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徳島県神山町で、“地産地消”をめざす。農業を食で支える「フードハブ・プロジェクト」【ソーシャル数珠つなぎ】

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秋山訓子

朝日新聞編集委員

ソーシャル数珠つなぎ 7人目 真鍋 太一さん 
 
1977年愛媛県生まれ。アメリカの高校・大学を卒業後、日本の広告制作会社でプランナー、プロデューサーなどを務める。2012年にウェブ・広告の制作会社モノサスに転職。徳島県神山町のサテライトオフィス開設に伴い家族と移住。同社のプロデュース部部長を務めながら、「地産地食」のしくみづくりをめざすフードハブ・プロジェクトを始める。
 
この記事は…、ソーシャルなことをしている人に、何をしているのか、なぜしているのかを聞きます。その人が「面白い!」と思う人を紹介してもらい、次に会いに行きます。そう、いわば数珠つなぎです。6人目のプラットイーズ・隅田徹さんに紹介してもらったのが真鍋太一さんです。
 
あっという間に1月、2月が過ぎ、もう春……みなさま、今年もどうぞよろしくお願いします。ゆっくりゆっくりではありますが、数珠をつないでまいります。
パンが大好き! なワタクシ。前回、神山町に隅田さんをおたずねしたときに、連れて行ってもらったパン屋さんで「よもぎあんパン」をお買い上げし、次の日いただきました。すると! なんじゃこりゃ、このよもぎの濃い、力強い香りは!
これって、小さい頃、原っぱでつんできたヨモギで近所のおばあちゃんが作ってくれたヨモギまんじゅうをふかしたてに食べたときの、あの香りや!! あんこもしっとり、でもしつこくなくて、お、おいしい……。そう思っていたら隅田さんが、そのパン屋さん「かまパン&ストア」を主宰する真鍋さんを紹介してくれる、というではないですか。そんなわけで今回は、真鍋さんにお話を聞きました。

人生を変えた“食”との出会い

フードハブ写真3

人生を振り返ってみると、節目となっているのは中学2年生のとき、たまたま交換留学で10日間、オーストラリアのシドニーに行ったことかなと思います。まったく英語ができず、カルチャーショックを受けて、しゃべれないまま帰ってきて(笑)。高校になったら留学しようと決意して、高2のときにアメリカのアイオワ州へ。やっと英語も話せるようになり、友達もできました。大学も最初からアメリカで行くつもりでした。日本だと「偏差値で行ける大学に行く」という感じでしょ? なんかそういうの、イヤだった。アメリカでは最初から学部も決めなくていいし。
 
でも、何でもかんでも自分で開拓しなくちゃいけなかった。住むところもお金の使い方も、自動車免許も何もかも。この経験はめちゃくちゃ大きいです。アメリカでの日々が、自分のその後の生き方の基盤となっています。
 
大学ではプロダクトデザインを専攻し、就職は日本で。これも決めていたことです。日本を外から見て、日本のよさも感じていましたしね。
ITバブルの頃だったので、最初はITコンサルのSE。ここは3カ月でやめて、次は急成長中の広告制作会社に入って、プランナーやプロデューサーはじめ、ありとあらゆることをやりました。ウェブ制作、イベント、CM制作。アジア、ヨーロッパ、ロシア、海外も含めてもう朝から晩まで仕事、仕事。きつかったけど充実はしていました。
 
6年目のときに、新しい部署を立ち上げてそこの責任者になりました。あらゆることをデザインする、というコンセプト。デザインする人たちが上流からかかわると社会がよくなるんじゃないか、って思ったんですけど、明確なイメージが提示できず、2年後に部署は解散、僕も会社を辞めました。広告の限界も感じていました。広告って実業じゃないっていうか、え、こんなもの、というものまであの手この手で売る。矛盾を感じる繰り返しだったので、そこから逃げたかったんです。
 
それから、まちづくりをやりたくて入ったアメリカ西海岸のゼネコンを半年でやめて、空間デザインの会社に移りました。ここで、人生を変える出会いがあったんです。
社長の友人が野村友里さんというフードディレクターだったんですね。彼女はアメリカのバークレーにある、シェ・パニースというレストランに修行に行っていたんですが、そこのシェフたちと参加型の食とアートのイベントを日本でやりたいということで、コーディネートをまかされたんです。20人くらい来日して、農家や漁師さん、ワイナリーや日本食レストランなど日本のあちこちを一緒に旅してまわりました。レストランを借り切って、250人が参加したイベントも2日間やりました。大変だったけど、楽しくって。すごく感謝されました。うれしかった。
 
それまでは、自分が何をやりたいんだろう? とずっと追い求めていたんですけど、そうか、まわりから求められることをやればいいんじゃないかって思ったんです。意外とこっちが本当の自分かもしれない、って。で、「食」にかかわりたいと。
それから、引き続き野村さんと、東京の料理人を連れて日本各地で料理をする「Nomadic Kitchen」というプロジェクトを個人的に始めました。この頃会社もさらに変わって、いまの「モノサス」に移ります。
 
「Nomadic Kitchen」は、地域に行っても、そこを搾取してさっと帰るんじゃなくて、地元の作り手との関係を大事にしていました。でも、それでもやっぱり「東京の人」が来た、と見られてしまうんですよね。僕のやっていたのは非日常の活動で、でも食は日常であるわけで。
もっと日常の活動にかかわりたい。そう思っていたところに、モノサスが神山町にサテライトオフィスを出したいということで、それならば会社の仕事をしながら地域で食の活動ができるんじゃないかと思って。異動、移住してきたんです。

農作物をつくって、みんなで食べて支えるしくみ「フードハブ」

最初は東京の仕事が忙しくて、引っ越してきたけど、月の3週間は東京で過ごす、みたいな生活でした。そんななかで2015年7月から、神山町の地方創生戦略会議のワーキンググループに参加しました。そこで生まれたアイデアが、「フードハブ」です。
 
会議に加わっていた役場の若手職員、白桃薫さんが、あるとき言ったんです。「農業をしていた父が倒れたら、誰もその後を継げない。農業者が生まれ続けるしくみを作らないと、根本的な解決にならない」と。確かに、田舎に越してきたけど、スーパーには県外産の食べ物があふれているな、と思っていました。とはいえ、新規農業者って現金が手に入るまで時間もお金もかかるんですよね。
 
それで、農作物をつくって、みんなで食べて支えるというしくみをつくろうということになったんです。「地産地食」を掲げ、役場やモノサスが出資する会社を立ち上げました。僕がCOOです。2人の新規農業者を支え、農業をし、レストラン「かま屋」とパン屋兼料品店「かまパン&ストア」を構え、加工食品づくりや食育もしています。お店は2017年の3月からスタートし、いまでは社員はアルバイト含め22人います。

レストランの地域産食率は40%以上に。地元に愛される“食”づくりを

フードハブ写真2
レストラン「かま屋」で出すメニューの地域産食率、つまり料理に使った神山産の食材品目数÷食材品目の総合計は、40~80%以上をめざしています。毎日計算して、週ごと、月ごとに報告しています。
 
お客さんの年齢が幅広くて、下は1歳の赤ちゃんから97歳のおばあちゃんまで。町民割引きもあって、最大300円お得になります。約5500人の町ですが、経営は徐々に成り立ってきています。いまは、町外から来る人が7割くらいかな。まだまだレストランとパン屋も赤字で、全体での単月黒字化を年度内にめざしています。
 
地元のパンを作りたいと思って、食パンに特に力を入れています。地元のおじいちゃん、おばあちゃんには毎日食べる食パンが大事ですから。香川のうどん粉に北海道の小麦、天然酵母を使っていて、ひとつ300円です。

「東京にいるときよりも優しくなったね」

東京にいるときよりも優しくなったね、ってよく言われます。東京は効率的に働くにはすごくいいんですけど、ここにいると、ゆったりモードになるんでしょうね。自分の作業は優先できません。常にオープンじゃないと、地域に溶け込めない。田舎ですから。町で誰かに会ったら、すれ違いざまに挨拶するだけじゃなくて立ち止まり、5分話すのが当たり前。それでも、自分は愛想がない方だと思われているんじゃないかなあ。
 
……将来の目標ですか? とりあえず、いまここを大事にしたいなあ。日々の生活、ちょっとしたこと。日常のくらしもお店も同じで、ていねいに向き合うことが大事だと思っています。
 
アキヤマの感想…レストランでもごはんをいただきました。素朴な手作りっぽいお総菜、でもプロの技のお料理が並びます。日常なんだけど、ていねいに味わっていただきたいと思わせられるごはんでした。味が深くておいしかった。真鍋さんは、お客さんともお話しすることを大事にしているそうです。ご自慢の食パンはお持ち帰りして、冷凍してしばらく楽しみました。もっちりやわらかく、コクがあって、香ばしくって力強い。ごちそうさまでした!

 

真鍋さんが紹介します>>NEXT>>プロのトランペッター、イベントプロデューサーなど複数の肩書きを持ちながら、代表を務める自らの会社名でもある「Be A Good Neighbor」をテーマにさまざまな活動を展開する、坂口修一郎さん
「プロのトランペッター、イベントプロデューサーなどの複数の肩書を持ちながら、会社名でもある“Be A Good Neighbor ―よき隣人になろう”をテーマに様々な活動を展開されている方です」

 

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