取材で訪問することが出来た。
 

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(東京都東久留米市にある学校法人「自由学園」)
 


(「You Tube 朝日新聞社 公式チャンネル 自由学園訪問 by エシカル協会」)
 

実際に行ってみて何よりも驚いたのは、食育活動の充実だ。農作物を作る過程から調理して食べることまで、食と暮らしと学びを総合的に実践する食育活動が創立以来続いていて、エシカルな未来の子どもたちを育てていくあらゆるヒントが隠されていたことだ。
 

近郊に広がる豊かな自然 園内のまきで生徒が炊くご飯

 

池袋駅から電車で15分、ひばりケ丘駅から徒歩約10分のところに自由学園はある。都会に思えるが、一歩園内に足を踏み入れると、約4,000本の木々が茂り、花々が色鮮やかに咲き誇り、鳥たちが楽しそうに鳴き、静かに小川が流れる、東京とは思えない豊かな自然がどこまでも続いていた。100,000㎡もの広大な敷地の中に、どこか懐かしいような木造の校舎が立っている。
 

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自由学園は幼児生活団幼稚園と初等部、女子部と男子部の中等科、高等科がそれぞれ、そして最高学部と呼ばれる大学部があり、同じ環境で一貫教育を行っている。
 

この学園の特徴はなんといっても「お食事」と呼ばれるいわゆる給食の時間だ。私も女子部の昼食時にお招きいただき、共に食事をいただいたのだが、実はこの昼食はすべて、毎日生徒たちによって作られている。
 

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(昼食は生徒たち自らでつくる)
 

教師と生徒合わせて約280人分の昼食を、中等科から高等科までが、毎日交代で作るのだ。ただ作るだけではなく、当番のチームには必ずリーダーがいて、全体の指揮をとりつつ、カロリー計算や費用計算も行う。私が訪れた日は中学3年生のチームが料理の当番で、前日と当日の朝に下準備、当日の10時台には料理作りをスタートして、食事の時間に間に合うように準備をする。厨房をのぞくと、生徒たちは皆マスク、三角巾、スモックを身につけて、きびきびと働いている。壁には進行表やメニュー、料理の手順などが貼ってあり、それぞれの役割がはっきりと分かり、誰もが迷うことなくてきぱきと動き続けていた。
 

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(黒板にかかれた、この日の献立)
 

この日の献立は、ブラウンシチュー、インゲン・タマネギ・トマト・ラディッシュのサラダ、4枚切り食パン、マーマレード、小玉スイカ、紅茶、牛乳だった。中学3年はルー作りを学ぶ段階だそうで、もちろん市販のルーなどは使わない手作りルーである。ラディッシュは園内にある畑で中学1年生が栽培したものを使用。マーマレードも手作りだ。食パンは毎日園内のパン工房で焼かれている(これは大人の職員によって)。この日はパンだったが、お米の日もあり、なんとご飯は薪窯で炊かれている。薪は園内に育つ木々を枝打ちしたものや、倒れた木々などを使っている。
 

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(窓から明かりが降り注ぐ食堂)
 

野菜ごろごろのブラウンシチュー、生徒手作りの昼食。先生と一緒に

 

食堂はアメリカの建築家フランク・ロイド・ライトの弟子であった遠藤新によって設計された。木のテーブルと椅子が並ぶ食堂は、床から天井まで届く大きな窓から明かりが降り注ぎ、開放感のあるエレガントな雰囲気で、とても贅沢ぜいたくな空間である。私もその空間の中で、生徒と先生たちに交じってお食事をいただいた。生徒と先生が毎日家族のように皆で共に食卓を囲んで食べる、という行為はとてもすてきだ。野菜がゴロゴロ入っているブラウンシチューは優しい味でとてもおいしかった。中学1年生が作ったラディッシュは新鮮で、すぐ近くの園内の畑からやってきたものだと考えるとなおさらおいしく感じた。食パンは常に人気だそうで、厚切りのふわふわ、もちもちの食パンに爽やかなマーマレードがよく合った。
 

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(生徒、先生みんな一緒の昼食時。料理を担当した生徒たちの感想発表も)
 

食べている途中、料理を担当したチームが出てきて、食事にかかった費用と栄養や生産地の説明、料理を作る過程でどんな点がよかったか、あるいはどんな点を課題に感じたかなどの発表の時間があったのには驚かされた。段取りから時間計算、原価計算や栄養価、食材の産地などの学びを通じることで、生徒たちはただ単に料理を学ぶだけではない、暮らしに必要な「ほんとうの」学びを得ることができるのだ。
 

食事が終わると、当然後片付けも担当のチームが受け持ち、あっという間に食堂がきれいになっていく。自由学園は「自労自治」の生活を大切にする生徒を創る学校だそうで、その意識はまさに毎日の昼食作りや掃除に表れている。
 

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(自由学園の敷地に広がる畑)
 

畑のこよみも学びにつながる

 

自由学園では他にも、食に関する様々な活動が行われている。4歳から土をいじり始め、二十日大根を育てるところから始まり、初等部から最高学部まで学年ごとに畑を持ち、種をまき、野菜を育て、毎日世話をしている。農作業もただ単に農作物を育てて収穫をして食べるだけでなく、小学校では畑のこよみと、国語、社会、理科、数学、美術、家庭科、総合といったあらゆる教科との結びつきがあり、横断的に様々な学習につながるように授業のカリキュラムが体系化されている。ひとつのアプローチが難しい問題を相互関連させながら解決していく、というSGDsの観点からみても、このように子どものうちから多面的に考える力を育んでいけば、持続可能な社会を作っていくための、豊かで多様なアイディアが生徒の中から次々と生まれてきそうだ。
 

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わずかな滞在ではあったが、自由学園の教育を目の当たりにさせてもらい、私が尊敬するある方の言葉を思い出した。イギリスで「シューマッハカレッジ」や「スモールスクール」を運営している哲学者、思想家、活動家であるサティシュ・クマールさんの言葉だ。
 

彼は以前、私にこう話してくれたことがある。「人は皆アーティストであり、作り手である。せっかく与えられたのだから、その2本の手を使い、想像力と創造力を生かして、美しい技術を持って何か作り出せば、どんな人もアーティストになれる。手(Hands)と頭(Head)と心(Heart)を育み、動かし、使いなさい」。まさにこの言葉を実践しているのが自由学園の生徒たちであり、未来を担う小さなアーティストたちが、確実にここで育っている。ここで教育を受けた子どもたちが、将来どんな社会を作っていく人間になるのか、非常に楽しみである。
 

普段、私は自分の活動の中で、エシカルとは何かを伝えることに苦労しているが、自由学園の取り組みこそまさにエシカルであり、こうした例をもっと具体的に世の中に伝えていくことで、より多くの人にエシカルの魅力を届けられるのではないかと思った。
 

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(こんな看板からも、日々の学びのヒントが感じられます)
 

「一生につなぐ毎日がここにある。」
 

自由学園のスローガンである。日々の営みの中に多くの学びがあり、私たちはもっと五感を生かして、暮らしの中に学びを見つけ出していく必要がある。自由学園の「すごさ」は、生活をすべて学びに変えていることであった。まずは自分の足元から、身近なところに目を向けて、本当にいとおしいと思える暮らしや地域を手や頭を動かしながら整えて作っていくことが、エシカルの大きな第一歩なのだと思えた。
 
 

  • writer末吉里花

    一般社団法人
    エシカル協会
    代表理事

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