SDGs(エスディージーズ)という言葉を「聞いたことがある」人は、朝日新聞の調査で約9割に達し、「関心がある」と答えた人も半数を超えました。一方で、中身を詳しく知っている、実践しているという人はまだまだ多いとはいえない状態(*1)です。
ここではあらためてSDGsとはなにか 、SDGsが掲げている目標と、実際の取り組みをご紹介しつつ解説していきます。
(*1) 朝日新聞社第9回SDGs認知度調査より

朝日小学生新聞、朝日中高生新聞の小学生・中高生向けSDGs記事が読めます。(一覧を見る)

週刊英和新聞Asahi Weekly掲載のSDGs英文記事が読めます。(一覧を見る)
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SDGsとは「2030年までに達成すべき17の目標」
SDGsとは「Sustainable Development Goals」を略したもので、日本語では「持続可能な開発目標」と呼ぶ、国際社会共通の目標です。2015年9月に、150カ国を超える世界のリーダーが参加して開かれた「国連持続可能な開発サミット」で決められました。

このサミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(*2)が採択されました。2015年から2030年までの長期的な開発の指針で、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指しています。そのために2030年を達成期限として定められたのがSDGsで「17の目標」と「169のターゲット(具体目標)」で構成されています。
(*2) アジェンダ(agenda)「予定表、計画表、行動指針」などの意
17の目標とSDGsタイル

※各タイルをクリックすると、それぞれの目標の説明ページが開きます。
17の目標には、貧困や飢餓などから、働きがいや経済成長、気候変動に至るまで、21世紀の世界が抱える課題が包括的に挙げられています。一つの問題が、複数の課題につながっていることも少なくありません。例えば、「海洋プラスチックごみ問題」(*3)。関係するのは、廃棄物の大幅削減を求めた「目標12:つくる責任 つかう責任」だけではありません。ごみを減らす手段として焼却すれば、二酸化炭素が発生し、温暖化の原因となります。「目標13:気候変動に具体的な対策を」も念頭に解決策を考えねばなりません。また、ごみが細かく砕けて「マイクロプラスチック」となり、魚や海鳥がエサと間違えて食べて、大きな被害を受けています。海の生態系保全を求めた「目標14:海の豊かさを守ろう」も関わるのです。
(*3) 関連記事「海のプラごみ、2050年までに世界中の魚の重量を超える恐れも」
17の目標を具体的にした「169のターゲット」
この17の目標を、より具体的にしたものが「169のターゲット」です。目標1を例に、実際のターゲットを見てみましょう。
「目標1:貧困をなくそう」に付随するターゲット
1.1:2030年までに、現在のところ1日1.25ドル未満(2015年10月に1日1.90ドル未満に修正)で生活する人々と定められている、極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。
1.2:2030年までに、各国で定められたあらゆる面で貧困状態にある全年齢の男女・子どもの割合を少なくとも半減させる。
(中略)
1.5:2030年までに、貧困層や状況の変化の影響を受けやすい人々のレジリエンス(回復力)を高め、極端な気候現象やその他の経済、社会、環境的な打撃や災難に見舞われたり被害を受けたりする危険度を小さくする。
1.a:あらゆる面での貧困を終わらせるための計画や政策の実施を目指して、開発途上国、特に後発開発途上国に対して適切で予測可能な手段を提供するため、開発協力の強化などを通じ、さまざまな供給源から相当量の資源を確実に動員する。
1.b:貧困をなくす取り組みへの投資拡大を支援するため、貧困層やジェンダーを十分勘案した開発戦略にもとづく適正な政策枠組みを、国、地域、国際レベルでつくりだす。
1.1など最後が数字のものがターゲット。1.aなど最後がアルファベットのものは達成手段です。このように、17の各目標に対し、それらを達成するために必要な具体目標(ターゲット)が、それぞれ5から10程度、計169設定(*4)されています。
(*4) 項目ごとの詳しい説明と関連記事はこのリンクで目標1から順にご覧になれます。
途上国支援のMDGsから世界目標のSDGsへ
SDGsの歴史をご紹介します。SDGsの前身は、2000年に国連のサミットで採択された「MDGs(エムディージーズ)」(ミレニアム開発目標)です。
MDGsは2015年を達成期限として、以下の8つのゴールを掲げていました。
ゴール1:極度の貧困と飢餓の撲滅
ゴール2:初等教育の完全普及の達成
ゴール3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上
ゴール4:乳幼児死亡率の削減
ゴール5:妊産婦の健康の改善
ゴール6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
ゴール7:環境の持続可能性確保
ゴール8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進 (*4)
「極度の貧困と飢餓の撲滅」「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止」などの項目があることからも分かるように、MDGsは先進国による途上国の支援を中心とする内容でした。
MDGsには課題がありました。地球から貧困を半減するといった目標の達成を求められたのは開発途上国側でした。その一方で、仕組みやルールづくりを先進国が主導しました。そのため、途上国の考えや意見が反映されにくくなってしまったのです。
そこで、2015年にMDGsが達成期限を迎えたことを受け、未達成の課題や地球規模で向き合わなければならない新たな課題について、先進国と途上国が共に達成すべき目標としてSDGsが設けられたのです。
(*4) 外務省のサイト
責任投資原則(PRI)とESG投資
SDGsに先駆けた動きとしては、2006年に当時、国連事務総長だったアナン氏(=写真)が金融業界に向け、責任投資原則(PRI)を提唱したことも重要です。

これは、機関投資家(大規模な投資を行う企業・金融機関などの投資家)が投資先を選ぶ際に、「ESG」に配慮することを求めたものです。ESGのEは「環境」(Environment)、Sは「社会」(Social)、Gは「ガバナンス=企業統治」(Governance)の頭文字です。
つまり、国連は「投資家は企業への投資をする際に、その会社が環境や社会への責任を果たしているかどうかを重視すべきだ」という提言をしたのです。ESGには明確な指標がないために、2015年に定められたSDGsがその指標として注目されるようになりました。2022年2月現在で世界4797の機関が署名(*5)し、投資額は2020年現在で35兆3000億ドルに達しました。これはプロが投資する資産全体の36%に相当 (*6) するそうです。
日本では、2010年に世界最大級の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名。これをきっかけに署名機関が増え、22年2月現在で104機関が署名(*7)しています。投資額は21年3月末現在で514兆528億円と、前年比で65.8%増えて(*8)います。日本企業は機関投資家から、汚染物質の排出状況や商品の安全性、供給先の選定基準や従業員の労働環境……といった、ESGにもとづく非財務情報の開示を求められるようになりました。
これをきっかけに、投資を受ける日本企業の間にも、もっとESGを考慮しようという動きが広まりました。SDGsはいま日本企業にとっても、ESGを考える上での大きな指標になっている(*9)のです。
(*5)PRI公式サイト Signatory directory
(*6)Global Sustainable Investment 公式サイト
(*7)PRI公式サイト 公式サイト で「Japan」にチェックを入れると最新の数が分かる
(*8)日本サスティナブル投資フォーラム サスティナブル投資残高調査2021 結果
(*9)関連記事 「2030年 企業が生き残るため、 いまSDGs、ESGに向き合うべき理由」
日本のSDGs達成度とランキングの推移
では、実際にSDGsの達成に向けて、日本政府や日本企業はこれから、どのような取り組みを行い、どれぐらい達成しているのでしょうか。
ドイツのベルテルスマン財団と持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)は2016年から国連加盟国のSDGs達成度をリポートにして公表しています。最新は2022年6月公表の「持続可能な開発報告書 2022」(Sustainable Development Report 2022)で、国連加盟193カ国の進み具合を評価(*10)しています。

















上の図は2022年6月に発表された最新の日本のSDGs達成度(*11)です。
目標タイルの色は達成度ごとに、
■緑:達成している
■黄:課題が残る
■橙:重要な課題が残っている
■赤:最重要な課題が残っている
の4色で塗り分けられています。日本が達成している目標は3つだけで、残り14は未達成。うち6つが4段階で最も低い達成度という評価でした。前年は橙だった目標12の「つくる責任 つかう責任」が赤になり、前年より1つ増えました(*12)。
タイルの右側にある矢印が目標に向けての「Trend」(傾向)で、
↑緑「SDGs達成を維持:2030年までにSDGsを達成するために必要な割合でスコアが伸びている、もしくは、既にSDGs達成の閾値を越えている」
↗黄「緩やかな改善:SDGs達成に必要な成長率より低いが、必要成長率の50%以上でスコアが増加している」
→橙「停滞:SDGsを達成するために必要な成長率の増加が50%未満」
↓赤「減少:達成スコアが減少している、つまり国が間違った方向に動いている」
という基準でつけられています。
2022年のSDGs達成ランキングトップ5はフィンランド、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、オーストリアで日本は19位(*13)。2016年~2022年の日本のランキング(スコア)は以下の通りです。
2016年 18位(75.0)
2017年 11位(80.2)
2018年 15位(78.5)
2019年 15位(78.9)
2020年 17位(79.2)
2021年 18位(79.8)
2022年 19位(79.6)
(*10) Sustainable Development Report 公式サイト
(*11) 同 日本の評価ページ
(*12) 関連記事 日本のSDGs達成度、世界19位に低下 増えた「最低評価」
(*13) Sustainable Development Report データがそろっている165カ国の2022年のランキング
日本政府の取り組み
2018年7月にニューヨークの国連本部で開かれたSDGsに関する政治フォーラム(*14)では、SDGsの採択から3年経った現時点における各国の取り組みの現状が共有されました。
日本は同フォーラムで、2030年に向けて民間企業および市民団体へのSDGsの取り組みを普及・拡大を促進しながら、“オール・ジャパン”でSDGsに取り組むことを表明。政府は地方創生と中長期的な持続可能なまちづくりを推進すべく、積極的にSDGsに取り組んでいる29の自治体を「SDGs未来都市」として2018年6月15日に選定。その中でも循環型の森林経営に取り組む北海道下川町(*15)をはじめ、特に優れた取り組みと認定された10事業に対して上限4000万円の補助金制度も設けられました。政府が地方のSDGsの取り組みを支援しながら成功事例を増やすことで、全国的に持続可能なまちづくりの普及を加速させることが狙いです。
その政府の取り組みを後押しするように、同年6月には、企業がSDGsに取り組む際に留意すべきポイントを整理し、明文化したSDGs Communication Guideを株式会社電通が発表(*16)しました。
(*14) 国連広報センター「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」
(*15) 関連記事「森と生きる町 北海道 下川町 国谷裕子さんと考える」
(*16) 関連記事「企業がSDGsに取り組む際に知っておくべきこととは?」
SDGsへの日本の身近な取り組み
もちろん、SDGsは国や政府、企業だけが意識すべき目標ではなく、私たち一人ひとりにも密接に関わっている問題です。

例えば、目標8には「2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用、及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する」、目標12には「2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする」という、個人の生活や意識の変革を必要とするようなターゲットが設定されています。
朝日新聞ではこれらの目標や課題に対し、ユニークなアプローチで向き合っている人物やプロジェクトを紙面やデジタル版で紹介しており、冊子「2030SDGsで変える 2022年版」にその一部をまとめ、無料プレゼント(*17)しています。
ここでは、朝日新聞社のSDGs総合サイト「2030SDGsで変える」掲載の記事のいくつかをご紹介します。
(*17) 参照「2030 SDGsで変える 2022年版」冊子を無料でプレゼント
海のプラスチックごみが世界中の魚の重量を超える?

有人潜水調査船「しんかい6500」の調査で、千葉県沖の水深6000メートルの海底で大量のプラスチックごみが見つかりました。中には30年以上前の「チキンハンバーグ」の袋も分解されずに残っており、深海底がゴミの「集積地」になっている実態が分かりました。
海のプラスチックゴミの量は年々増加。2050年までに世界中の魚の重量を超えてしまうのではないか、との予測も発表されています。クジラや魚、海鳥などに大きな影響を与えています。
参照「海のプラごみ、2050年までに世界中の魚の重量を超える恐れも」
ペットボトルを再びボトルに活用する「水平展開」

ペットボトルのリサイクルは盛んに行われていますが、多くは作業着やフリースの生地になり、最終的には可燃ごみになります。東京都東大和市では「資源として再利用する水平リサイクル」を目指し、ペットボトルを原料化して、新たなペットボトルとして再利用する「ボトルtoボトル」に取り組んでいます。
市内のセブン-イレブン全店にペットボトルの自動回収機が置かれ、回収したものを全てペットボトルに再生しています。2019年に始まった日本初の連携事業で、完全循環型の社会につなげるねらいがあります。
参照「ペットボトルを再びボトルに 環境リサイクルの「水平展開」で脚光」
防災部で助けられる人から助ける人へ

東京都荒川区は2015年に区立中学校10校すべてに「防災部」を創設しました。荒川区には、地震危険度調査で総合危険度が最も高い「ランク5」の地域が数多くありますが、消防団は高齢化が進んでいます。知的体力的に頼りになる中学生を地域防災のリーダーとして育成するのが目的です。
SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」のターゲットの一つに「すべての国々で、気候関連の災害や自然災害に対するレジリエンス(強靭性)と適応力を強化する」があり、それに対応する動きともいえます。
参照「地域防災の切り札は中学生 荒川区立中学校の「防災部」が話題 」
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2030年持続可能な未来のために!SDGsを理解し、社会課題に関心を持つことが大切

SDGsは、普遍的な目標として「誰も置き去りにしない」という約束を掲げています。先進国と途上国、そして企業と私たち個人がともに手をとって目標達成のために努力をしていかないことには、貧困の解消や格差の是正といった深刻な問題は解決できません。
私たち一人ひとりにも、できることは数多くあります。2030年の世界を変え、その先の未来に引き継いでいくためには、SDGsを特別なものとしてではなく、「自分ごと」として捉え、それぞれの活動、生活の中に浸透させていくことが大切です。
2023.04.28 改訂
2022.06.03 改訂
2022.04.08 改訂
2019.03.15 初出