2030 SDGsで変える

園児同士がディスカッション?茶々保育園グループが掲げる「クリエイティブ教育」と「オトナな保育園」

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緑の多い公園のなかに、眩しいほどの白い建物が建っています。実はここは、子どもたちが通う保育園。一見、保育園とは思えないこの場所で、新しい教育が実践されています。

 
今回お邪魔したのは、茶々保育園グループのひとつで、その名の通り東京・世田谷の祖師谷公園のなかにある「茶々そしがやこうえん保育園」。この保育園では、「国家戦略特区(※)」制度を活用し、都市公園法の規制緩和を行って、本来できなかった公園での保育園建設を実現しています。

 
(※……第二次安倍政権が進める新しい経済特別区域構想のこと。地域を限定した大胆な規制緩和や税制面の優遇で民間投資を引き出し、“世界で一番ビジネスがしやすい環境”を創出する狙い)

 
 
2020年の教育指導要領の改訂などに向けて教育への注目がさらに高まるなか、すでにさまざまな施設で個性的な教育が実践され始めています。

 
今回ご紹介する茶々保育園グループも、感覚教育などで子どもの知的好奇心や自発性を尊重するイタリアの「モンテッソーリ」や人同士のふれあいによる相互作用を重視したデンマーク・ドイツの「インタラクティブ教育」を取り入れながら、子どもたちの自主性や問題解決能力、人格形成を育むためのオリジナルの教育を実践しています。

 

目指すは「クリエイティブ保育」。保育園は“生活の土台をつくる人間教育の場”

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茶々保育園グループの理事長である迫田健太郎さん

 
 
「一人ひとりがアイデンティティを持つことで、初めていろんなものが身についてくる。その土台にあたる部分は、生活からこそ生まれるものだと思っています」

 
そう語るのは、茶々保育園グループの理事長である迫田健太郎さん。

 
「寝食をともにするなど、幼稚園以上に衣食住のすべてがある場所が保育園。幼稚園のほうが教育をしているというイメージが強いと思いますが、“土台をつくる”ことに対しては、保育園のほうがていねいに学べると思っています。人間教育は、私たちが特に大切にしたいところですね」

 
この保育園では「クリエイティブ教育」を掲げ、周辺の豊かな自然のなかでアクティブラーニング(※)を実践しています。

(※……学習者である生徒が自ら能動的に学ぶことができるような授業を行う学習方法)

 
 
アクティブラーニングではさまざまなフィールドに出向く教育機関が多いなか、ここでは、子どもたちはあえて同じコースを回ります。それは、「その時々の季節感や自然の摂理といった、同じコースでもさまざまな側面を持っていることに気づくという視点や体験を後押ししたいから」だと迫田さんは話します。

 
「子どもにクレヨンと真っ白な画用紙をわたして、好きに書いていいよってほったらかすことがクリエイティブだと思われがちですが、それは違うのではないか。体験を通して、いかに子どもたちの能力を引き出すかということがクリエイティブだと思っています」

 
子どもたちの創造性や可能性を引き出すしかけがいたるところに施されている保育園。例えば最近では「ひねる」行為が減ってしまい、雑巾を絞れない子どもがいるなかで、ここではハンドル付きの水道を取り付けて子どもたちの手を鍛えるといった工夫も施されています。

 
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保育園の外観

 
 
保育園の外観を白にしたのも、自然との対比を持たせるためだそう。外に豊かな景色や色があるからこそ、建物を何もない真っ白にして、子どもたちのクリエイティビティを刺激し、表現を促進させようとの思いが込められています。

保育園にデジタルデバイスを設置!自然とデジタル、真逆があってこそ調和

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食が生活の中心であるということから、園の中心にはランチルームが設置されています。ガラス越しにキッチンが見えるようなつくりになっており、食がどこから来ているかわかるようにというメッセージが込められています。さらに、同じもの同じ量を配給されるのではなく、ビュッフェ形式で自ら必要量を取ることを文化としています。

 
 
「保育園のあるエリアは都市公園法の特区に認定されており、そこで求められている条件の中に“ 環境との調和 ”というものがありました。

 
保育園にとっての調和ってなんだろうと考えたときに、馴染むという意味で園をログハウス風につくるというのもひとつの道ですが、保育園の外に出て泥んこになって帰ってきても、園内に同じような環境がある。これからの社会を託す彼らにとって、本当にそれはいいのだろうか?と悩んだわけです。

 
結果、“真逆のものがある”ということが調和なのではないかと。有機質なもののなかにまったく無機質な真っ白なものがある、アナログでリアルな世界にICT(※)やデジタルなものがあるというのが、いまの時代の調和なんじゃないか、と思ったんですね」

 
(※……Information and Communication Technology の略。ITとほぼ同意の意味だが、コンピューター関連の技術を「IT」、技術の活用に着目する場合を「ICT」と区別して用いる場合も)

 
 
そういった理由から、自然から学ぶことを大切にする一方で、最新のデジタルデバイスを活用した教育も取り入れています。園のいたるところにデジタルデバイスが配置され、子どもたちがいつでも触れるような環境が整っています。

 
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デバイスは、子どもたちがいつでも触れられる高さに配置されている

 
デジタルデバイスは、例えば、子どもたちが自分自身を表現したり、海外の保育園との交流をしたりするために利用されています。時差のこと、お互いの環境のこと、友達のこと、自分のこと、いろいろなことをICTを通じて共有する子どもたち。

 
ドイツの保育園とのやり取りでは、ドイツへの贈り物のお返しに歌ってくれた歌が、園で普段子どもたちが歌っていた歌だったという奇跡もあったそうです。そうやって心が繋がっていく、子どもたちの世界が広がっていく体験のためにあるのがICTの役割だと迫田さんは話します。

 
「いま保育園に通っている子どもたち世代は、将来、いま存在しない職業の仕事をしているという予測が立っています。そのなかで、既成概念のなかにある教育や、デジタルリテラシーが低い環境を与えてしまうのは、子どもたちの体験や世界を狭めていくことになりかねないのではないかと思うんですね。ほったらかすためにICTを渡すわけではなく、体験を広めるために渡しています」

 

園児同士でディスカッション? “させる”ではなく、主体的に“やりたい”にする教育

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他園との交流の前には、必ず子どもたち同士のディスカッションを設けているそうです。相手に聞いてみたいこと、気になっていることなどを話し合い、発想を広げてマインドマップをつくっていきます。

 
ディスカッションをするための専用のクリエイティブルームが用意され、子どもたちがプレゼンテーションをする台も置かれています。人前で伝えるということが日常の中に当たり前にあることで、子どもたちの表現することに臆しない姿勢や、自己肯定感を育んでいきます。

 
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部屋にはプロジェクターやホワイトボードもあり、子どもたちのプレゼンテーションで使用されます。壁にはヨーロッパのお友達に聞きたいことリストが書かれています。

 
また、0〜5才の子どもたちが通う茶々保育園グループでは、世代間の交流にも力を入れています。少し先輩である4、5才の子どもたちは、主体的に行動し、下の子どもたちのお手本になってくれると迫田さん。

 
「年長さんが、小さい子に好きな本を紹介したり、自分の家族のことなどを語ってくれるのですが、それを見た3才の子がまた5才になっていろんな表現をしてくれると思っています。子どもたちは、保育園でも人の役に立ちたい、社会に貢献したいっていう気持ちを持ってくれていて、園に併設しているカフェでは、子どもたちが率先してお茶を出すお手伝いをしてくれるんです」

 
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世代を超えたコミュニケーションをつくりたいとのことで併設された「ちゃちゃカフェ」

 

保育士さん全員が名刺を所持!環境をつくる大人がまず輝ける場を

 
茶々保育園グループの保育士さんたちは、全員が名刺を持ち、それぞれに違った肩書きを持っています。茶々保育園グループの “役割が人を育てる” という教育観は、子どもたちに対してだけでなく、保育士さんたちの名刺にも表れています。

 
「ASOBI Creator」「KOTOBA Concierge」など、その肩書きはさまざま。園長先生が保育士さんの魅力を発見し命名することもあるそうです。この取り組みの背景には、保育士不足の問題から、保育士さんの地位を向上させたいというメッセージも込められています。

 
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デバイスを使って海外研修中の保育士さんと会話する子どもたち

 
「保育士さんたちはクリエイティブで、素晴らしいことをたくさんやっているのに、まだまだ日本の社会では、子どもと遊んでいるお兄さん・お姉さんのイメージが強い。ヨーロッパでは、保育士さんは重要な仕事に就いている人としてきちんと認められています。

 
さらに、ヨーロッパでは子どもも老人も活躍するしくみがあって、認め合うことが当たり前にできているんですね。日本もこれから人口が減っていくなかで、そういったことを見習わなければいけないなと思います。職場にも、アクティブラーニング、アクティブワーキングがあったほうがいい。一人ひとりが輝ける場づくりをやっていかなければいけません。

 
それに、そういった多様な人がいるなかでこそ、子どもたちは立派に育っていくんだと思うんですね。スタッフの地位向上とともに、子どもが社会の一員であることを目指す、この両方が合わさると子どもたちが育つ環境にとっていいのではないか、そう思っています」

 

目指すは「オトナな保育園」。イノベーターが生まれる場所へ

 
さまざまな大人の個性から、子ども自身が自分に合った個性のかけらを集めていく。さまざまな大人との出会いが、子どもの個性や能力を育てていく。そういった観点から、迫田さんは「環境として大人がいる」という表現を使います。

 
子どもたちは、すでに家庭でも園でも役割を全うしています。だからこそ、まだ社会に出ていない、社会で活躍できていない、という風に考えるのではなく、社会の一員として子どもたちを尊重する。それが、茶々保育園グループが「オトナな保育園」というコンセプトを掲げる所以でもあります。

 
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(子ども会議室)

 
「子どもたちは、想像以上に能力や感性を備えていますから、保育園を必要以上に幼稚な場所にしなくてもいいのではと考えています。園の中には子ども会議室というのもあって、そこは喧嘩をした子どもたちに話し合ってもらう場所なんですね。必要なメッセージがある場合や、気持ちを代弁する必要がある場合以外は、子どもたちに任せて、あとでどうなったかを報告してもらいます」

 
最近では子どもの“非認知能力(※)”が注目されていますが、諍いも子どもたちを信じて任せることで、こういった能力をも育てると迫田さん。殴り合いになることもなく、多くの場合は子どもたちが自分で平和的な解決方法を見出し、報告しにきてくれるそうです。

(※……IQなどで測れる認知能力とは異なり、目標に向かって頑張る力、感情をコントロールする力、人とうまく関わる力など、測れない力のこと)

 
 
最後に迫田さんに、どういう子どもたちを育てたいかについてお聞きしました。

 
「社会そのものをつくっていく人たちを育てたいです。子どもたちを、役割を持って社会に貢献していく人に育てるのが、ここの保育園のひとつの役割だと考えています。これからはAIも登場してくるなか、仕事をつくるといった人間にしかできないことを考えて、新しいものを生み出す能力を持ったイノベーターが生まれる場所になったらいいなと思っています」

 
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保育士さん手作りの人形と園のコンセプトが書かれたタペストリー

 
“人工と自然の調和”、“お互いを認め合う社会”。保育園のなかに、未来の社会が向かうべき姿を見たように感じます。衣食住で人としての基礎を築き、生活のなかの体験を通して才能や個性を育み、やがては社会をつくる一員となっていく。新しいかたちの教育を実践する保育園のなかには、子どもたちだけでなく、大人である私たちにも学ぶべきものがたくさんありました。 

 
10年に一度のタイミングで改訂される教育指導要領ですが、2020年から実践される新しい方針では、従来言及されていた 学びの“内容” から、主体的で対話的な深い学びやアクティブラーニングといった 学びの“方法” へと、テーマがシフトしています。

 
さらには、教師としての役割も “教える” から “発達を支援する”に変化し、国連の開発目標「SDGs」のなかでも「質の高い教育をみんなに」というアジェンダが掲げられるなど、いま、教育分野において大きな変革が起ころうとしているのです。

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目標4:すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

 
・開発途上国の初等教育就学率は91%に達しましたが、まだ5,700万人の子どもが学校に通えていません。
・学校に通えていない子どもの半数以上は、サハラ以南アフリカで暮らしています。
・小学校就学年齢で学校に通っていない子どものおよそ50%は、紛争地域に住んでいるものと見られます。最貧層世帯の子どもが学校に通っていない確率は、最富裕層の子どもの4倍に上ります。
・世界は初等教育で男女の平等を達成しましたが、すべての教育レベルでこの目標を達成できている国はほとんどありません。
・1990年から2015年にかけ、15歳から24歳の若者の識字率は世界全体で、83%から91%へと改善しました。
(国連広報センターのプレスリリース<2015年9月17日>より抜粋)

 
 
「SDGs」について、詳しくはこちら:SDGs(持続可能な開発目標)とは何か?17の目標をわかりやすく解説|日本の取り組み事例あり
 
 
<編集>サムライト <WRITER>松尾沙織

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