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横浜DeNAベイスターズがめざす、理想の「ボールパーク」とは?

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皆さんが子供だった頃、公園でどんな遊びをしましたか?
ブランコに乗ったり、鬼ごっこやボール遊び、自転車で走り回ったりしたという方も多いことでしょう。
しかし、最近は生活様式の変化に加えて、少子化や公園数の減少にともない、外で元気に駆け回る子供の姿を見る機会もだんだん減ってきました。文部科学省が行っている調査では、運動不足のために子供たちの体力が年々低下していることが指摘されています。
 
2015年に国連が設定した、2030年までに達成すべき17の目標「SDGs」の中に、「すべての人に保険と福祉を」「住み続けられるまちづくりを」という項目があります。
誰もが健康に、そして安心して暮らすことができるまちづくりは、未来を支える子供たちが安心して生活できる環境づくりがなによりの土台になります。
 
今回は、子供はもちろん、すべての人々が健やかに暮らせるまちづくりに取り組んでいる企業活動の事例として、横浜市を本拠地として活動するプロ野球チーム、横浜DeNAベイスターズの取り組みを紹介します。

 

ガラガラだったスタンドが、ファンで埋め尽くされるまでの道のり

 
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1950年に誕生したベイスターズ(当時は大洋ホエールズ)は、2011年12月からIT企業のディー・エヌ・エーが経営母体となり、現在は「横浜DeNAベイスターズ」としてペナントレースを闘っています。
 
長い歴史を持ち、全国区の知名度を誇るベイスターズですが、ディー・エヌ・エーが経営に参画した当時は4年連続最下位と低迷。最近ファンになった方が見たら目を疑うのではないかと思うほど、スタンドは空席が目立っていました。「万年Bクラス」などと揶揄されることもあり、横浜市に冠される「都会的」「おしゃれ」というイメージからはほど遠い感があったことは否めません。
 
球団買収から7年。ここに至るまでに、どのような取り組みを行ってきたのでしょうか。
 
「最初の2〜3年は、とにかくお客様を増やすことを目標にして、職員全員で駅前でビラ配りをしたりしました。また、注目を集める企画や、球界の常識を破るような企画もたくさん考えました。たとえば、ワインを楽しみながら野球観戦ができる『オトナの観戦シート』、試合内容に満足いただけなかったらチケット代を返金する『全額返金!?アツいぜ!チケット』などです」と、横浜DeNAベイスターズ(以下DeNAベイスターズ)広報部の河村康博氏は当時を振り返ります。
 
その後もDeNAベイスターズは、実施した企画ひとつひとつに関して検証を欠かさず、翌年につながるように改善とチャレンジを積み重ねていきます。失敗を恐れない社風から産み出される斬新な取り組みは、徐々にファンや市民に認められるようになり、その効果は集客数にも現れはじめます。
 
「初年度は4回しかなかった『大入り満員』の回数が、翌年は15回、その翌年は23回と徐々に増えていったことで、私たちの取り組みが成果を生んでいると実感するようになりました」(河村氏)
 
ファンをスタジアムに呼び戻す企画が功を奏し始めたあと、DeNAベイスターズが取り組んだのは、ベイスターズと「横浜」のブランドイメージをひとつにすることでした。
 
「横浜と聞いて人々が思い浮かべるのは、海、港街、おしゃれ、といったイメージ。ベイスターズをそのイメージに近づけるために徹底して『青』にこだわったり、海を連想させるモチーフを採り入れたりしていきました。とにかく、青については一貫してこだわり、デザインも、かっこいい、おしゃれと思ってもらえるように隅々までこだわり抜いています」(河村氏)
 
観客が増え、ブランドイメージが浸透していくにつれ、チームの戦績も比例するように上向きに。勝ちが増えればまたさらに観客が増えるという好循環が生まれ、2017シーズンは、12球団の王者を決める日本シリーズに19年ぶりに進出。観客動員数も球団史上最多を更新し続け、2018シーズンも観戦チケットが入手しにくい状況が続いています。

 

野球ファンの夢をかなえるDREAM GATE

 
参入当初から現在に至るまでDeNAベイスターズが一貫して掲げているのは、ベイスターズファンはもちろん、野球を知らない人でも気軽にスタジアムに足を運んでもらい、食事やおしゃべりを楽しんだりできる「憩いの空間」を創生するという目標です。
 
DeNAベイスターズではこれを「コミュニティボールパーク」化構想と名づけて、横浜スタジアムを含む横浜公園一帯の改修・整備を段階的に進めてきました。
 
「スタジアムという閉じられた空間で野球を楽しむだけではなく、野球が好きな人もそうでない人も自然とスタジアムの周りに集まってきて、居酒屋のように人々がコミュニケーションを楽しんでくれる場になることを目指しています」(河村氏)
 
「コミュニティボールパーク」化構想に関連するプロジェクトの中で特に象徴的と言えるのが、2015年にバックスクリーン下に設けられた「DREAM GATE(ドリーム・ゲート)」。試合開催日にはこの「DREAM GATE」が開け放たれ、スタジアムの外からベイスターズの練習風景を見たり、写真を撮ったりすることができます。
 
「ゲートの前は人通りが多く、朝だけで5、6千人、1日にすると万単位の方が歩いています。でも横浜スタジアムは、外からは球場内がまったく見えない構造になっている。じゃあ、ゲートを開けて中が見えるようにしたら、市民の方がもっと野球やベイスターズを身近に感じてくれるのではないかと考えたんです」(河村氏)

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(センターバックスクリーン下にあるDREAM GATE。試合日には選手を間近に見ることができる)

 
さらに2016シーズンからは、ただスタジアムの中を見てもらうだけではなく、実際に「野球」を体験できる場にしたいという発想から、ナイター開催日の早朝に限り、誰でも自由にグラウンド内でキャッチボールができる「DREAM GATE CATCHBALL(ドリーム・ゲート・キャッチボール)」がスタートしました。
 
「当初は1日に数十人ぐらいと考えていたんですが、いざフタを開けてみると、多い日で2、300人の方が足を運んでくれるという嬉しい誤算でした。ここでの体験が仲間や親子の会話のきっかけになったり、野球やベイスターズにもっと興味をもってくれるきっかけになったりするといいですね」と語るのは、野球振興・スクール事業部部長の會澤裕頼氏。
 
今シーズンも、平均して150名前後の野球ファンやファミリー、通勤前のビジネスマンらが訪れ、思い思いにキャッチボールを楽しんでいるそうです。
 
憧れの選手たちがプレーするグラウンドに足を踏み入れることは、ファンにとっては夢のような体験。それが小さいお子さんなら、一生心に残る思い出になるかもしれませんね。
 
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(浜松からベイスターズの試合を観に来たという鈴木丈久さんと石塚捺未さん。残念ながら雨で中止になってしまったので、記念に横浜スタジアムに立ち寄ってみたとのこと)

 

子供たちの健康と未来を育む交流活動

 
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以前から子供たちとの交流を積極的に行ってきましたが、DeNAベイスターズになってからは、さらに精力的に活動を行っています。
 
「現在は、小学校、幼稚園にそれぞれ年間100回ずつ訪問し、子供たちとの交流を図っています。シーズン中、現役選手が訪問する『星に願いを』プロジェクトというのも行っています。シーズン中に現役選手が学校訪問するのはなかなかできないことなのですが、選手側からやりたいと言ってくれて始まった企画なんです」(會澤氏)
 
神奈川県内の約72万人の児童に、ベイスターズのキャップを無料で配布したことも大きなニュースになりました。
 
「DeNAベイスターズの球団創設5周年記念として実施した企画です。子供たちがベイスターズファンになってくれればいいなというのはもちろんですが、帽子を配ることで、子供たちがもっと外に出て遊んでくれるようになったらという思いもありました」(會澤氏)
 
さらに2017年3月には横浜市と「I☆YOKOHAMA協定」を結び、市内の小学校給食にベイスターズの選手寮で食べられているカレーのレシピを提供するなど、食の面でも子供たちとの関わりを深めています。

 

市民の期待を担う「横浜スポーツタウン構想」

横浜スタジアムがある中区は、市の官公庁やオフィスビルが建ち並ぶ、ビジネスの中心地。スタジアムのすぐ隣には元町、中華街といった全国区の観光地や、馬車道や伊勢佐木町などの歓楽街もあります。
しかし、横浜の経済の中心地だったこの地区も、最近はみなとみらい地区の人気に押されて訴求力が落ちてきています。
 
そうした中、DeNAベイスターズは、2017年1月に「コミュニティボールパーク」化構想を街レベルに発展させた「横浜スポーツタウン構想」を発表しました。
これは、行政、企業、市民と一体となって、スポーツの力で街ににぎわいをつくる構想です。
 
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(市の有形文化財を改修したTHE BAYS。日本野球の始まりの地にふさわしいたたずまい)

 
「横浜スポーツタウン構想」のベース基地となるのは、「THE BAYS(ザ・ベイス)」という建物。横浜市の有形文化財をリノベーションしたこの建物には、野球ファンの方だけでなく、様々な方が楽しめるショップやカフェ、ヨガ・スタジオなどがあります。建物の2階はいわゆるシェア・オフィスになっていて、スポーツ・ビジネスに関心が高い企業や個人が利用しています。
 
「横浜スポーツタウン構想の使命のひとつに、『スポーツの産業を創る』ことがあります。
たとえば、なにかに特化した技術を持つベンチャー企業や個人と連携して、地域とベイスターズを一緒に盛り上げられるものを実用化していくというプラン。昨年実施した、超人スポーツ協会と共催した『超☆野球』開発プロジェクトでは、たくさんのクリエイターやエンジニアたちからユニークな作品が集まりました。新しいところでは、ベイスターズ・スポーツ・アクセラレータというプロジェクトを通じて提携した企業と、地域で使える仮想通貨の実用化を検討しはじめたところです」と、河村氏。

 
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(THE BAYS1階にある「+B」では、アパレルや文具などさまざまなグッズを販売。さりげなく野球のベースをモチーフにしたボタンダウンシャツがおしゃれ)
 
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(THE BAYS1階にあるカフェ「&9」。サーバの取っ手に使われているのは、ベイスターズの選手が使用し、折れたバット。中には筒香選手のバットも)
 
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(THE BAYS2階はシェア・オフィス。アウトドアブランドのスノーピークのキャンプ用品が置かれ、リラックスした気分で仕事ができる)
 
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(『超☆野球』開発プロジェクトで実際に提案されたアイデア。遊び感覚で出されたアイデアから画期的な商品が生まれるかも?)

 
横浜スタジアムは、東京2020オリンピック・パラリンピックで、野球とソフトボールの会場になることも決まり、「横浜スポーツタウン構想」、そして横浜DeNAベイスターズに寄せられる市民の期待は高まっています。
 
本業のプロ野球に軸足を置きながら、地域や子供たちの未来にも目を向けている横浜DeNAベイスターズ。駅前でのビラ配りからスタートし、小さな努力と工夫をコツコツ積み重ねてきたその活動スタイルの中に、誰もが健やかに暮らせるまちづくりを成功させるヒントも隠されているのではないでしょうか。
 
<編集>サムライト <WRITER>昆野 浩之

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