コラム&リポート

水産資源を守る「MSC認証」をカードゲームでまなぼう

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

刺し身やお寿司、焼き魚など、毎日の食卓に当たり前のように並ぶ「魚」。日本では豊富な種類の魚が日常的に食べられることもあって、まぐろや鯛、サーモンが大好物という人も多いはずです。

 
しかし、そんな食用魚が2048年には絶滅してしまう──という驚きの説があるのをご存じでしょうか。アメリカの科学雑誌「Science」は、2006年に発表した論文の中で、魚の乱獲や大量消費が現状のまま続けば、2048年には食用魚はほぼいなくなってしまうと警鐘を鳴らしています。これは決して海外だけの問題ではありません。日本でも実際に地域ぐるみの密漁やルールを無視した乱獲が行われており、水産資源の枯渇は重要な問題となりつつあるのです。

 
国連が2015年に採択した世界目標「SDGs」の中にも、14番目の目標として「海の豊かさを守ろう」というアジェンダが設定されています。

 
私たち消費者が持続可能な漁業を支援し、これからの水産資源を守っていくためのひとつの方法として、「MSC認証」──通称「海のエコラベル」がついた商品を買う、という選択肢があります。

 
まだまだ日本では認知度の低い「MSC認証」。このラベルを、オリジナルの“カードゲーム”を通じて広めようとしている大学生たちがいると聞き、日本大学商学部 秋川ゼミナール「チームサステナ」の皆さんを訪ねました。

「せーの サステナ!」MSC認証つきの魚を買うか? 買わないか?

0905_cardgame_02

 
8月某日、日本大学のキャンパスで、「チームサステナ」の皆さんと一緒に実際にゲームをプレイさせてもらいました。

 
ゲームのタイトルは「Loser of Loser」(敗者の中の敗者)。プレイヤーはそれぞれ消費者役となり、太平洋、大西洋、インド洋の3つのフィールドから1人ずつ魚を買っていきます。

 
魚を購入する際には「MSC認証」のラベルがついた手札とついていない手札の2種類から、どちらを出すかプレイヤー自身が選ぶことができます。「MSC認証」ラベルがついた手札を出す場合は、3つのフィールドから好きな海洋を選んで魚を買うことができますが、一度に手に入れられるのは1匹のみ。一方、「MSC認証」ラベルのない手札を出す場合は、ストーリーカードの指示通りの海洋から、2~4匹の魚を買うことができます。

 
プレイヤーの1人が他の人より先に魚を15匹買うか、海洋の魚が絶滅することで1セットは終了となります。1セットの間に魚を15匹買うことができたプレイヤーがいた場合は、それぞれが買った魚の数だけポイントが加算され、海洋の魚が絶滅して1セットが終わってしまった場合は、「MSC認証」ラベルのついていない魚を買った数だけプレイヤー全員のポイントがマイナスとなります。

 
ゲームを3セット行い、最終的に手に入れた魚の数に応じたポイントが最も少なかった人が、海洋資源に最も影響を及ぼした人──つまり、「Loser of Loser」になってしまうというルールです。

 

 
今回は、筆者を含む4名でゲームを行いました。手札を出すときのかけ声は、「せーの サステナ!」。その声に合わせて最初に全員が出したカードは、MSC認証のラベルありとなしが半々でした。

 
最初のターンで「ラベルあり」の手札を選んだ筆者は、インド洋を選んで魚を1匹買いました。次のプレイヤーは「ラベルなし」を選んだため、ストーリーカードを引きます。「漁師が大きく網目の細かい網を使ったため、予想以上の魚がとられた。インド洋から4匹」というカードの指示に従い、一度に4匹もの魚を手に入れました。

 
「ラベルあり」を選んだプレイヤーは1ターンに1匹しか魚を買えないのに対し、「ラベルなし」を選んだプレイヤーほど1ターンの間に多くの魚を手に入れられる……。その様子を見ていて、つい筆者も「ラベルなし」の方を選びたくなってきます。

 
0905_cardgame_04
0905_cardgame_05
(「Loser of Loser」ゲームマニュアルより)

 
「せーの サステナ!」

 
そこで、次のターンでは「ラベルなし」を選びました。ストーリーカードを引くと、そこには「魚をとりすぎた人を応援した。インド洋から3匹魚」の文字が。指示通りにインド洋から魚を買おうとすると、なんともうインド洋のフィールドには魚カードが残っていません。

 
他のプレイヤーからは「あ~、絶滅した……」と落胆の声が上がります。ひとつの海洋の魚が絶滅してしまったため、このセットは終了となりました。

 
結局、3セットのゲームの中で15匹の魚を買うことを達成できた人はゼロ。どのセットも、3つの海洋のうちどれかが絶滅して終わってしまいました。筆者は「Loser of Loser」にはならなかったものの、マイナス11ポイントという、とても低い点数でのフィニッシュとなりました。

消費者の行動ひとつで、海洋の魚が絶滅してしまう

0905_cardgame_06
(チームサステナの皆さん。写真左から、小林真子さん、安藤令華さん、山下莉奈さん、田中秀幸さん。この日は欠席だった田中雄貴さんも合わせ、5名で活動している)

 
白熱した「Loser of Loser」。ゲームが終わると、ゲームマスターを務めていた小林さんから「どうして3セットとも絶滅してしまったと思いますか?」と問いかけられます。答えはもちろん、MSC認証の「ラベルなし」の手札を出し続けた人が多かったから。ゲームに勝とうと思うと、一度により多くの魚が手に入れられる「ラベルなし」カードをつい選びたくなってしまう……というプレイヤーの心理を上手についています。

 
そして、このゲーム内で起きた出来事は、実際に現実でも起こっているのだとチームサステナの皆さんが教えてくれました。

 
「ゲーム内で『ラベルなし』の手札を選んだ人が引く『ストーリーカード』に書かれていることはすべて、実際に水産資源の枯渇を引き起こしている原因のひとつです。

 
例えば、『危険な方法でとられた魚』というカード。これは、ダイナマイトなどを利用し、動けなくなった魚を広範囲に渡ってとる漁のことを表しています。多くの魚がとられてしまうばかりでなく、爆風によって海の環境を壊してしまう危険な漁です。『魚をとりすぎた人を応援した』というカードは、規制されている漁獲量を守らない漁師がとった魚を、消費者として買うことを表しています。漁師の行動だけでなく、消費者の買い方によっても水産資源の枯渇は起こってしまうということを伝えたくて、このゲームを作りました」(安藤さん)

 
「ゲームを始める際には『他の人よりも先に15匹買うゲームです』と説明するのですが、実際は、プレイヤーに『どうすれば海洋の魚が絶滅しないか?』を考えて、MSC認証ラベルのついたカードを出すということに気づいてほしい、と思っています」と小林さん。実際に、このゲームを一番高いポイントで終えたのは「ラベルあり」の手札ばかりを出していたプレイヤーだったと、3セットが終わったあとに気づかされました。

私たち消費者が、MSC認証ラベルのついた商品を買うためには

0905_cardgame_07
(「Loser of Loser」ゲームマニュアルより)

 
ゲームの鍵となった「MSC認証」ラベル。このラベルは、審査によって①過剰な漁獲を行わず資源を枯渇させない、②漁業が依存する生態系の構造、多様性、生産力などを維持できる形にする、③地域や国内、国際的なルールを尊重した管理システムを有する という3つの基準を満たしていると認められた漁業でとられた水産物にのみ付けられます(※)。

 
「私たち消費者が買い物をする際、できるだけMSC認証のついた水産物を選ぶことが貴重な水産資源の保護につながります。日本ではまだまだMSC認証の知名度が低いのですが、海外ではマクドナルドのフィレオフィッシュにもMSC認証ラベルがついている国が多いなど、一般的なものとなってきています。日本では現在、主にイオン系列のスーパーなどでMSC認証ラベルのついた商品を買うことができます」(小林さん)

 
MSC認証ラベルのついた商品は、現在ではほぼ、ラベルなしの商品と変わらない値段で購入することができます。地元のスーパーなどにMSC認証ラベルのついた商品が置いていない場合は、意見箱などから投書をすることでお店が動いてくれる可能性が上がります。

 
(※MSCの漁業基準より)

ゲームを通じて、ひとりでも多くの人に水産資源の現状を知ってもらいたい

0905_cardgame_08
(「Loser of Loser」を実際にプレイするチームサステナの皆さん)

 
チームサステナの皆さんはいま、大学の学園祭やメーカーと共同で開催したイベントなどを通して「Loser of Loser」を広める活動を行っています。ゲームを実際にプレイした人たちからは、「MSC認証を知ることができてよかった」「スーパーの意見箱に投書をしてみたくなった」という感想がもらえたそう。

 
「水産資源の枯渇の主な原因は、気候変動と過剰漁獲です。後者は人為的なものですが、なぜ過剰漁獲が起こるかと言えば、消費者が安さを求め、それに応えるために小売店が大量に仕入れなければならず、結果的に漁師の方が大量に魚をとらざるを得なくなっているという現状があるから。だからこそ、私たち消費者がMSCを選ぶなどの選択をしていくことが、水産資源を枯渇させないためには大切なんです」(ゼミ長の田中秀幸さん)

 
ゼミ長の田中さんは、漁師をしている友人に聞いた“魚がどんどんとれなくなってきている”という話や、田中さんのお母様がふと口にした「最近の魚って小さいのに高いわぁ」という言葉をきっかけに、水産資源の枯渇問題に関心を寄せたと話してくれました。

 
さまざまな漁業組合や漁港などを周りながら、水産資源の枯渇問題の研究に日々取り組んでいる田中さんたち。「Loser of Loser」の開発には、半年もの時間をかけたと言います。

 
「このゲームを通して、ひとりでも多くの人に水産資源の現状を知ってもらい、MSC認証のついた商品を買うことに積極的になってもらえればと思っています。消費者の行動ひとつで海の環境は大きく変わります。ぜひ、水産資源を守るために今日から行動を始めてほしいです」

 
チームサステナの皆さんは、そう力強く語ってくれました。

 
図14

 
<編集・WRITER>サムライト
 

コラム&リポート